教師の休日 ~休日出勤編~
穏やかな風が頬を撫でる快晴。
参礼日とは、人が精神肉体共に健康であれるようにと古王リスリアが生み出した素晴らしい休日です。
神が生み出したのではなく古王ってところがポイントです。
つまり、人の、人による、人のための休日です。
神への感謝が原因でも、そのあとずっと理由は人のためにあったはずです。
そんな休日のうららかな昼前。
穏やかな太陽が草花に陽光の恵みを降り注ぐ、陽気で優しい時間。
少し大きめの木立の下、適当に並べたテーブル。
大木の枝からぶら下がる黒板。
シュチュエーションだけなら、素敵な青空教室ですよ、えぇ。
ただ一つ、問題があるとしたら。
「なんで仕事してるのでしょうか」
自分、判断を誤りました。
なんでこの休日に仕事しようと思ったのか。狂気の沙汰です。
いや、でも、生徒たちが困っていました。でも理由は金欠です。
向学意欲もあることですし術式具に興味だってあるはずです。でも何人くるかわかりません。
しまった。ちゃんと参加名簿とっておけば良かった。
迂闊すぎて、いや、純粋に忙しすぎて忘れていました。
忙しい理由が『生徒会システム』の立ち上げだったことも、なんかテンションが下がる話です。
わざわざ昼日中に天下でやらなくても、教室を借りようという試みも考えましたが、こんないい天気だし外でやろう! なんて考えたのも失敗でしたねー。
期待とか希望を見せつけられているようで、突き抜ける初夏の空が眩しすぎて辛い。
生徒たちが来ると思われる予定時刻前に、ダウナーになる自分でした。
やることもないので材料チェックなんかして心を紛らわせましょう。
材料は一応、30人分用意してます。
ウチのクラスは全員参加は普通として1クラスに2~3人くればいいほうですかね。
となれば、参加人数の最低値は5、最大値は30、理想値は15~20人ですね。
だからなんだと言われれば、それまでなんですが。
参加数を妄想して心を落ち着かせているだけですが何か?
材料は丸くカットされた金属板、ガラス板、木材、青銅の装飾台です。
術式ランプの構造は単純化していけば、ものすごく簡単です。
火を灯すための金属基盤、これだけです。
ランプですので、照明以外の部品はほとんど装飾品でしょうね。
青銅の装飾台はランプ台としてすでに用意させて、基盤だけを作らせて材料を組み合わせる方式を採用しました。
用意しておいてアレですが、ガラス板は高価ですので、あまり使わせたくないですね。
防風の術式を刻めば、装飾台と基盤だけで術式ランプは使い物になるでしょう。
しかし、相手は初心者です。
防風と照明、緑と赤の属性という、混ぜ合わせるのに繊細さが問われる術式の共存を生徒たちができるわけもない。
配慮しておいて損はないでしょう。
そこらで見かける青銅の装飾台ですが、ランプとは趣が違うので、生徒たちもきっとやっている内に興味や好奇心を生やしてくるでしょうけれど。
「あれ? 私たちが一番乗りでしたか?」
そばかすの眩しい少女が自分に近づいて、訪ねてきます。
この子はリィティカクラスの女の子で、名前はマウリィ・クロケッツ。
後ろにはリィティカクラスの子も連れてきてます。
「いらっしゃいマウリィ君。そして皆さんも。ようこそ青空教室へ」
ちょっと無理しておどけて見せたらクスクスと笑ってくれます。
これ、ウチの子らにやると白い目で見るんですよね畜生。
「席は自由に。今なら選びたい放題です」
「だってさ! 皆、座ろ」
砕けた口調でリィティカクラスの子たちに伝えるマウリィ君。
素直なリィティカクラスの子たちは好きな席に座っていきます。
ただ、やっぱりというか塊ましたね。
おそらく、他に来るだろう生徒のために塊ったのだと思います。
悪いわけではないですが、ちょっとずつクラスでまとまっている様子が見えてきます。
これは生徒会活動の日も、クラス間での対抗意識に結びつきますかね。
「先生は休日でも名前に『君』をつけてお話なされるのですね」
