森を歩こう
こうして後ろから生徒たちの動きを見ていると、よく動いていると見るべきでしょうか。
しかし、ぞろぞろと考えなしに動けたのは最初まででした。
奥に行くにつれて木の葉に光量が遮られていくため視界は悪く、木々も増えていくので視野は狭くなっていきます。
湿り気のあるコケや落ち葉は足元にびっしりこびりついていて、気を付けないと滑ってしまうでしょう。
現にクリスティーナ君が二回、ティッド君とフリド君がそれぞれ一回、転んでいます。
足元に注意を払おうとすると自然、歩くスピードが落ちてきてます。
今や最初の頃の勢いなどなく、森が深くなってからというものスカウト役のティッド君が警戒してから足元に注意して進むという行為を繰り返しています。
「早くしないと陽が暮れますよ」
「ううう、ううるさいですわね! 森の中なのだから当然ですわ!」
クリスティーナ君も遅々として進まない行軍にイラだちを顕にしてますね。
クリスティーナ君もメルサラと同じく導火線が短いですからね。
森の中は視界が悪い。これは当然です。
リリーナ君のように森に慣れていないうえに本格的なスカウト経験が不足しているティッド君では、やはりというか粗い部分や危険域のクリア速度が遅く、致命的な失敗こそないですが小さな失敗が多いですね。
主な失敗は、音を立てる、相手がいるだろう場所を調べる時に見える位置に立つ、報告が不明瞭、などです。……スカウトに抜擢したことを後悔し始めました。
先頭に立ち、きょろきょろと頭を動かしているのを見ると心が穏やかになりますが、生徒たちからすれば心穏やかではないでしょう。
自分たちの生命をティッド君に託しているのも同じなのですから。
「大丈夫。近くに原生生物の気配はない……、と思う」
自信なさげなティッド君の報告に皆で小さな吐息をついたことがわかります。
こうしている間にも時間はどんどん減っていくという悪循環。
1時間で進めた距離は、小休止が予定されていた小川までたどり着けていないという有様。
生徒たちもそろそろ焦り始める頃合でしょう。
「地図通りだとこの先に小川がある。小休止場と定めていた場所だ。そこからまっすぐ先に進めば森の出口がある」
キースレイト君が地図を全員に見せるように広げて、指先で進路をなぞっていきます。
「問題は小川を抜けてから森の出口までにヴォルフの縄張りがある。進路上ではないが、かなり接近することになる。迂回路を使えば危険を減らせる。皆の意見が聞きたい」
「もちろん直進ですわ。ヴォルフごときに遅れをとるとお思いかしら? 迂回路を使ってまた時間を使うのは嫌ですもの」
案の定、当然という顔を貼りつけてクリスティーナ君が意見を出しました。
クリスティーナ君の意見は聞きようによってはまるでティッド君を責めているように聞こえますが、本人に悪気はありません。タチが悪いですね。
でも、ティッド君には堪えたようで肩を落としてしまいました。
「待てクリスティーナ嬢。わざわざ危険を侵す必要があるのか? ここは時間がかかっても安全な道で行くべきだ」
一方、フリド君は全員の安全性を考慮して確実性を選んだようです。
危険区域の傍を通らないことでティッド君の負担を減らそうとしているのでしょう。
ただし、これも聞きようによってはティッド君にダメージを与える言い方です。
通常より時間がかかっている現状、更に遠回りとなったらティッド君はより素早いスカウトを要求されます。
ちゃんとしなければと思えば思うほど、ティッド君は追い詰められてしまうわけです。
いじめてるわけじゃないのにいじめられてしまうティッド君は被虐体質ではないかと思います。
さすがに好んでいじめる趣味もないので、自分がフォローに入ろうとしたら――
「威勢がいいのはその図体だけかしら。戦力的に申し分ないというのなら、直進こそ王道ですわ。こっちの迂回路を通って道に迷わないという保証はあるというの? 地形を見る限り、高低差が激しいのではなくて? 体力を奪われる道で方向がつかみにくい場所をわざわざ通る必然性がありませんわ」
「しかし、この縄張りはかなりの大きさだ。十匹以上に襲われたら対処できるかどうか」
――言い合いが始まりました。
「十匹? その十倍持ってきなさい!」
やめなさい。何故にそういうこというんですかね。
本当に来てしまったらどうするんですか。百匹のヴォルフとか面倒極まりない。森ごと消滅させていいならやれますけど個別に対処すると時間がかかるだけでしょうに。
しかし、お互い譲れないようですね。
どうしたものかと隣のシェスタさんをチラリと見ると、目が合いました。
こいつ、ずっと自分を見てるんじゃないでしょうか?
