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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第三章
201/374

第一【試練】・スタートでクライマックスです。

「【貴族院の試練】は計画の頓挫を目的としたものではありません。義務教育がリスリア王国の輝ける未来に相応しい政策か否か……、その是非を投げかけるために行われることをレギンヒルト・R・ジークリンデの名の下に誓います」


 壇上で歌うように【試練】の口上を務めているレギィ。

 白を基調に青を意識したドレスは以前、【貴賓館】で見たドレスでした。

 あれは晴れ着だったわけですか。

 その姿を全校生徒と教師陣、そして学園長までもが見ていました。


 【模擬試練】の時と同じように三十台の机に生徒たち。

 この光景が【試練】です。


「貴方方の意義を問いかける統治者たちからの声に応え、見事、務めを果たすことを願います」


 始まる。

 その言葉が誰の心の中にもあったでしょう。


 静かに上げられる、切っ先にも似た指先が――


「各、今までの成果を全て出し切りなさい! それでは【貴族院の試練】を始めます!」


 ――振り下ろされたと同時に【試練】は始まりました。

 

 凛と鳴る声が皮切りとなり、一斉にペン先が紙をひっかく音が響き渡りました。


 【模擬試練】の経験もあって生徒たちの様子は非常に落ち着いたものでした。


 忙しくありましたが【模擬試練】をやって良かったとひそかに思った瞬間でした。


 冷静に問題を見て、悩み、答えを出し、そしてもう一度、最初からやり直す生徒たち。


 鐘が鳴り響く、その瞬間まで諦めずに食らいつく姿勢。

 その姿勢から気合が見えてきます。

 【模擬試練】を合格した者は油断なく、ギリギリだった者は自らの不明を用心深く、不合格だった者は決して誤ちを繰り返さないようにと羽ペンを走らせていました。


 時間と共に進む【試練】。


 数学と暦学。

 これを落としていたのはセロ君でした。

 緊張していたせいで点数が奮わなかった【模擬試練】でしたが、今、こうして【試練】に挑むセロ君に浮ついた様子はありません。


 鐘が鳴り、テスト問題を回収した時は自分に嬉しそうにニコリっと微笑んでいました。

 でもすぐあとにブレスレットを見てきたあたり、【模擬試練】での経験よりも別の何かが起因しているようにしか思えません。


 何がセロ君を変えたのでしょうか、というか本当にこのブレスレットなんなんですか?

 セロ君の精神にも影響を与えるとか【戦術級】の何かですか?


 一度、くわしく調べてみますか。


 錬成の実験では失敗を引き起こしたクリスティーナ君。

 ですが、あれも一種の緊張が原因だったのでしょう。

 秤で薬品を測る手は自信満々に震えています。こえぇです。


 作られたものは水薬です。

 【模擬試練】で行われた薬品よりも難易度は低かったのが幸いですね。

 喉の痛みを和らげる基本的な薬品で、錬成では素材から喉を癒す成分だけを抽出し、それを水に溶かすことで『抽出→溶解』という基本的な流れを試したのでしょう。

 

 これも誰一人、失敗することなく成功させリィティカ先生は胸をなでおろしました。

 誰もがホッとした瞬間でしたね。

 何げにリリーナ君が余裕で作っていたところに不穏な空気が流れています。


 もしかしてあの不思議生物……。


 二日目は教養と体育。


 教養はマッフル君がちゃんと言われたとおり、きっちり背筋を伸ばしてトリアングロの舞曲をやりきりました。

 ここでもリリーナ君は綺麗な姿勢で見事、実践をやりきっています。


 だんだん、自分も確信に変わってきましたよ?


 体育はともかくリリーナ君の今までの【試練】内容はほぼ完璧です。

 リリーナ君、もしかして【模擬試練】で手を抜いたんじゃないでしょうね?


