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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第一章
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エピローグは続くよどこまでも

 生徒たちの服装はクラスごとで縫合や紋章の違いこそあれ、ほぼ同じ形状をしている。


 生地色は黒を基調にしたもので、スカートやズボンがそれぞれのクラス色のギンガムチェックです。

 男の子のものは少しでも胸元への衝撃を和らげるために重ね合わせ形状を採用しており、インナーは教師たちと同じようにYシャツ。

 ズボンは足を取られないようにと裾は踝まで、動きやすいようにと左右に余裕を持たせてある。


 男女共に教師と対になるような『発見術式具』が取り付けられています。

 女の子は校章をあしらったブローチ、男の子は校章が刻まれたスプーン状のネクタイピンです。


 ちなみに教師はバングル型にしています。


 これは教師が使えば生徒の術式具がクラスの色に発光し、生徒が使えば教師のものが発光する仕組みです。

 緑の源素の特性『活性化を促すことで光る』、【発色】の応用です。


 こんなものが必要なのかとシャルティア先生にきつく問われていたのですが、運良くというか運悪くというかメルサラ来襲のおかげで必要だと思い直していただけました。


 生徒の安全は大事ですよね、えぇ、本当に。

 たとえ教師の生活の安全を生徒に脅かされることになってもです。


 そんなことを考えながら、自分は天井に顔を向けました。

 現在、ホームルームの時間です。

 しかし、自分はどこに居るかというと廊下だったりします。


「……追い出されたんですよ」


 口に出したら情けない気分になりました。誰に言い訳しているのか自分でもわかりません。


 部屋ではなんか楽しそうなガールズトーク的な名状しがたい何かが繰り広げられてますよ。えぇ、何? 微妙に内容が聞き取れなくってモヤモヤします。


 この状況を打破するには、行動を起こすしかあるまい。


「そろそろ中に入れてもらえ」


 ドン、という音と共にドアが叩かれました。


 自分の行動はもうこれでおしまいです。


 どうして自分は遠慮してしまっているのでしょう。たかが子供の着替えですよ、誰が得するっていうんですか、え?

 しかし、女性に気後れするような遠慮のほとんどが性的なものに関わってくるというのだから、男性も肩身がせまいものです。

 女性は女性で、男性の本意に気を遣わなきゃいけない分や炊事なんかの出来て当たり前のことと男性に問われたりするわけで。気遣いスキルが常に試されているのです。

 あと男性から身を守ることも考えなきゃいけない……、あれ? 数量的にも常識的にもやっぱり女性が優位なんじゃ?


 訳の分からないロジックにハマりこみそうになったとき、ドアがコンコン、とノックされました。

 入っていいという合図でしょう。


 教室の中に入ると五人の生徒がそれぞれのポーズを、と、見た瞬間、ドアを閉めました。

 止めてください。死んでしまいます。死因:恥ずかしさって斬新ですね。


「ちょっと先生! それって失礼じゃん!?」


 ドアを開け放って、顔を出したのはマッフル君。


「シャルティア先生と同じことをしないの」

「げ、数学の先生とかぶったんだ」


 何故かイヤそうな顔をするマッフル君。


「そんなのより、早く中に入る!」


 腕を掴まれたので、捻り返そうと思いましたが理性で留まりました。

 そうこうしているうちに教室にひっぱりこまれて、着替えた生徒たちとご対面。


 ブレザー、ギンガムチェックのスカートに縫合色は青、Yシャツは無難な白、リボンもクラス色で統一されている。


 ブレザー型の制服に着替えた五人の様子は……、個別に挙げていくなら。


「どうですの先生? 変なところはないにしても、着るのに苦労してしまって……、しかし、このフリルの無さはいただけませんわね」

「似合ってますから安心しなさい」


 口をポカンと空けたままのクリスティーナ君。

 何か変なことを言ったっけ?


 しかしクリスティーナ君は……、おそらく後日、裾やらスカートの裏側にフリルを仕込み出すだろう。

 となると今のこの格好はかなりレアなものになる。

 現在の感想を言えば、やっぱりどこか物足りない。物足りないものはフリル以外、ない。と、思ってしまう時点で自分はかなり毒されている気がします。

 派手さが足りない?

 

「んー……、動きやすいし布地も厚いけど、これいくらするの? タダ? タダでいいの? マジで! テンションあがってきた! あ、でもこれから夏だし、ちょっと暑いかな……、上着とか脱いでいいんだよね? ね? インナーは白だけじゃなくってもいいよね? あ、スカートがチェック柄なら上は……」


 服のセンスがクリスティーナ君とは真逆のマッフル君はファッショナブルな部分に夢中なようです。この子が一番、魔改造とかしそうで怖い。

 錬成の授業でも意外な器用さを見せつけたことがありましたしね。


「くれぐれも原型を留めておくように」


 一応、釘をさしておきました。


「ふわぁ……、新しい服なんて久しぶりですっ」


 なんつった今!? 涙腺が緩みましたよ?


