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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第三章
203/374

第一【試練】・シャルティア&ヘグマントクラス

「ウル・プリムですの」


 開幕一番、ティルレッタ君の【エセルドレーダ】人形から放たれたウル・プリムはあっさり軽銀板に防がれてしまいました。


 あれはどうやっても治らない癖のようなものでして。

 何故か【エセルドレーダ】人形から術式が出るので、ちょっと怖ぇです。


 本当にアレ、生きてないでしょうね。心配です。


 このあっさりした攻防でも生徒たちにとっては驚きです。

 シャルティアクラスの面々は浮き足立ちます。

 「うふふうふふ」と妙な角度で浮き足立っているティルレッタ君はわかっているのかわかっていないのか……、謎すぎます。


「それではお返しです」


 グルグルと縦回転しはじめた一つの軽銀板。

 言われずとも嫌な予感がした生徒たちは慌ててどちらに逃げようか迷い、手足をジタバタさせていました。


 その中でも微動だにしないティルレッタ君。

 そんなティルレッタ君のすぐ脇の土に、凄まじい音を立てて軽銀板が突き刺さりました。

 その威力に生徒たちはまた驚き、慌てていました。


 あー……、正直に言いましょう遅い。

 戦場なら間違いなく手足が吹き飛ぶくらいの判断の遅さです。


 単にそうならなかったのはレギィがわざと当てなかったからです。

 手加減ではなく、おそらくまだ覚悟が決まっていない生徒たちに発破をかけるつもりだったからです。


「あら、落としましてよ?」

「ティルレッタさん、避けましょう。危ないです」


 これにはレギィも困った顔でした。

 大丈夫です。自分も困りました。


 ついでにシャルティア先生は片手で眉を揉んでいます。


「牧場のヤグーでも避けるぞ……、ティルレッタ」


 重たい呟きではありましたがティルレッタ君なので仕方ないと割り切りましょう。あの子は別の時間を生きています。


 ともあれ、さすがに動かないと危ないと悟った生徒たちはアタッカーが剣を構えて右から突進、もう一人の子が槍を持って左から飛びかかりました。

 残り二人は中央からまっすぐエス・プリムを唱え、期せずして四人同時に仕掛ける形になりました。


 エス・プリムを放った子の一人はアレンジを加えていましたね。


 小さく速いエス・プリムならもしかして当たるのではないか、そういう考えが見て取れます。

 いいですね、状況を見てアレンジを加える思考。


 その差が完全な同時ではなく微妙な差を伴ってレギィに襲いかかりました。


 良い手だと思います。

 ただし、軽銀板が同時に動かなければ、です。


 鋼を打つ二重奏と爆発音。

 

 四枚の軽銀板が同時にレギィを守る形で生徒たちの射線に割りこみました。

 そんな中でもボケーッとしているティルレッタ君はなんなんでしょうね?


「ティルレッタ! これは模擬戦だ! 術式を見せる場ではないぞ!」

「あら、そうでしたの。私ったらてっきり……」


 言いたいことがありすぎて言葉になりません。

 一つ言えることは何故、シャルティア先生はティルレッタ君が勘違いしているとわかったのでしょうか。


「それではご覧いただきますの。【エセルドレーダ】、起きて」


 ぽん、と放り投げた【エセルドレーダ】人形。

 地面にぶつかるかどうかの瞬間、【エセルドレーダ】の両足が地面につきました……はい?


「さぁ、ご挨拶ですわ【エセルドレーダ】」


 【エセルドレーダ】人形はそのままギチギチと関節を鳴らし、不格好なカーテシーを披露しました。


 見れば誰もが驚いていました。

 レギィもシャルティアクラスの子も、教師陣も生徒たちも――そしてシャルティア先生も。


 いや……、いやいやいやいやいや。

 え? うわぁ、何それ、本当に生きてたんですか?


