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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第二章
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アドバイスは明日から

 話は全て終わりました。


 単純な失敗、深い失敗、それぞれがよくわかりました。

 ですが、それを明確な答えとして生徒に教えることが果たして教育と呼べるでしょうか。


 問題文があり、唯一の答えがあるのなら。

 それこそテストのように紙の上に描かれた問題なら別にいいのです。

 解き方を教え、例文を出し、答えへと導くのが教育として正しい在り方でしょう。


 しかし、問題文が大量にあり、正しい解き方がなく、明確な答えがない。


 現実問題はどうしようもなく、正解がない。

 そんなものは教えようがない。


「エリエス君、セロ君、リリーナ君が得たポイントは18p、君たちのマイナスが14p、差分が4p。今日の生徒会活動でヨシュアンクラスが得たポイントです」


 いえ、実際は正しい答えがあります。

 人間が長い時間をかけて自然と付き合い、結果として得た最適解が。


 テクニックやポイント、コツといった技術が。


 しかし、そもそもの問題はテクニカルなお話ではありません。

 生徒が問題に気づくことなのです。


 問題だと、問題がある、そう気づき、直していくことにあるのです。


「ちなみに全クラスで最下位ですね」


 この時のクリスティーナ君とマッフル君は、歯噛みしていました。

 下手をすればマイナスポイントになっていたところ、エリエス君の機転でなんとかマイナスに行かずに済みました。

 そう考えてしまったのでしょう。


 他にも、クラスの足を引っ張った、もっと自分がちゃんとしていれば最下位だけはまぬがれていたのに、と思う気持ちもあったのだと思います。


 後悔、と呼ぶべきでしょうか。

 でも気づいていますか?


 その気持ちが生まれたってことは。

 失敗した事実が、気持ちとしてようやく形になってきたということです。


「一番近いリィティカクラスは10p、二倍差をつけられていますね」


 最大p取得クラスはヘグマントクラスの20pでした。

 チームで二つの討伐依頼を受けて、見事、達成して見せました。


 次点がアレフレットクラスとシャルティアクラスの18p。

 後はピットラットクラス、リィティカクラス、に続いてヨシュアンクラス。

 というか一桁なのは自分のクラスだけでした。


「スタートダッシュで出遅れましたね」


 ため息一つ。

 この『教師対抗クラス優秀賞賭けレース』で勝負をする以上、スタートダッシュは重要です。


 今回でヘグマントクラスは自分たちのできる範囲を確立しました。

 最低20pを取れる、その自信を打ち崩すのは容易ではありません。

 何故なら、次の討伐依頼を三つ、四つ、五つ……、そうやって増やしていくからです。


 依頼達成の限界が来るまで、彼らの挑戦は続くでしょう。

 もっとも、それゆえに彼らが『ある方法』に気付くことはないでしょう。


 ネガティヴかつ、悪辣な方法ですしね。

 しかし、確実な手でもあります。

 そもそも、あえて『その方法を禁止していない』ことにも理由があったりします。


 まぁ、余談ですね。


「ともあれ、良かったじゃないですか。これで月間優秀があったのなら、大きな損失と言えたかもしれませんがこの半月は月間優秀がありません」


 どう反応したらいいかわからない。

 そんな顔をしている二人でした。


 自分はアドバイスしかできない身です。

 実戦を見せることもできなければ、答えも出してやれない。

 出来ることの少ないアドバイス――ましてや、そも助言とはなんだろうか、と、ずっと考えていたくらいですから。


 でも今、ようやく閃きました。


「つまり、この半月は慣らし運転で十分なんですよ。無理に討伐依頼を受けなくても良いですし、採取や住人のお手伝いだって立派な仕事です。でも君たちはまだ討伐依頼を受けようと思っていますね」

