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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第一章
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それはある日の朝から始まる人災

「人材は爆発だ!」


 自分が執務室のドアを開けた瞬間、部屋の主は叫んだ。


 机に足を乗せ、叫んだ格好のまま固まっているバカにため息をついて、それから周囲を見渡す。

 別段、部屋が珍しいからではない。


 むしろ見慣れた部屋だ。


 人一人が使うにしては空間的ゆとりに満ちた部屋は綺麗に整えられたテーブルやソファー、調度品のせいか遊びのある部屋に仕上がっている。

 間違いなく匠の仕業だ。


 もしもこの高級感あふれる部屋に違和感があるのなら、それはバカげた大声を上げて自分を迎えるバカしかいない。


「そうか。もう春なんだな……。頭のおかしいヤツの一人や二人、出てくるはずだ」


 自分はバカを放置して、二つしかない窓から庭園の様子を見た。

 春も近づきを報せるように、庭園の花々は咲き乱れている。

 はて、あの青い花の名前はなんだったか?

 食べられない花は覚える気がしない。


「おうおう、庭の花なんぞ見てよぉ。そんなに俺の言葉に感動したかヨシュアン?」


 偉丈夫。

 その一言で片付けられるようなこのバカはとても自分と同じ二十六歳とは思えない。むしろ、顔は歳より老けているのにガキみたいな表情を張りつけるせいか年齢相応だろうさ。


 調度品と同じく、見栄えのする衣服を着ていても派手すぎず、しかし存在感だけはしっかりと出せるようなコーディネイトは仕事中と考えれば十分、似合っていると言える。


 口には絶対に出さないがな。


「なんなら俺の素晴らしさと賛美と雄大さを兼ねたような激しいヤツで頼むぜ。そしたら、とりあえず笑ってやるから」


 豪快な笑みを浮かべるバカへと向き直りました。


「くたばれバカ王」


 ついに机の上にまで乗り始めたバカはあろうことか王だ。

 国の最高権力者でリスリア王国の民全てが仰ぎ見る王様という身分の生き物だ。


 あぁ、王様。

 実に嫌な言葉だ。


 その頭にバカの二文字が乗っかかると、なおのことだ。


「おま……ッ! 仮にも王に向かってバカとはどんな勇者だ!」

「それはお前が言っていい台詞じゃない」


 仮でいいのか、最高権力者。

 後、誰が勇者か。自分はただの職人だ。


「ふはは! だがもう遅いぞ! 国王侮辱罪でギロチン刑、確定だ! やーいやーい、独身のまま死にさらすが良い! 最期に言いたいことはないか友人として聞いてやるぞ、おおらかな気持ちでな!」


