ヨシュアンクラス
教壇に立ち、机に座った五名を見る。
右から順に、活発そうな赤毛の少女、きらびやかな金髪の少女、おどおどとした小動物ちっくな少女、黒髪ストレートな物静かな少女、どこかネジ一本抜けてる目をした少女。
少女ばっかりか!? 女の子ばっかりだよ!
いや、資料だと男の子も居たろ? なんでこんなに固まってるんだよ? あれか? 男女で分けてって……、そんなわけないだろ。たしか男女混合のクラスもあったはずだ。
イヤだなぁ、いえ、女の子が嫌いというわけではありません。
人並に女性は好きですよリィティカ先生愛してる。でもね、女の子のことなんか自分、全然わかりませんよ? 妹もいましたが、アレは……、妹という名の性別なわけです。
そんな自分がこれから一年間、女の子相手に教鞭振るって手取り足取り教えなきゃいけないとか……、スキモノならともかく、恥も外聞も常識も社会的地位もある自分にとってはやりにくいったらありゃしない。
絶句しても顔に出さない自分を褒めてあげたい。
そして生徒たちも緊張しているのか、黙って自分を見ている。
うーん。やりづらい。どうしようか。
あ、まずは自己紹介か。
何から何までイニシアティブを取らなくてはならないのが教師という職業だった。
うわ。めんどくさ。
誰だろう、こんな職業思いついたのは。こんな職業形態を作り出したヤツは絶対、根性ひねくり曲がってるに違いない。
「一年間、君たちの教師を担当させてもらうヨシュアン・グラムです。
バカお……、じゃなくて、ランスバール王の改革的な教育姿勢がこのたびの…」
「お待ちになってください」
凛とした声で、立ち上がる一人の少女。
優雅な仕草はキザではなく、ごく自然な行いの一環として躾けられているのがよくわかる行動だ。
貴族だろうか。貴族だろうな。
見た目も派手だし。無駄に自信満々だし無意味に話の腰を折るし。
「何か? えっと――」
「クリスティーナ・アンデル・ハイルハイツと申します」
クリスティーナ・アンデル・ハイルハイツ。
えーっと。確か、ハイルハイツ家のお嬢さんだ。
ハイルハイツ家は内紛の時も忠臣としての姿勢を崩していなかったので、良くも悪くも自分は興味がなかった。
まぁ、良心的な貴族と言ってもいいんじゃないかな? 裏はどうなってるか知らないけど、何かあったらベルベールさんから話を聞いてただろうし、何かなくても自分から貴族なんかに近寄ろうなんて想いませんよバカバカしい。
ここからは王国から渡された資料情報。
古くは王族に血筋が連なる貴族中の貴族。いわゆる王族、自分風に言えばバカ一族。
なんで王族がいるのだろうか。
まぁベルベールさんの選定なのだ。文句を言うつもりもない。というか言えない。
究極の特技を持つメイドさんと口論して勝てるとは思えない。
「知ってのとおり、ハイルハイツ家は王家の血脈です。なのに、何故、このような僻地に王族のわたくしが赴いたのか。その理由がお分かりですか」
おわかりありません。
というか、初対面の生徒に事情を知っているかと言われても。
個人情報ならガッチリつかんでますが。
「六法術師に名を連ねる最高術式師。あの【タクティクス・ブロンド】から薫陶を授かるためです」
突如、湧き出す……、といっても四名だが。息を飲む音が盛大に響く。単純に驚く者、言われてきょとんとしている者、とにかく、ただ話を聞いていただけの生徒たちにとって絶大な名前を口にしたのだ。反応せざるをえないだろう。
やれやれ。その名前を持ってくるか?
