何げにダメージ入ってる
マッフル君は【教養実習室】に入ってくると、すぐにカーテシーをしましたが顔が真っ赤です。
「恥ずかしいんだからジロジロ見ないでよ」
「いえ、ちゃんとできてましたよ。だから恥ずかしがる必要はありません」
「そーじゃなくって。あたしっぽくないじゃん。こんな女の子っぽい仕草とかさ」
その割には制服を一番、魔改造しているのはマッフル君ですよね。
「しかし、ここはあえて女の子扱いしてあげましょうマッフルお嬢様、どうぞこちらですよ?」
「うっわ。鳥肌ヤバイ」
ガチで嫌がらなくてもいいじゃないですか。
「ヨシュアン。女の子の嫌がることをしてはいけませんよ」
何故かレギィが指先をピンと伸ばしてお説教モードに入ろうとしていました。
自分より教師っぽく見えて、ちょっと凹みました。
「だから、そういうのを止めてって言ってんじゃん」
レギィにも噛みつく、噛みつく。
マッフル君はレギィのことはあまり気にしないみたいですね。
「大体、先生と試験官さんってケンカしてたんじゃなかったっけ?」
そういえばマッフル君は一部始終を見ていたんでしたっけか。
「ケンカではありません。強いていうならすれ違いですよ」
「ふーん、仲直りしたわけ」
「先生のことはいいので、マッフル君は己のことを考えるように。内源素を吸われるので少しフラつくかもしれませんが気をしっかり持つように」
今までと同じようにレギィがマッフル君の肩に触れ、源素の波紋を流します。
『十二の寓意』に映し出された光景は、すこし不思議な光景でした。
野火、というべきでしょうか。
たくさんの人型らしきものが木桶を持ち、近くの河から水を組み、野火を監視している光景です。
全体的に真っ赤ですが、野火が放たれている枯れ野原は全て黄色です。
「へぇ、なにこれ?」
「枯れ野原を田畑に変えるために計画的に放たれた炎。その炎を制御するための水を用意している――そのことから【野火の赤】の中でも素晴らしい制御感を示しています。特に秀でているというわけではありませんが多くの赤の適性を持つ者は己の適性の激しさに身を焼く経験をしたことがあるでしょう。しかし、内面の炎をちゃんと管理しようとする光景は滅多にあるものではありません。そんな貴方の寓意は『放たれた燭台守』」
「どういう意味?」
マッフル君が微妙な顔で聞いてきました。
一山いくらと言われながらも珍しいとも言われたのですから、マッフル君も困るでしょうね。
それにマッフル君はこれが初体験ですからね。
少し説明しないといけませんね。
「ようするに【適性】自体はよくあるものだということです。ただそうした【適性】をちゃんと管理できる心があり、努めることができるという意味です。光景からは赤と黄の源素に【適性】があると見ていいですか?」
レギィに尋ねると小さく首を縦に動かしました。
「そして寓意の『放たれた燭台守』は少し曖昧な言い方になります」
そして自分の言葉をレギィが引き継ぎました。
「それでもいいから教えてよ」
「燭台守は職務に忠実です。その職務から解き放たれても彼らは職務に励んでいた時と同じ規律を守ろうとします。そうした自由の中でも自己に律することができる。自分をわきまえ、しかし同時に分以上の事柄にひどく臆病です。自由の中で一歩、踏み出す勇気を持つことを示唆する。それがマッフルさんの心の一部、その両面です」
「なんか占いでも聞いてる気分」
「占いみたいなもんだと思ったらいいですよ。良かったらそれで良し。悪かったらまだまだだと思えばいいんです」
「ふーん、でも面白かった」
元気よくイスから飛び降りて、ちょっとフラついたので支えました。
「気をつけるようにと言ったはずですよ」
「ちょっと忘れてただけじゃん」
その態度から、本当に抑制の意味がある寓意の持ち主かと疑いたくなります。
マッフル君が扉を抜ける時に、
「エリエス君に入ってくるように伝えておいてください」
次のエリエス君へと言付けておきました。
すぐ傍の教室で待機させていますからね。
特に言う必要はなかったのですが、一応ですね。
すると扉から顔だけ出してマッフル君がニコリと笑います。
「仲直りできて良かったじゃん」
「君もクリスティーナ君と仲良くしてみたらどうです?」
すぐにベーっと舌を出して、引っ込んでしまいました。
これまた、ため息しかでませんね。
「子供たちの目があるのでしたね」
レギィも困ったような顔をしていました。
たぶん、今、自分とレギィは同じようなことを考えています。
「朝にシャルティア先生が言っていたのはこういうことなんでしょう」
