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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第二章
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間が悪いのは生まれの業です

 マッフル君とクリスティーナ君を保健室に放りこんで、医務室勤務のおねいさん(36)に処置をお願いしました。


 きっと帰ってくる頃には授業も終わってるでしょう。

 目が覚めたら自分を尋ねるようにと、おねいさん(36)に言付けておいたのでゆくゆく現れるでしょう。


 中断してしまった授業を開始し、終業の鐘の音を聞くまで二人は現れず。

 妙にしこりが残ったような気持ちで職員会議が始まりました。


 別に毎日やっているわけでもない不定期な会議ですが、今日はやらざるをえなかったわけです。

 会議の内容はリィティカ先生の授業で起きた錬成失敗事件です。


「言われてみれば、確かに甘かったな。しかし、こうまで派手な話になるのはヨシュアン、お前にかけられた呪いのようなものか?」

「コレを祝福とのたまう神職者がいるのなら、喜んで神の大敵になってあげますよ」


 リィティカ先生の管理責任を問われる内容なのですが、事前に自分が『今案件における教師全員の意識低下が見られる』との内容を力説しておきました。


 個々、思い当たる節でもあったのか何人か思案顔をしていました。


「小うるさい教会を相手にするのは結構ですが」


 学園長の発言に、皆、顔をあげます。

 何気に発言がブラックなのは、もう慣れましたよ。慣れたくなんかなかったですが。


「目先の目的を意識しすぎて、足元をおろそかにしてはいけませんね」

「はぃ……」


 リィティカ先生が頭を下げます。

 さすがに矛先は完全にそらしきれなかったですか。

 あぁ、でも、ちょっと涙目なリィティカ先生の御姿はコレはコレで……、哀しみを与えてなお喜んでしまう自分をお許し下さい。


「生徒たちに無用な混乱や先行きのない不安を与えるわけには行きません。改めて予算回復案に類する全項目に箝口令を敷きましょう」


 反対意見もないので、すんなり教師一同、頷きました。


「他言無用でお願いします。それとヘグマント先生からもう一つ、お話したいことがあるそうで」


 ほら来た。

 企画・原案、学園長。実行から後始末まで自分という、壮大でちっぽけな出来レースのお話ですよ。


「むぅん!」


 立ち上がるたびに変な声出すのやめれ、ヘグマント。


「リィティカ先生の事件に目が向きがちだが、午前授業は午前授業で問題があったのだ。なんと原生生物の襲撃があってな。生徒にも学園にも被害もなく、最終的に逃げられてしまったものの撃退には成功した」

「撃退? 原生生物相手に逃げられたって? よくそんなんで体育教師なんかやってられるよ」


 最近、誰にでもイヤミな口を効くいじられ系が何をおっしゃいますか。


「む。手厳しいな。だが、ほぼ壊滅させたはずなのだが、どうやって逃げたものか俺にもわからん。まるで送還された召喚生物みたいな反応だったが……」


 やばい。ここらで口出ししておきましょう。

 問題なのはソコではなく、襲撃されたという事実を意識してもらいたいのですから。


「ポルルン・ポッカという生物の仕業でしょうね。多種の生物や魔獣集める指揮官みたいな生物、魔獣は存在しますしね。アレの術式は自分でもよくわかりませんでしたが、距離を稼ぐものだと感じました。まぁ、ポルルン・ポッカ自体、生態が謎ですし、いたずら小僧のような真似もしてくる生き物ですから。あまり深く考えないほうがいいですよ」


 謎の現象は謎の生き物のせいにするのが一番です。

 よくわからないからこそ、よくわからない理屈があって、自分たちが知らないだけで何かの筋が通っていると人は勘違いしがちですし。


「それより問題は――」

「リーングラードも全てが安全な土地ではない、ということか。当たり前のことだが意識してなかったと言われると否とは言えん。やはり、メルサラ警備隊長の申し出を受けたほうが良かったのではないか」

