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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第二章
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失敗は成功の母

 引き続いてリリーナ君です。

 ちょっと思ったのですが、エリエス君がお金が欲しい理由に嘘をついたように、リリーナ君も実は嘘をついていたのではないかと密かに睨んでいます。


 リリーナ君がお金を欲しいと言った理由、キャラバンで豪遊、ね。

 そういえば誰と、とは言わなかったですね。


 まぁ、それだけの話です。


 飄々としてるがクラスメイト想いなのでしょう。


 そんな想いに気づいているかいないのか。

 今日もウチのクラスの子たちは絶好調です。


 具体的には【錬成実験室】から煙があがっていました。

 波乱万丈の午後授業の始まりでした。


「……えー、先生はちょっと用事ができたので、黒板に書いた問題を解いておいてくださいね。帰ってきたら答え合わせしましょう」


 シャルティアクラスの術式の授業中でした。

 座学の途中だったのが幸いでしょうね。


「ヨシュアン先生、大変ですね」


 と、人懐っこい顔立ちした短髪男子が心に染みるようなことを言ってくれます。

 理解のある生徒がいてくれて良かった。


 そして、理解のないウチの生徒は一体、どうしてくれようか。


 クライヴ戦でも使ったウル・ウォルルムの強化版、ベルガ・ウル・ウォルルムによる肉体強化を使い、二階、窓から飛び降りる。

 背中からシャルティアクラスの子たちから悲鳴が聞こえるが無視。

 どうせすぐに感嘆の声に変わる。


 難なく着地して、地面を叩くように走ります。


 ウル・ウォルルムより強化度が下がっていても、持続時間はベルガ・ウル・ウォルルムのほうが優れている。

 その効果時間、実に5分。

 

 5分もいらない。

 すぐさま【錬成実験室】の扉を開き、もわっとむかえる煙の向こうへと。

 そして、駆け抜けざまに窓という窓を開け放ってから、地下室へ。


「大丈夫ですか!」


 煙にむせるリィティカ先生へと駆け寄る。

 ざらっと周囲を眺めると、床に這いながらもこちらを眺める漆の瞳とぶつかります。


「エリエス君。状況説明をお願いします」

「はい。クリスティーナがやらかしました」


 端的かつ簡潔な説明、ありがとうございました。

 涙が出そう。


「カモン、リリーナ君!」


 スタッと落ちてくるリリーナ君。

 もう驚きませんよ。これくらいのこと、リリーナ君なら余裕でしょう不思議ですから。


「セロりんは避難させたであります」

「引き続き、他の生徒の避難を。リィティカ先生、無事ですか?」

「は、はひぃ~……」

「くわしいことは後で。外に出ていてください。自分は煙の元を処分します。リューム・ウーラテレス」


 リューム・ウーラテレス。

 緑の源素を使った、風の結界です。

 防御結界のように術式に作用するものではなく、使用者の周囲に風の膜を張って、煙や毒霧なんかを寄せつけないようにするものです。


 安全も確保できましたし、煙の発生源を探しましょう。

 この場合、一番、煙の濃い部分へと向かえば間違いはないでしょう。


 すぐに尋常ならざる色の煙を吐き出すビーカーが見つかりました。

 足元で転がっている二人は消去法的にも状況的にも、クリスティーナ君とマッフル君でしょう。


「えー、何をすればこんなものを作れるのでしょうか」


 ビーカー周囲に転がっている材料を見て、おそらく植物の生育を促すもの。

 成長促進剤でしょうか?