「特に理由はないのですが、そうですね。敬語や尊重語を教えてくれた人が敬虔なヒュティパ神教者でしてね。その影響だろうと思います」
「へぇ、そうなんですか。なんか先生っぽくて良いですよね」
あぁ、天を仰ぎたくなる気分です。
そうですよねー、こういうもんなんですよ、教師と生徒の関係って。
尊敬されたり、尊重したり、相互に譲り合う関係というか、ただ一方的じゃないというか。
「マウリィ君、ちょっと自分のクラスの子になりません?」
「先生ったら冗談がお上手ですね」
割と、わずかながら、かなり、ちょっと本気でした。
「敬礼!!」
気合の入った声にマウリィ君と自分は、声の方へと向き直ります。
五名の青年たちは、思春期を迎え始めた柔らかい肉質にあきらかな鍛え跡を残した肉体をピッタリと合わせて、横に整列していました。
「ヘグマントクラス、フリド・マレッシュ以下四名、到着しました!」
名乗りを代表した短髪で頬に傷のある少年フリド君が叫ぶと、次は命令待ちの兵士のような顔で自分を眺めています。
この子たちはヘグマントクラスの子です。
なんというか、この2ヶ月できっちり調教完了済みのようで。
完全に軍人化しています。
「席は自由に。あと、そう堅くならないように。今回の授業は極めて個人的なものです。学園の授業とは関係がない、と言い切ってもいいぐらいです。そんな中、よく来ました五人とも」
「はっ! ありがとうございます」
きびきびしてて気持ちいいのですが、これを2ヶ月で仕込んだと思うとヘグマントに言いようのない恐怖を覚えてしまいそうです。
「先生の言うとおりリラックスしたらいいじゃない、ね、先生」
どうやらマウリィ君は生徒にはフランクのようですね。
でも、ちゃんと自分に対して同意を求めるあたり、場慣れしているというか、世渡りの上手さを思わせます。末恐ろしい。
「この休暇の中、我々に時間を割いて叡智と心血を注いでいただけるヨシュアン先生に馴れ馴れしいぞ、マウリィ同級生」
「あら、おかたーい。でも先生ならこれくらい許してくれますもの」
だからって自分の腕に絡まないでくださいね。
ちゃんと腕に手のひらを当てただけの軽いスキンシップに抑えているところが怒りづらいというか、振りほどけないというか。
「ヨシュアン先生! よろしいのですかこのような痴れた行為を容認されて!」
悲鳴のように真っ赤な顔で、まぁ。
このあたりはまだまだ子供ですね。
「痴れた行為って、これくらい当たり前じゃない」
「男の腕に絡まるなど、痴女の行いだ! この痴女め!」
「ふん。まだまだ子供よねー」
んー? この二人、意外と馬が合わない?
リィティカクラスとヘグマントクラスの仲が悪いなんて話、初めて聞きましたが。
なんとなくですが、リィティカクラスの子がヘグマントクラスの子を見る目が、堅物とか物質を見る目ですし、ヘグマントクラスの子のほうも「ぐぬぬ」と言った力のこもった視線が垣間見えます。
そういえば6クラス合同って今回、初めてじゃないですか。
しまった。サポート役の教師を誰か連れてくるんだった。
もちろんリィティカ先生が一押しです。技術的にも心的にも。主に心を重視です。
「まぁ、今回は緩くいきますので、そうカリカリしない。さっきも言いましたが完全に学園授業とは別枠ですので、そんなに枠にはまらなくてもいいんですよ。とはいえ、せっかくの休日に君たちが学びたいという姿勢で来たのですから、自分もちゃんと先生をやります。だからフリド君も他の子たちも安心して肩の力を抜きなさい」
「はっ!」
だから堅いです。ガッチガチです。
「はぁい」
このマウリィ君の緩い返事に、やっぱりフリド君がキッと睨みつけたりしましたが、まぁ大丈夫でしょう。
だって術式が飛んでこないですもの。殴り合いに発展しないんですもの。
フリド君たちも別の席に着き始ます。
まるで牽制し合うように、お互い両極の位置へ。
わー、前途多難っぽい。
10名もそろえば、なんとなく学校っぽくなりますね。
学園授業は共同授業でも最大10名まででしたし、このまま増えたらちゃんとした学校授業っぽくなって義務教育感でますね。