「……ヨシュアン、貴様」

「誤解です。自分ではありません」


 シャルティア先生がガチガチと金属じみた動きでこちらを振り向きました。


「人形が動くなど聞いたことがないぞ! あんな理不尽ができるのはお前だけだ!」

「その言いがかりが理不尽です」


 まさか人形が生きてる……はずがありません。

 必ずトリックがあるはずです。ないわけがないんです。

 お化けなんていないもん、です。


 とりあえず考えられるのは術式です。

 『眼』を開いて見たら、なんというかものすごい術陣が見えました。


 何がすごいって配色がサイケデリックでギザギザしている、としか言い様がありませんね。

 ほとんどが無駄な陣で構成されていて、無理矢理くっつけた挙句、ツギハギだらけになった陣が【エセルドレーダ】人形に覆いかぶさるように乗り移っています。こえぇです。


「どう考えてもお前しかいないだろう! どうしてくれる!」

「どうしようもありませんし、こっちもわかりませんよ!?」


 正直、おぞましいという感想しか浮かびませんでした。


「えーっと、そうですね。無理矢理、理屈にするのなら術陣のアレンジだと思います。プリムの【球体】、レイの【付加】、ウォルルムの【強化】、とにかく無茶苦茶な陣の配列が奇跡的に繋がって、人形を外部と内部、その両方から力場を発生させ動かしている……のだと思います」

「本当だな! アレは非現実的な何かではないな!」


 確証はありません。

 ですが見てわかったものは全て自分が教えた下級術式の陣ばかりです。


 正直、あんなもので人形を動かすのは自分でも不可能です。

 再現できる気がしません。

 無駄が多すぎる上に 歪みに歪みまくっているせいで解析ができません。


「似た……というより雰囲気が近い術式を内紛で見たことがあります。先代の緑石位【嘲笑う緑石】の得意技にキメラを操る術式がありました。それに近しいものではないかと」

「そうか。術式なら、仕方ないな。幽霊ではないものな」


 冷静さを取り戻したシャルティア先生はホッとした様子でしたが、微妙に腕が震えています。


 視線を感じて横を見ると、エリエス君が問いたげな瞳で頬を紅潮させていました。

 さらに手を触れられる感触に反対側を見ると、セロ君が自分の小指を掴んでいました。


「えー、エリエス君は興味があるのでしょうが正直、答えられません。先生も初めて見ました。本人に聞いてみましょう。友達になるのも良いかも……、しれませんね。そしてセロ君。アレは変なものではないので怖がらないように。二人共、【試練】を見るのも【試練】です」


 そうこう言っている間にトタトタと【エセルドレーダ】人形がレギィに向かって歩いていきます。

 レギィも困っていたようですが『眼』を開いて術式だと理解した瞬間、軽銀板を面の部分でペタリと【エセルドレーダ】人形を押しつぶしました。


「ああ!? 【エセルドレーダ】!?」


 ティルレッタ君は絶望のような顔で両膝をついて、顔を覆ってしまいました。

 何がしたかったのでしょうか、わかりません。


 どうでもいいことですが軽銀板の下でもぞもぞと動いている【エセルドレーダ】人形がちょっと生理的嫌悪をくすぐりますね。

 レギィも完全に潰すのを躊躇いましたね。


 何故なら割れた人形の中から本体とか出てきそうじゃないですか、あれ。

 その気持ちは理解できました。


 そして、そんな光景をシャルティアクラスの子たちも何とも言えない顔で見ていました。その気持ちもわかりますよ?