「アレに任せるとリーングラードの森林の何%が木炭になるかわかったものじゃないですよ。木炭を売りつける、という手もなくもないですが」

「生産という面においてはそれも効率が良さそうだ。試しにやるには少々問題がありそうだがな」


 シャルティア先生が冷静に計算しているようですが、焼き畑なんかやったら生態系変わっちゃいますからね。

 下手したら、何がいるかわからない奥地から化け物とか顔を出しそうなほど、リーングラードの森は深い。


 また、襲撃があった(と思われている)矢先にそんなことをすれば、(確実に)無関係な森の生物たちが被害を受けます。


 長期的な視点で田畑を広げ作物を育てる手は、ちょっと悪手です。

 徴税の対象になりかねないからです。

 この一年だけなら免税対象であっても、これから先、学園として成長を続けるのならいつまでも貴族たちの出資だけでまかなうわけにもいかない。

 最終的には生徒たちからもお金を徴収するのです。

 これが義務教育のもう一つの面。

 教育を施す義務を与える代わりに税を取る、という面です。


 それなのにさらに税を取る言い訳を与えてしまえば、学園は立ち行かなくなるでしょうね。


 学園から少しでもお金を回収しようと税を盾にバカ王に迫りかねない。


 出費は少なく、ですよ。


「とはいえ、わざわざ言い訳を与えてやる必要もない。森があるからこそ有利なこともある」

「錬成に必要な植生は森あってのものですからぁ」


 慈愛の森リィティカ先生による援護もあってメルサラ頼りの力業は消極意見になりそうです。


「やはり、ここは定期的な危険動物や魔獣……、は、おいおい考えるとして、間引きが必要ですね」


 いけしゃあしゃあとはこのことです。


「しかし、警備についている冒険者たちも学園の見回りや人数の関係で難しかろう。それに聞くところによるとメルサラ警備隊長が冒険者たちの不甲斐なさに怒りを見せて、鍛え直すと息巻いているそうだ」


 ヘグマント、冒険者たちと仲がいいですねー。

 普通、騎士と冒険者は在り方からお互い、受け入れがたいというのに。


 あとアレフレットはずっと、眉根を歪めていますね。

 どうせ非生産的な話が嫌いとかいう類でイラついているのでしょうけど。


「現状対策については参礼日後、ヨシュアン先生の献策に期待しましょう。ですが、今回の件はもっと別です。原生生物襲撃事件、今回はヘグマント先生がいましたが、もしも冒険者が間に合わない状況でヘグマント先生もいないとなれば、生徒たちや力のない生産者に危険が及ぶかもしれない。その可能性を忘れてはならないということです。たとえ安全なねぐらとはいえ、何が起こるかわからないのですから各人、気を引き締めて生徒たちの安全を確保する案を考えてください」