出たところで苦労は6倍以上になりそうな予感。
「あらあら。せっかくの一番乗りを逃してしまったみたいですのね」
ぞわっ、と鳥肌が立ちました。
振り返るとゆるふわウェーブの長い髪を下ろした眠そうな少女がニコリとしたまま、自分を見上げていました。
クリスティーナ君にも通じるフリルの塊です。
正直、この子が全生徒中、一番、苦手です。
「ねぇ、エセルドレーダ。一番乗りを逃してしまったらどうしたらいいのかしら」
エセルドレーダと呼ばれた人形は答えません。
というか人形はしゃべりません。陶器の瞳は何も語らない。
語らないけれど、まるでそこに誰かがいるように少女は何度も頷きます。
「まぁ、名案。ここにいる人たちを皆殺しちゃえば一番よね。賢い、賢い」
「それはダメな賢さです。リドルっぽい答えを期待したわけではありません。あと一番にこだわらなくても良いのですよ、ティルレッタ君」
ティルレッタ・シロディ・シェーヴァーン。
完全に貴族の子です。貴族センサーも反応していますから間違いないのですが、この子が苦手なのは貴族でもなんでもなく、むしろ――
「そんなことないものッッ! だってパパとママが一番になれっていうものッッ!!」
――この変貌具合が。純粋に怖いんですよ。主に性格面が怖い。まんじゅうこわい。
「パパとママのいうことはまちがいないもんッッ! だからまちがってないもんッッ!」
キンキンした金属音みたいな声が耳を突き抜けていきます。
「向学心、向上意欲は結構ですが、それを理由に人を傷つけていい理由になりません」
「まぁ、先生は良いことを仰りますわぁ」
次の瞬間、コロリと顔を変えてしまう。
あー、シャルティア先生はこの子をどう御してるのでしょうね。疲れます。
ちなみにこのティルレッタ君とその他はシャルティア先生のクラスの子です。
「やっぱり人を傷つけていいのは殺すっていう意識がいるのよ、ねぇ、エセルドレーダ」
「先生、そこまで言ってません。内なるエセルドレーダ君に語りかけるのは結構ですが、まずは人を傷つけない殺さない、OK?」
「OK? ですって」
何が愉快なのか、コロコロ笑うんですよタスケテー。
つくづくこの子がヨシュアンクラスに来なくて良かった。
まぁ、ただ、どうにもこの子、自分の言うことだけはちゃんと聞いてくれるので今まで面倒事になってくれたことだけはありません。
やっぱりこの子もこの子でウチの子とは大違いです。根本から。
ついでに言うと、ティルレッタ君を見る他の子の目はキチガイを見る目です。
隠して、隠してあげて、その不躾な瞳。何が刺激になるかわかんないスイッチが搭載されてるんですから。
「不愉快な金切り声が聞こえると思ったら、やっぱりお前か、キ印め」
颯爽とメガネの青年が現れます。
いやぁ、殴りたい面ですね。美形ですから。
「ヨシュアン先生も大変ですね。何せ、このような乱心した女の面倒も見なければいけないのだから、私なら絶対にゴメンですね」
とりあえずゲンコツを落としておきましょう。
蹲るメガネ青年にため息と共に言っておきます。
「キースレイト・ファーデン・アークハイツ君。女性になんて口の効き方をしているのですか。君の先生は教養の授業でそのようなことを言っていましたか?」
「う……、ぐ、ヨシュアン教師! 貴方はこのアークハイツの跡取りをぶったな! これがどういう意味か――」
「もう一発、いきましょうか?」
ニコリと微笑んで、邪悪なオーラとか出してあげました。
わりと本気でビビったのでしょう、後ずさりながら声を詰まらせるキースレイト君。
この子も貴族レーダーが反応してますので、貴族です。名前でモロわかりですが。
慇懃無礼で鼻が高い、この生徒はあろうことかピットラット先生の教え子です。
後ろで控えている子たちも心なしか背筋が伸びてますしね。
ちゃんと教育が行き届いています。
「こ、このような横暴に屈しはしないからなっ!」
「何、逃げようとしているのです。先生の話は終わっていません」
襟首を引っ捕まえて、前にたたせます。誰が捨て台詞と共に逃がすか。