「油断してはいけません」


 レギィの言葉を聞いてシャルティアクラスの子が構えた瞬間、ティルレッタ君を除く全員の頭を軽銀板が叩きました。

 そのまま地面に押し倒されて、誰一人逃げられない状況……、決着ですね。


「……あぁ! レギンヒルト試練官の勝ちだ!」


 ヘグマントも勝負内容に唖然としていたのでしょう。

 少しだけ遅れて勝利の宣言をしました。


 あっさり負けたのは仕方ないとして、内容はどうにかならなかったのでしょうか。

 確かにティルレッタ君の【エセルドレーダ】人形には驚かされました。

 あの身の毛もよだつ術式に上級術陣を組みこみ、もっと効率を良くすればもっとスムーズに動かせると思います。


 ただ、そうすると陣を扱う許容量はいっぱいになるでしょう。

 戦術として役に立つ状況は思い当たりません。

 もしも大量に人形を使うようにして、全ての人形になんらかの術式具で補強すれば……『人形遣い』と呼ばれる役割が生まれるかもしれません。


 結果は残念でしたが新しい可能性を垣間見ましたね。


 レギィは軽銀板を動かし【エセルドレーダ】人形を拾うと、メソメソと泣いているティルレッタ君に手渡しました。

 さっきまで動いていたのに触るなんて勇気がありますね。


 壊れていない【エセルドレーダ】人形を見て、少し元気を取り戻したのかちゃんと立って歩いて、シャルティア先生の元まで戻ってきました。


「……それぞれ反省点はあったか? 何がうまくできて何ができていなかったかちゃんと理解したか?」


 生徒たちを前にシャルティア先生は厳しい顔のまま、声をかけていました。


「なら良しだ。次に活かせる。考え方次第では無限に活かせるぞ。そして、次があった時にあの高嶺の花をむしり取ってやれ」


 シニカルな笑みと共に生徒を励ましていました。

 

