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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第一章
41/374

リスリア王国のメイドの質の高さは異常

「なるほど。お話はよくわかりました」


 ぜぇぜぇと息を吐き、学園長室に入った自分はまずメルサラを学園長に突き出した。

 さっきまでの流れを話しつつ、テーレさんに腕とか火傷の治療をしてもらっていたり色々ありました。

 かなり本格的な医療技術を有したテーレさんに少し驚かされてしまいました。


 なおメルサラはソファに座った自分の対面に縄でグルグル巻きにされています。

 吐瀉物とかで汚れた顔もテーレさんによって綺麗にされていました。


 とはいえ、ようやく一息つけた。


 しかし、テーレさん有能だなぁ。

 リスリア王国のメイドさんは皆、クオリティが高くて驚きだ。

 この前のキャラバンでやってきた医務室の担当の人、いらないんじゃ……、いや、止めておこう。アイデンティティ大事です。


 何度か痛みで意識を失いそうになりましたが自分は元気です。頭に空がつくかもしれません。

 テーレさんが持ってきた鎮痛剤が効いてきたおかげか、だいぶ痛みも落ち着いてきた。


 あと、折れたと思っていた右腕は三箇所脱臼、ヒビ六箇所という大惨事なのか完全に折れなかったのが幸いというか、ともあれ、指は動く状態に留まりました。


 指が動けば、色々出来ますゆえ。

 この結果は大ハッピーと言ったところです。それが世間一般のアンラッキーと呼ばれる代物でもです。


「しかし、そこまで無茶をしなければならなかったものですかね。右腕を犠牲にしてまで」

「あー、いえ、半分はノリでしたが……」


 リューム・ウォルルムを普通に使った場合、メルサラが切り返してくる可能性がありました。足癖の悪さはピカ一ですから。

 近接においては自分の予想もしない行動をしばしば取るのです。


 やっぱり確実にメルサラを寝かそうと思ったら、何かをされる前に拙くても無茶をする必要がありました。


 無茶すぎた感もあります。


「この後、すぐにでも貴族院の方々が刺客を送ってきたのなら、非常に不利な立場に立たさせることになりますよ」

「それはもう肝に銘じて……」


 ん? ちょっと待て。


「学園長。もしかして自分のこと、知っていたりします?」

「もちろんですよ。【輝く青銅】ヨシュアン・グラム先生」


 あっちゃー、です。まさしく、あっちゃー。

 

 【輝く青銅】。

 自分が【タクティクス・ブロンド】の称号を得た時に付けられた号です。

 一応、六色のうち、青属性の戦略級術式師という立ち位置を示しているわけです。


 メルサラの【吠える赤鉄】という号も同じ。

 色と金属、そしてその称号者の特性が頭に入る。


 実のところ、【輝く青銅】とヨシュアン・グラムという男はイコールにならない。


 なんというか、ぶっちゃけるとメルサラみたく有名でないからです。

 悪目立ちしたいというわけではないので、良いと言えば良いのですが。

 戦場での活躍のほとんどが後方メインの術式師で、敵の要に乗りこむ時はほぼ皆殺しにしてきたので。しかも、実働するその全てが小数単位の遊撃や暗殺に近い仕事ばかりでした。

 いわゆる有名無実の逆転、無名有実です。


 まぁ、自分という強力な駒を使おうと思ったら、前線で使い潰すよりも相手の強力な駒と対決させたほうが効率がいいのでしょう。その分、死にかけてきましたけれど。今日みたいに。


 目立つ結果を残しているにも関わらず生存者が少なかったり、目撃者が少なかったりして知名度の低さにつながっているのだと思います。

 あるいはバカ王が裏で何かしているかもしれないが、まぁ、殴っておけば問題ない。


 他国の間者ですら、【輝く青銅】を見つけて殺せとなれば30人くらいの顔を覚えさせられるという……、これはベルベールさん情報ですけどね?