「セロ君……」

「はひ?」


 無垢な瞳とぶつかりました。

 この子、貴族との間の子で生まれてすぐ修道院でしたっけ……、倹約を旨とする修道女なら新しい服と言えばオシャレではなく、サイズ調整のための大きめの服しか与えられなかったわけで。


「ちょっと君のお父さんを殴ってきていいですか?」

「えぇ? え……、こ、こまります……、その、お父さんとかわからないのです」


 ダメだ。ちょっとした軽口すらも重たさが増す理由になります。

 この子の家族関係には触れないでおこう。

 もっとも向こうがこの一年間で接触してくるようなら、遠慮はしませんが。


 いいえ、ハッキリ言いましょう。

 ぶん殴るだけで済めばいいですね。


「先生。この右胸のブローチは術式具ですか?」

「目敏いですね。えぇ、そのとおりです。なくさないように注意してくださいね。ソレは先生と生徒の発見……、取り外さないの!」


 早速、好奇心が生えてきたエリエス君は胸のブローチ型発見術式具を弄ろうとする。


「いくら取り外しできるようにしてあるとはいえ、今はそのままにしておきなさい。なくしますよ?」

「そんなことない」

「なくす人は皆、そういうんです」


 物申すような瞳を向けてきました。

 いや、まだチェックしてないからですってば。


「まぁ、ちょっと性能チェックしておきましょうか」


 自分の右腕のバングルの縁を軽く指でなぞると、とたん、生徒たちのブローチが青く発光する。


 クリスティーナ君とマッフル君の感嘆の声が、セロ君の困惑の声がする。


「これは何の理由で?」

「君たちがなんらかの都合で見つけなくてはいけなくなったときのため、と言っておきましょう」


 実はこの発見術式具は少し、欠点がある。

 生徒のものは大人の歩幅で十五歩程度、教師のものは学び舎がすっぽり入る範囲しか効果がない。

 この範囲外に居る場合、以前、リリーナ君を探したように自前の術式で探すしかない。


 とはいえ常人にアレはかなり厳しい術式なので、自分以外の教師だとそれなりに便利なはずです。


 さて、最後にリリーナ君だ。どんな感想を持ってくるか、自分の予想を超えてみるがいい!


 自分の視線に気づいたリリーナ君は首を傾げて、スカートをおもむろにたくしあげ……、何してんだよ!?

 光の速さで接近して頭を殴りました。


「いたいであります」

「何をしようとしたのです」

「先生がエロスな視線でこちらを見てきたのでご希望に答えてみたのであります」

「よし。もう一発ですね」


 誰がスカートの下が見たいと言った。

 アイアンクローでオシオキしておきました。


「エルフ的にそういう格好はどうなのかと問いたのですよ」

「別に? であります」


 無頓着でした。


「着飾ることで自分と男を騙せるのなら安いものでありますな」

「君は今、化粧をする女性の全てを敵に回しましたよ?」


 エルフは体質上、若い時間が長いですからね。

 着飾ることに頓着しないのは、わかります。わかってあげましょう。

 でもね、ファッションに興味があるクラスメイトが居る前で言う言葉ではありません。

 ついでに言うと化粧とかファッションなめんな。無駄に時間がかかるくせに一日も保たないんだぞ?


 女性の努力をナメて、無事で済む男は少ないのですよ。マジですよ?


 故にあえて、そのあたりを気を付けて生活しているっていうのに、お前というヤツわ。


「生命が惜しかったら、その手のアレはお口にチャックです」

「先生は仕方ないでありますなぁ。ん~」


 なんで自分のせいみたくなってるんですか。

 あと、なんで顔を突き出す。腹ただしいので名簿帳で顔面を叩いてあげました。


「誘惑は十年、早いですよ」


 自分のストライクゾーン二十代ですからね。

 世間一般では狭いストライクゾーンですが、同世代だと色々と気が楽で済みます。

 癒やし系は特に大歓迎です。聡ければ更に良し。内助の功は当たり前です。

 つまり、リィティカ先生です。


 ゴーン、ゴーン、と、天井から鐘の音がする。


 授業開始のために鳴る大鐘の音だ。


「では、皆、席に付きなさい。今日の術式の授業は座学です」


 自分が開始の合図をすれば、こぞって席に付き始める。

 もう二ヶ月もすればこの辺は教師生徒ともども、慣れたものですよ。


 座る五人の生徒たち。

 その瞳を一身に受けて、自分は教鞭を伸ばします。


「全員、起立」


 授業の始まり、最初はいつだって気持ちを切り替えること。


 制服もその気持ちを手伝ってか、妙に生徒たちもきっちりしているように見える。

 幻覚でないこと祈りますよ。


「礼」



「「「「「おねがいしまーす」」」」」



 残り二ヶ月、一度目の貴族院のテスト。

 そして学園生活、残り十ヶ月。


 この子たちに出来るだけの知識と経験を。

 残り人生、この一年を輝かしいものとするために。


 今日も先生、面倒くさいですが頑張りますよ?


 第一章『リーングラード学園』――了。


 まず、ここまで拙作にお付き合いいただきまして誠にありがとうございました。

 ひとまずは一度の区切りを打たせていただき、次章へと参ります。

 では引き続きリーングラードをお楽しみください。

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