 国王が物語の魔王みたいな笑い声を出すのは如何なものか。

 古典的な命題みたいだが実際はただの暇つぶし以外の何者でもない。


「よし、わかった。受けて立とう」


 自分は両拳をポキポキと鳴らし、手のひらをゆっくりバカ王へと向けました。


「鈍重で退屈な近衛がやってくる前にアナタ様を最低五十回は殺せます。なんなら王城も吹き飛ばしますが如何しましょうかバカ王様」

「俺とお前の仲だもんな」

「そう言わず、高級宿でもちょっとお目にかかれない当店自慢のおもてなしをお楽しみください」

「心が城より超広い俺はお前の狭量なもてなしくらい軽く五十回は許してやるぜ」


 瞬足の勢いで日和やがりました。

 つまり、このバカはそういう生物です。

 ため息は短く、気分は深く落ちこんでいく。家に帰りたい。


「とりあえず机の上から降りろ。行儀が悪い」


 指と言葉で座れと指示すると珍しく素直に従った。


 単純に机の上に立っているのがつまらなくなっただけなのかもしれないが、自分はバカ王専門の生物学者ではないので理由は考えないでおこう。


「で、さっきの戯言は一体、なんだ? 人材派遣業ならいつもやっていることだろう」


 王の仕事なんて予算と人を分配することくらいで、後の雑事は人間関係とそう変わりないだろう。


「ふ……、聞きたいかヨシュアン」

「聞く気がなくなった。じゃあな」

「いいかよく聞け! そして腰を抜かして驚き腐れ!」


 お前が人の話を聞け。


「栄光なるリスリア王国――つまり、俺の国の未来をこの俺、ランスバール以下略様が俺らしく、昨今の国内事情やら何やらを憂う瞳で見据えてみたんだが聞いてるか?」

「あぁ、聞いてる聞いてる」


 最初の三文字から右から左へと流す。

 それくらいがちょうどいいのは長年の付き合いでわかっている。


「まぁ、戴冠から四年。俺の素晴らしいリスリア王国を改めて深く思慮してみたわけだ」


 戴冠から四年か。

 それだけの間にどれだけのことがあっただろうか。


 ちょっとこのバカの所業を思い出してみよう。


 何故か城下町の酒場でしこたま飲んで寝ているところを自分が毎朝、回収しに行ったり、どこぞのバカが吹聴した話を本気にした国民が健気に城門前に集まってきたので上空に爆発を起こして追い払ったりなどなど、その時の精神的苦痛まで思い出してしまい、もういっそこのバカを殺した方が早いんじゃないかと結論に到達したら、そりゃ機嫌も悪くなるさ。


 数秒でロクでもないと判断し、しかし、同時に沸々と沸き立つ怒りが記憶を止めてくれない。


 ようするにこうして呼ばれた時点でロクでもない話なのだ。


「いいから本題に入れ。お前と違ってこっちは自営業だ」

「なんでキレてんだよ。ワケわかんねーヤツだな。それに王様だって自営業だぞ。ちょっと血族経営で大集団なだけだがな」


 ちょっとどころか血筋でないと継承権がもらえない家はガチの血族経営だと気づけ。


「まぁ、アレだな。お前と出会った七年前と比べてだな、だいぶ良くなってきたとは思うわけだ。俺が君臨してんだから当然っちゃぁ当然だ」


 その分、周囲の苦労を慮る精神性を持ち合わせろ。


「でもなー、こー、物足りねーわけだよ、わかんだろ?」

「ベルベールさんを呼んでこい。話はそれからだ」

「お前な、なんでもベルベールに頼んなよな。あいつだって今、仕事中だぜ。オレのお付きだけが仕事じゃねーよ」


 諸悪の根源が良い感じに常識人ぶるな。

 主にお前のせいで専属以外の仕事をさせられてんだよ。


「まぁ、聞いていけよ。俺の壮大な計画をな。どこの国も商人は商人、剣士は剣士、貴族は貴族からなんか学ぶだろ」

「教育方法の話か?」

「そう言ってんじゃねーか」


 一言も言ってねぇよ殺したい。


「それぞれが親から子に、子はまたその子供に、手段はともかく受け継ぐ形で教育ってのは成り立ってんだろ。四則計算なら暇なヤツらがわざわざ教えてくれてやがる。教会か自治体の日曜学校か? それで世の中は俺を中心に回っている。ま、そんなとこだろ。もしかしたら秘密結社の悪党が俺様の偉大なる統治を邪魔しようと子供たちを洗脳しているかもな!」

「その秘密結社は後で玄関先に出しとけ。洗濯しておく」

「顔面真っ青になって素直に言うことを聞く素敵な手下に生まれ変わるってわけか。ちょうど切らしてる。残念だったな! それより今は俺の計画の話だ。こっちも近場じゃ済まねーぜ」

「帰るわ。またな」


 手をおざなりに振り、背を向け、


「リスリア王国は今、人材不足だ」


 足を止めてしまった。


「気になるだろ? 人が減った原因の一つならなおさらだ 」


 ため息を一つして、バカ王に向き直る。


「……聞いてやるよ。乗せられたわけじゃない。だがな、原因はお前もだ」

「つまり共犯ってわけだ。一緒に計画を盛り立てていこうぜ」

「いいから話せ。大衆酒場でゲロ吐いている姿を民衆に晒したくないならな」


 してやったりな顔にいつも振り回されるんだ。

 胃とか胸ではなく頭がムカムカしてくる。


「人材不足。特に優秀な人材が足りてねーんだよ。どこの部署もやれる人間をよこせとせっついてきやがる。どこに転がってんだよ、そんなもん。砂金集めじゃねーんだぞ。そこでだ、発想を変えてみた。優秀な人材を集めるんじゃねぇ。作ればいい」