「シェスタさんならどうします?」
生徒たちに聞こえないように抑音発声法です。
「どっちの意見も間違ってない。でも、ちゃんとしたリーダーが決まってないから指針がブレる」
問題は誰をリーダーにしても、問題があるということです。
クリスティーナ君はリスリアの伝統的な全力前進信者ですからね。
マッフル君は安定の柔軟さと思考力を持っていますが、リーダーシップに乏しい。
キースレイト君は大局・戦術を見る目こそあれ、優柔不断な部分が見えます。
フリド君は確実性を重んじるがゆえに、鈍足です。
ティッド君は一番、年齢が低いこともあって積極性がほぼ皆無で牽引力がありません。
こうしてみるとリーダーの資質だけ問われるならキースレイト君が一番、マシでしょうね。
もう少し経験を積めば優柔不断な部分も払拭されて、果敢さと柔軟さを織り交ぜたリーダーになれそうです。
しかし、大元の問題、誰がリーダーなのかは特に意味はありません。
意見交換に参加していなかったマッフル君がティッド君にそろっと近づきます。
「ティッドさ。ちょっと休んでていいよ。スカウト役は代わるから」
「え……、でも」
「べっつにお荷物だからとかさ、そういうんじゃないってば。あんまりスカウト役ってやったことないっしょ。ウチのクラスもリリーナ任せだからさ。私かクリスティーナがやってもいいかなって思っただけ。それとずっとじゃなくって小川まで。そこで休憩したら、またティッドがスカウト役ね」
「でも、ボクはちゃんとやらなきゃって」
「だからさ。ちゃんとやってもらうために危険の少ない場所でティッドを消耗したくないってこと。普通に森を歩くのだってしんどいんだからさぁ、違う?」
ティッド君を理詰めかつ仲間の立場から納得させたと思ったら、次はズカズカとキースレイト君たちのところに向かいます。
「あたしの意見、言っていい?」
有無も言わせない口調でした。
「時間限られてるし直進ルート押しなんだけどさ、このままで行くわけ?」
「このままとはどういうことだマッフル嬢」
フリド君の疑問も当然ですね。
突然、このままでいいのかと言われても思い当たらないからです。
そうでしょうね。
そもそもクリスティーナ君もキースレイト君もフリド君も重要なことを忘れています。
「だから、スカウト役増やしても問題ないんじゃない?」
「スカウトは一人だけがもっとも効率が良いはずだったろう?」
「あんたらはちゃんとヘグマント先生の授業、聞いてた? スカウトは必ず一人である必要はないてさ。『だけ』なんて一回も言われてないし。効率がいいのは経験豊富なスカウトが全体の警戒を肩代わりして全体の消耗を防ぐためでしょ。今みたいなのは論外じゃん。ヨシュアン先生もさっき言ってたでしょ。意見を言い合えって。意見ってさ、言うだけじゃないじゃん。意見だけ言っても意味ないじゃん。意見を言って、実際に行動して意味があるってことでしょ。だから提案!」
矢継ぎ早な意見に全員が目を丸くする中、マッフル君は止まりません。
「小川を抜けて、ヴォルフの縄張りに近づくあたりでスカウトをクリスティーナとティッド、二人にする。クリスティーナが前、ティッドが後ろ。こうすればティッドも半分の労力でスカウト役に没頭できるし負担も少ないしさ。どうよ」
リーダーシップがないマッフル君。
しかし、マッフル君の思考の柔軟性はリーダーシップを補うだけの力があります。
「良い意見だ。これ以上の案はないと思われる。他の二人もこれ以上の意見は出せないだろう」
キースレイト君が締めくくり、クリスティーナ君とフリド君も納得を示したようです。
クリスティーナ君は何かを口に出す前に、閉ざしました。喧嘩している場合じゃないと思ってくれたなら成長したのかなぁ、とか思いますけどね。
たぶん、クリスティーナ君は言い返せないから黙っただけです。
反論する気はあっても、反論できないパターンだとイヤミしか言いません。
そのイヤミも現状では疲れるだけだと理解している以上、黙った、と。
成長、してくれないかな、本当に。
そんなクリスティーナ君は放置して、ティッド君へとウィンクするマッフル君。
そう。大正解ですよマッフル君。
前衛、後衛。スカウト。
それらは何も型に当てはめらてた役割ではありません。
前衛がスカウトを兼任することもあれば、後衛が前衛にスイッチすることもあります。
臨機応変な役割の交換、状況に合わせて最適なフォーメーションを逐一、構築すること。
固定観念に囚われた思考。
それらは当然のようにあります。
そも人間ですから固定観念に縛られて当然なのです。
何かあるたびにいちいち考えて結論を出すようでは遅い状況だってあります。
固定観念、思いこみ、偏見なんて言葉は皆、そういういちいち考えないで済むために作られた思考の脊髄反射みたいなものですからね。
そして、戦闘なんかの膨大な思考力が試される世界で。
脊髄反射で行動することが、時に最善の結果を生み出すこともあります。
だけど、固定観念に縛られたままではたどりつかない最善もあります。
よく気がつきましたねマッフル君。
帰ったら花丸シールをあげましょう。クリスティーナ君より先にもらえますよ? 良かったですね!