「最初から知ってらしたとなると……、まずいのではないですか? その、色々と」


 義務教育推進計画は中立の立場からなる実験ではなくてはならない。誰かの息がかかった者がいる、と『公になってしまうことが問題』なのだ。


 元々、実験ということで公平性を保つようにしてある。


 ここに貴族院の手先がいるのと同じように、軍閥からのヘグマント、元老院側のシャルティア先生、リィティカ先生、王家とはアレフレットか? 貴族院に一番近そうなのはピットラット先生だが……、執事ですからね。


 とまれ、こう言った具合にそれなりに上と繋がりがあっても成り立っているのは『上から何も言われていません』とそれぞれの上役がアピールしていて、形だけでも公平を約束されているからだ。

 バカ王の前でね。バカの前に何を誓うのかと色々言ってやりたいです。


 まぁ、実際、そんなわけにもいかないので本音と建前というか、裏でこそこそというか、そういう事態になっているのです。


「何、黙っていればわかることもありませんよ」


 かるぅーい。

 でも、初日の勢いとテンションに任せて生徒にバラしちゃったことは内緒にしておこう。

 信じられていないのが幸いです。


「それに死人は口を動かせませんからね」


 最近、この老婆が穏やかなだけでないと思っています。


「まぁ、どちらにしても自分はこれで御役御免ですので」

「それはどういうことですか」


 ニコニコとしているのに、妙な威圧感を覚えます。

 痛みだけじゃない脂汗が流れてくるのを止められない。


「えー……、実は」


 初日にあったクリスティーナ君との約束を話す。

 もしも自分が教師としてふさわしくないのなら、教師替えを学園長に提案する、と。


 学園長もよくよく話を聞き、


「残念ながら却下ですね」


 スッパリ断ち切ったのであった。


「色々な理由がありますが、まず、この学園の教師の選定に陛下がおられること。死亡以外の理由で我々が勝手に教師を入れ替えることはできません」

「それこそ黙っていれば……」

「貴族院の三度のテストがあるでしょうに」


 あっと、迂闊だった。

 貴族院からテストが出されるということは必然、派遣される試験官も貴族院の人間ということになる。

 教師が入れ替わっていたなんていうスキャンダラスなことがあれば、貴族院が小躍りしながらバカ王をチクチクと追求するだろう。


 なんだかそれでも良いような気がしてきました。


「他にも補充分の教師にアテがないこと。現在、進行している業務等、理由なら幾つでも挙げられるでしょう」

「それでも、生徒との約束は守ってやりたくて」


 じっと見つめてくる老婆と目が合う。

 その瞳は心の奥まで探ってくる。心を閉ざそう。


 内心、部屋にこもって術式具を作っていることを考えていると、老婆がフッと顔を緩める。


「なるほど、わかりました」


 何がわかったというのだろうか。

 あの状態でわかることがあるのならその人はベルベールさん2号になれるだろう。


「ところでヨシュアン先生は本当に、クリスティーナ嬢が貴方をどう思っているか聞いてみましたか?」

「いや、だから」


 教師失格だってハッキリ言いましたよ?


「未熟な彼女たちは、技術が未熟なのではなく心が未熟なのです。迷い悩み間違う。私たちと同じように。いえ、私たち以上に」


 今一つ、話の流れが見えてこない。


「そして、何が正しいのか。何を信じてしまうのか。一秒ごとに変わってしまう時期でもあります。そして、同時に何度でも『やり直し』、何度でも『改め直す機会』に恵まれた時間でもあるのです。それも私たち以上に」

「はぁ?」

「ともあれ、貴方はまだあの子たちの教師です。まだ授業は終わっていませんよ。リィティカ先生では術式で十人の生徒を指導するには無理があるでしょう。行って助けておやりなさい」


 と、怪我人に仕事をさせようとする老婆がいた。

 へぇへぇ、雇われは言うとおりにしますよ。


「食後に二錠、お飲みください」


 学園長室を出ようとしたら、白い紙袋を手渡してくるテーレさん。

 おそらく鎮痛剤か抗生物質みたいな薬だろう。

 