柵だの庭だの色々なことを言っていましたが、自分たちの至らないところを示唆していただけなのです。
自分とレギィの間には柵がある。
たくさんの柵と縛る鎖のようながんじがらめの有象無象が。
その柵で生徒たちの自由な庭まで囲ってはならない。
もしもその自由な庭に柵を作るのは生徒たち自身なのですから。
「大人力ってどうやってあげるか知ってます?」
「知っていたのなら、こうして鑑みることはなかったのでしょう」
何事か深く考えを馳せる間もなく、次のノックが響きました。
急いで『十二の寓意』の砂を戻すと同時に、エリエス君が入ってきました。
他の生徒たちと同じようにカーテシーをしたエリエス君はあっさりイスに座り、じっと『十二の寓意』を見つめていました。
「これが人の心象風景を見る術式具ですか?」
「そうです。そして君たちの適性はちゃんと先生たちが記述して残してありますから、この計画が終わった後でも【大図書院】に問い合わせれば、いつでも知ることができます。証明章ももらえるので就職にも有利です。ですが、さすがに絵までは残せないので、もしかしたら自分の心の絵を見るのはこれが最後かもしれません」
あとは王都の神殿か、各都市の教会、法国に赴くか。
どれにしても旅と呼んでいいくらいの日数がかかるでしょう。
「……わかりました」
ものすごく興味深そうな瞳でしたが、しかし、同時に何かを恐れているかのように近寄ろうとしない、そんな空気を出していました。
もしかして緊張しているのでしょうか。
何を考えているのかわからない子ではありますが、初めての経験を怖がるくらい人並なところがあったと胸をひと撫でするところでしょうか?
「肩に触れます。気を楽にしてください」
そういってレギィが触れようとするとビクリと肩を震わせました。
レギィも一瞬、触るのをためらいましたがゆっくり指先からエリエス君に触れて、肩に手を置きました。
エリエス君は触られるのが嫌いみたいですからね。
ですがこれも授業の一環と理解し、我慢してくれるのでしょう。
これでエリエス君の【適性】が測れます。
問題ないと高を括った自分ですが、そんな考えとは裏腹な事態が起きました。
『十二の寓意』に絵が表れない。
一瞬、レギィと目を合わせました。
『十二の寓意』の絵が出ないなんてことはありえません。
これは心があるのなら当然です。
もしも出ない者がいるのなら、それは『心の一部を【扉】に捧げた術式師』……、【タクティクス・ブロンド】くらいです。
「少し強く流します。エリエスさん、気をしっかり持ってください」
ゆっくりと黄色い砂が震え、砂の表面を覆っていくのを見て内心、ホッとしました。
単に心象風景が心の奥深くに眠っていたか、【リジルの脈金】を覆う源素が強かったかのどちらかだと思います。
さて、謎に満ちたエリエス君の心の奥底はなんでしょうね。
全ての色がぞわりと動き、カラフルな光景を作り出しました。
しかし、色彩よりも楽しそうなものではありませんでした。
四方、そして天井までビッシリと敷き詰められた本棚と本。
地面だけが何の変哲のない石畳……、その中心にはポツンとイスだけが置かれた寂しい空間。
全体的に黄色がかっているのが、妙に哀愁を誘います。
「ヨシュアン、少し手伝ってください」
レギィが苦労するほど深い【適性】持ちだということは絵を見てわかりました。
おそらく万能適性、自分と同じです。
自分はそっとメガネを外して、胸ポケットに納めながら『眼』の出力をあげます。
「レギィは【リジルの脈金】に焦点を合わせてください。源素操作で邪魔な源素を弾いていきます。エリエス君はもう『十二の寓意』から手を離していいですよ。代わりに先生の手を握ってください」
両方の手のひらを開いて差し出すと、エリエス君は黙って手を乗せようとして、一瞬、止まりました。
我慢してレギィの手を受け入れているのに、それ以上の我慢を強いることになるのでしょう。
「エリエス君。この手は――」
血みどろの手ではありますが、決して誰かに触れさせるような手ではありませんが。
「――君たちを助けるためにあるものです。決してエリエス君が触れてはいけないものではありません」
今、この瞬間だけは聖水に身を焼き尽くされようとも、死した後に嘘つきと舌を抜かれようが、穢れないものであると言い張らなければなりません。
全ての欺瞞、その反吐が出そうな自分勝手さすら、おくびに出さないままで在らねばなりません。
自分勝手な願いではありましたが、どうにか願いが届いたようでエリエス君は手を乗せました。
その無表情が妙に安心したように見えたのは気のせいでしょうか?