 基本中の基本ではありますが、煙を吐き出すような要素は一つもないのです。


 だって、火をつかわないですし。

 すりつぶして混ぜ合わせるだけですし。


 とはいえ、どうしたものか。

 このまま捨てても化学反応は収まらないでしょう。

 手っ取り早く破壊する、という手は使えません。

 ビーカーに入っている、とわかるように液体です。

 液体は壊せない。


「中和ですかね」


 まぁ、そんなことしなくても煙自体はとめられますが。

 適当な羊皮紙を取って、ビーカーの口を縛りました。

 硝子の中が一瞬にして言いようのない色へと変化していく。

 焦げてるように見えるのに、熱はない。


 本当に何を作ったのでしょうか。謎です。


 煙の発生源がなくなったことで室内の煙は徐々に薄まっていきます。

 しかし、このまま煙が落ち着くのに任せても話は進みません。


「リューム・プリム」


 本来ならば風圧で人を飛ばす術式ですが、アレンジしました。

 一階へと煙を逃がす空気の流れを作って、煙を追い出します。


 二分、三分もすれば、ほらこのとおり。

 煙なんかなかったかのように室内は元に戻りました。


「もっとも、全部が元通りというわけではなさそうですが」


 とりあえず、倒れている二人を引きずって外に出ます。

 復調されたリィティカ先生、セロ君、リリーナ君、エリエス君たちが避難しています。


 あぁ、良かった。

 リィティカ先生の麗しき肺に汚れた煙が入って染みでも作っていたら、自分は何を恨めばいいかわかりません。


「まぁ、おおよその理由は理解しました。具体的にこの二人は何をしたんです?」

「あのぉ、ちょっと口をすべらしちゃってぇ……」


 申し訳なさそうな顔のリィティカ先生も良いなぁ。

 流麗な眉が八の字を描く神秘に心奪われてしまいました。


「口を滑らせたってまさか」

「はい。提出物の売買のことですぅ」


 あっちゃ~。

 そもそも節制の協力のせいか、周囲に知られているという考えを持ってしまっていたのが原因ですね。

 実際、学園が金欠であるということを生徒たちは知らない。

 節制の張り紙にしたって適当な理由しか書いてなかったからだ。


 だから、リィティカ先生もガードが下がっていたのでしょう。


 金策の口止めを徹底してなかった、というより、誰一人として口止めにまで意識を向けていなかったことも問題でした。


「そしたらマッフルさんがぁ、そのぉ……ちょっとでも多く作ろうとしちゃってぇ。それくらいなら大丈夫だと思ってしまっていたらぁ、そのぉ、クリスティーナさんと衝突しちゃってぇ~」


 目に見えてわかるようです。

 手先が器用なマッフル君。不器用でいつも以上に神経質なクリスティーナ君。

 分量を変えるだけならマッフル君でもできるでしょう。

 ところが、神経質になっていたクリスティーナ君が「分量を変えるなんてとんでもない」的なことを言ったのでしょう。


 それで喧嘩に発展して、偶然、薬剤に別の何かが混入した、と。


「いえ、リィティカ先生ばかりの責任ではありません。これは学園教師全体の意識の問題でしたね。たぶん、誰かしらやらかしていたと思います。もしもリィティカ先生に反省すべき点があったのなら、この二人を組ませたことです」

「はい……、ごめんなさいぃ」


 あぁ、申し訳なさそうにするリィティカ先生を抱きしめたい。

 優しい言葉で慰めて、癒して差し上げたい!


「ひとまず、この二人は医務室に連れて行きます。一番、近くで煙を吸ってしまったようで気絶してます。リィティカ先生はあの煙を出す液体の始末を。そのあと、通常授業に戻ってください。今日の授業は成長促進剤でしたよね? 今日の分の授業内容は必ず二人に覚えさせますから」


 ここで頼れる男を演出してみようとしたら、逆に恐縮されてしまいました。

 うまくいきませんね……まったく。


 しかし、ただの錬成でこんな騒ぎになるとか。


 リリーナ君。君はクラスに家族とやらを当てはめたようですが。

 自分、コレらの父親役ですか?

 面倒みないとダメですか?


 ものすごく不安と不満が募ります。


 リリーナ君を見たら、ニッコリ微笑まれました。

 わかってて笑いやがった。殴りたい。


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