「気の長い計画だな。それまでに頭をカッカさせた過労死寸前のヤツらになんて言うんだ? 自家栽培で自給自足しろとでも言うつもりか?」

「一年くらいならやれるんじゃね? 俺らもやったろ」

「北風が吹けば吹っ飛ぶようなあばら家な砦でな」


 実際、こういうことを言うということは過労死寸前の文官たちがすでに試算は済ませ、耐えられると判断したからだろう。


「ただな、面接に来るヤツぁできるから来てんだよな。そいつらはさっき言ったみたいにできるヤツから教わってんだ。ようするに絶対数が増えねーだろ、これじゃぁよ。育てんのも重要なんだが、そういう方面じゃねぇ。できないヤツが実は!? って感じだ。剣士の中にも金勘定のうまいヤツがいる。商人にも剣士をやれるヤツがいる。だけど、それをどうやって見つける? いちいち偶然に期待するのか? 激情家の女みたいにネチネチと過去まで遡って調べんのか? 俺の国に民は何人いる。五万と居やがる。そいつら全員の才能まで見つけてやれねーよ。なら、手っ取り早く白紙から育ててやれば絶対数が増えると思わないか!」


 身元不確かな、何を考えているかわからないような輩に重要な仕事につけさせるつもりか。

 いえ、そもそもがまるで世紀の大発見をした錬成師みたいな顔で豪語しているが、現状の教育不足を指摘して改善したらどうかと訴えたのは自分だ。


 ちょうど一年くらい前の話だったか。


 それを今更、ワケ知り顔で「どうだこれ!」と言われてもリアクションに困る。

 だが、少なくとも居るかどうかわからない伝説の竜を探しに行かれるよりマシだ。


 ありとあらゆる面倒事に目を瞑れば間違いではない。


 問題は迂闊に否定できないことだろう。

 話題を提供し、バカが鼻を伸ばすほどの話種を運んできたのは自分だ。

 人は大なり小なり矛盾を嫌い、自分も例外ではない。


「この俺には夢がある」


 バカ王はイスの上に立ち上がって腕を組むと、無駄に斜めの視点を意識する。そこには何もいないぞ? 幽霊でもいるのか?


「リスリア王国を世界で一番、俺の好みに仕立てるという壮大な夢だ!」


 天井が開いて、そこから紙吹雪が舞い散る。

 ご苦労さんです、暗部の皆さん。心の底から同情します。


「強く! 賢く! 正しく! 美しく! 楽しすぎる国だ! 特にこの楽しいの部分、超重要だかんな! 神々すら驚く俺の計画、無能じゃぁ務まらねぇぜ」


 いちいち民衆を鼓舞するように振舞われても、ここには自分と天井裏の暗部の人しかいない。


「いつか言ってたろ。一般市民に教育を義務付けるとかいう法律」


 そして、この切り替えの速さだ。


「名づけて義務教育推進計画案! 略して義務教育計画だ!」


 義務教育は国民に教育の義務を施す法律だ。

 知識を一般に公布することで今まで一部の特権階級しか知り得なかった知識、社会全体の知能指数をあげることによって個人の資産から職業選択の幅、文明の発展、様々な向上が期待される。