「このような横暴と言いましたが、先生は何か間違ったことを言いましたか?」
「言う前に殴ったろう!」
「では、殴らずに君の態度は変わりましたか? 言葉だけで偏見もなく、蔑みもなく、ティルレッタ君に接することができましたか?」
「そ、それは……、どうして私がこのような女に」
「相手はレディです。なんか鳥肌が立ってしまうような言動こそ多めですがレディです。内心はともかく外面も取り繕えないほど君の教養は低い、と受け取るべきですか。そのような精神で術式を今よりうまく扱えるとでも?」
「………」
だんまりしてしまいました。
「何も君が憎くて困らせたわけではありません。君が間違った時、それを叩いてでも直すのが自分たち教師の仕事です。ピットラット先生は怒りはしませんが、先生は容赦ないのでご了承を。それとも君にだけ甘い美辞麗句だらけの中身スッカラカンな授業がお好みですか?」
「……申し訳ありませんでした」
渋々ですが頭を下げます。まだ叩いて治せる余地があるだけマシですね。
「ティルレッタ君にも」
端正な顔を歪めて、無理矢理、頭を下げるキースレイト君。
その頭を撫でてやりました。
「なっ!? 何を――」
「よくできたのでご褒美です」
いや、なんで顔真っ赤にしてワナワナと口を開いてるんですか。
ていうか涙目ですよ、この子。
「こ、これでいいのだろう! 私の席はどこです!」
「そのへんです」
「適当だな!?」
サカサカと自分の席に収まってゆくピットラットクラスの子たち。
ため息一つ、軽く収まって良かったですよ。
「ヨシュアン先生は、優しいのですのね」
まだ怪談のような少女が隣に居座っていました悪霊退散。
他のシャルティアクラスの子は座ってしまってるのに、どうしてこの子だけ残ってるのです?
「エセルドレーダも喜んでくれてますわぁ。先生がティルレッタをかばってくれたって」
「そうですか。自分にはその喜びが今一つ、伝わりませんがありがとうと言っておきましょう」
「まぁ、どうしてですの? こんなにも喜んでいるのに」
「そんなことよりティルレッタ君も、もう少し気をつけましょうね。君のお友達が他から見て、どう思われているかくらいわかってるでしょうに」
「とっても素敵な子だってさ」
会話してくださいませんか?
疲れるのでとっとと追い払ってあげました。
なんだろう、休日に仕事してるだけでも自殺行為に等しいのに、さらに油をぶっかけて焼身にもちこむようなコンボの数々は。
しかし、あれほど自由参加だと言ったのに、まさかの全クラス出席ですか?
今すぐにでもサポート要員を連れてきたい。
「あ、皆、もう集まってるよ!」
遠くから慌ててかけてくる女の子みたいな少年。
小柄で線が細すぎるせいで、ほんとうに女の子っぽいですが男の子だそうで。
最初見たとき、書類の間違いかと思いました。
「アレフレットクラスのティッド・メリトラです! あと他の皆も全員来てます」
この子はセロ君と同い年の12歳。
でも、年相応の幼さがあるくせにセロ君よりしっかりしているようで。
ついつい頭を撫でてしまうのは何故でしょう。
そして、この子もこの子で猫の目のように細めて喜んでくれるという素直さ。
年少組にハズレくじがないのが救いです。
「あの、もう始まっていましたか? 遅れたんじゃないかって」
「大丈夫ですよ。まだ開始まで時間はあります。確かに君たちが最後でしたが」
最後と言われて、しょんぼりする姿は良いと思います。
しかし、自分たち以外の4クラスを眺めて首をかしげました。
「……あれ? 5クラスしかいません」
どれだけ数えても5クラスしかいないことに疑問なのでしょう。
「あぁ、それはですね」
自分は黒板をかけた大木にツカツカと近寄ります。
「マウリィ君は自分たちを一番乗りと言っていましたが間違いです」
「へ?」
席のマウリィ君も驚いています。
他の子たちも何事かとキョロキョロして、何が起こるのか待っている節がありますね。
まぁ、簡単な話です。
どうして自分がヨシュアンクラスを出席確定扱いしていたか、ということですよ。
