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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第四章
242/374

暗がりの蠱毒から、明るい世界へ

 昨日の夜に【大図書館】で仕事して、今日も朝から【大図書館】です。

 なんとなく繋がっている緩い不思議さも、アレフレットの持ってきた一冊の本で気にならなくなりました。


 アレフレットは生徒たちが普段、勉強している机に本を置き、座りました。

 自分はアレフレットの向かい側です。


 本は『蜜枝詩・紙集』と書かれていました。


 書物というよりも紙を束ねただけを本の体裁を整えただけのものです。

 最初の一枚をめくるとウーヴァーン・カルナガランの名前が描かれていました。


「この本は『蜜枝詩みつしし』という詩の断片を元にウーヴァーンが編纂したものだ。アルバニアの湖周辺で隠された祭事について描かれている」


 さすがに本を見る時間はないのでパラパラとめくっただけです。

 一瞬、ずんぐりむっくりな体躯に六つの竜巻のような足を持った奇妙な生物の絵が見えました。


「アルバニア湖はどのあたりにありますか?」

「法国の南部、リスリアの北部だな。国境よりも法国側にある。大きな湖で周辺にいくつかの村があったはずだ」


 水源近くに村を作ること自体、よくある話です。

 ただ、わざわざ一地方の詩を束ねる意味まではわかりません。


「隠された祭事とは?」

「まて。順に話をする。本の概要は後だ。まず、この本の来歴だ」


 早く話を進めて欲しいんですが、そうもいかないんでしょうね。


「本が作られた背景を知れば本をより深く理解できる。これは生徒たちにも教えていることだ。当然、お前にも同じこと言う」


 教育方針、というわけですか。

 自分は教わる立場だと言いたいんでしょう。


「ウーヴァーンが様々な本や研究結果をまとめ、カルナガラン方式を組み上げたことは知っているな。知らないとは言わせないぞ。今日の学問という分野は全て、カルナガランの手法か、あるいは模倣だ。分散、修学、集結の流れで学問が誕生している。義務教育計画だって同じだろ。知識の分散、そして個人の修学、そして、いつか生徒たちはフォーラムに参加するだろうな。己の知識を使う場所が職場かフォーラムくらいしかない。集結する。もしくは仕事上で知識を集結させるかもしれない。もっと分散させるかもしれない。発展は……、するさ」


 ペラペラと喋りながら、アレフレットは一枚、一枚、紙集をめくっていきました。

 ただ言うほど顔色は優れません。


「何か問題でも?」

「……お前は生徒がこの学園から卒業した後を考えたことがあるか?」


 言われ、自分は沈黙を選びました。

 生徒たちの展望なんてまだ想像もつきません。

 そもそも普段の態度から全然、未来という言葉に結びつかないんですが?


 それ以前に生徒たちから何になりたいかを聞いていません。

 いつか進路調査をする時が来るのでしょうが、まだ早くないですか。


 それでも今、考えついた進路を並べていくと、クリスティーナ君は四大貴族としての責務があるでしょう。

 マッフル君は商人、エリエス君は……、たぶん術式具元師。しかも自分の店に来そうで怖いですね。セロ君は修道院に戻るでしょうし、リリーナ君は……?


 リリーナ君はどうするんでしょうか?


 一度は木の上の生家に戻るでしょうが、そのあとは何になりたいんでしょうか。


「義務教育計画参加者。その生徒というだけで引く手は数多だ。何せ僕やヘグマント、残念ながら実力だけならバカ女も含まれるんだろうな。貴族以上の教育を施された次代だ。期待にそぐわないわけがない。だが……」


 自分たちが努力している甲斐もあって、生徒たちも順調に学んでいってますからね。

 いいことじゃないですか。


 どんな未来が待ち受けていても生徒たちは切り開いていけるんですよ?