この国にとって、ある種の羨望と畏怖の存在。
護国のための最高武力。たった六人の最高戦力。
【タクティクス・ブロンド】【六法術師】【リスリアの六芒星】とか色々言われているが、アレだ。ぶっちゃけ戦略兵器みたいな存在だ。腫れ物に触れモノですよ。
その性質上、誰がそうなのか知っている者は少ない。
彼らは皆、王から賜った証を持っていて、有事の際にのみ着用を義務付けられている。戦場で出会わない限り、世間一般の中から個人を特定することは難しい……、とされている。
まぁ、他国の間者が暗殺したいNO1ランカーだろうなー。
というか、どこから漏れた情報だ。手前上、【タクティクス・ブロンド】が学園教師をやってるって話をおいそれと漏らさないんだけど。
頭をひねって約3秒、考えるまでもなかった。
バカ王のゴシップだ。あれは作為的かつ悪意的に他人を貶めるためだけに発行されている。自分の名前が載らなかったことは一度もないほど、根も葉も遺恨も因果もないようなことがつらつらつらつらと書きなぐられている。
鉄拳と術式による制裁をもって、ようやく実名を『とあるY氏』という妙なネームに変更させたのは余談だ。自分が見たら誰だかモロわかりですけどね。
くそ……、初めから仕組んでやがったなあのヤロウ。なんのつもりだ。いや、つもりじゃなくっても殴ろう。
「ですが、貴方は誰ですか」
「ヨシュアン・グラムです」
「もう聞きました」
なら聞くな。
「【タクティクス・ブロンド】はどこにいるのです!
わたくしは【タクティクス・ブロンド】以外に教鞭を執ってもらいたくありません!」
出たよ。王族特有のわがまま思考。
なんだろね。王族にはわがままになる遺伝子が豊富に含まれているのかね? アタマがきりきりと痛くなる気分。バカ王を相手しているときに出る症状だ。
「ですから。もしも、貴方がこの教室の担当者だというのなら即刻、お変わりなさい」
毅然とした顔に当たり前という言葉が両手抱えできるくらい巨大な毛筆で描かれた文字で張りついているのが見える。
あ、マズイ。ため息でそう。拳が出なかっただけ幾分か丸くなってる自分を誰か褒めてください。
さて、さてさてさて、こりゃ、どうしたものか。
ぶっちゃけると私がその【タクティクス・ブロンド】です。
内紛の時、色々とはっちゃけたら自動的になっていた類のものです。
なので、思い入れもない。隠さなきゃいけないみたいな話があったものの、実は義務じゃないので喋っても構わない。
しかし、【タクティクス・ブロンド】だと気づかれたら気づかれたで、貴族院の手先に警戒される恐れがある。情報か拡散してしまえば、まーた刺客とか襲ってきたりします。わりとスリリングな日常にときどき自分が夕暮れの川辺で黄昏ることなんてよくありますよ? そんな日常、再びというわけです。
逆理、すでに自分が居ることを貴族院が知っていた場合、その限りではないわけです。
この場合、デメリットなんてあってないようなもので、名乗ってしまえばこの王族少女を黙らせるという最大メリットにありつけます。
この子、絶対、理屈とか通用しないでしょ? 説得する時間を思えば、正体くらい明かしたっていいわけですよ。
「でしたら君はその【タクティクス・ブロンド】から薫陶を授かれないということになるよ?」
悩むこと5秒、思考はぶん投げるものです。
「おっしゃる意味がわかりかねます」
「自分がその【タクティクス・ブロンド】です」
「嘘ですわ」
生徒に全否定された。早くも教師として挫折してしまいそうだ。
「ちょっと待った!!」
今度はなんだ?
突然、活発な赤毛の女の子が立ち上がって、クリスティーナ君を睨みつけている。
「さっきから聞いていれば、あんたナニサマぁ! わがままもほどほどにしてよね! こっちは真面目な勉強ができるっていうから選定応募したのよ。それを個人的なわがままでかき回さないでくれる! 話が全然進んでないじゃん!」
おいおい。王族相手にソレはマズい。
何も身分的な問題ではない。いや、身分的な問題も大アリですが。
王族と言うヤツは、反発すると面倒なのだ。猛反発枕レベルで物理反射してきます。
テレパシーよ。あの子に届け!
