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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第二章
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生徒会システム絶賛☆活動中

 エリエス君を伴って教室に入ると、すぐに生徒たちは自分の顔色を見始めました。


 どこか安心したような顔が生徒たちから見て取れるのは何故でしょうね。


「朝の先生は変でした」


 後ろのエリエス君が呟きながらも教えてくれました。


「具体的にどう変でしたか?」


 そうとわかるくらい、変だったのでしょうか。

 それとも、よく見ていると褒めるべきでしょうか。


「出席簿ではなく呪われそうな石版を持って、何も思わずに私たちの名前を呼ぶ姿に先生はとうとう……」


 どうして先生を見ないのですか?

 言葉の続きを早く、続きはなんなんですか?


「いくら考え事があったとはいえ、さすがにそれは冗談でしょう?」

「なお、石版は教壇の隣に置き忘れていきました。どう処分するか私たちは朝から悩むことになりました」


 本当に教壇の隣に苔むした奇妙な石版が置かれていました。

 なんでしょうね、これ。

 表面を見ると文字が刻まれています。


「午前は錬成の座学でした。リィティカ先生がこれを見て、非常に怯えていました。触れることも叶わず処分もできず、強烈な存在感を放つ石版が見守る中、ビクビクした授業展開が続きました」


 『フィリップ・エイン 地獄の業火に焼かれ 責苦と眠る』……、墓石じゃないですか。

 フィリップさん、何やって死んだんですか。完全に罪人系です。というか自分がこれを持ってきたんですか? どうやって!?


 謎は自分の過去にあるというのに一つも理解できませんでした。

 ちょうど密室の中に鍵と共に閉じ込められたら、こんな気分じゃないですかね。


 そして、またリィティカ先生に迷惑をかけてしまった。

 海より深く懺悔したいです、はい。ちょっと行ってこようかな。


 と、思ったら後ろはエリエス君でした。

 会いに……、ではなく、逃げること叶わず、話を聞き続けることとなりました。


「生徒会活動が始まる前に是非、処分してください」


 エリエス君でも触るのがイヤなんですかね、これ。

 仕方ないので持ってみると意外に重い。

 こんなもの、出席簿と間違うとかどうかしてますね、過去の自分。

 いや、どうかしてたんですけれど。


 とりあえず元の場所に戻して――元の場所ってどこでしょう?

 仕方ないので窓から放り投げておきました。邪魔ですしね。良い子は真似しないように。


「ぎゃあぁぁ!?」


 窓の下から誰かの声が聞こえたので、誰かいたのかと思ってみたら誰もいません。

 花壇に石版がポツリと埋まっているだけです。

 ……深く考えないでおきましょう。まるで地獄の底から響くような声でしたが幻聴です。


「先生、今、悲鳴」

「気のせいです」


 マッフル君の質問には答えられません。

 何故ならば幻聴だからです。


「まるで墓標のようですわね……」


 ポツリと呟くクリスティーナ君。

 誰もが言わないようにしていたことを平気の平左で口にする!


「わぁ、修道院の裏手みたいなのです」


 なんで懐かしい顔してるのですかセロ君。

 修道院って裏手に墓地があるものなんでしょうか? それともセロ君の修道院がおかしいのだろうか。

 墓地の近くで土地代が安いから、修道院が建ってる、んですよね? そうですよね?


「? 術式具って石でも作れるでありますか」


 常人が見えない何かを見ているように、じっと石版を眺めているリリーナ君。


「古代の遺跡なんかで石を媒介に動く術式具は確かにありますね。ただし、石に金属が混じっているものがほとんどです。ちなみに石と金属の違いは叩いて伸ばせるかどうかである程度、分けられますね」