「四錠飲んだらどうなります?」

「二乗したところで効果は変わりません」

「もったいないので普通に飲むことにします」


 ちゃんと意図したとおりの答えを察し良く答えてくれました。二錠を二乗ってね。きっと緑のだったら大爆笑してくれるだろうけど、やっぱり無表情でしたか。

 なおベルベールさんはこのあと、微笑みながら点数を付けて必要ならボケてくれる仕様です。素直に言いましょう。スペック高すぎですあの人。

 ともあれ、ベルベールさんほどではないが、それでも優秀なメイドさんのようだ。ブレードナイフを振り回さない限り、は。


 メルサラがどうなるかは今のところ、わからない。

 一応、メルサラが目を覚ましたら『誰の使いだったのか』を問うてくれる約束を学園長とした。

 とはいえ、素直に喋るものかね、あのメルサラが。


 テーレさんが居るので、学園長の安全は確保されているだろうけれど。

 場合によっては自分が直接、話を付けなければならないだろう。


 三角巾でぶらさがった右腕に妙な違和感を覚えながら、そんな適当なことをつらつら考えて儀式場へと歩いていく。


 だんだんと見えてくる儀式場。

 近づくたびに騒がしい気配がしてくる。嫌な予感しかしないんですが。


 天突く六角の柱が守るように配置された場にて。

 そこは阿鼻叫喚の地獄絵だった。


 泣いているセロ君とリィティカ先生。睨みあうクリス&マッフル。

 リリーナ君不在。マウリィ君は息絶え絶えで。エリエス君はウルプールを抱えている。

 そういえば召喚したまま還してなかった。でも、とりあえず放置。


 他の生徒たちも色んな感じでへばっている。


 一人をのぞいて全員、共通しているといえば体中のあちこちに煤がついているということ。


 自分が体張って守った以上の被害が出てるじゃないか。


 何があったというのですか?


「……戦争でもあったのですか?」

「似たようなもの」

「きゅいん」


 と、言ったのは唯一無傷のエリエス君。

 追随するように鳴くウルプール。エリエス君になついているよ、こいつ。

 本当、何があったのだろう。


「先生がメルサラ・ヴァリルフーガを連れて行った後のことです。通常通り、授業が始まりました」


 思い出すように宙空に漆色の瞳を向けるエリエス君。

 君はときどき、妙なノリを引っさげてくるよね。


 後、大概、君たちもタフになってきましたね。あのあとに授業とか。

 たぶんエリエス君が強要したんでしょうが。


「しかし、先生とメルサラ・ヴァリルフーガの術式戦のせいか浮き足立った生徒たちは上手く術式が編みあげられず、集中力も眼に見えて落ちていました。やがて、おしゃべりに興じるようになり、リィティカ先生の叱咤激励をもってしても授業を元の軌道に戻そうとするも努力の効果を上げられず……」


 リィティカ先生が叱咤激励……、ちくしょう。

 どうして自分はその場に居なかったんだ。絶対、可愛らしかったに決まってる!

 きっと顔を真っ赤にして涙目にして、頬なんかむくれたりして……あぁ!


「泣いてしまいました」


 あぁ……。ずいぶん、苦労させてしまった。

 リィティカ先生には悪いが、悲しむお姿もまた素敵だ。ムネが締めつけられるくらい。

 この気持ち、まさしく愛だと思います。


「おしゃべりの内容が先生とメルサラ・ヴァリルフーガの関係について、憶測と推測の飛び交う議論場になったとき」


 嫌な議論をしてくれる。

 一応、言っておきますがアレとは知り合い以上友人以下で構成された、殺し合いの仲です。

 別に憎くも嫌いでもないですが、鬱陶しいことには変わりありません。


「妙に張り詰めた空気を出すクリスティーナと怒りが頂点に達したマッフルさんが突然、激しいケンカを起こしました。取っ組み合いでした。それを見たセロちゃんは泣いてしまいました」


 またか。

 セロ君もリィティカ先生も被害者じゃないか。


 ん? 今、エリエス君、クリスティーナ君を呼び捨てにしなかったか?