「……はふ」
と、隣から変な声が聞こえました。
「なんですかシェスタさん」
「素敵」
いや、もうそれいいですから。
というか、シェスタさんは生徒たちが現状に悶々としている間に性的に悶々としてたのですか。殴りたい。
とはいえ、殴っても喜ぶので安定の放置です。
それからは順調に進んでいったと思います。
小川で休憩し、水分を補給、疲れた体を一時、休ませるとすぐに出発です。
その途中、木の上にクコの実が生っていたので採ってきて生徒たちに配りました。
ちょっとしたおやつです。
生のままでも食べられるクコの実。その柔らかいピーナッツみたいな感触と甘さを味わいながら、森を踏破していきます。
そして、ヴォルフの縄張りに近づいた時に異変が始まりました。
自分はこっそりヴォルフの気配を探っていましたが、どうやらヴォルフたちは空腹ではなかったようでこちらに近づく素振りもありませんでした。
ですが、問題はそこではありません。
初めに声をあげたのはシェスタさんでした。
「――あ」
今頃になって何かに気づいたような声。
とたん、無表情のままのシェスタさんが暗い顔をし始めました。
「どうかしたのですか?」
シェスタさんの異変に気づいた自分はこっそり聞いてみても、もじもじしているだけ。
何度か考え、そして、意を決して見上げた瞳には覚悟のようなものが見えました。
何かあるようですね
「ヨシュアン様。この道は――」
それより先に自分は気づいてしまいました。
シェスタさんの向こう側。
徐々に落ちてくる夕陽の木影に隠された、ヴォルフの死体。
何時ごろのものか、おそらく2~3日くらいは経過しているだろう腐りかけの死骸。
問題は同じような位置に、同じような傷跡を持った真新しいヴォルフが死んでいたことです。
「全員頭を下げなさい!!」
その腹部が鋭利な刃物で傷つけられたものとわかった瞬間、自分は叫んでいました。
何事かと驚きながら、頭を下げるために地面に這い蹲る生徒たち。
自分の尋常じゃない声に生徒たちは戸惑いを隠せていません。
素直に従ったのも、自分の様子から異変が起きていると察したためでしょう。
シェスタさんも杖を取り出して周囲に探るような視線を向けています。
気配は感じられません。
風が吹くたびにざわめく木の葉の音以外、何も聞こえない森。
何かが居るのは間違いありません。
「シェスタさん、生徒たちをお願いします」
暗殺容疑者に任せるようなお願いではありませんが、もしも何かあった時のためにシェスタさんへの術式によるロックオンは外していません。
シェスタさんが生徒たちに変な真似をすれば、コメカミに音速の刃を突き立てる準備は出来ています。
生徒たちには見えないようにする工夫も必要ですが、今はそれで十分です。
赤と黄の源素しか見れないシェスタさんは、自分が術式を使っていることだけは理解しているでしょうが、それがどんなものか察してはいないでしょう。
ゆっくりした足取りで死骸のある場所。
道の外れに足を踏み入れます。
立ったまま、ヴォルフの死骸を見つめます。
惚れ惚れするほどに鋭利な傷跡。
内臓を容赦なく両断し、傷口に白く蠢くものが蝕んでいます。
見慣れた蛆。生命の色を失った形。土に染み込んだ黒い液体。
しかし、それらには意味がありません。
結果としてここで死んでいることが問題なのです。
思考、予測による結論を言いますと、このヴォルフの死骸を作った犯人の手口が見えてきました。
瞬間、見計らったように風切り音が耳をくすぐります。
極々高音の風切り音。
それは緑属性の術式に代表される、特徴的な音です。
木々の合間を縫って、飛来する術式の刃。
それを自分は【獣のガントレット】による強化で叩き壊しました。もちろん、内源素で抗術式力をあげています。
「――ッ!?」
術式を壊した際に巻き起こる波動が周囲へと拡散していきます。