 だからこそ、生徒たちの未来を阻害するようなものを許すわけにはいきません。

 貴族院も魔獣信仰組織も暗躍するなら叩きのめすだけです。


 現在、その魔獣信仰組織が謎すぎて対処に困っているわけですが。


「どうしてお前はそこで気づかない。わからないのか、わかっていないフリをしているのか」


 アレフレットは自分とは別の未来を見ているようです。

 いえ、未来を見ていない自分と違い、ちゃんと生徒たちの前を見てあげているのでしょう。


 自分は、どうでしたっけ?

 学生の頃、自分は未来のことを、どう考えていましたっけ?


「……いや、必ずしもそうとは限らない、か」


 まったく答えが見つからない間にアレフレットは己で何かを押しとどめたようです。


 やはり、一度は聞いてみないといけませんね。

 生徒たちの進路を。


「下手な悲観よりマシって言いたげだな」


 何も言ってません。

 ですが、確かにそうです。


 実現しそうな最悪ならともかく、わからない未来を見たところでどんな展望が持てるっていうんです。


「話を進めましょう。後顧よりも目の前の、敵です」


 未来はまだで、過去はもう終わっており、今しかないんです。

 そして、目の前に敵がいるのなら排除するべきです。


「敵か。やはりお前は王派が用意した学園の守り手か」


 あー、そういう誤解をしたんですね、アレフレットは。


 シャルティア先生だとまた違った解答を導き出しそうですが、今までの行動をヘグマントあたりから聞いていたとしたら自分の行動はどう映るでしょうね。

 学園の利益になる行動しているように見えます。


 ……見えるどころかそのとおりじゃないですか。

 なんで自分はシャワー室とか作って学園の利益をあげようとしているんですか。

 いえ、本当は騎芸で汚れるだろう生徒のためですよ、なんでこうなるんですか。


「違います」

「どう違う? ありえない実力で技術者で王の友人だ。個人的に頼まれたら断れない立場じゃないのか」

「違いますよ。自分はただ――」


 思い返してください。

 自分はバカ王やベルベールさんに一度として、学園に潜む『貴族院のスパイ』の行動を阻止しろなんて言われていません。

 あくまで言われたのは『教師をしろ』だけなんですよ。

 正しくは『義務教育の普及を手伝え』ですが。


 ベルベールさんにも好きにしろと言われましたしね。


 貴族院を滅ぼすことは自分たちにとって暗黙の了解なだけです。

 だから言葉なんていらなかったんです。


 つまり、こうして貴族院や魔獣信仰組織の邪魔をするのは自分の意思です。


「――守ってやりたいだけです。一教師として」


 そんな事情とは関係なく今、確実に自分が抱いている気持ちです。

 プルミエールの事件は下手をすると生徒を巻きこんだ可能性だってあったんです。

 いち早く自分たちが気づけたからこそ、結末こそ最悪でしたが最悪の結果にならずに済んだのです。


「彼女たちが、あの子たちが育ちきるまでは」


 この一年、自分が決して生徒たちを誰かの悪意で傷つけさせません。


「……ふん! 上等だ」

「口さがない言い方ですね」

「お前のようなヤツに付き合っているとだな、ガラも悪くなるんだよ。自覚しろ!」


 人のせいにして。

 『僕の高貴な印象が……』とか『もっと知的で冷静な』とか大丈夫ですって。

 一切合切、そんなイメージ持たれていませんから。


「『敵』という認識でいいんだな?」

「えぇ。少なくとも自分はそう見ています」


 もしかしたら相手は生徒かもしれません。

 だからこそ、生徒を傷つけずに問題だけを排除する必要があります。


 今回の最悪の結果は、生徒が【魔薬】を飲むことです。

 【魔薬】がまだあるかどうかもわかりませんが飲まれたらそこで義務教育計画は終わり、生徒たちによくない影響と後味の悪さを味あわせ、貴族院は恩赦を得てしまう。


 飲んだ生徒もどうなってしまうかわかりません。

 プルミエールにしても運が良かったとしか言い様がないんです。

 リィティカ先生が【魔薬】の中和薬を持っていなかったら死んでいたでしょうね。


 必ず阻止しなければならない問題です。


「話を元に戻すぞ。ウーヴァーンの生み出した学問。それぞれをつなぎ合わせるとどうしても使えない部分というのが出てきてしまう。そういうものも別の学問として一つに纏めていったが、やっぱり、どこか繋がらないものが出る」