 特に個人の資産の増加が見込まれる場合、税に還元できるから施した分が確実に帰ってくる政策と考えてもいいだろう。


 国に不満がなければ、という但し書きこそつくが現状なら問題ないだろう。


 やっていることはともかくとして、この四年で一番、真面なことを言い出したよ。


 さて、考えどころだ。


 他国の間者や政権を転覆させようとしているバカをどうにかして押さえこめれば、十分、通用する計画だろう。


 一年か二年の短い期間で計画を遂行できれば、特に言うこともない。

 様々な特性を見極め、長所を伸ばすように育ててやれば即戦力は間違いないのだから。


 どうせ人が欲しい部署は両手の数では足りていないはずだ。

 人材を長所に相応しい部署に送れば、人材不足は解消される、と。


 育ちや過去の悪行、忠誠心等は起用するときにでも調べればいいとするなら、悪くない案だろう。


「文官はどれだけ我慢できるんだ?」

「最悪、三年は我慢させるぜ。誰が先に脱落するか賭けるか」


 三年は生き地獄か。ご愁傷様です。

 ただし辛いのは最初の一年間だけで後から楽になっていくだろう。


 これらの条件を頭の中で検討し、やはりというか一番の問題に辿りつく。


「実はもうすでに国務の机に叩きつけておいた」

「いつの話だ? 先々週か? 先週はオシオキで忙しかったはずだぞ」

「半年前」

「半年も前の事後承諾なんてされてもついていけるか。それにそいつはもう計画の段階じゃなく実務の段階だ。人員の首でも物理的に入れ替えたいと言うなら、騎士に言え」

「まぁーな。俺の計画だともう半分くらい終わっててもおかしくねーんだがな。アレだ。貴族院のヤツらが炉に入れた鉄みてーに真っ赤な顔で怒り始めてな、これがまたブッサイクでなぁ。服装以外に見るとこなかったぜ」


 思ったとおりの問題が起きていたか。


「問題ばかり起こしてお前は俺を過労死させたいのか。先週、国宝壊してオシオキされて、まだ懲りないか。死ぬか? 死んでみるか?」

「俺のかっこよさに国宝が耐え切れなかったんだから、しゃーねぇだろ」


 その国宝をちゃんと使えるように直したのは誰だと思ってる。

 図書院の最下層まで潜って資料を神話時代まで遡って修復まで漕ぎつける行為にどれだけ苦労をしたか。


「否決されたんだな」

「デブとチビとヘビにな」


 すぐさま心当たりのある貴族たちの顔が浮かぶ。

 貴族院の最後の砦、国の膿代表の厄介者だ。

 奴らもバカではない。


 いや、バカだったら自分もバカ王も苦労していないだろうな。


 義務教育がどんな影響を貴族社会に及ぼすか、即座に理解し、否定してきたのだろう。


「しかしな、俺は自分で作った料理を突き返されたらイヤでも食わせたくなる男だ」

「毒入りを勧める度胸には感服する。見習いたくないがな」

「井戸に混ぜるより十分、常識的だろ。法律を守ってんだからな。だから、こう言ってやったんだ」


 いつまでも立って聞いているのも難だ。

 対面のソファーに座り、足を組む。


「王の命令は絶対だと!」


 眉の付け根を揉みしだいて、ため息が漏れた。

 どこの暴君か。


「ついでに逆らうヤツは裸にして逆さ吊るした後、ごめんなさい百回しながらギロチンだ!」

「わかった。で、結局、認めさせたんだな」

「おう」

「その上で条件を出されたな」

「よくわかってんじゃねーか」


 簡単に言えば、剣闘士の決闘で片方に剣を、もう片方にフォークを与えるような話だ。

 こうなると試合にならず勝ちが決まってしまってしまう。

 見ている周囲もつまらないだろう。

 なのでフォーク側は一回、相手に刺したら勝ちにしてみるとどうなるか。


 勝利条件面で優遇措置を取ってバランスを調整する、それだけで不利な条件は相手にとって有利にすら変わるのだ。


「まずは結果を見せろっつーんだぜ? この状況でだ。あいつら頭の中に鶏小屋でも飼ってんじゃねーかと言ってやったんだがなぁ……、しつこくってな。流石に他の手前も考えると計画前に一段階、準備期間を置くことにした。ようするに計画が成功するための計画を作ったわけだ」

「初の試みで慎重になっても悪いことじゃない。言い出したヤツらは気に食わないが、言ってることは間違っていないな。ただ解せないのはお前だ。言えばいいだろ。やれってな」