 ちょっときっちりお話しましょうか、あの不可思議生物。絶対、オシオキです。

 誰のために対策を立てたと思ってやがるんですか。


 そして不安だったセロ君の体育。

 やはり、ダメでした。ティルレッタ君も同じです。

 ただ二人は青色な吐息を吐きながらもちゃんと素振り100回を正しいフォームでやりきりました。

 点数はきっと多くなくても【模擬試練】より高い点数だと思います。


 二人とも、よく頑張りました。


 そして最後の術学の実践です。

 筆記テストはすでに終わり、羊皮紙を回収していました。


「ようやくここまで来たか」


 全ての羊皮紙を樽に入れるとシャルティア先生が声をかけてきました。

 【模擬試練】はあっという間だったのに【試練】中は長く感じられました。


 生徒以上に自分も緊張していたのかもしれません。

 表には一切、出しませんでしたがね。


「全体的に難易度が低くて幸いしましたね」

「あぁ、すでに目算で四百点を越えているものも居る。全員突破も考えられるぞ」


 上機嫌なシャルティア先生。

 おそらく他の教師も同じ手応えを覚えているでしょう。


「ですがちゃんと点数をつけるまでは油断するわけにはいきませんね」

「この時点ではもうどうにもならんさ。実施でよほどのものが出ない限りはな」


 術学の点数配分は筆記が七十点、実施が三十点です。

 この実施を半分以上取れば術学の合格圏内という子も多いでしょう。

 実技が得意なフリド君にとっては筆記テストを補う形になるでしょう。

 もちろんマッフル君も同じです。


「しかし、思った以上に易しすぎませんか?」

「おそらくレギンヒルト試練官が把握した生徒の実能力よりも、私たちが予想する【試練】の方がはるかに難易度が上回っていたのだろう。相手は【タクティクス・ブロンド】だぞ。最難関だと思うのが当たり前だ。ヘタをすれば学習要綱を超えた問題すら出かねないと思っていたが、これは貴族院の人選ミスだったな。あるいは別の者だったら結果は変わっていたろう」


 ですが順調すぎて不気味です。


 行軍がとんとん拍子で進む時こそ罠がありました。

 そんな時、無用心の代償はいつだって人命です。


 この【試練】では無用な心配でしょう。

 少なくとも死ぬことだけはありません。

 なので最悪の事態はないのでしょうが……、設置したはずの罠を忘れて歩いているような気分です。


「妙な心配をする前に儀式場に行くぞ」


 シャルティア先生には内心を悟られてしまったようです。

 顔色を一切、変えてなかったつもりですが、よくわかりましたね。


 樽に蓋をしてから、シェスタさんに管理をお任せしました。

 これで外に出ることができます。


「同じことを考えていただけだ」


 シャルティア先生と並びながら外へ。


 儀式場への道の先を見れば、ちらほら生徒の姿が見えます。

 当然、実施のために集まっています。


 儀式場で実施試練を行う理由。


 源素の見えない生徒たちにとって、周囲の状況や雰囲気、空気の流れなどから源素の種類を区別できないからです。

 公平な条件での術式実施は全ての源素が発生する儀式場で行うものです。


 騎士の試験ですらそうですから、この学園の【試練】も同じということです。


「お前の言うレギンヒルト試練官は『勝負事に躊躇がない』だったな。常に全力で相手を倒そうとする。恐ろしい話だ」

「倒すというほど攻撃的な術式を使ったことはありませんよ。自分のような相手には加重干渉をしてきますけどね。基本、防御中心で危害は加えないはずです。教会の教えでも無闇に傷つけることは良くないと教わるはずですし本来、争いは苦手だったと思います」

「いや、違うぞ。私が一番、恐ろしいと思ったのはな。『【試練】そのものが私たちとの勝負』と考える可能性だった」


 その場合、レギィは間違いなく現時点で最大難易度で全てのテストを作ったでしょう。


「それは今までの【試練】を見て、思い過ごしだとわかった。だがな、もしもこれ以外の『最悪の可能性』を考えた場合、私たちの目算は全てひっくり返るかもしれないぞ」

「わずか三十点でひっくり返る方法ですか……」


 一瞬でその方法が頭に浮かびました。

 どういう形式にするつもりかまでは予想できませんでしたが、最悪と思われる手法だけは理解しました。


 嫌な想像が頭を埋め尽くした時、自分たちは儀式場に到着しました。


 すでに生徒たちはクラスごとで固まっており、リィティカ先生やヘグマント、ピットラット先生、アレフレットも集まっています。

 いないのは学園長とレギィだけです。

 

「本当にやらかすと思いますか?」

「さてな。レギンヒルト試練官が真面な人間性を持っていることに賭けるしかない。世間一般の噂を信じるなら勝ちも同然なんだがな」


 ものすごく不安になりました。

 いや、無理です。安心できる要素が一つもありません。

 特に自分が絡む物事に冷静だった試しが一度としてあったでしょうか?