「つまり、避難誘導、場合によっての生徒たちの行動をマニュアル化するってことと認識していいですか?」

「そうですね。特に一度は避難訓練くらいしたほうが危機意識も持ってもらいやすいでしょう」


 事件に対して現状回復案と避難訓練の二重案ね。

 対外的な意味を含んでそうな気配もありますが、あまり考えないでおきましょう。


 内側は内側でゴタゴタしてるのです。

 主に生徒が原因ですが。


「すぐに案が浮かぶというわけでもありませんね。少しだけ時間を置きましょう。明日も不定期会議を開きます。その時に各員の良案を期待しましょう」


 微妙に教師に対してハードルをあげる老婆がいたのでした。


 これにて会議は解散。

 特に目立った話し合いではなかったが、着々と自分の案のための手駒が揃っていく実感があります。

 これだけあれば、当然、起こるだろう反対意見を封殺できる、はず。


「ところでヨシュアン」


 そそー、とシャルティア先生が這い寄ってきました。

 地味に気配を消していましたが、まぁ、バレバレです。


「驚かないな」

「驚かせるには透明系殺人メイドくらいの技術がいりますよ」

「そんなメイドサーヴァントがいてたまるか」


 今、貴方の後ろを通っていますよシャルティア先生。

 テーレさんは相変わらずの空気具合である。

 自分ですら、意識しなければ認識できないレベルなんですもの。


「では驚かせてやろう。腰を抜かせ」

「どうぞ、ご自由に。面白そうな話を期待してますよ」

「襲撃事件の犯人、貴様だろ」


 わーい、なんで知ってるんだよ、あんたは。


「いやいや、いきなりなんなんですか、いきなり。それはもう言葉に驚きというよりも、関係者を全員集めた探偵より先に犯人を言い当ててしまった無能警官みたいなセオリーブレイカーな状況に驚きですよ。びっくりです」


 その場合、高確率で次の犠牲者はシャルティア先生ですがね。


「いや、何。逆説的、というヤツだ。私はお前の案を知っているからな。今回の件、あまりにヨシュアンに有利すぎる。作為を感じるのも仕方あるまいさ。以前、メルサラ・ヴァリルフーガに召喚術式を使ったと聞いたのもあって、それくらいお前なら造作もないと踏んだだけだ」

「予想だけで犯人を当てにこないでください。まったく、リリーナ君といい、シャルティア先生といい。せめて証拠を持ってきてほしいものです」

「その辺の森に潜伏しているポルルン・ポッカを捕まえ、貴様の隷属術式を見れば一発だろう」


 今夜中にポルルン・ポッカを捕まえることにします。

 絶対に逃がさない。


「とはいえ、ヨシュアンらしくもない策だ。生徒に被害が出るかもしれない不確定さは特にな。危険を一個ずつ潰していくのがお前だからな。とまれ、そこから第三者の思惑も見て取れる。お前が素直に言うことを聞きそうで計画の内容を知っているのは学園長か。つまり、学園長の差金で動いたと見てみるべきか」


 パーフェクトですよ、この野郎。

 さすがは邪神シャルティア。隙を見せたら、すぐコレだ。


「何、私にもメリットがあるからな。吹聴するつもりはないが、うっかり言ってしまうかもしれない。最近、私の個性もクールだけでは物足りないと思っていたところだ」

「十分、事足りてますよ」


 あんたが一番、色んな意味で強烈なんですよ。


「ドジっ娘キャラなんか、意外性も見せつけれて良いと思わんか? クールでドジ」

「ドジを起こす度に周りに災厄を撒き散らす個性なんか排除してしまうべきです」


 貴方の二つ名は『天災児』だったのを忘れましたか?


「というわけだ。誠意を見せつけてもらおうか」

「はいはい。晩御飯、一緒にどうですか。お手製で申し訳ありませんが」

「……ほー、意外な申し出だったな。てっきり参礼日の術式具で私の生徒に便宜でも計るものかと思っていたが」

「生徒は取引になりませんよ」

「悪くない。もちろん、わかっているな」

「36年ものしかありませんが、ご用意しましょう」


 なるほど、それが狙いか。

 生徒を取引に使っても、なんだかんだ言ってお酒に結びつける算段でしたか。


 しかし、なんで自分はお酒を飲まないのにお酒を持っているのでしょうね。

 いや、こういうこともあるだろうな、と思って用意してましたが。


「ふむ。楽しみにしておこう。ツマミはよく吟味しろよ?」


 うーん、なんか身の危険を感じますし、リィティカ先生やヘグマントあたりも巻きこみましょう。

 夏前ですし、皆でバーベキューなんかもいいですね。


 となると、【宿泊施設】の簡易肉屋さんにでも寄っていきましょうか。

 調理班へ直感暴力的な交渉で食材を手に入れてもいいし。


 晩御飯のメニューを考えていると、ガラガラと勢いよく開け放たれるドア。


「その話!」

「聞かせてもらいましたわ!」


 たぶん、競争しながら職員室へと向かってきたのでしょう。

 肩で息をしながら、現れたウチの問題児二人が集中線と共に現れました。


 面倒くさい話になりそうです。


 とりあえず……、オシオキですね。

 記憶を失うくらいの、ね。


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