 無作為に知識を広めたら当然、一つや二つは無軌道に進むものが現れます。

 主にウチの生徒たちのような学問ですね。


 そうした無軌道さは意外な学問につながったりしますがほとんどが宙に浮いたまま消えるか、後世で拾われるかのどちらかです。


「そうしたものをウーヴァーンは紙片を纏めて、一つの本にした。これはその一つだ。古い伝承や言い伝え、一地方の呪いや術式群に当てはまらないものだけを集めたものだ」

「まるで民俗学みたいですね」

「民俗学?」

「歴史の中でも主に眉唾な民間伝承ばかりを集めた学問ですよ。民話や歌謡、生活様式や習慣、その時代の人がどういう風に生きていたのかを知るための学問ですね」


 自分で言ってなんですが民俗学で少し引っかかりました。


 魔獣信仰と民俗学は似た方向性だと思います。

 どちらも、まるで教会の教えや道徳のように実体がない――実体がない?


「それもお前の国でやった義務教育で習うものか?」


 問われ、思考に沈みそうになった頭を引き上げました。邪魔をしないでくださいと言えたらどんなに素敵でしょうか。

 頼みこんだ手前、言えやしません。


「いいえ。専門の学術施設で好きな人だけがやる、なんというべきでしょうね。フォーラムに近いんじゃないですかね。スキモノの娯楽ってヤツですね。なので自分は民俗学まではちょっと……」

「暦学に近いものか。それなら分野だな。内容を今から言うぞ」


 ようやく本題に入るようです。

 アレフレットの指が本題となるページに行き着いたように止まりました。


「アルバニア湖周辺の村は閉鎖的な村だった。湖を挟んで正反対の村はわかるが、隣村すら交流がないという徹底された拓かれていない土地だった。調査自体も中々進展せず、村から偶然、街に移り住んだ変わり者の夫婦から聞いた話だけが主な証言だ」


 本に描かれていたのは地図です。

 手書きなのかあまり詳しいものではなく、楕円形の湖と村の位置に当たる×印だけの簡素なものです。

 なんとなくわかる程度です。


「夫婦が言うにあの村々は特殊な習慣があったそうだ。表の習慣とは違い、限定的にだけ現れる裏の習慣」


 殺人事件でも起きそうな背景ですね。

 ですが、こうした村はそんなに珍しくありません。


 ヴェーア種だけの村やド・ヴェルグ族の洞窟街は自分たちから見れば不思議な風習が残っていたりします。

 別種の人間でなくても同じヒト種でも村が違えば祭りの形が違ったりしますからそんなに特別なことではありません。


 ですが、だからこそ勘違いしがちです。

 祭りと聞けばどこも一緒、少し違って当たり前、その意識は祭りの中で不自然な行為をしても看過してしまう要因です。


「その村はヒト種だけの村ですか?」

「いや、ヴェーア種の村が一つにヒト種の村、両方が混在しているものもある」


 村の構成に共通点はなし、と見ていいようですね。


「魔獣が現れた場合、村の戦士が魔獣を討伐する。そして、魔獣の血と死体を湖に捨てる、という習慣がな。あったそうだ」

「浄化してください。増えますよ、それ」

「もっともな意見だ。教会に知られてみろ。異端審問ものだ。いや、あるいはこう考えられるな」


 アレフレットはページから指を離し、明後日の方向を見ると指を顎に添えました。


「浄化できないから湖に捨てていた。浄化する術がないからアルバニア湖に始末を任せたんだ。本当のところはどうかはわからない。証言からでは難しいな。実際に見るべきだがそれもできない。想像するしかない」