 まるで自分とシャルティア先生が現れるのを見計らったようにレギィは姿を現しました。

 学園の裏のドアからゆっくりと石畳の道を歩いてきます。


 やがて全員の前、ちょうど儀式場の縁に立つと生徒たちも自然、整列し始めます。


「これから術学の実施試練を行います。この【試練】が終わり採点がされ次第、【試練】の是非が試し終わったことになります」


 この時のレギィを見て、誰もが唖然と口を開けてしまいました。

 確かにドレス姿です。ただ、昨日見た白と青のドレスでもなく、今日に見た別のドレスでもありません。


 真っ白な神官服のようなドレス。

 修道士が髪をまとめるために被るウィンプルは、中央から大きく二つに分かれてレギィの白金髪を撫ぜるように広がっています。

 僧帽筋を隠すくらいの小さなマントのようなケープに、ふんわりと広がった白いティアードスカートはリィティカ先生のものとよく似ていますが、決定的に違うのが厚手の生地を使用としているということです。


 腰部分を覆うコルセットのような革防具。

 足と腕には純白の軽銀装甲付きの靴とグローブ。


 コンバットドレス――完全に戦闘を前提に作られたドレスです。

 

 そして最大の特徴は腰の革部のブックホルダーに収められた『中身のない金属の書物』です。


「なんだ、あれは」


 シャルティア先生が厳しい目つきでソレを見ていました。

 自分もソレを見た瞬間、総毛立つ気分でした。


 【未読経典】。

 思ったとおり外部部品でもある【未読経典】の『中身』……、軽銀製の板が従者によって運ばれてきました。

 プルミエールもいますね。


 軽銀製の板の大きさはちょうど学園に備えられた窓くらいでしょうか。

 それらが一つ、一つ、丁寧にレギィの後ろに置かれていきました。


 その尋常ならざる光景に生徒たちもキョロキョロとして落ち着きがなくなりました。

 【模擬試練】と違う、そんな声が聞こえてきそうです。


「術学の実施試練の内容は簡単です」


 あの術式具もまた教会だけが持つ不可思議な術式具。

 既存の技術では再現不可能な【神話級】術陣によって形成された術式具です。


 

「私を倒しなさい」



 瞬間、生徒たちがざわめき始めました。

 『そんなの無理だ』『相手は【タクティクス・ブロンド】なのに』『女性に剣を向けられない』などの声がしました。

 最後のはフリド君ですね。この野郎、誤るんじゃありません。


 相手はレギィだってことを理解しなさい。


「異議ありだ、レギンヒルト試練官!」


 シャルティア先生が一歩、前に出てレギィを睨みつけました。


「貴女と生徒たちの戦闘能力は天上大陸と大地ほどの差がある。そのような【試練】は貴女の口上で述べた貴族院に義務教育計画を挫く意思がない、という言葉と矛盾する。一度、誓いを述べておいて破るなど恥を知れ! 術学の実施試練の変更を要求する!」


 シャルティア先生は声高に宣言しながら、レギィの態度を批難しました。

 

「シャルティアさんの言う、宣誓を破ることにはなりません」


 レギィもまた絶対的に正しいという姿勢を崩しません。


「ここに規約を設けます」


 一つ、レギィの行動の禁止。

 足元に描かれたスカート程度の円状の線からわずかでも出るとレギィの負けです。


 一つ、レギィからの攻撃術式を禁止。

 攻撃に類する術式は使えないということですね。これも破った瞬間、レギィの負けです。


 一つ、上級以上の術式の禁止。

 上級に類する術韻と術陣を禁止し、これも破ればレギィの負けです。


 この三つの条件は自分でもかなり厳しいものです。

 自分だったら総合的に上級に位置する【獣の鎧】関係の強化術式禁止、下級の防御術式のみ、軍用格闘術禁止、ハッキングももちろん禁止、行動制限あり、くらいの条件です。


 これで生徒を相手にするのはちょっと厳しいですが、倒せないわけでもありません。

 少なくとも三十位名中、二十九名は倒せるでしょうね。

 リリーナ君だけはちょっと難しいです。あの子は可能性があります。


 そして最後の条件。


 レギィの相手をするときはクラス単位であること、です。

 チームでレギィに挑め、ですか。


「これらの条件ならば学園生徒でも私を打ち倒す可能性があります。シャルティアさん。これほどの有利な条件を与えられておきながら、貴女は貴女の育てた生徒を信用できませんか?」

