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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第二章
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全ての人が自分だけの火を持ってる

 満を持して始まりました術式ランプ製作講座。


「術式ランプは大きく分けて二種類あります。一つは皆もよく見ている『赤属性型』。日を当てると劣化するような道具が保管される暗所などで使われる『緑属性型』。さて、実のところ三つ目の術式ランプがあることを知っている人はいますか?」


 まずは軽く術式ランプの種類を触っていきましょう。


 ランプというものがなんなのかを知る。

 精密な理解こそが物を創るために必要な設計図なら、まずは生徒たちに設計図を見せなければ始まりません。


「実際に用意してみたのが、こちらです」


 黒いボックスに囲まれたランプが三種類。

 生徒たちが見えるようにと、一面だけ開放した教材です。


 右から順に術式ランプの入力起動陣が刻まれた金属縁を撫ぜると、赤色発光の橙色の光、緑色発光の黄緑の光と灯っていく。


 生徒たちは先に説明した色の輝きを見て、特に感想はなかったようだ。

 しかし、その視線の大半が次のランプに向かっている。


 生徒たちも初めて見るだろう第三のランプ。


 最後の一つのランプの縁をスゥーと触ると、輝かしい白い光が灯ります。


 見たことない光に生徒たち全員は吐息や感嘆の声を漏らします。


「すごーい……」

「他のと比べて眩しい、それに強い」


 三つのランプの明らかな光量の違いに、小さな感想が聞こえてきます。


 うん、導入としては最適だったかもしれませんね、この実際の道具を使っての勉強は。

 アレフレットが遺物を使って授業をする、と言ってたので自分も真似してみただけですが、上々です。


 体験型学習はいつまでも覚えやすい、という特徴があります。

 もっとも体験型という形式である以上、より多くを詰め込めないのが問題になりますが、今回のような余興のような授業では良い感じで生徒たちを引き込みます。


「まるで太陽のように強い光だ……」


 フリド君が変なうわ言を呟いていますが、無視したほうがいいですかね?


「第三のランプは他の物より強い光を出すのがわかりましたね。では問題です」


 問題という言葉を聞いて、緊張する生徒たちはほどよく学園に馴染んできているとも思います。

 こうして全クラスを見ながら授業をしていると、個別クラスごとに教えていたのとはまた違うことがわかってきますね。


「第三のランプに使用されている源素はなんでしょう? ちょうどいいのでクラスごとに相談しながら考えましょうか」


 すぐにクラスごとに感想を言い合う声に溢れていきます。

 嬉々として、揚々として、自分の感想や推測を言い合う生徒たちはなんだか面白い光景です。


 誰一人として、たった4年前に終わった地獄のことを感じさせない。

 彼らが第一線で活躍する時代には、内紛の影なんて、きっと見えなくなってしまっているでしょう。

 その、なんて羨ましいと思ってしまうのは何故でしょう。


 あの日、あの頃、あの時代。

 燃やされた煙が空に溜まり、灰色に染めあげ続ける光景。

 食べ物は舌が腐ったのかと誤解してしまうほどまずい糧食、それでも良い方で最悪一日一食なんてザラな話、睡眠時間は敵が来れば即座に破られる安い眠りだけ。

 確かに昨日まで居た伝令役が、今日は別の人間から死んだと言われる日常。

 浅い眠りのまま、不十分な休暇もないまま、大量の死体を生産する非生産性。

 そんな中で安眠したければ死ぬしかない。


 何度その誘惑に駆られ、奥歯を噛み締め、血の涙を流してこの世を憎悪したことか。


 正気を狂気に変えて、赤いゲル状の溜まりを踏みしめる地獄。


 そんなものは、この青空の下には一切ない。

 こんなことを考えてしまうのだから、希望や期待なんか見たくないんですよ。


 それでも、あぁ、思ってしまいますね。


 この、喧々諤々と笑い合う子供たちの、眩しい光景を。

 未来永劫続いて欲しいと。


 願わくば、自分たちの影を時間の流れとともに置いていけ、と。


 次代に時代を託す老人の気持ちというのは、こういう気持ちなんでしょうか。


 いつかピットラット先生が言っていた、若い時代を眺める気持ち。

 少しだけわかったような気がします。


 きっとピットラット先生ほどの気持ちにはなれないでしょうが。

 慣れることもなく、綺麗事を生産し続けよう。

 いつか綺麗事が真実になるまで。無駄で途方もない、馬鹿げた、下らない物語であっても。


 それが地獄を歩いた者の責務と嘯いて。


「だから! 緑属性だって強くすればあんなに光るはずだって!」

「これだから庶民の浅知恵は。赤の属性が持つ火は強くなればなるほど白に近づきますわ。以前、メルサラ・ヴァリルフーガの術式を見たでしょう。あの赤とは呼べない強い光を。まさにあのランプの輝きに近しいわ」

