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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第二章
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犯人は自分だ!

 参礼日まで、あと三日。

 ようやく、参礼日に術式具作りを教えるという旨を全生徒に伝え、人数分の素材を用意し終えた今日。


 今日しかないと思うんですよ。


 事件とか起こすのって。


 こんなことを言うと犯罪者ちっくに見えるでしょうが、学園長直々の依頼です。

 自分の案件をすんなり通すために犯罪を起こすとかブラックにも程があるでしょう。


 上司に世界の平和を守れ、と命令された企業戦士みたいな気持ちです。

 意味はわからないが間違っている方向は間違ってないと思います。


 そんなわけで現在時刻は早朝。森の中。

 自分は複数の召喚術式を用いて、色々凶悪そうな面構えの動物を呼び出しておきました。


 右から順番に紹介しましょう。


 カルニアホーン。

 一本角のすごいヤツです。馬っぽいが目付きが悪い。

 敵を見つけると一直線に走り出して木とかにぶつかって角が抜けなくなる系のマヌケです。こいつ、視力悪いんですよ。


 次がドドンガ・ボア。

 体中に刻まれた傷跡がセクシーな猪さんです。

 チャームポイントは轟々と燃える火のたてがみ。熱くないんでしょうか?


 最後に、ハニワみたいな顔が描かれた葉の仮面をかぶったちんちくりん。

 ポルルン・ポッカです。

 えー、生態は謎です。よく森とかで遭遇すると襲ってくるのですが、何故、襲ってくるのかも謎です。歓迎の舞でむかえることもあるそうで。

 森の生き物は皆、謎だと思います。


「というわけで、君たちを喚んだのは他でもありません。学園に向かってレッツ侵略です。ちょうど自分が授業しているときあたりに襲ってくれるとベストですよ」


 ぶるるん、ぶるるん、と鼻息を荒げるカルニアホーン。

 服に鼻汁がついたので、殴っておきました。


「なるべく人を傷つけず、襲撃してきたー感を演出してください。もしもやる気がないように見えたら容赦なく戦略級を撃ちますので、総員、全力で手を抜きつつ本気出すように」


 ドドンガ・ボアが「いやいや、無理無理無理無理。何言っちゃってんのこの主。ありえねー」という顔で足元の草とか食み始めました。

 こいつ、見た目と違って草食です。


「わかりましたか?」


 優しく声をかけたら、へたりこんで震えてきました。

 どうしたんですかね? 風邪ですか?


「ポルルン・ポッカもわかりましたか?」


 うきゃー、と声をあげました。

 無駄にこいつだけやる気マンマンです。

 そして、意味なく不思議な踊りを踊っています。

 精神力とか吸われるような気がしたので、とりあえずびりびりハリセンで痺れてもらいました。


「最後に、絶対捕まらないこと。殺されないこと。特にメルサラあたりに見つかると生命の保証はありません。真っ赤な女をみたら逃げなさいね。それでは各自、ミッションスタートです」


 合図と共にそれぞれが森の奥へと向かっていきました。


 さて、自分の書いた筋書きはこうです。


 森から危険な動物が現れて、学園を襲う。

 学園はこの事件を元に危機意識を高めてもらいます。

 自分の案件を通しやすくするには生徒はおろか、学園全体にも危機感を持ってもらわなければならない。


 一歩、外に出れば、そこは危険生物あふれる森である。


 そういう認識を持ってもらうということです。

 リーングラードは魔獣も少なく、原生生物も穏やかな種が多いため、こういった動物災害が作物限定でしか起こりにくい土地なのです。


 そこから一歩踏み出して、自分の生命が危ない、という危機意識を抱くには実際、襲われなきゃわからない、というわけです。


 もちろん、召喚主である自分は疑われてはいけません。

 メルサラみたく、捕まりかねませんしね。


 それでいて生徒たちにも本当に怪我してもらっては困ります。

 なんだか愛する少女の気を引くために友人と結託して、少女を襲わせているところに颯爽と現れて少女の好感度をあげようとする、せこい少年みたいな作戦です。


 正直、この手合いの作戦は成功率が半端なく低いのです。


 上記の例で表すなら、助けに入ろうとした少年より先にカッコいい騎士とか呼んでもないのに現れて、友人フルボッコにされて、あげく少女は騎士に惚れてしまうという友人涙目な結果しか訪れない。

 かくも現実は非情である。


 自分はこんな結果、ごめんです。


 なので、ハードルをかなり下げてますし、ほとんどの生徒が室内にいる授業中を狙わせました。

 危険なのは外で授業する体育。ヘグマントの授業です。

 しかし、ヘグマントは実力のある軍人だ。

 慌てずに対処してしまうだろう。


 ヘグマントあたりにぶつかった生物のどれかは、下手したら死ぬんじゃないでしょうか?