 湖の中に魔獣を放りこむと湖の源素や魚の源素を食って無色の源素は増えます。それは緩やかな速さで魔獣が生まれていくのだと思います。

 生態系は崩され、やがて湖の中は魚型の魔獣の特売会になります。嫌な鮮魚市ですね。


 さて、あまり知られていない魔獣の生態ですがある行動だけは有名です。


 もしも周囲に魔獣しかいなかった場合、それが群れのようなものでなく単体で構成されていた場合――わかりやすく言うと箱の中に別種の魔獣同士を放りこめばどうなるか、という話です。


 答えは簡単。

 彼らは喰らいあいます。


 最後の一匹になるまで。


「彼らも薄々気づいていたんだろうさ。アルバニア湖の中がどうなっているか。いつ、爆発するかわからない湖の何かを恐れ、口をつぐみ、村単位で『知ろうとする者』を排除していた」


 まだ水棲だったのが救いですね。

 無色の源素は元になった個体に影響されて魔獣になります。

 エラ呼吸しかできない魚型の魔獣は当然、湖の外に出れば死んでしまいます。


「これは別の書物になるが結局、アルバニア湖から生まれた上級魔獣は法国が討ち取っている。かなりの死者が出たそうだ。かなり昔の話だがな」


 どうやら食いあった挙句、とうとうエラ呼吸から脱出したようですね。

 こうなるともう手がつけられません。

 騎士団でも被害が出るでしょう。地獄のような被害が目に浮かびます。


「その時代の村の人々は?」

「上級魔獣だぞ。皆殺しにされたに決まっている。今でもアルバニア湖はあり、湖の中も長い年月をかけて浄化していき普通の湖に戻ったそうだ」


 法国も魔獣が生まれる湖なんて放置できないでしょう。

 しかも国境際となればすぐさま対処しないと王国側から悪印象しか持たれません。


 政治的な判断と影響力、攻撃性を考えれば埋めなかっただけマシでしょうね。


「どう思う? 似ていると思わないか」


 イグレシオから聞かされた魔獣信仰組織とアルバニア湖の悲劇。

 この二つは魔獣が絡んでいるところから共通点がありますが、それ以外にも同じところがあります。


「冒頭のある一定の状況に対して、まったく関係性のない村同士が特定の同じ行動を取るところですか」

「そのとおりだ。お前の言った村の話は要約すれば、アルバニア湖と同じ結果をたどる。魔獣が絡んでいたら、の話だがな」


 それがリスリア――いえ、ユーグ二スタニア大陸全てのどこにでもあるというのですからもはや個人の仕事ではありません。


 ですが、自分が対処するのはこのリーングラード学園だけでいいんです。

 もっと広げて【宿泊施設】も含めてもいいんです。


 ならば何か方法があるはずです。


「だけどな、魔獣が絡む必要はないんだ。例えば反国心であっても同じ結果じゃないかと思う。ようするにだ――」


 アレフレットは本を閉じて、握り締めました。

 アレフレットの握力では紙の束が歪むくらいの成果しかあげませんでしたが、心情的には握り潰しているんでしょうね。


「――彼らには彼らの規則があり、国の規則とは別なんだ。国益にならない」


 これは嘘です。

 アレフレットの立場だとそういう風に考えるかもしれませんが、自分はごまかされません。


 アレフレットが教師になった動機を自分は知っています。


 その上でもおかしいのですがもっと単純に気づきました。


 アレフレットは貴族でありながら【図書院】の司書です。

 あの仕事は貴族か準貴族ばかりの仕事です。いわゆる領主になれなかった貴族たちの職場なのです。


 アレフレットは長男ではありません。

 領主でもないので順当な職場だと思いますよ?


 ですが、だからこそ違和感です。

 領主でもなく、すでに国益に繋がる仕事をしているにも関わらず『まるで政治家みたいな発言』をしています。


「アレフレット先生。踏みこんだ話をしてしまいますが……」


 アレフレットが味方なら魔獣信仰組織の対処も容易に浮かぶかもしれません。

 ならばアレフレットが貴族院のスパイかどうか調べる良い機会です。


 アレフレットも生徒に対して感情移入しています。


 スパイだったとしたら生徒の安全を理由に味方にできます。

 その可能性がアレフレットにはあります。

 いざとなったときに裏切られた、となったら貴族院のチビ・デブ・ヘビはどんな顔をするでしょうね。

 そして、スパイが持つ情報があれば貴族院の狙いもわかり、対処と同時に理由として貴族院を処罰できます。


 こちらの勝利条件を満たせるのです。


「どうしてすぐにこの本と似ていると思ったんです? 疑うような話になってしまいますが膨大な知識の中であの話だけでこの本に思いついた、というのは少し難しくないですか?」