「当然ですわ。やられたままでやり返すなとおっしゃりますの! 由緒正しきハイルハイツが! この私が!」

「今回はちょっと相手に驚いただけだし。次は絶対勝てるし」


 脳筋ですか君たちは。


「チャレンジすることは良いことですが」


 きっとクリスティーナ君とマッフル君は同じように挑んで、同じような失敗をするでしょうね。

 しかし、もしかしたらこの敗北をきっかけにちゃんと準備をするかもしれません。


 なので、ちょっと確かめてみましょう。


「どうチャレンジするつもりですか?」

「あの蜘蛛が逃げたのはきっと火を見たからですわ。だから、巣を見つけて燃やせばそれで解決……、簡単な話ですわね」

「山火事になるので森の中で赤属性を使わないの」


 痛いところ突かれた、みたいな顔されても。

 マッフル君はどうでしょうね。


「あのモグラより速く動いて叩き斬る!」

「十分、試したでしょうに。それでもできますか?」

「じゃぁ、巣穴の中で」

「剣も振れなかったのに?」


 何か言いたそうな顔されても。


「では先生はどうやってあの蜘蛛を退治できますの!」

「そうだよ! 相手は穴の中にいるんだよ!」

「やり方は無数あり、対処の方法は人それぞれです。知っていますか? コルヌ・シュピーネもシューペ・マウラフもそこらの村人でも簡単に討伐できてしまうんですよ」


 簡単というほどではありませんが、ちょっと話を大きくしてみました。


「だったら、そんな依頼、自分たちでやれば」

「それだと君たちの経験にならないじゃないですか」


 狩人がよく遭遇するコルヌ・シュピーネは撃退するだけなら火で十分なのです。

 ですが、今回は討伐。

 如何にしてコルヌ・シュピーネより先にコルヌ・シュピーネを見つけて、逃さないように仕留めるか。

 この問題に気づかねばなりません。


 シューペ・マウラフは新人の冒険者が請け負うほどよく見られる原生生物ですが、その討伐には頭を使わなければなりません。

 相手が土の中にいますものね。

 どうにかして土から外に出してしまえば、ナイフを持った子供でも倒せます。


 そして、これらを達成するために必要なものは何か。


「ちなみに先生なら、森に入った瞬間、コルヌ・シュピーネを捕捉して緑属性の術式で狙撃します」

「そんなの無理に決まってますわ! どうやってあの蜘蛛を森の入口から見つけ出すというのです!」」

「だから、先生なら、です」


 自分と同じ方法をクリスティーナ君ができるわけないじゃないですか。

 暗にそう言ってやるとだんまりしてしまいました。


「シューペ・マウラフなら、巣穴に大量の水を入れますね」

「そっか! その手なら」

「先生なら術式を使って水を確保できますが、マッフル君はどうするつもりです? まさかバケツでちょっとずつ入れていくというつもりじゃないですよね。そんなことしていると陽が暮れますよ」


 そりゃそうだ! みたいな顔されても。


「つまり、先生なら出来ても君たちには出来ない。当然です。相手に合わせて自分のやり方を選んでいるからです」


 まだ陽も明るいですが、夏場の夕暮れほど時間感覚のないものはありません。

 もう晩ご飯の時間なのか、と思うこともあります。


 そろそろ生徒たちを宿舎に帰す時間です。


「手段や方法、どうすれば、に、目をやっているうちは何度挑んでも一緒です」


 重要なのは意志です。


「どうしたいか。これが重要なのです。月間優秀を取る、相手を倒したい、そういう部分ではありません。本当にそうしたいと思い、真剣に思えば自然とどうすればいいのか、どうするべきなのか思い浮かぶものです」


 クリスティーナ君もマッフル君も十二分な下地が出来ています。

 武器防具、それをこなす技量、経験則だけ足りてませんが同時進行で得てもらいましょうか。


 支配という戦い方を。


 求めることによって得られる、戦い方です。


 ……んー、一度くらい、実戦で見せてあげたほうがいいですかね?

 これも助言の一環です。


 ついでなのでやっぱり、全生徒にも教えてあげましょう。

 模擬戦の一つでもやってあげて、そこから得ようとすればヒントも得られる。


 言葉では伝えきれないからこそ自分らしいやり方で、アドバイスすることにしました。


 相手は誰にしましょうか。

 ヘグマント、アレフレット……、あるいはメルサラ。


 メルサラだとうまくやれる自信がないですし、あとで文句言われそうです。

 説明しても理解してくれなさそうですしね、あのバカは。

 絶対、途中でヒートアップして取り決めを壊すに決まってます。

 

 一番、やりやすいのはアレフレットですが……、体術がダメですね。

 基本的な体術と剣術しかできません。


 ある程度、実力があって体術も得意。

 やっぱりヘグマントが無難でしょうか。


 その前に全生徒の授業一つを潰すと学園長に伝えなくてはいけませんね。

 思いつきでの行動すらままならないのが大人というかなんというか。


 まだ憮然と後悔で変な顔をしているクリスティーナ君とマッフル君に退室を促して、自分は教室で考え事を始めるのでした。

 


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