 まぁ、無益な殺生したいわけでもないので、危なくなったら逃げるように言い聞かせました。


 えぇ、完全に出来レースです。


 まぁ、授業中に危ない動物が授業を乱した、程度でいいんですよ。

 それ以上は望みません。


 あとは作戦決行を待つのみ。

 すぐに森を抜け出して、何食わぬ顔で授業の準備、会議なんかしちゃってます。


 そして、午前授業も終わりそうな頃、事件は起こりました。

 訂正、起こしました。


「うわぁ!? あ、暴れ馬と暴れ猪と暴れ……? 暴れ、何? 何、この生物!?」


 にわか慌ただしくなる運動場のほうへ窓を開けてみる。

 バカ三匹が群れ(?)をなしてヘグマントと授業中の生徒たちへの殺到しています。


 あいつら……、どうして群れたし。

 三手に別れて、別々で暴れたらいいものを。

 三匹固まってると不自然でしょうが。


「ぬぅん! 下がってろ生徒ども!」


 ヘグマントの裂帛の声が聞こえます。

 何がすげぇって大剣を片手で持って、仁王立ちですよあの人。

 両手持ちの大剣を片手で持つのに必要な筋肉ってどれくらいなんでしょうね。

 少なくとも腹筋はシックスパックな逆三角体型じゃないと無理でしょうね。


「なに? なに? 先生、どしたの?」


 好奇心旺盛なマッフル君が窓枠と胸の隙間から、にょきりと顔を出してきました。


「何かに襲われているようですね。ヘグマント先生の授業が」


 襲わせているのは自分ですが何か?


「リーングラードって安全な土地じゃなかったっけ?」


 他の生徒も、事態をよく見ようと窓から乗り出してきます。


「魔獣!? 魔獣ですの!? この神聖なる学び舎を襲おうなんて卑怯にも程がありますわ! 行って退治してきます」


 事態を把握した瞬間、無手で教室を飛び出そうとしたクリスティーナ君の襟首を捕まえます。

 うわー、もさもさしてる。このフリル、もっさもさです。

 なんの生地なんでしょうか。というか、季節感ねぇです。


「危ないから突進しないのクリスティーナ君。メルサラの時といい、今といい、学びませんね」

「どうして止めますの! 学園の危機を見過ごして何が貴族の子女ですか!」


 貴族の子女は興奮しているであろう危険な生物に向かって戦いを挑みませんからね。


「冷静に考えなさい。近くにヘグマント先生がいるでしょう。三匹くらいなら余裕でしょう」


 ヘグマントの実力は試合した手前もあって、よく知っています。

 筋力だけではなく剣術も相当なものですよ? 剣を持ったら地味に強かったですもの。


「カルニアホーン。ドドンガ・ボア。最後の小さいのはわかりませんが、葉っぱの仮面をつけた原住民を除いて、全て危険度Bの原生生物です。魔獣とは違い、気性こそ荒いものの執拗に攻撃してくる性質はないと記憶していますが」


 と、エリエス君が自分を見て、何かを求めています。


「最後の一匹はポルルン・ポッカという森に住む何かです。どういう生物なのかはどこにも書かれていないでしょうから、実際に会った者しか知らないでしょうね。冒険者の間では有名です。つかみどころがなさすぎて」

「先生、詳しいですね」


 何、その疑惑の眼差し。


「伊達に先生してませんからね。ははっ。ほら、先生、冒険者顔負けな経験積んでますよ。具体的には妹分が敵に回って殺し殺されしたり、3000人に囲まれたり、森の奥地で1000年くらい生きてそうなフサフサ感あふれる犬と遭遇したり、ね」

「先生の人生がおかしいのはわかります」


 ですよねー。イベント盛りだくさんでしたから。

 有名どころな感じのイベントは全てこなしてます。

 盗賊に襲われた少女を助けたら、少女が盗賊の頭で撃退してみたら三年くらい付け狙われたとか王道的に意味不明で泣きそうになりました。


 そんな彼女もすっかり丸くなって、王都で酒場を経営しています。


「決着つきそうでありますなー」


 リリーナ君が窓の外に張りついて、様子を見ながら呟きました。

 まだ片手でクリスティーナ君を抑えているっていうのに、どうしてリリーナ君は手間のかかりそうな格好してるのです?