「……ならばその術式具はなんだ。仰々しい」

「私も戦い慣れているというわけはありません。私は【タクティクス・ブロンド】の中でもっとも戦闘経験がなく、戦闘行使力も低いという自覚があります。メルサラさんのようにはいきません。ですから最低限、女性として自らの身を守る術は持っておきたく思います」


 シャルティア先生は厳しい顔のまま、レギィと睨み合っていました。

 しかし、これはどう見てもシャルティア先生に分が悪い。


 正直、ここまで弱体すれば生徒たちにも可能性が見えてきます。

 いえ、見えるように見える、というべきでしょう。


 チームであってもレギィに勝つのは厳しい――いえ、不可能でしょう。


 【未読経典】がどれほどとんでもない術式具か知らない者が多すぎます。


「また採点も変更があります。個人での採点ではなく全体の採点とします。どのクラスでも一つのクラスが勝てば、全員に30点を入れます。生徒全てです。そちら側に有利な点は多く、公平な試練だと思われます。もちろん、生徒側は術式を意識しなくても良いこともここに明言します」


 最悪の可能性がここで現れてしまいました。


 シャルティア先生が恐れていたもう一つの最悪は0か30の極端な採点方法です。


 たった一問しかなければ。

 勝つか負けるかしかない勝負なら当然、得るか失うかしかないのです。


 もしもどのクラスもレギィを倒せなかったら、多くの生徒が術学の【試練】に落ちることになります。

 何せ術式の合格ラインは六十五点ですからね。

 ついでに筆記は七十点しかありません。マイナス三十点は不利です。


 そうなるともうあと二教科落とせば不合格です。

 セロ君やティルレッタ君のように体育が絶対的に苦手となると、ただの不利でしかありません。

 総合点数も四百点ではなく実質四百三十点が合格ラインになるのも同じです。


 ここで引き下がるのはまずい。

 最悪、二十四名の合格ラインを割る可能性があります。


 それだけは阻止しないと。


 この中でレギィの能力をよく知っているのは自分だけです。

 そして、レギィの後ろに積まれた軽銀板は全部で十五枚。


「待った。レギンヒルト試練官」


 自分もシャルティア先生に倣って、一歩前に出ました。


「どうしましたヨシュアン」

「それらの条件は問題ないとしても戦闘経験が少ないという自覚がある、ということは生徒たちがレギンヒルト試練官を相手にしてちょうどうまく勝つ――つまり、生徒の実力に合わせた正当な【試練】であると誰が判断したのですか?」

「もちろん私です」

「戦闘経験が少ないということは相手の力量を見定める技術もまた低いということです。公平を期すためというのなら、レギンヒルト試練官だけの意見を採用するのではなく自分の意見も採用していただきたい。現状では生徒側がまだ不利です。レギンヒルト試練官にさらなる条件を追加要請します」

「わかりました。どのような条件を加えますか?」

「【未読経典】の枚数を五枚に減らしてください」

「……十枚ではいけませんか?」

「五枚です。でないとブレスレットを引きちぎります」


 このブレスレットがなんなのかまではわかりません。

 ですが、なんとなくレギィにとって大事な何かがある、ということくらいわかりますよ。

 プレゼントを大事にするレギィならプレゼントをする方にも贈り物を大事にして欲しいと思うはずです。

 少なくともレギィにとって金貨一枚の価値があるブレスレットを壊せば、さすがのレギィも考慮せざるをえないでしょう。


 何せ、ブレスレットに執着しているのは自分ではなくレギィです。


 しかし、自分の想定とは裏腹に瞬間、ざわりと生徒たちが騒ぎ出しました。

 え? あれ? なんで皆して『ありえない』みたいな顔をするのでしょうか?