もう源素を『十二の寓意』に流す必要はありません。
それにこれ以上はエリエス君も耐えられないでしょう。
エリエス君の心臓。
【源理世界】から見る人の姿は極彩色の朧のようです。
人の形をした濃い霧、というべきでしょうか。
出力を抑えれば【源理世界】でも人の形や動物の形はわかりますが、こうして出力をあげると人の内源素に焦点が合うようになります。
霧の中心、心臓部――【リジルの脈金】は勾玉状に歪曲した花のような形をしています。
鼓動の音に合わせてグルグルと回転流を停めようとしません。
停まったら危険ですけど【リジルの脈金】を膜のように覆う内源素はある程度、弄っても別に問題ないのです。【リジルの脈金】を守るためにある膜で、ごくごく自然に開いたり閉じたりします。
波形を流し、源素操作によって膜を震わせ、穴をあけます。
穴からハッキリ見える【リジルの脈金】は輝くような白さを放っています。
このまま見ると白属性に適性があるように見えますが、『十二の寓意』は全色を写しました。
複数の源素が相乗しながら重なり、白っぽくなってしまっただけでしょう。
レギィが流す波形に震え、そっと花開く【リジルの脈金】から強い黄色の輝きが確かに見えました。
「エリエスさんが持つ【適性】は私が視てきた何よりも強く、そして輝かしいものでした。吹き荒ぶ嵐も、凍える吹雪も、照りつける強い日差しなどの荒々しい力の何もかもが貴方の【適性】の前では調和し安定し、沈静させるたおやかなる力です。【聖殿の黄】。黄属性に【適性】がありながら、他のどの色にも対応できる【適性】です」
「万能属性ですね。すごいじゃないですか」
エリエス君はじっと自分を見ていました。
何かおかしなところでもあるのでしょうか。
「先生の目の色は琥珀のような黒です」
「……あぁ、そうですか? よく黒曜石とは言われますが」
言われ、すぐにメガネをかけました。
さっき出力を全開にしましたしね。念の為にです。
別にメガネで隠しているつもりはないのですが。
「ですがエリエスさん。貴方の天性の【適性】であっても、貴方の心はとても小さな世界で完結しています。その心の寓意は『盲目の賢人』。鍵のかかった部屋から世界を予測する賢人は、ゆえに広い世界の色を知らないのです」
「それはいけないことですか?」
「いいえ。でも、この風景に」
レギィは『十二の寓意』の絵に源素を集めます。
一人立つイスの傍に小さな花瓶と花が一輪、添えられていました。
「こうして、一つ加えるだけでどう思いますか?」
「特に何も」
「柔らかくなったような気がしませんか?」
「そうかもしれません」
そう言いながらもじっと心象風景を見ている瞳は何かを汲み取ろうとしています。
今までのエリエス君ならその言葉はそのままの意味でしたでしょう。
ですが求めの形、そうした部分は知識ではなく感性であり、決して解のない答えだと教えました。
その教え通り、知識ではない何かで知ろうとしています。
「先生はどう思いますか?」
結局、わからなかったんですね。
「そうですね。女の子なのだから花の一つ、あったほうが可愛いと思いますよ」
「それは性的にですか?」
「違います」
反射的に頭を叩きそうになりましたが、自重しました。
冗談でなく本気で聞いているからなのもありますが、絶対、これもシャルティア先生の影響だからですちくしょう。ドちくしょう!