 もう片方の手で無理矢理、教室に引きずりこんでやりましたよ、えぇ。


「あ、馬がふきとんだ。すげー」


 なんですと?

 見るとカルニアホーンがぐったり横たわっています。

 逃げろー! 今すぐ根性入れて立ちあがれ! 絶対に捕まるなよ! 捕まったりしたら隷属の術式に刻まれた名前とか見られて自分の人生がピンチです。


 ポルルン・ポッカ! 今すぐサポートに……、ダメだ踊ってやがる。

 意気揚々とヘグマントは大剣で猪の突進に備えています。

 無駄に張り合う気マンマンなのは、アレですか?

 生徒に良いところを見せたいためですか。筋肉的に。


 そして、突進に合わせてカチあげたー。

 あの猪、結構、重たいんですけれど。冗談みたいに飛びましたよ。

 正確には二階に居た自分たちと目が合うくらい。


 その目が語っています。


 寂しげな瞳で「ちょー無理。あれ人類かよっていうか体育教師っていう名の新生物だろ」というところまで読み取れました。

 うん。最悪、召喚解除してしまおう。

 捕まるよりマシです。

 捕まるならいいですけれど、今日の【大食堂】の新鮮なお肉になってしまったら、胸に来るものがあります。


 墜落してピクピクとしているドドンガ・ボアには追悼の意を捧げましょう。


 あっけなく倒されてしまった主戦力二匹。


 これはフォローが必要かな、と思っていたらポルルン・ポッカが妙な行動をしていました。

 これは……、術式?

 すぐさま『眼』で確かめてみると、緑属性の何かですね。

 人間が使う術式と形式が違うので何かまでは読み取れませんが、攻撃的なものを感じない。


 すぐさま術式は発動し、風が吹き荒れる。

 木の葉が散り、ポルルン・ポッカの周囲をグルグルとうずまき始める。


 そして、そのまま竜巻に乗って遠いお空へと旅立ってしまいました。


 皆、唖然とした顔でその光景を眺めています。

 下で構えていたヘグマントも、生徒たちも、ウチの生徒たちも同じです。


 なんだったんだろう。


 しかし、好機でもありました。

 視線をポルルン・ポッカに固定されている間に、すぐさま送還術式を使い、負傷した二匹を逃がします。


「どうやら危機(?)は去ったようですね」


 あっけなく返り討ちにされてしまったので効果のほどは期待できないかもしれません。


 もう終わりだと悟ったマッフル君とクリスティーナ君はさっさと席についてしまいました。地味に窓枠際で背伸びしていたセロ君、なにこれ可愛い。でも、ようやく見えたのに終わってしまったみたいでしょんぼりしてます。


「セロ君。席につきましょうね」

「はぅ……」


 哀しい声でした。


 ついでリリーナ君は意味深な眼でこっちを見ています。


「どうしました? リリーナ君」

「先生、さっき使った術式はなんであり――」


 見られていた。

 そう考えたときにはリリーナ君を窓の向こうへ突き落とそうとしていました。


「何か?」

「……先生は自然な感じで脅迫してくるであります」

「リリーナ君。お昼の時間、空いてますか?」

「生徒に手を出す先生とかありえないであります」

「空いてますか?」

「空いてないでありま――」

「空いてますね。ゆっくりお話しましょう」


 微笑む自分にヤバいものを感じたようで、必死に逃げようとしていたリリーナ君ですが、ガッチリと逃がさないようにしています。

 そして授業を開始しようと思ったら授業の終わりの鐘が鳴りました。


 なんとなく肩透かしです。色んな意味で。

 ともかく、この事件を大きく吹聴して、危機感を煽るくらいしか次の手はありません。


「では授業は終了です」


 次の手を考えたまま、リリーナ君を小脇に抱えて教室を出ました。


 はぁ。また面倒なことになった。

 とりあえず、先にやるべきはこの不思議エルフの口止めですね。



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