「王族ですと言っていました。話はちゃんと聞きなさい。あらやだ。貴方、もしかして平民の出かしら?」
「ソレが何?」
「道理でお育ちの悪い口調だこと。あまり近づかないでくれます? せっかく仕立てて頂いたシルクの制服が土に汚れてしまいます」
「制服の素材を強調したって、あんたの素材は二級品だって気付いてる? 気付かないよねー。周りは皆、おべんちゃらしか言わないから」
「それではまるでわたくしの容姿に問題があるように聞こえますが?」
「そう言ってるのよ自意識過剰」
「なんですって下郎!」
「やんのかコラぁ!」
ものすごい勢いでケンカに発展してしまった。
テレパシーは届かなかった模様。涙が出そう。
ため息をついていると、真ん中の席に座っている小動物少女が瞳をうるうるさせている。
「あの、あの、ケンカは……、その……」
うん。困っている具合が自分と同レベルだ。
共感できるね。いや、共感している場合じゃないのだけど。
「先生」
左席二番目の片目を隠した黒髪ストレート少女が手をあげる。
「はい。そこの君」
「……エリエス・アインシュバルツです」
エリエス・アインシュバルツ。
多くの術者を輩出しているレザナード領からの出身だったはず。
入学時に行われる基本学力テストで優秀な成績を修めていたのを覚えている。
アインシュバルツ、という家名はない。
不思議に思って資料を深く見てみたら、なんらかの教育施設からの出身者は皆、アインシュバルツという姓を名乗っているそうだ。
それ以上は調べようがなかったので、ベルベールさんに追加の資料を送ってもらう手筈になっている。
感情変化の乏しい漆のような瞳が、じっと自分を見つめている。
「授業を始めてください」
「んー。罵り合っている王族と平民という凝縮した社会風刺の中、冷静に言ってくれるねエリエス君。先生、度肝抜かれました」
「それほどでも」
褒めてません。
突然、下半身に衝撃走る。エロいと思った人は校庭十週です。
ただ少女が突進してきただけです。頭が鳩尾にめりこんでチョーいてぇです。
「ひぇ~ん…、先生ぇ。ケンカが、うぐぅ、ケンカがとまりませぇん…」
と、泣きついてくれるな小動物少女。むしろ自分が泣きそうなのだ。
「え、えーっと。君は?」
呼吸困難な中、この台詞をいえた自分は根性あると思います。
「セロは……、セロと言います……、うぐっ」
セロがセロと言わなきゃどう言うのだろう?
えーと、たしかセロ・バレンだったかな。
この子は……、少々、出が複雑だったのを覚えている。
貴族と平民の間の子、だったはず。うわ、へビィだ。
この手のパターンは、高確率で不幸に見舞われる出自だ。
出自で不幸になるなんてバカバカしい話かもしれないが貴族社会にはよくあることで。ゆえにバカバカしいのかもしれない。
なんてトートロジーまがいでごまかしてる場合じゃない。
思考は素早く、回転は鋭く。
修道女の身分を意味するバレンの姓を名乗っているところを見ると、修道院からなんらかの都合で計画に参加したのだろう。
リスリア王国で修道女といえば神に仕える世捨て人の側面が強い。
彼女たちは奉仕の精神で神の教えを従順に守り、一所から離れることもなく日々を過ごしていく。そう考えると計画の参加なんていう行為は修道院の教えから程遠い。場合によっては知識は悪徳とされることもある。
そんな中、単身でリーングラード学園に来た、というのは非常に奇妙だ。
貴族院との関係云々よりも、厄介事をはらんでいるだろう予想は容易だ。
「ケンカはダメなんですよぅ……、先生からもぉ」
「あー、ちょっと待ってくれませんかセロ君。先生、とりあえず一通り君たちの名前を聞いておきたいので」
「そ、そんな……、先生はのんびり屋さんですぅ」
絶望したような顔で、ゆっくり自分のズボンから手を離し床を見つめてしまう。
のんびり、穏やかに授業したいのはヤマヤマなんですよ。セロ君。でもまぁ、こっちのほうが重要だ。
さて。この状況下、生きてるのか死んでるのかわからないほど無関心を決めこんでくれている、一番左端の机に座った少女を見る。死んでないだろうな。
「君は?」
自分に矛先が向いたのを感じたのか聞いたのか。
この騒動の中、一言も喋ってなかった少女はゆっくり立ち上がり……。
いや、親指立てられても……、おい。その指を下に向けるんじゃない。
直接的にケンカを売っているのか?