「わかりました。ありがとうございます」
イスからゆっくり降りて、少しフラついたのを自分が支えました。
「……ありがとうございます」
触れてる部分をチラッと見てから、少し意外そうな眼で見つめてきました。
さっきの接触で慣れたのかもしれませんね。
今なら頭くらい撫でさせてくれる……かもしれませんが、止しましょう。
「先生、お願いの件は?」
お願い……、あ。
『眼』の件ですね。ちょうどレギィがいるので聞いてみましょう。
「レギィ。エリエス君が『眼』を使いたいそうなのですが、どうにかなりませんか? 今は少しまずいですが、【試練】明けくらいに」
「……わかりました。幸い【適性】も強いものですし、私一人でも『眼』を刻むことはできます」
「なので【試練】明けですね」
「わかりました」
時期がわかったから安心したのか、すぐにカーテシーをして出て行くと次はセロ君ですね。
砂を戻し、セロ君を待っていると――
「お願いしますであります!」
「ちょっと待ちなさい」
――入ってきたのはリリーナ君でした。
片手を上げて堂々と、とても元気ですねこの不可思議生物。
「なんでありますか?」
「順番的に次はセロ君でしょうが。後、カーテシーなさい」
「細かい男は嫌われるでありますよ」
うるさい、と思いましたがそのセリフ。
どこかで聞きましたね。いえ、今まで言われなかったつもりはありませんが、つい最近です。
思い出せないのでとりあえず棚上げです。
リリーナ君はくるりと回って片指のカーテシーを披露しました。
まるでショーサーカスの支配人みたいに見えなくもありませんね。
「略式なんてどこで覚えたんですか」
「女は秘密でいっぱいであります。ポケットは甘いものがたくさんであります」
「太りますよ?」
ピットラット先生に限って……、と思いますが、略式を教えない理由もないので黙りました。
「早く答えましょう。さもないと……」
「セロりんはちょっと緊張してるからリリーナが先に入ったであります」
セロ君は一度、調べてもらってわからないと言ってましたね。
そのせいで緊張してしまったのでしょう。
見かねたリリーナ君が順番を飛ばして入ってきた、というのはわかりやすい図でした。
「わかりました。終わったら心配しなくても大丈夫だと伝えておいてください」
ポンポンと頭を撫でると、してやったりな顔をされました。
なんかムカつきますね。
今までの生徒同様、イスに座り『十二の寓意』を触らせましたが、どうなんでしょうね。
人種で差別するつもりはありませんが、エルフが【適性判断】をしたというのは結構、例がない気がします。
「法国では実例もあり、特に問題はなかったと聞きます」
聞きます、ということはレギィも初めてということですか。
心配とは余所に、『十二の寓意』は予想通りの色に染まりました。
エルフがもっとも得意とする緑属性、つまり緑色の絵です。
それは森の一部を切り取った絵でした。
自分たちが森の少し奥へ行くとよく見るような、苔の生えた岩や垂れ下がるヤドリギ、腐葉土や所狭しに生きようとする葉叢――そこには人の手入れはなく、人の影すらなくとも賑やかな感じがします。
今にも風が葉を乗せて、ゆらりと肩に落ちてくるような。
そんな躍動感に溢れた砂絵でした。王都の美術商にでも売ればお金になりそうなくらいです。
「さすがはエルフですね。とても鮮やかな【森林の緑】でした。緑の源素との相性は学園でも一番です。生命の環と生気が満ちる森はとても穏やかな風を運び、生きる者に恵みを与えます。この【適性】を象徴する寓意は――」
褒められて嬉しいのはわかります。
でもねリリーナ君、話の途中でどや顔するの、やめてくれませんか?