 この子とクリスティーナ君の間に何があったというのだろうか。


「珍しいですね。あの二人の仲の悪さと良さは知っていましたが拳が出るほどとなれば、それなりの理由があるのでしょう」

「言えません」


 え? ちょっと驚きました。


「もう一度言いましょう。喧嘩の理由は?」

「教えたくない」


 プイ、と横を向いてしまった。

 えー……、何、この行動。エリエス君らしくない、というか、妙に感情的というか。

 年頃ならこれくらい許容範囲なんでしょうが、相手があのエリエス君ですからね。


 言いたくない理由……、ガールズトーク的な何かか? あんな状況の後で? 鋼で出来た肝でも装着しているのではないかと思います。


「あまり良い予感がしないので、その話は後にしましょう。で、その後は?」

「……マウリィさんが仲裁に入りましたが取っ組み合いに巻きこまれて、あの様子です」


 そばかすがチャーミングな女の子は今や、暴漢にでも襲われた風貌だった。

 へたりこんでベソをかいています。必死で慰めているのは仲の良い友達か何かでしょうか?

 ごめんなさい。今日が初対面なのにウチの生徒がご迷惑かけちゃって。


「一部の生徒は真面目に授業をしていたのですが喧嘩のため、ついには集中力を維持できず、エス・プリムを暴発。この場にいる全員を巻きこんでしまいました。本来なら、危険を感じれば干渉するはずのリィティカ先生がアレですから、暴発は免れませんでした」

「君は無傷ですね」

「なんとなく、こうなるのではないかと思って、赤の防御結界を張っておきました」


 如才ない生徒で良かった、と褒めるべきなのだろうか。

 よし。褒めてみよう。

 しかし、いつも同じように撫でようとすれば逃げられる。そこで自分は一計してみました。


「頭を撫でてあげましょう」

「ありがとうございます」


 そのまま三歩、遠ざかっていきました。超クールな生徒だった。

 先に言ってからでもダメかー。


「リリーナさんもまた、危険を察知したのでしょう。気がついたらいなくなっていました」


 あー、それでいないのかあの不思議生物。

 危機に敏感というか逃げ癖がついているというか。

 リリーナ君の教育方針は逃げ道を塞ぐところから……、と、ここまで考えておいて自分にはもう関係の無い話だと気づいた。


 そっか。そりゃそうだ。


 もうそろそろ先生、辞めるんだった。


「……事態の推移を話してくれてありがとう」

「どういたしまして」


 何はともあれ、どこまでも落ちこみそうな話だ。

 救いが一欠片も存在していないところがポイントです。


「これはやはり、自分の管理責任なんでしょうね」

「先生ばかりの責任ではありません。半分はメルサラ・ヴァリルフーガの来訪が原因ですから」


 半分は自分の責任なのね。

 まぁ、色々つっこんだことは考えないようにしよう。怖いから。


 とりあえず、どこから片付けていけばいいものやら。


「クレーター。ケンカ。怪我した生徒。泣き叫ぶリィティカ先生。帰ってこないリリーナ君。そして暴風のように現れ倒された出オチのメルサラ。彼女の来訪が何をもたらすのか。今、生徒とヨシュアンの絆が試される! 次回『懲戒免職!? 絶望への階段』へ。つづく……」