なぜ、自分はいきなり初対面の生徒からケンカを売られているのだろうか。
「リリーナ・エス・ル・ラーツァであります」
リリーナ・エス・ル・ラーツァ。
ラーツァなんて姓名は珍しいと思ったわけだ。
エルフ。
森人の一種で、精霊と人の間の子、とも呼ばれている。
よくよく見れば耳も長いし、生徒たちの中で一番、背が高い。
一昔前、エルフと人は戦争していたのだけど、あのバカ王が統治を始めてから諍いはなくなった。諍いの原因はやっぱり貴族。領土拡大と資材のために森の木を切り続けていた貴族と業者を叩きのめすこととエルフの居る森の自治権をバカ王が約束することで、何百年も続いてきたエルフとの間の戦争は凍結された。
もっとも完全にわだかまりが無くなったかと言えば、そうでもなく
これもアタマの痛い話になってくるわけで。
まぁ、でも。こうやって人の社会にエルフが参加することは良いことだ。これを機に、もっと交流を深めていきたいものだ。
それが希望的観測であったとしても楽観的思考であったとしても。
いいじゃない別に。このくらい先の未来を楽観しててもさ。現在、修羅場ど真ん中なんだから。
「ところでいきなりケンカを売ってきたのはどうしてですか?」
「族長がそうしろと言ってたであります」
人とエルフの未来は遠いようです。
さて。ではあそこで身分の差を乗り越えて王族相手に口論している元気っ子がマッフル・グランハザードか。
平民。グランハザード商会の一人娘。
うーん。選定が渋いというか、まさかあのグランハザードの子供に出会うとは。世間は狭いというか。
一度でも旅をしたことがある人間はグランハザードの影響がかかった商品を使わないことがないくらい、お世話になっているはずだ。
冒険御用達の品を広く扱っており、高品質低価格と涙が出るほど冒険者の味方なのだ。
かく言う自分もお世話になった人間の一人だ。
心の中で拝んでおこう。南無三。
内紛時に置いても、貴族軍よりも革命軍のほうが未来があると思ったのか色々と便宜を送ってもらっていた。内紛終了後はバカ王との約束もあり、王都に店を構えるという出世ぶりを見せつけている。
「そんなに地面とファーストキスをしたいのですか」
「はん! あんたのその高貴な唇でも接吻したらいかがデスかぁ? 地面も大喜びですことよーだ!」
性格が濃いのばかり集まってないか?
まぁ、その辺の事情は後でゆっくりバカ王に拳を交えて訊ねてみよう。
「もうガマンできない!」
「それはこちらの台詞です。表に出なさい。王族と愚民の差を思い知らせてあげましょう」
「温室育ちのくせに!瞬殺してやるわ!」
「こちらこそ、時間をかけるつもりはありません。そろそろ教師の交代もしていただかねばいけませんことですし。貴方に関煩っている暇はありませんことよ」
主旨を覚えてらっしゃったようだ。
「よしゅあん先生ぇ……、うぐ! ひっく!」
「先生。授業を」
「………」
騒ぐ、泣く、授業を促すのこの混迷っぷり。さすが自分。初めて担当した生徒がカオスです。
いやいや、リリーナ君。なんで君は立ちあがったのかな?
そして変なポーズをとって。
「いぇーい」
ネタが古い。つか意味不明!