 金属でも叩けば割れるものもありますが、あれは展性が低いものです。やり方次第では紙より薄く伸びていきます。


 そういえば、遺跡でちょくちょく見られる純正の石に刻まれた術陣は何を意味するのでしょうね。

 いくら古代の人でも石は術式具にならないと知っていたでしょうし。

 利用価値がないものを作って何が楽しいのでしょうか、わかりません。


 そして、あの木の実。ポルルン・ポッカからもらった変な術陣が封じられたアレです。

 アレは術陣を直接、刻んでいるわけではないので術式具とは言えません。

 しかし、金属でも石でもない木の実に術陣を封印するという技術。


 どこか術式具に通じるものがあります。

 調べようにも見たことのない形式ばかりで、どんなものかすらわからないのでお手上げ状態です。

 わからないということは何が起きてもおかしくないということ。つまり爆発が起きてもおかしくない。

 でも、封印施設があるわけでもないので、常に持ち歩いています。


「そういえば稀にあんな石がたくさん置いてある場所があるであります。アレはなんでありますか?」


 あー、そういえばエルフは死体を枯れた木の中に入れるのでしたね。


 エルフの死生観は森に生きて森に死ぬ、ですから、死体も当然、木々に還すというわけです。自分たちからすれば首を傾げるようなお葬式です。

 逆に考えれば土に埋めてその上から石を置く、という人間のお葬式はエルフのリリーナ君にとって不思議な光景に見えるのかもしれません。


「あの下に人間を埋めるのですよ」

「新手のSMでありますか?」


 違います。

 神官が聞いたら泡ふいて倒れますよ。


「死んだ人を埋めて、その人の識別をしているのですよ」

「わざわざ一人一人を、でありますか?」

「まぁ、そんなもんですよ」


 ふぅん、と呟くリリーナ君。


 いやいや、その前に墓標を見下ろしながら窓枠でリリーナ君と語り合っても仕方ありません。ムード満点の星空の下であっても生徒が相手だと意味がないですし、話の内容にも色気がありません。そしてシチュエーションは言わずもがな最悪です。


 これで恋に落ちるヤツがいるなら、きっと恋の上級者です。

 手ほどきされたいと微塵にも思えません。


 さっさと生徒会の話をしてしまいましょう。


「いつまでも窓の外を見てないで席に着く」

「先生だって見てるじゃん」


 言い訳無用、問答無用です。


 生徒たちが席に着くのを見計らって、窓を閉めておきます。

 窓の下からまた悲鳴が聞こえてもアレですしね。


「では、午後の授業の説明を始めます」


 すでに生徒たちも見ているでしょうが、学び舎の入口正面に生徒会専用掲示板を設置しています。

 概要と金額、依頼人の名前が書かれた依頼書がちゃんと掲示板に貼られています。


 生徒たちは一日の暇な時間、主に放課後ですね。

 あるいは今日の授業みたいに生徒会活動の授業中に依頼を受け取って奔走することになるでしょう。


 報告は全て担当教師へ持っていくこと。

 つまり、依頼を受け取るのも終わった報告をするのも全て担当教師へと持っていくことになります。


 大まかな流れはこんなところですかね。


「依頼の成功、失敗は関係なく、まずは先生に報告すること。失敗したからといって握りつぶしてもわかりますからね」


 クリスティーナ君が目を逸らしましたが見逃しませんよ。


「依頼人より成功確認のサインがないまま期日が過ぎた場合は、請け負った依頼のポイント分がマイナス。依頼人の成功確認証があっても期日以内に担当教師に依頼書を持ってこないと半分のマイナスです」


 つまり生徒たちは絶対に教師の元に依頼書を持ってこないといけなくなります。

 さらにポイントは個人だけではなくクラス総合にも関わるので、マイナスはクラス全体の連帯責任だったりします。


 生徒たちが率先して、しかも、お互いに協力し合うように作られています。


「忘れててポイントマイナスとかになったら目も当てられませんよ」


 一応、ちゃんと忠告しておく。


「もちろん、ポイントを得られるのは成功したときのみ。やむを得ない事情があった場合、依頼の引き継ぎや破棄も可能です。どちらも教師が一度、判断を下すので勝手に決めてしまわないように」

 

 基本的な説明はこれくらいでいいでしょう。

 このルールで月間優秀を取ろうとするとどういう作戦が一番かというと――


「説明はそこまでですわ!」


 突然、立ち上がるクリスティーナ君。

 なんだろうね、この懐かしい感じ。

 二ヶ月前に似たような流れを経験したような気がします。


「ようするに依頼を受けて、完璧にこなし、先生に叩きつければ良いのですわね!」


 自分の説明、まるっきり意味がありませんでしたね。


「見てなさい。私にかかれば討伐の一つや二つ――」

「ちょっと待った!」


 立ち上がるマッフル君。


「あんたに任せたら、どうせ身の丈にも合わない依頼でクラス全員のポイント下げるような真似するに決まってるじゃん!」

「それは私が失敗すると言いたいですの? 貴方こそ身の丈にあった愚民らしい、愚民っぽい、愚民臭い依頼を受ければよろしくてよ」

「言ったな。これで失敗なんかしてみろ! 大笑いして校庭の墓標前に逆さまで埋めて『負け貴族、ここに眠る』って書いてやんよ!」


 新しいスポットが誕生しました。

 この教室の下です。


「貴方こそ、そこまで大口を叩いて失敗なんかしてみなさい。術式ランプでスポット当てて『負け愚民、見事に散る』と飾りつけてあげますわ!」


 いがみあい、そして額をぶつけて二人で教室を飛び出していきました。

 呆れている間に、もう、二人はいません。


「……えー、あの二人の処遇はともかく、説明も以上なので掲示板の前まで移動しましょうか」


 いつもどおりのエリエス君や不安そうなセロ君、楽しげなリリーナ君を連れて、二人を追いかけるように教室を出ました。


 はぁ、なんでしょうねこの日常に戻ってきたような気分は。


 嫌すぎる日常がまた始まったと思うと、ため息だって溢れます。


 生徒会活動、無性に心配になってきました。

 変なことにならない限り、大丈夫だと思うのですが……、どうなるのでしょうか。



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