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エピローグ

九女島での事件が、すべて終わった。

自衛隊員を本土へ送り届ける船の甲板に、渡辺は立っていた。

潮の匂いと、ゆっくりと遠ざかっていく島影。

その背中に、声がかかる。

「渡辺3曹、凄かったらしいじゃないですか」

振り返ると、辻村がいた。

「……辻村か」

「他にも武道の有段者が何人もいたのに、段位が一番低い渡辺三曹が、一番倒して、生き残ったんですから、やっぱり居合道が最強ってことですかね」

渡辺は、少しだけ視線を海に戻した。

「俺が四段なのはな、年数が足りないだけだ」

「単純な戦闘力で言えば八段の範士にも勝てる自信はある」

辻村が目を丸くする。

だが、渡辺は首を振った。

「……でもな、居合道ってのは、そういうもんじゃない」

「居合道っていうのは、剣の理法の修錬を通じた、人間形成だ。日本文化の伝承を目的とする武道なんだ」

「強けりゃいい、ってもんじゃない」

「……そういうもんですか」

辻村は少し考え、別の話題を振った。

「でも、銃弾も通さない外骨格を全部焼却処分しちゃったのは、もったいなかったですよね。研究して、人工的に作れたら便利だと思うんですけど」


渡辺は、即座に言葉を返さなかった。

しばらくして、低く言う。

「……それも、そんな簡単な話じゃない。研究しても、人工的に作れないって結論が出たらどうなると思う?」

「……どうなるんです?」

「寄生蜂を“繁殖”させようとする」

辻村の表情が、固まる。

「人間を宿主にする生物を繁殖させるために何人、犠牲者が出ると思う?」

「……」

「しかも、それが脱走して繁殖して、増えたらどうなる?」

渡辺は、淡々と言った。

「世界が、寄生蜂に支配されるぞ」

辻村は、何も言えなかった。

やがて、小さく頷く。

「……そうですね。そう考えると焼却処分して、全部無かったことにするっていうのは賢明な判断ですね」

少し間を置いて、辻村が言う。

「でも……渡辺3曹は、寄生蜂に勝ったんだから別に怖くはないでしょ?」

渡辺は、はっきりと首を振った。

「この勝利は、俺だけのものじゃない。資料は読んだだろ?大勢の人間が、命がけで情報を紡いで思いを託した」

「それと自衛隊の組織力と、仲間の助けがあったから俺たちは勝てたんだ」

一拍、置いて。

「……俺一人だったら勝てなかったよ」

渡辺は、再び海を見る。

島影は、もうほとんど見えなくなっていた。

ここまで読んで頂き有難う御座います。

先ず、作品の成り立ちなんですが、「パニックホラーを書こう」と思って、前々から構想を練っていたゾンビものにしようかと思ったんですが、なんかありきたりな感じがすると思って、哲学的ゾンビにしようと思いました。

しかし、いくら話を考えても「パニックホラー」にはならないという考えに至りました。

何故なら哲学的ゾンビっていうのは「見分ける事が出来ない」ものなので、心理的恐怖にはつながっても「パニックホラー」にはどうやってもなりようがないんです。

そこで思いついたのが「巨大寄生蜂」でした。その時に大まかな話の流れを考えて、主人公のリレー方式もその時思いつきました。で、ある程度閉鎖された環境ということで「離島」にしようとなりました。

 話の内容自体は結構すんなりいきましたが、寄生蜂の生態を調べたり、舞台のモデルとなる八丈島の事を調べたり、ナルト作戦のネットの長さをどれくらいにするか、何メートル内側に渦巻きを作るか等の計算に時間がかかりました。その分、矛盾のない設定になっていると思います。


 “悪魔の証明”を書き終えた時には「今までの最高の作品になった」と思いましたが、その後、この“九女島”を書き終えた時、「悪魔の証明を超えた」と思いました。しかし、悪魔の証明の方が読まれてるんですよね…。まあ、タイトルが悪いというのもあると思います。ただ職人気質の私としては譲れなかったんです。

“九女島”というタイトルには作中の舞台というだけでなく、色々な意味が含まれてるんです。

まず、モデルですが八丈島がモデルになってます。研究所以外の施設や建物は皆、実在の物がモデルになってます。

それで、八の次の九、丈と女は字面も読みも似ている。

それから、作中の伝承にもあった苦女島。男性被害者も勿論、多数いますが、傍から見てると長期間、体内を虫に食われる苦しみを味わうのは女性なので“苦女”という訳です。ただ、実際には寄生蜂の幼虫が分泌する物質により痛みを快感に変えられているので苦しみは無いんですけど。これについては作中では言及していませんが、宿主が暴れたり自殺したりショック死したりしない様にする為の進化によるものです。

ちなみに、これも作中では言及されていませんが、寄生蜂は交尾しなくても産卵できます。その場合は雄が産まれます。交尾後に産卵した場合は雌が産まれます。

それから、作中で宿主にされた被害者の女性が九人なので九女です。

最終的に第四章、第二節で九人に調整する予定でしたが、想定外だったのは二度も数え間違えてアップ後に二度も修正する羽目になった事ですね。

それともう一つ、害虫である巨大寄生蜂を“駆除くじょ”する物語なわけですがこれも九女くじょ島とかかっています。

これらの事がありタイトルに関しては「九女島」以外考えられなかったんです。サブタイトルみたいなのをつけようかとも一瞬考えましたが、安っぽくなる、陳腐になるって感じがして止めました。


 それからもう一つネタバレ。

気付いた方も多いと思いますが、各章の主人公の名前、頭文字が「あかさたなはまやらわ」の順になってます。おおよそのプロットを決めた時にリレーする主人公に何か関連性を持たせようと思った時に、ちょうど十章だったので「あかさたなはまやらわ」にしようと思って名前を決めました。

それまでよくある苗字だったのに九章で「楽山」という珍しい苗字が来た事で確信した方も多いのではないでしょうか。そこで気付く方が多いと思ったからこそ、十章の登場人物には「わ」で始まる名前の人物を多く配置しました。これで、最後まで誰が生き残るか分からなくなったと思います。


 最後に長々と書きましたが、作品を読んで頂いた方が楽しんで頂けていたら何より幸いです。

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