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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第一章
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リーングラード学園は大きいです。

 この広いリーングラード学園を歩き回って、ようやく大体の地理は理解できた。


 各教室はそれぞれの階に14教室……、途方もない数だ。

 自分が通っていた学校は使っていない部屋を含めても8室もなかった。


「これは……、アレだろうなぁ。バカ王がどれだけ人を詰めればいいかわからなかったから適当に『数が多いならそれでいいじゃない✩』みたいなノリで要求したんだろうなー」


 想像して、拳がプルプル震えてくる。

 落ち着け自分。こんなところで怒っても、殴るべきバカ王はいない。

 この怒りを忘れないように復讐帳に書いておこう。

 そうすればいつでも好きな時に殴れるじゃないか、そうだいい案だ書き連ねていこう四年分くらい。


「しかし、立派なのは中身もか」


 教室の数だけじゃない。もちろん内装の話でもない。

 ちなみに内装はちゃんと設えていて、無駄に瀟洒にまとめられています。

 自宅と比べて、どちらに軍配があがるのかなんて考える必要もない。


 ブルジョワジーは滅ぶべきです。


 ルサンチマン全開でまとめた学園施設はこちら。

 校舎の中には各教室と『教養実習室』、『統括職員室』の中に『学園長室』。

 中央の校舎を基点に、西に『室内運動場』、東に『大図書館』。北側、校門から見て裏口に『大食堂』と『野外儀式場』、少し離れた北東に『錬成実験室』がポツンと建っていた。


 あとはその周囲をグルリと『森林区画』が占めている。


 他に特徴的はものは……、校門と校舎をつなぐ花壇の道と、『校舎』と『大食堂』の間にあった『中庭』くらいだろう。


 それともう一つ。


 今、目指して歩いている場所。

 『室内運動場』から見て西側、校舎の西北西に建つこじんまりとした建物たち。

 ここが『宿泊施設』。ミニリーングラード学園みたいな宿場からアパート然としていて不気味に素敵なもの、山中に待ち構えるログハウスみたいなものまで色々あります。


 ちょっとした村くらいの規模……、無駄に金かけてるなー、これ。


 学園に訪れるためには森一つ越えなくてはならない。わざわざ実家から通うとしたら近場の村出身者か熟練の腕で野宿を敢行するサバイバーくらいだろう。それ以外となるとここから竜車に揺られて十日くらいの位置にある街まで行かなければならない。さすがに通勤する人はいない。そうなると必然、学園内に宿泊施設が求められる。

 まぁ、将来的には百人単位で詰めこむことになるわけで。

 今の滅びそうな寒村みたいな光景には目を瞑ろう。


 自分もここに住む予定だと聞かされている。


 ミニ校舎のほうは……、たぶん、学園生徒が住むんだろうな。中から人の気配がまるわかりだ。未熟そうで何よりです。

 アパート然とした建物には洗濯物が干されている。種類からとして建築に携わった人が住んでいるのだろう。もんぺやら泥の落としきれていない衣服、赤く長い布……、ふんどしだコレ!? 誰だよ全力全開で下着干してるバカは!


 ふんどしが揺れるアパートは見なかったことにして、次はいよいよ自分の番だ。

 たしか一戸建てを用意してくれている、とのことで今から胸はドキドキわくわくです。


 教員用にと割り当てられた建物はログハウス。

 施設より少し森の中で、校舎から一番遠い場所になるがアパートやミニ校舎に比べれば一番、マシな部類だろう。


 外から眺めた分だと、木で四角に作っただけに見えなくない。

 縦に窓が二つあるところから二階建てだということがわかる。とはいえ一番上に窓は一階に比べて少ないので、どうやら二階は一室しかないようだ。

 だとしたら二階は寝室にするか。

 一階は広そうだし、色々できそうだな。


 ふ、ふ、ふ、これはいいんじゃね?


 一人暮らしするにはちょっと広すぎるきらいこそあれ、時間が経てばテストの束や書類やらで狭くなっていくだろう。しかし、そんなことはどうでもいい。

 自分、実験とか大好きです愛してます。

 術式を使った道具を作ったりして近所では評判の研究者でもあります。


「まぁ、ヨシュアンさん! 今日は爆発してないけれど良かったの?」なんて近所のおばさんに心配されるくらいですが、研究者です。

 決してバカ王専属のエンターテイナーではないんですよ。


 これだけ広ければ大きい実験とかちょっと無理でも、小さな実験道具なんかで足を取られる必要はない。


 ちなみに自分の家は大型実験物のためだけに部屋を増築したほどです。


 ともあれ、こんなところでまんじりとしてないで、さっさと中に入ってしまおう。幸い外側は特に何もない。罠もなければ刺客も襲いかかってこない平和バンザイ。無理矢理、目を付けるところがあるとしたらヨシュアン・グラムと書かれた立て札くらいだ。

 学園長に貰った鍵でログハウスを開ける。


 「さて、一年間住まわせてもらう部屋です。色々といじくりまわしま……」


 瞬間、頭に衝撃が走る。

 がぁ~ん、とも、ぐわぁ~んともいう、金属ちっくな音の後、床にゴロゴロと転がる金盥。

 痛みより、驚きで目がシパシパする。

 一体、何が起きたのだろうか?


 金盥の内側に紙が貼ってある。



『や~い! バカめ! ひっかかったな!  by ランスバール』



 自分は笑顔のまま、復讐帳に今日の日付と状況を書きこむ。


 わざわざ自分のログハウスを指定してあったのは、どうやらこのためだけのものらしい。

 金盥の恨み……、どうしてくれようか。



 瘴気のような吐息と、もてあました激情をどうにかすることが家に入って一番にすることでした。


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