ティッド君に手でちょっと下がるように指示、そしてベルガ・ウル・ウォルルムを発動して大木を回し蹴りしてやりました。
ドン、ともバン、とも言い難い破砕音。
それでも折れない大木は頑張り屋さんですね。
しかし、折れなくても威力はどれほどだったのかわかるようで、
「おぉ!」
フリド君から感嘆の声があがります。
「うわ、わわ!?」
そして、椅子に座る誰でもない、別の声が頭上から漏れてきます。
「あら?」
目ざといティルレッタ君は大木からの声に目線をあげます。
その瞬間、ボトボトとでっかいカブトムシたちが落ちてきました。
その中で一番小さな子だけを腕にキャッチして、その他は地面に叩き落とされましたとさ。
「ヨシュアンクラスはもうすでに来ています」
肩をすくめながら全クラスの子に伝えてあげます。
「あぅ……」
「おはようセロ君。木の上は快適でしたか?」
「はぅ……、虫さんがいっぱいなのです」
腕の中で赤面するセロ君は愛らしいですね。
ゆっくり地面におろしてあげて、ようやく目の前のティッド君に気づきます。
「ティッドくん?」
「あ……、お、おはよ、う。セロちゃん」
「うん。おはよぅですティッドくん」
あれ? なんでティッド君は顔が真っ赤なのかな?
なんでいじらしい感じで、指先をもじもじしてるのかな?
もしかして、もしかすると……、アレですか? 恋、とかそういう系のアレですか?
「今日は、一緒だから、が、がんばろ!」
「うん」
あまじょっぱい! じゃなくて甘酸っぱい!
なんだこの保護しなければならない不思議な小動物空間は。
動物園の小動物コーナーのうさぎたちを思い出します。ほわわんとしてます。妙な薄ピンクの泡みたいなのが浮いてます。なんだこれ。
「で、君たちはどういうつもりですか」
「なんか反応ちがくない!?」
真っ先にマッフル君が反応しました。
君たちは大木から落ちても、ちゃんと着地していたのを視界の端で確認していましたからね。
着々と運動神経が向上しているようで何よりです。
「もちろん、ヨシュアンクラスとしては他の誰よりも先んじて現れるのが当然ですもの」
クリスティーナ君は胸を張って言っているようですが、ならなんで大木の上なんですかね。
もの問いたげな自分の視線に一歩踏み出して答えたのはエリエス君でした。
「だから待ってました」
「木の上で?」
「意外性をアピールするとリリーナの案でした」
ものっそいアイドルポーズでキラッ☆とか言ってる不可思議生物がムカつきます。
「普通に現れたら面白くないであります」
「君たちは本当にセオリーとか、王道に真っ向から喧嘩売ってますよね」
「先生がリリーナたちを探しながら右往左往する様が見たかったでありますから」
「バレバレです、あと舐めるな」
気配がずっと上からしてましたしね。
あーあー、このヨシュアンクラスを見る他の子たちの目。
言葉にすると『そんなことのために木の上で待機してたの』です。
この瞬間だけは全員の意識が一つにまとまっていると思います。
戯れで悪戯エルフをアイアンクローしてやってると、
「先生、席どこー」
などと、のたまってきましたので、
「この状況で残ってる席以外があるのなら座ってみなさい」
言ってあげたら、全員、木を見上げました。
やれるもんならやってみろ。
「アホなこと考えてないで座んなさい。早くしないとウル・フラァートですよ」
指先をバチバチ言わせていると「はぁ~い」なんて気の抜けた声が返ってきました。
完全に慣れてきてますね、オシオキに。
他の子なんか、術式使っただけでびっくりしているというのに。
慣れとは恐ろしいものです。
「それでは全員、揃ったようなのでこれより術式具の製作講座に移りましょう」
はぁ、本当に全校生徒そろってしまいましたね。
思った以上の反響に驚くべきか嘆くべきか。
手早く術式ランプの材料を配りながら、まさかの事態に驚きを禁じえません。
そんなに興味があったのかね? 術式ランプ。
まぁ休日が無駄にならなかっただけでも良しとしますか。
そう考えなければ気合も入りそうにありません。