「さて、と」
リリーナ君の意図不明行為はとりあえず無視。
ともかく、これで全員の顔と名前は覚えた。
そろそろこの騒動も終わらせよう。授業時間は有限ですからね。
『眼』を開く。
途方もない数の色が小さな珠となって世界に満ちる。
世界という力の流れが可視化した世界。浮かぶ三つの色、緑と青、白を選んで集めて線を繋いでいく。
それはまるでメロディのように広がり、指示を待つように点滅を繰り返している。
魔法、魔術、と呼ばれる世界の奇跡。
「ズォ・テレスオム」
言葉が術式に意味を込める。
緑と青、そして白の光の粒が環となり陣を構成し、軌跡が図を描く。
自分の口元に発生したメガホンのような陣に向かって命令する。
「クリスティーナ君ならびにマッフル君。両名、黙って座れ」
とたん、クリスティーナとマッフルは誰かに潰されたかのような力で、イスに座らさせられた。
その様子はまるで従順な犬のようだったが驚きの張りついた顔では、従順には程遠い。
教室が一瞬にして、静かになった。
何が起こったのかわからなかったのだろう。あるいは魔術を使うとは思わなかったからかもしれない。全員、唖然とした顔をしている。
クリスティーナとマッフル両名に至っては喋ることを禁じたので、驚いて口をパクパクさせている。もしかして文句を言っているのかもしれないけれど判断はつかない。ついてても聞く気はありません。
「……先生は何をしたの?」
エリエス君の漆色の瞳が問いただす。
魔術を使ったこと、ではないだろう。
『どういう術式を使えば、あの二人をあんな結果に導くことができたのか』、という研究者みたいな顔をしている。
「術式師はカラクリを明かさないものですよ。エリエス君。あ、両名。もう喋っていい」
「ぶはっ!」「ふぅ…」
吐息のユニゾン。これぞまさしく、息ぴったり。
おおよそ王族らしからぬ吐息を吐いたことを自分でも、自覚しているのだろう。
クリスティーナ君は顔が真っ赤で、とりつくろうのに苦労している。
「貴方と言う人は! 生徒に術を唱えるとは……!」
「もう一回、同じことをされたいのかな?」
「……ぐっ!」
あの一瞬で力量の差くらいわかったのか、それとも防ぐ手段がわからないので何もできないと踏んだのか、クリスティーナ君は黙ることを選んだ。
瞳は抗議と反抗心でいっぱいだけど無視しておこう。
マッフル君のほうは、何か言いたげに震えている。
もしかして、彼女。術式を見るのは初めてなのか?
いや、どっちかというと術式をまともに食らったのが初めて、という顔かな?
だとすると先程の経験はマッフル君からすれば衝撃だっただろう、自分の意思とは関係なく着席させられたことに。
やりすぎたかな……? まぁ、自業自得ってことで許してもらおう。
今後、自分の授業には自己責任を盛りこんでいこう。
そうしよう、そうすれば自分も楽ができます。
ともかく、面倒はさっさと打ち切りにして、なし崩しに授業を始めてしまおう。
「授業の形態として、教科は六科目に分けて教えていくことになる。
必須の数学とユーグニスタニア歴学、他に教養、錬成、術学、体育と文武両道が基本姿勢です。教員会議でも決まったことだけど、最初の2週間はそれぞれのクラスの担当が全ての教科の授業を担当します。これは皆さんの能力を調べる意味もあり、また、他教員が授業担当する前の慣らしとしての意味があります。2週間後には皆さん、均一化した授業内容を持って、それぞれの担当教師の授業を受けることになりますので、この2週間は長所より短所を伸ばしていきたいと思っています。他に何か質問はあるかい?」
生徒たちは無言です。
特に何も無いようだ。
というか、喋らせる機会を与えるつもりはない。
あ、本末転倒な感じ。
「じゃ、最初の授業を始めよう」
なんだか初日、一時間目で問題多しだけど。なんとかなると、思うしかない。
問題棚上げ。またの名を現実逃避。
あぁ。教師って仕事もラクじゃない……。
はぁ……、嘆いてる場合じゃないなぁ。
そろそろ時間も押してきてるわけだし、授業を始めないと。後2週間で教育目標を突破してもらわなきゃならないわけだし。
えーっと、まず、どんな授業を始めるつもりだったっけ?
と、普通の教師なら慌てふためいてしまうのでしょうが自分にぬかりはない。
ちゃんと今日の授業内容は、メモしてあるのだ。
えーどれどれ。
「まずは皆の自己紹介から……?」
こうしてここに来てやっと自分は今日考えていた最初の授業内容を口にすることができた。