 ヘグマントは『戦士を称えるような目』で、アレフレットは『非常識の塊を見るような目』でした。


「ダメですぅ! ヨシュアン先生ぃ!」


 加えてリィティカ先生には現在、右あたりから教鞭でペチペチとやられています。

 問題ありません、幸せです。


 でもセロ君がものすごい目でこっちを見てる、ちょー見てる。

 こ、こえぇです。


「お前……、いや、そうだったな。こっちはこの覚悟だ。どうするレギンヒルト試練官!」

「シャルティア先生までぇ!」

「我々は教師であり、『正しい知識を広める者』だ。誤った知識を持つことが許されない身であることはレギンヒルト試練官も重々、承知の上だろう! 私はいつでも是正の準備がある!」


 レギィの細い眉がピクピクと動いていました。


 よくわかりませんがシャルティア先生がここぞとばかりに攻め立てていて、どうやらレギィにとっては言われたくないことであると推測します。

 ついでにリィティカ先生が「ダメですよぅ、いけないんですよぅ」とシャルティア先生の腕を掴んで揺さぶっていました。


 確かに金貨一枚は惜しいですね、自分も。

 身の危険でもない限り、使いたくない金額です。

 さすが博愛の女神は物を大切にするという物質への愛にも満たされているようです。もう森羅万象が女神リィティカの愛でできているんじゃないでしょうか。


 女神の加護があるのなら、押し切れるはずです。


「というか十五枚はありえません。魔獣の群れとでも戦うつもりですか? 五枚ならギリギリで生徒が勝てる見込みがあります。この見立ては公平であり、正当であることを誓約神パルミアの名の下に誓います」


 魔王と戦う勇者のような気分のまま、言い放ちました。

 えぇ、負ける気がしません。


 誓約神パルミアの名の下に誓うということは誓約の下で正しく履行する時に使われる文句です。

 もしも破れば名誉や信用性といった目に見えないものを失うとされます。


 所詮、口約束ですが神様がいるかもしれない世界で口にすれば、どうなるか。

 少なくとも誓約された内容や信用性を神様が担保してくれますし、この見立ては間違いないものです。


 五枚なら、おそらくなんとかなるはずです。


「……わかりました。五枚にします。代わりにヨシュアンはそのブレスレットを絶対に身から離さないようにしてください」

「構いませんよ」


 ここで生徒たちが「お~!」と囃し立てた声をあげました。

 だから、なんなんです、その反応。


「絶対ですからね、絶対ですよ! それと誓約神に誓いましたね、間違いなく誓いましたね?」

「えぇ、誓いましたが」


 何故でしょう。冷や汗が止まりません。

 自分は今、生徒のために魂を売ったのではないかと思っています。


 やばい。生徒たちが【試練】中なのに色めき立っています。

 まるで祝福するような、安心したような顔を生徒たちがしていました。


 セロ君なんか、ほっこり、といった顔で頷いています。


 自分は今、深い穴に閉じ込められた気分です。

 あ、よし。もしも何かあったら【ウルクリウスの翼】で大陸を出ましょう。決定です。


「それともう一つだ。我々のクラス、学園生徒には明確な序列がない。クラス全てが正しく同じ立場にある。戦闘の順番はこちらで決めさせてもらうぞ」

「構いません。決まり次第、お教えください。生徒たちも準備が必要でしょう」

「聞いたか、生徒諸君。個人の防具を持つものはすぐにでも管理人より武器と防具を受け取ってこい。無い者はピットラット老に続け! 借り出しの武器と防具がある! 見事、討ち取りあの高慢ちきに一泡吹かせてやれ!」

「シャルティア先生、レギィのこめかみがピクピクしてますから止めてくださいませんか?」


 よほどストレスだったんでしょうね。

 シャルティア先生にとってのレギィは。


 そして嬉々として走り出したのはクリスティーナ君とマッフル君でした。

 その行動に釣られて生徒たちも武器と防具を取りに行きました。


「あとレギィも武器と防具が必要な【試練】なら先に言ってください。準備の時間に手間がかかるでしょうに」


 背後に満開の花々を背負ってにっこりするんじゃねぇです。

 ごめんなさいしなさい。


 どうすればいいんでしょうね、この状況。

 むしろこんな【試練】をよく学園長が許したものです。


 海よりも深い声で自分はこう言いました。


「リィティカ先生、これが終わったら結婚してください……」

「もう知りませぇんっ!」


 意味なく死亡率の高い言葉を投げてしまいました。

 リィティカ先生も投げやりのような信託をくださりました。


 なんだかやる気のヘグマントと青ざめているアレフレットが初めて羨ましいと思いました。


2013/07/24 追記 -敗北条件-

生徒側への敗北条件を書いていなかったのでここに記載します。


『戦闘継続不可能な状態=押さえこみや気絶』『死』と『敗北宣言』の三種ですが実質『死』を除いた二種が敗北条件です。

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