二度三度、同じ方角から執拗に放たれる空気の断裂刃。
それも死骸の場所から数歩下がるだけで、飛んでこなくなりました。
地面に刻まれる、刀剣くらいの長さの断層は無視しましょうか。
どこか機械的な動きは、自分の推測を裏付けるには十分でした。
「もういいですよ。皆、立っても」
「な、なんなんですの、一体!」
理解できないが、術式が壊れる時に体を響かせる独特な波動は全員、感じられたと思います。
じっと木々の暗闇を覗いても、何も見えません。
生徒たちがおっかなびっくりしながら、自分の眺めている先を見ていますが何も探れないようです。
「先日の授業を覚えていますか? ヨム・トララムの授業です。ヨム・トララムは通常、周囲に源素を振りまくだけの術式です。この術式にとある特性を付け加えることで探索の術式に変わります」
薄ら寒い暗闇から目をそらさない自分。
体は勝手に周囲の木々から緑の源素を、ローブの源素結晶から黄の源素を操り、それぞれを片手に集めます。
それらを術陣に変えて、歯車のように組み合わせます。
「異なる術陣を組み合わせる混合術式。それとはまた違う方式です。これが今、先生がしていることです。見えない子は術陣同士を重ね合わせた形を思い浮かべなさい。そして、今からする術式が【源素融合】。混合ではなく、異なる色を混ぜ合わせて新しい色を作り上げる技術です」
無理な力を込めたことで術陣同士が反発し合います。
術陣と術陣がお互いを拒絶する時に発生する波動こそが【源素融合】の証です。
やがて、一つの術陣が完成しますが、緑一色、黄色一色だった術陣と違い、緑と黄がマーブル状にこよりあっている術陣が生まれます。
自然には存在しない、人工の源素。
「この融合された源素は二つの源素の特徴を引き継ぎます。つまり、緑属性の【発色】と黄属性の【接色】。さらに探知したい物体の源素の色、人間なら全色、金属なら黄色それぞれを術陣に組み込んで発動させます」
瞬間、発動されたヨム・トララムは周囲に緑と黄色の光を撒き散らしました。
これを『眼』で見れば、術陣を中心に周囲へと散らばりながらも源素でつながり合っている形がわかります。
それはまるで蜘蛛の巣のような光景でしょう。
やがて、木々の影でふわっと光が生まれます。
「【ザ・プール】についてはまた説明しましょう。先ほど、襲ってきた術式の主があの光の場所にいます」
木の上、幹の中から放たれる薄い黄緑の光。
「ヨム・トララムに接触した対象は【発色】の性質に巻き込まれます。つまり、隠れている場所が丸分かりになるという術式です」
自分は光っている幹をリューム・フラムセンで撃ち抜きました。
ボトリと落ちてきたのは矢がないクロスボウでした。
大きさも通常のクロスボウと違い、半分ほど小さく、全部品が金属で出来ています。
「術式具ですね」
自分が表面回路を削ったせいで、この術式具はもう術式は撃てないでしょう。
ある一定の場所に足を踏み入れると自動的に術式具が発動し、狙った場所へとリューム・フラムセンを撃ちこむ仕組みなのでしょう。
術式具は人の手から、あるいは動物の体から内源素を組み上げて発動します。
他にも源素結晶から源素を吸い上げる方式もありますが、こちらは実用性までこぎつけていないのと源素結晶の安定供給が難しいことから実用まで漕ぎ着けていません。
自分みたく源素結晶を作り出せる術式師は少ないですからね。
このことから、えー、地面のどこかにあると思いますが。
地面にリューム・プリムを撃つと舞い上がった腐葉土の中に、丸い形をした金属板の姿が見えました。
地面に落ちて、金属の音は腐葉土に吸い込まれてしまいましたが、これとわかるくらいの存在感があります。
この金属の板を踏むと、被害者本人の内源素を感知して術式を撃つのでしょう。
「簡単に見つかってしまいましたね」
小さく呟いて、探し物を見つけました。