「先生だって前に言ってたじゃん! 強い術陣を刻むとその分だけ金属部品が多くなるって! そんな強い術式を刻んだら、どれだけの大きさになるっていうんだよ! 緑属性のフロウ・プリムだって強くする方法だってあるじゃんか、そうやって作ってるんだよ!」


 次代の子供たちはきっと争わないと信じて――


「もう口論は無駄のようね――愚か者はぶたれなくてはわからなくてよ」

「へぇん、まるで先生みたいなこというじゃん。一番、先生にオシオキされてるから?」

「一番、オシオキされてるのは貴方のほうですわ! 何を勝手に真実を捏造してるのかしら!」

「いーや、あんただ!」

「いいえ! 貴方よ!」


 ……きっと人類は滅びるまで争い続けると思います。えぇ、畜生。


 とうとう、周囲の声より大きくなりすぎた妥協知らずのバカ二人にびりびりハリセンをお見舞いしてやりました。

 真昼間でも光る二つの稲妻は、花火を思い出させますね。


 花火、今年の夏はやってもいいかもしれませんね。


「何を低次元な発展で喧嘩してるのですか」


 力なく、机に倒れるクリスティーナ君とマッフル君。


「エリエス君。この二人のオシオキ回数はわかりますか」

「マッフルもクリスティーナも64回です」

「聞いておいてアレですが、数えていたんですか?」

「手慰み程度に」


 わお、高性能。


 エリエス君が開いた手帳サイズの羊皮紙束には、ちゃんとオシオキ回数が描かれてました。

 なんだろう、この無駄な努力。

 一体、何のためでしょうか。本当に。


「ちなみに一番は83回のリリーナです」

「照れるでありますなぁ」


 恥ずかしがってください、是非に。


「えー、記録するということは大事なことです。術式具の開発なんかは記録の積み重ねですからね。エリエス君には花丸シールをあげましょう。努、その几帳面さをなくさないように」

「花丸シールはこれで10個になりました」


 エリエス君が手帳の最後を開いて花丸シールをつけると、祝福するようにセロ君が拍手し始めます。


「まぁ、おめでとう」


 理解してるかしてないか定かではありませんがティルレッタ君も祝福し始めました。

 釣られて、皆、拍手し始めます。

 オシオキによって、本人たち以上に微妙に引きつった顔の生徒たちからの祝福の拍手は、青空に吸われて消えていきます。


 なんだろう、この不思議な空間。

 空を見上げても虚しさしかありません。


「こえー……、あれがヨシュアンクラスかぁ」「想像以上だね」「あの容赦なさ……さすがヘグマント先生が認めた先生だ」「あの二人、大丈夫かなぁ」「大丈夫でしょ、だって64回ですもの」「あぁ、64回もあんなの受けてても生きていられるのか」「ね、あの二人、死んでない?」「バカな、あのヨシュアン先生が加減を間違えるはずもない」「痙攣してない?」「医務室の先生、連れてこなくて大丈夫?」「たぶん……」


 ひそひそ話が心に染みます。

 すごく、恥ずかしいです。

 我が事以上に恥ずかしいです、畜生!


「さっさと起きなさい、二人とも」


 自分の声に反応して、むくりとクリスティーナ君とマッフル君が顔をあげます。

 顔もむくりと膨れてます。そして、プイ、とお互い、顔を背けてしまいます。


 機嫌が悪くなるなら喧嘩すんな。


「え……、なんで平気なの?」「全然、堪えてない……、なんなんだあの二人」「これがヨシュアンクラスの実力」「実は化け物なんじゃ」「抗術式力で防いだのか? あの電撃を」「一瞬、頭の上で光ったのに、無事なんだ」「なんか怖いね」「まぁ、無事なのね、良いことだわ」


 と、内緒話に変わったひそひそ具合。

 しかも、こちらを見る目が驚愕の生物を見たような目です。


「さて、ヒントも出たことですし、もうわかりましたね」


「アレがヒントぉー!?」


 要約すると、こんな感じの声が豪勢に張りあげられました。

 大ヒントですよ、えぇ、大出血サービス。

 しかし、痛みを負ったのはウチのバカ二人ですが。


 再び始まった議論は最初よりも小さかったものの、確実に要点をまとめていってます。

 大体、赤属性の強力な炎か白属性で強化された赤属性、という意見に収まりつつあります。


 ちなみにウチのクラスの発表はエリエス君でした。


「ではエリエス君、ヨシュアンクラスのまとめをよろしく」

「はい。これはリリーナからの発案でしたが、先生がわざわざ第三のランプと言ったからには既存の物とは違う概念からの発光手段だと導き出しました」


 この答えに他の生徒たちは、息を飲みました。

 その考えに至らなかったようで、目からウロコ、と言った様子でしたね。


「つまり、赤と緑を使わない光。そして、セロからは先生が私たちにわからない問題は出さないと言ったことから、現在、教わっている術式の属性から赤と緑を除いた属性、黄と青のどちらかだと推測しました。さらにクリスティーナとマッフルのオシオキから導き出された答えは――黄の源素です」