「僕をバカにするなよ。『図書院』にどれだけの蔵書が収められていると思う。陛下が望んだときに望まれた本へと導くのが僕たち司書の役目だ。これくらいなら造作もないさ」


 さて、どうやって切り崩そうかと考えている内に陽が高くなってきていることに気づきました。

 【大図書館】の内部は太陽の光が入りやすいようにしてあるので、足元の陽を見て時刻がわかりやすく出来ています。


「と、言ってやりたいところだが少し違う」


 そんなことを考えているとは露知らず、アレフレットは肩の力を抜きました。


「僕も知っているんだ。その奇妙なつながりの村々をな」


 まさかアレフレットが魔獣信仰組織側?

 と、思いましたが違いますね。


 あくまで知っているとしか言っていません。

 嘘かどうかを問い詰める時間は今、ありません。


 おそらく――いえ、まだ考えるべきことが残っています。

 知っていたとしても対処法がまだです。


「お話、ありがとうございました。会議が終わった後でまた改めて」


 だからこそ、ここは仕切り直しです。


「……そうだな。ここまで付き合わされたんだ。覚悟しろ」

「アレフレット先生ともあろう方が浅学非才な自分にたかろうだなんて、趣味が悪いですよ」

「ハッ! 何が浅学非才だ。浴室を作れるだけで十分、建築家としてやっていけるだろ王室御用達」

「建築はコリゴリですよ。できれば専門に任せたいですね司書さん」


 棟梁さんの実力を感じた今になっては、自分は厳しい職業です。

 自分が問題なくできるのはせいぜい参礼日に犬小屋を作る程度でしょうね。


 そういえばモフモフは一生、ついてくると言っていたので王都の自宅にまで来るのでしょう。

 そうなったら犬小屋を作ってあげないといけませんね。

 室内に置いておくにしても店のこともありますし。


「この借りはシャワーとやらの使用権利だ。真っ先に試させてもらうぞ」

「シャルティア先生の説得に苦労しそうですね」

「それがお前の責任だろ。早く行け」


 邪神を押しつけるなんて悪夢めいた真似を。

 シャルティア先生の説得ですか……、今のうちから考えておかないといけませんね。

 下手な嘘はつけない相手ですから。


 もっとも一番、最初に使う相手は決まっています。


 アレフレットが本を戻しに行くのを最後まで見ずに、自分は【大図書館】から外に出ました。

 そのまま【大食堂】前の庭園を突っ切って【室内運動場】に。


 そこには思った以上の生徒たちがいました。


「先生、おそい!」


 マッフル君が声をあげ糾弾し、


「先生が依頼した時間はもう過ぎていましてよ! 時間を守らないなんてありえませんわ!」


 クリスティーナ君がつんけんしながらも唇を尖らせ、


「……はい」


 真っ先に受諾書を出したエリエス君。


「はぅ、せんせぃなのです」


 そして、上機嫌に自分の腕を取るセロ君に、


「はは~ん、さては先生は朝からエロいことを……、相手はシャルティア先生でありますか?」


 そこでリィティカ先生が選択されない理由を述べなさいリリーナ君。


「朝から激しく出し入――」

「言わせねぇよ」


 リリーナ君の鼻をつまみました。

 ふがふが言っているリリーナ君を放置して、他にもいる生徒たちを眺めました。


 マウリィ君にキースレイト君、フリド君にティッド君。まさかのティルレッタ君まで。

 全員、挨拶をしたあと、自分の言葉を待っていました。


 もちろん、言うべき言葉は決まっています。


「君たち、多すぎです」


 定員五名だって言ったじゃないですか。


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