 殺意を込めて睨むとバカ王は両手を広げて、肩をすくめる。


「あいつらはてめーらの財布にしか興味ねぇヤツらだが、それでも俺の国民だぜ。ついでに人材不足の中でポンポン人を減らされても敵わねーよ」

「わかった。続きを聞かせろ」


 いっそ殺してやった方が早いと言えないな。

 アレでも貴族の代表だしな。


「おう。正直な話、光り輝く俺でも教育のことはよくわからん。やるからにゃ利益も出したい。なら、うってつけじゃないかってな流れだ。そこでお前の出番だ」


 今までの話で仕事の範囲がわかる人がいるのなら、そいつは事業でも始めたら良い。

 大商人も夢ではない。


「この件でお前をどこに置けばもっとも使い潰せるか星詠に占ってもらった」


 国の行く末を占う最高占術師に何をさせてんだよ。

 星詠さんも断ればいいのに……、もしかしてノリノリでやったの? もしかして、やっちゃったの?


 滅びればいいのにこんな国。


「そしたら結果はなんて出たと思う」

「王付きの道化師じゃなければなんだっていいさ」

「ずばり教師だ!」

「アホか。あ、いえ、バカの方でしたね。申し訳ありません」

「丁寧なのに言ってることは辛辣すぎんだろ!」


 教師。

 あろうことか自分を指差して教師!


「アホか」


 感想が口から漏れてしまった。


「俺は適職だと思うぞ。お前は義務教育とやらを肌で感じて、経験したことがある男だ。そのうえ、面倒見はいい。知識も経験も豊富。術者としての腕もある。若いし、体力もある。そしてすぐ怒れる」


 怒れるは余計だ。誰が何のために怒っていると思っている。自分のためだよ。


「却下だ、却下。誰が誰に物を教えるって? お前一人だって手が余るっていうのにガキの世話なんかしてられるか。平定して四年だぞ。たったの四年だ。そこら中を見てみろ。傭兵くずれが盗賊紛いで末端の農村を襲ってるような世の中だ。騎士団の大巡回 と地方領主の私兵でどこまで抑制できてるんだ。手が足りないのはわかる。人材が少ないのもな。だったら問題の方をどうにかしてやればいいだろう。何のために自分らが居るんだ? 『どうしようもない連中を力づくでどうこうしてやるため』だろ」

「あのなぁ……。いつまでも個人に頼ってどうすんだよ。もしもお前が死んだりした後はどうすんだよ。二十年後、三十年後はどうすんだ。お前だっていつまでも現役じゃねーよ。お前みたいな人材、そこらに転がってねぇんだぞ。大体、その個人が間違ってねーなんて誰が保証してくれんだ。だから、いっそ後継者を育ててみるつもりで」

「断る」

「最後まで聞けよ! 早ぇよ決断が!」


 何が言いたいかと思えば、そういうことか。

 ソファーから立ち上がり、もう二度と聞くつもりはないとドアノブを握る。


「ふざけろ。ガキに教えていいもんと悪いもんがある」

「ふざけてねーよ。学習要綱っつー教える範囲もある」

「そのイカれた頭を洗濯してから出直せ。そしたら拳で追い返してやる」


 背中から盛大なため息をつく音がした後、何やらガサガサと紙の鳴る音がするが無視だ、無視。


「ヨシュアン」


 一歩、部屋から出たとき、また声をかけられた。


「くどい」


 いっそ頭の底から痺れさせてやろうかと思い、振り向いた室内でバカ王が羊皮紙を見えるように広げていた。

 羊皮紙の一番上に描かれたバカ王直筆の命令書。

 その意味を理解した自分の顔は間違いなく、歯を食いしばって歪んでいただろう。


 一方、バカ王はこっちの煩悶なんてお構いなしに笑顔でこう言い放った。


「やれ」


 この時、自分の中で何かが綺麗に切れる音が鳴り響いた。


追記※王様でくじける人が多いとのことで2014/05/10に二話の全面改装を行いました。

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