 最後はトーンダウンしました。

 うっわー、なんか凹む。


 首になっても自営業しているので、復職には困りませんが。

 これはこれでクるものがあります。


「自分で言ったナレートで落ちこまないでください」

「そうだね。お茶目に落ちこんでいる場合ではないですね。とりあえず不毛極まりない喧嘩を止めましょう」


 未だ相手の身体の一部を掴んで、肩で荒い息をついているクリス&マッフル。

 髪型なんてボサボサだし、服は煤だらけ。真っ赤になった目は涙に溢れている。


 うわ。マジ喧嘩じゃないですか。


「がるるぅ……!」

「ふぅ~ふぅ~……!」


 傷だらけになりつつも戦意を失わないガッツに敬意を表するべきか。

 向上心、おおいに結構。でも喧嘩以外で発散してほしい。


 爆発にも耐える喧嘩とかちょっと常識レベルでは測れない何かを感じます。


「こら。二人とも」

「先生……!」

「……っ!?」


 マッフル君もクリスティーナ君も目を逸らす。なんだ、この反応は。


「一体、何がどうして喧嘩になったのです?」

「「先生には関係ない/ですわ」」


 ハモって拒否された。

 だんだんタフになっていく自分の成長を悲しむべきか喜ぶべきか判断に困るところだけど。


 そんなことよりも。


 同調現象を引き起こしたというのに、二人はそのことに気付かないくらい険悪な顔で、そっぽを向き合っていた。


 いつものケンカは彼女らなりのスキンシップだ。

 お互い、相手を認めているから無視できず、お互い、譲れないから認められず。

 だからこそ、お互いに節度というものがあったのだろう。

 最終的なラインを絶対に超えないようにと無自覚に決めていたのだと思う。


 お互い、これ以上、譲れなくなった?


 だから、止められなかったとすれば。

 理屈で感情の流れがわかっても、そうなった理由がわからなければ、こちらもどうすればいいかわからない。


「やーい。はみごでありますー」


 すわ。いつのまに帰ってきたリリーナ君。

 唐突すぎるし、神出鬼没すぎる。


 自分の右腕側からひょっこり顔を出すあたり、オシオキされそうになっても逃げる算段がついていると見ていいでしょう。

 何せ、今、そっち側から来られると反応しづらいですからね。


「リリーナ君は……、この際、逃げたことは不問にしましょう。緊急回避という名目で。しかし、どうせ隠れて様子を見ていたのでしょう? 代わりといってなんですがキリキリ吐きなさい」

「先生は一度、自分がどういう風に見られてるかわかったほうがいいであります」


 意味深に目を三日月に曲げて、パッと離れてしまう。

 そのままエリエス君と二、三言、話をするとチラリとこっちを見る。


 ちょっとイラッとしました。


 とはいえ、一度、仕切り直したほうがいい。

 被害者の数が限りなく全体数に近いのです。


「と、とにかく。授業は一旦中止です。汚れを落として教室に戻ってください。リィティカ先生も復活してくださいお願いします。というか医務室、医務室に行きましょう。さぁ腕を掴んで」


 と、リィティカ先生に合法的に触れる立場をさりげなーく取ろうとしたら影から何かが走ってくる。


 でも、ダメージのため、反応できない。気配を感じれても動けない身体が悩ましい。

 覚悟を決めて腹筋に力をいれます。


「うぇぇぇんっ!」


 抱きついてきたのはセロ君でした。畜生……。

 泣いていたというのに、自分を見つけた瞬間、飛びつき突進してきましたよこの子。ガードした時、とっさに右腕を動かしてしまったので痛かったです。


「こら、抱きつかない服で涙を拭かないで……」


 あーあー……、そんなにしがみついて。


「せんせっ、は、やめないですよね? 先生をやめたりしないですよねっ」


 泣きじゃくるセロ君の言葉に自分は頭を撫でてやることしかできませんでした。

 いや、だって、ここから先、どうなるか自分でもわからないんですから。


 クリスティーナ君との約束。学園長の不許可。


 貴族院のことを考えれば学園長のせいにして約束を反故にできるだろうし。

 生徒との約束、彼女たちとの信頼性を考えれば一度言ったことを簡単には翻せない。

 どちらを優先すべきか。


 あぁ、もう、本当にグダグダだ。

 一体どうなることやら。


 呆れるように空を見上げたら。

 熱気のせいかうっすら曇天が幕を張っていた空には。

 いつも見下ろしている天井大陸は影も形もなく、なんとなーく一人ぼっちになってしまったような気分を味わっていました。


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