これがヘグマントとメルサラに頼んで、見つけて欲しかったものです。
暗殺者が何を使って、イリーガルを殺したのか。
その方法はおそらく罠の類ではないかと察しはついていました。
「何故、こんなところに罠の術式具があるのですか」
キースレイト君が訝しげに手元の術式具を見つめています。
「さて。猟師の罠でしょうか? ずいぶんお金のかかった罠ですが、なくはないと思いますよ。あるいは警備隊がヴォルフを狩るために用意していたか」
「そんなの勝手に取っていいわけ?」
横からマッフル君も疑問を呈します。
「術式具を森に設置する場合、報告しないといけません。また猟師間にある暗黙の了解、罠を知らせるための札もなかったですからね。つまり、勝手に持っていっても設置者のせいです」
適当にぼかしながら、もう大丈夫と生徒に言い聞かせました。
さすがに効果範囲がわからなかったので、危険を呼びかけましたが、ピンポイントにしか効果がない罠で助かりました。
それから森を踏破していきますが、やはりヴォルフは現れません。
自分は手元の術式具を鍋の中に放りこんだまま、最初と同じように生徒たちの後をついていきました。
その途中、シェスタさんは何度か口を開こうとして閉じるを繰り返していました。
あえて問い詰める場面でもなかったので、聞きませんでした。
この術式具を仕掛けた犯人が、シェスタさんだと仮定しましょう。
シェスタさんがこんなところに罠を仕掛ける理由は実はありません。
この森は生徒たちが目的としている山の裾野にしか到着せず、無理に山を越えたとしてもその先は法国側です。
帝国の暗殺者が法国経由で逃げるのは難しいでしょう。
リスリア~法国間から法国~帝国間に関所を二つもくぐり抜けなければなりませんからね。
リスリアから帝国へと抜けるのが一番、効率的です。
もっとも効率の穴を抜いて、こちらから逃げるという手もありますが逃走ルートに罠を仕掛ける理由もないでしょう。
一番、ありそうな話はこの森のあるポイントには複数、適当に配置されている、という案。
あの模擬戦後の事件は運悪くイリーガルがその罠を踏み抜いて、死んでしまった。
モヤモヤした感じは消えませんが、そう考えるのが一番、話が早そうです。
対外的なお話な場合は特に。
もっとも、それだけだと自分が一番、危惧している可能性は拭えませんけどね。
やがて、森の木々が少なくなり、坂道を抜けた先は木々一つもない平原。
膝ほどの草に剥き出しの岩がゴロゴロと転がり、見上げれば絶壁が眺められる光景。
鉄鉱石の採掘場、山の裾野に到着しました。
「と、到着した?」
「よく頑張りました」
肩で息をしながら、心から安心するティッド君の頭を撫でてやります。
クリスティーナ君も、マッフル君もキースレイト君もフリド君も、生徒たちは一様に何かから開放されたような顔をしていました。
「無事、到着です。しかし――」
自分は手元の術式ランプをかざしながら言いました。
「もう暗いですね。採掘は明日にしましょう。全員、すぐに野営の準備に入りなさい」
陽は完全に落ちきってしまっていました。
いや、もう採掘なんてできる明るさじゃないです。
警戒しすぎでしたね。
特に術式具の罠があってからは、通り道にも仕掛けられているのではないかとビクビクしながら歩く生徒たち。
あれで行軍スピードが落ちないはずがありません。
そして、当然、自分が術式具の罠を発見、解除するまで生徒は周囲を警戒しつづけなければなりませんでした。
疲れたでしょうね。
合計三つ見つけましたがその度に鍋に放り込んだので、術式具が鍋の具材のように見えます。
当然、食べられません。
「小休憩する前に動かないと余計に疲れますよ。ほら、早く動きなさい」
ぐったり地面に腰を落とす生徒たちの背中を叩きながら、野営の準備をさせるのでした。