 そんな励ましでもティルレッタ君は八の字に眉を描いて「うふふ」と呟いていました。

 生徒たちも負けはしましたが、シャルティア先生の励ましで少し明るい顔になっていました。


「ヨシュアン先生。次の審判を代わってもらえるか」


 そんな様子を見ていたらヘグマントから声をかけられました。

 次はヘグマントクラスでしたね。

 生徒たちの面倒を見るために審判の交代をしなければなりません。


「えぇ。期待しています」


 ヘグマントが投げた銀貨を受け取り、すれ違いざまに応援しました。

 シャルティア先生の作戦だと本命候補のヘグマントクラスです。


 ここで勝ってもらえると他の子はのびのびと【試練】に挑めます。

 自分のクラスまで負け越しだけは止めてくださいね。


 ヘグマントが居た場所に立ち、レギィを見るとニコリと微笑まれました。

 その余裕が腹ただしいですね。


「ヘグマントクラス、整列!」


 ヘグマントの裂帛の声に、フリド君を始めとする生徒たちが背筋を伸ばして横一列に並びました。


「フリド! 相手は誰だ!」

「はっ! レギンヒルト試練官です!」

「本来、軍騎士はリスリア王国の民を守るために在る! 女! 子供! それらはお前たちが守るべき者だ!」

「はいっ! 我々は守り手であり! リスリア王国を支える礎であります!」


 一瞬、テンションの違いについていけませんでした。


「だが忘れるな! 守り手とは強く在らねばならないことを! 今! 目の前にいる試練官はお前たちより脆弱か!」

「女性は守るべき者です!」

「このたわけが!」


 拳が飛びました。

 腰の入った良いパンチをフリド君は受け、あまりの威力に腰をつきましたがすぐに立ち上がり背筋を伸ばしました。

 わお、軍人ですよこれ。


「レギンヒルト試練官は貴様らよりもはるか高みにおられる! 貴様らなど羽虫や蛆虫と変わらん!」

「はっ! 申し訳ありませんでした!」


 あの言葉の意味は一応、理解できます。

 フリド君の頭の中にある『レギィが守るべき弱い女性である』という意識を吹っ飛ばそうとしているのです。


「生徒を羽虫にしか見てない……、ですか」

「ヨシュアン。どうして私を見てそう呟くのです」

「正直、レギィは生徒に思い入れがないでしょう」

「ヨシュアンが大事にしたいと思うものを尊重できないはずがありません」


 その割に容赦なくシャルティアクラスの子を戦闘不能に追いこみましたね。

 抑えつけで終わらせた分、まだ情があるほうです。


「それに私にだってこの一ヶ月で可愛いと思う生徒はいます。補習だってしたのですよ」


 その言葉を信じるかどうか考えて、止めました。

 どちらにしても勝負になれば、持ちうる最大を行うでしょう。

 レギィは出し惜しみをしません。


「胸を借りるつもりで挑め! わかったか!」

「胸を借りる……ね?」

「ヨシュアンが……、借りたいというのなら構いませんが! そうした言葉や態度は失礼ですっ!」


 小さくもなく大きくもなく、体型のスレンダーさを損なわない黄金比率な胸を見て言ったら困惑気味に怒られました。

 最近、過去ネタを使ってレギィを追い詰めるのもマンネリだったので趣向を変えてみたらこのザマです。


 これは自分っぽくないですね。

 なおかつレギィにも向かない冗談でした。反省します。


「では行ってこい!」

「はい!」


 フリド君に続いて、残りの四名も大きな声で返答しました。


 こちらに向かって歩いてくるフリド君の顔に侮りや戸惑いはありません。

 まっすぐレギィを『敵』だと認識した顔つきです。

 気合が見て取れます。いい顔ですね。


 フリド君を変えたヘグマントの叱咤。

 あぁいうのは自分には真似できないやり方ですね。


 自分は生徒の頬を殴れませんからね。

 頭はボコスカ殴っていますが。


「フリド・マレッシュ。そしてヘグマントクラスの皆様」


 横合いからティルレッタ君が現れ、フリド君に声をかけました。


「頑張ってくださいまし」


 まさか応援されるとは思っていなかったフリド君は目を丸くしていました。

 ヘグマントクラスの子たちの表情も様々でしたが、悪い気はしなかったのでしょう。


「――あぁ! 任せろ!」


 片手でのカーテシーにフリド君は片手の握り拳で応えました。


 ティルレッタ君の応援を受けて並ぶヘグマントクラス。

 レギィもその様子を見て【未読経典】を持ち直します。


「それでは、ヘグマントクラスの【試練】を始めます」

「ルーカンの名に恥じない【試練】を」


 自分は略式の宣言を挙げ、銀貨を空に弾きました。

 すぐに落ちてくる銀貨。


 銀貨は儀式場の石畳に落ちて、硬質な音を立てました。


「総員! 抜剣!」


 フリド君の合図と共にヘグマントクラスの子たちはそれぞれの得物を抜き、あるいは穂先を構えました。

 大盾を構える子だけは盾で地面を叩きました。


 ヘグマントクラスの編成は意外なことに防御を重きに置いた構成です。


 大盾を持つタンカー。

 フリド君を含めたアタッカーが三人。槍二人にフリド君が長剣ですね。

 残りの一人がキャスターとサポーターとを兼任する柔軟な立ち位置にいます。


 これだけ見ると攻撃的な構成ですが、タンカー一人がキャスターを守り、フリド君が長剣で打ち合う隙に槍二人が隙を狙って刺すという、常に多対一を意識した形です。

 フリド君はアタッカー兼タンカーなんですよ。


 タンカーが二人も居る構成は十分、防御重視と言ってもいいでしょう。


 戦場においても二対一、あるいは三対一を意識してちまちま兵数を削っていきます。もちろん、向こうも同じことをしますから兵数=有利の方程式は未だ崩れていません。


 くいくいと指を引かれて、セロ君を見てみると不思議そうな顔をしていました。


「どうして皆はレギィさまに向かっていくのですか?」