「『連なる放浪者』。無自覚で無目的で、とにかく奔放に歩き回りながら種を撒く姿は人々に自由の素晴らしさを教えるでしょう。しかし、奔放であることと無目的であることはしばしば守られることもない恐ろしさがあります。自由であることは同時に重たい鎖であることを忘れてはいけませんよ」
「わかったであります?」
わかったのならクェッションマークを浮かべないの。
話の半分も聞いてないでしょう。
「とりあえず人の話は聞きましょうということですよ」
「聞いてるでありますよ。聞いても従うかどうかは別問題であります」
無性に頬をつねりたくなりますね。
心象風景にまで気質が現れているというのはどうしたものでしょうか。
【空魚】みたいにフラフラしてるところがありますからね。
将来が一番、心配です。
話が終わるとすぐに出て行ってしまうあたりエリエス君とどこか似てますね。
「すぐに入ってきて、すぐに出て行く。それはおそらくセロさんのためでしょう」
「なんてことはない、そう伝えたいんでしょう。言わなくてもわかりますよ」
そのくせ、誰よりもクラスメイト想いなのだからどうしたものか。
扱いに困る不思議生物です。
「さて、場合によってはセロ君を迎えに行きたいと思います」
蓋をして砂を元に戻す。
この作業も面倒ながらも慣れてきました。
セロ君が怖がっている。
それはおそらく一度、【適性】の判断に失敗したからです。
今度もまたそうではないか、という考えは非常に恐ろしい。
何せ、これ以上の失敗を侵すかもしれないからです。
そのあるかないかの疑心に囚われて、失敗することなんて日常でもよくあることです。
学ぶ生物だからこそ、二度目の失敗を恐れて当然です。
実際、失敗したのはセロ君を視た神官なのですがね。
ましてや怖がりで臆病なセロ君です。
自分の足でこの部屋に来ないかもしれません。
ですが、そう確信しているのと同じくらい自分は理解していました。
セロ君なら自分の足で立ち向かえると。
怖がりで臆病で、だからこそあの子は強くなれる。
身体は強くなくても、心だけは強く在れる。
ノックされる扉の音。
ほら、期待通りに。
そして、すぐにバタンと開くと放り出されるセロ君――え?
「グチグチ言ってないでさっさと入りなさい!」
扉の向こう側からクリスティーナ君の声がしました。
あ、あの子は……、どうしていちいち自分の予測を覆したいんですか。
まさか強制で入ってくるとは思いませんでした。
ちょっとつんのめったまま部屋に入ったセロ君はすぐに逃げようとして扉にしがみつきました。
でも、外で扉を押さえつけているのかセロ君が叩いたところではびくともしませんでした。
「ぁぅ……」
しょぼんとしているセロ君。
すぐに自分に気づいて、トコトコと走ってきました。
「せんせぃっ」
セロ君なりの全速力で遠慮のない抱き突きが腹部に命中しました。
ぐ……、久しぶりだったので対応に遅れました。
絶対命中、防御無視の一撃なんて【戦略級】術式レベルじゃないですか。
「ようこそ、セロ君……、先生は痛いほど待っていましたよ?」
実際、痛いのは腹部と衝撃で開きかけた脇腹ですけどね。
こんなコントで死んでたまるか。
「待っていましたセロさん」
「はぃ、なのです」
レギィも腰を屈めて笑顔を浮かべると、セロ君はニコリとしました。
あれ? セロ君はものすごく嬉しそうです。
もじもじして顔が真っ赤で、しかも自分とレギィを交互に見ています。
怖くて緊張していたわけではなかった?
となると一体、何に緊張していたのでしょうか。
促されるままイスに座り、『十二の寓意』に触れるセロ君。
始まりの合図と共に流れる源素の波形。
そして『十二の寓意』が真っ白に染まり――その色を視た瞬間、自分は気づきました。
今まで原理が分かっていても、どうしてなのかわからなかった事象が全てピタリと当てはまりました。
ちくしょう、そういうことか。
嬉しそうなセロ君には絶対に見せられない顔を自分はしてしまいました。