 その瞬間、周囲がざわめきました。


「先生、そのランプは雷の光を利用しています」


 正直、エリエス君は自分に近しい質を感じます。

 ロジックからの解読、相手の感情からくる思考こそまだ読みきれてはいないようですが、もしもヨシュアンクラスで正当に自分を継げる素質があるのはエリエス君だけでしょうね。


「正解です。ですが、答えよりもこの思考方法は十分、君たちのためになる考え方でしょう。自分たち教師が何を考え、そして、君たちをどう答えに導くか。出題者の意図を読む、この力はどんな場面、どんな職業についても応用できる思考です」


 どよめく生徒たちの間を縫って、教壇代わりの机に向かいます。


 未だ白く光り続ける第三のランプ。


「これは先生が独自開発した発光メカニズムの違う照明、というコンセプト面から作りあげたものです。開発期間は1年です」


 その意味を正確に理解できる子はいないでしょう。

 ただ、開発した、という言葉に立ち上がった子がいました。


「じゅ、術式具の開発を単独で一年……ッ!?」


 術式具の新規開発は様々な金属や術陣を総当たりで作っていくせいで、非常に長いスパンを要求されます。

 そのうえ、人数も要求されるので、国家事業や貴族の道楽になりがちなのですが。


「驚異的な数字であることは理解できますね。キースレイト君」


 術式具に触れる機会が多い貴族だからこそ、予備知識を持っていたのでしょう。

 同様にエリエス君も信じられない、といった瞳を向けてきます。そこは信じなさいな君の先生ですよ?


「まぁ、種明かしをするとこのランプ自体、原理さえわかればなんとなくで作れます」

「なんとなく!?」


 それでも時間をくったのは、やはり黄の源素と親和性の強い金属、それも連続放電しても通電しない金属なんてないのが原因でした。

 結局、通電しやすい金属と通電しにくい金属を合金にして、中心端子をうんぬんかんぬん。

 他にも小さな電極で蛍光する物質を探すのも苦労しましたし、素材探しが大半の作業でしたね。


 微調整にも時間をかけてますが、これだけのことをして一年。


「ともあれ、この術式ランプ、完成したとはいえ弱点も多いのです」


 光り続けていたランプはとたんに、光を失っていく。

 どうやら制限時間が来たようです。


「一つは持続時間が短いこと。単純に黄の源素を消費し尽くす速度が速すぎて、ごく短い時間しか発光しません」


 これは黄の術式結晶を用いれば、十分な照明時間を手に入れられるでしょう。


「そして現状、高価すぎることですね。とても一般家庭に使えるものではありません」


 コストパフォーマンスが悪すぎて、今のところ大道芸レベルでしか使えません。

 改良案はいくつもありますが、新物質待ちや術陣の改良は必須でしょうね。


「しかし、それだけのものであれば、買い手はいくらでも」

「もの好きな貴族は買うでしょうが、先生はそういうために作っているわけではありませんからね。今のところ、売る予定はありません」


 はい、そこ。

 露骨にガッカリするんじゃありませんマッフル君。

 キースレイト君もひっそりとガッカリした感じで座らないの。


「別にこれらのことを話したのは自慢でもなんでもありません。一見、無関係なものでも組み合わせや発想の転換で面白いものが作れるという点です。さて、前置きが長くなってしまいましたが今回のメインに移りましょう」


 ここまでの話で十分、生徒の興味はガッチリ掴めたはずです。

 現に自分の言葉をつぶさに聞こうと取れる姿勢をとってます。

 驚くべきことに、ヨシュアンクラスも周囲に飲まれて静かに聞く姿勢です。どういうことだ。


「今回、君たちが実際につくるのは赤属性型の術式ランプ。もっとも数が多くバリエーションも豊富な術式ランプの基本型です。君たちはこの基本を一度、学び、同時に発展していってもらいます。要はアレンジです」


 初めて術式具を創るというのに、そのアレンジまでさせるという自分の言葉に、生徒全員、開いた口が塞がらないと言った感じです。


「大丈夫ですよ。アレンジをするための知識は全て、君たちは学んでいるはずです。それが実際に見える形になるだけです。では基本型の作り方を説明しましょう」


 黒板に図面を描いていきます。


 さて、生徒たちはどんなものを作るでしょうね。

 決まりきった形の術式ランプぐらいなら基盤ごと作ったとしても2時間で組み立てられるでしょう。


 大体、どんなものか予想はしてますが。

 出来れば自分が面白いと感じた、それこそ既成概念を越えたものを作って欲しいというのは、期待しすぎでしょうかね?


 でも、まぁ、期待はずれでもいいんじゃないかとも思います。


 何でもかんでも、何も知らない生徒に押し付けるのはやっぱり酷な話です。


 期待は黙して語らず。

 だからきっと、ピットラット先生たち先達もまた、多くを語らなかったのかもしれません。

 だから自分も、語らずにいましょう。


 期待している、と。


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