 【試練】だからと言うのはダメな答えです。


「【試練】に勝つにはどうしたらいいのでしょうか」

「条件を満たすことです」


 セロ君の代わりにエリエス君が答えました。


「では条件は何か。一つは『まいった』と言わせること。これ以上は何をやっても無駄だと思わせることです。もう一つはレギィに規約を破らせることです」


 行動禁止、上級術式以上の禁止、攻撃術式の禁止です。


「これらのどれかを破らせるには普通ではいけません。セロ君もやっちゃダメだと思うことは普通、破らないでしょう? 人の物を盗ったり、見てはいけないものを見たり」


 セロ君は何か言いたげに小さな唇を動かしましたが、うまく否定できずにもごもごしていました。


「人が禁を破る時はいつだって、禁なんて言っていられない時です。飢え、無知、憎悪、欲情……、平常心との差、普通でない心が必要なんですよ。だから」


 フリド君の長剣と軽銀板がぶつかり合い、火花をあげました。

 軽銀板の後ろから左右にフリド君を迂回して、タンカーに向かう新たな軽銀板が二つ。


 回転しながら迫る軽銀板を大盾で踏ん張るタンカー。


「今だ!」


 フリド君の号令と共にランサーが動きました。

 残り二つの軽銀板をランサー二人が柄で押さえ込みます。


 この瞬間、レギィの軽銀板は全て出払っています。

 一方、まだ手を出していない子がいます。


「ウル・プリム!」


 キャスターのウル・プリムがタンカー、そしてフリド君を抜けてまっすぐレギィへ。

 エス・プリムより速い雷の玉ならレギィに当てられると信じて。


「余裕をなくす。禁を破らせるほど、余裕を奪わなければなりません。そのためにフリド君やティルレッタ君たちはレギィを攻撃しているのです」


 危機感はわかりやすいですね。

 余裕を奪うにはもってこいです。


 ですが余裕を奪う方法は危機感だけではありません。


「リム・ズムテクト」


 伸ばされたレギィの指先。

 その先から広がる格子状の重力網がウル・プリムを捕まえました。

 本来なら術式は阻害されると源素に返って術式も消えますが、白の術式に干渉されたら話は別です。


「お返ししましょう」


 相手の術式で発生した源素の動きを支配し返す技術は、自分のハッキング技術の元です。


 攻撃術式が禁じられているレギィにとって唯一の攻撃術式でしょう。

 そして、フリド君たちが軽銀板を抑えているということは同時に誰もキャスターを守れないということです。


 今度はレギィからヘグマントクラスへとまっすぐウル・プリムが放たれました。


 キャスターの子は慌てながらも避けようとしましたが間に合いませんでした。

 速さが逆に首を絞めた形です。

 ウル・プリムの直撃を受けて地面に投げ出されてしまいました。

 詰みましたね。


「諦めるな! まだ勝負はついていないぞ!」


 フリド君が叫び、軽銀板を押し返し、その勢いで走り出しました。

 タンカーを抑えていた軽銀板がフリド君を追うように背中から迫ります。


「フリド! 後ろだ!」


 タンカーの声を聞いて、迫る軽銀板をチラリと見たフリド君はさらに加速しました。

 追いつくか、追いつかないか。


 あと数歩――もはや軽銀板は追いつけないでしょう。

 しかし、そこでフリド君は見えない壁に身体をぶつけ、大きく後ろに弾き飛ばされました。


 そうですね。壁は五枚ではないんです。


「白の物理結界です」


 レギィの術式を含めた六枚なんです。

 このことに気づかなければレギィを追い詰められません。

 フリド君は良いところまで行きましたが、まだ肉体や物理だけで物事を考えすぎです。

 その結果、ノーガードのように見えたレギィに向かって何の策もなく全力で駆けていきました。


 ですが、物理結界さえなければ惜しいと思える動きでした。

 攻撃直後の隙、味方の敗北が頭によぎった瞬間での行動、全ては良いタイミングだったと思います。

 特にガッツがありましたね。敗北の瞬間、粘れる力は兵士や騎士、冒険者にも必要な心です。

 生死を分かつ心とも言えるでしょう。


 倒れたフリド君に襲いかかる軽銀板。

 二枚がかりで押さえつけているところを見ると、レギィの中でフリド君の爆発力が脅威に値したのでしょう。

 フリド君の脱落に動揺したランサー二人が抑えこまれ、残りはタンカー一人です。


 四人が脱落……、となれば攻性力のないタンカーはもうどうしようもありません。

 大盾を落とし、手をあげたことで勝負が決しました。


「勝者、レギンヒルト試練官」


 幸先の悪い二連敗。

 残りクラスは四クラスです。


 ですがレギィから術式を引き出せた分だけ次に繋げられたと思います。


 レギィの能力、【未読経典】の力、術式の性能。

 エリエス君は情報を元に無感動な瞳で戦況を分析していました。

 難しい顔をしてはいましたがキースレイト君も同じように分析していたでしょう。


 まだ突破の可能性があります。

 そして、教師である自分はその可能性に賭けるしかありません。


「立てますか?」


 自分はウル・プリムの直撃を受けた生徒に近寄りました。

 電気のショックで身体の動きこそ鈍くなっていましたが、よろよろと立ち上がったところを見ると十分、身体をよく鍛えていたことがわかります。


 抗術式能力も鍛えておいて良かったと心底、思っています。


「ありがとうございました!」


 大声でレギィに頭を下げて、しょんぼりしてヘグマントの元に帰るヘグマントクラスの子たち。

 自分にはこれ以上、かける言葉はありません。


 その役目はヘグマントです。


 次のクラスは……、リィティカクラスですか。

 マウリィ君がどう考えて動くかに期待ですね。

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