第十章 第一節 包囲作戦
作戦会議から五日後。
楽山が考案した包囲殲滅作戦――
通称 “ナルト作戦” が、ついに開始された。
中央の殲滅部隊に志願した者は、二十名以上いた。
だが、準備できた殺虫剤放射器は十挺。
最終的に、身体能力と精神力、そして危険への耐性を基準に、十名が選抜された。
異例の作戦であることから、殺虫剤放射器以外の装備は各自に委ねられた。
ただし――
同士討ちを避けるため、銃火器は一切禁止。
選ばれた十名は、以下の通りだった。
高木浩 陸曹長
アメフトの防具 アメフト経験者
和田幸雄 陸曹長
剣道の防具 剣道七段
米山博之 1等陸曹
銃剣 銃剣道六段
目黒貴幸 1等陸曹
金属バット 野球経験者
和久井祐司 1等陸曹
首も防護できるヘルメット ボディビルダー
若林修一 1等陸曹
スタンガン 元短距離選手
遠藤寛人 2等陸曹
鎖帷子 空手六段
脇坂亮 2等陸曹
薙刀 薙刀五段
渡辺弘樹 3等陸曹
日本刀 居合道四段
山県武彦 3等陸曹
鎌 元ウエイトリフティング選手
誰一人として、軽い覚悟でここに立っている者はいなかった。
ナルト作戦の概要
高さ五メートル、全長一キロメートルにも及ぶ長大なネット。
これを五メートルごとにポールで支え、ネット全体に寄生蜂の嫌うハッカ油を浸み込ませ、隙間にはミントの葉を編み込む。
この“忌避の壁”を使い、寄生蜂の行動範囲を 渦巻き状 に狭めていく。
作戦は、日の出と同時に開始された。
まず、直径一キロメートルの円を描くようにネットを展開し、寄生蜂の生息範囲を完全に囲む。
次に――
ネットの一端を三メートル内側にずらし、再び円を描く。
さらに三メートル内側へ。
また一周。
そうして、巨大な渦を巻くように円を縮めていく。
寄生蜂は、ハッカ油とミントの匂いを嫌い、次第に内側へ、内側へと追い込まれていった。
もしネットを越えて飛行を試みた場合は、外周に配置された隊員が小銃で射撃。
羽を損傷させ、地面に落ちたところを殺虫スプレーを持つ隊員で囲み、駆除する。
理論上、極めて合理的な作戦だった。
だが――
この作戦で最も危険なのは、先頭を引く者だった。
ネットの端を持ち、渦の“口”を内側へ導く役目。
ネットに守られず、常に最前線に立たされる。
その役目に、楽山は自ら志願していた。
「言い出しっぺですから」
その一言で、誰も反論できなかった。
楽山のすぐ後ろには、殲滅部隊十名が控えている。
万が一に備え、全員が殺虫剤放射器を構え、緊張を切らさずに歩を進める。
木々を避け、地形を選び、途中で短い休憩を挟みながら、ひたすら円を縮めていく。
四十周台半ば。
距離にして、すでに 二十五キロメートル以上 を歩いた頃――
事態が、動いた。
自分たちが追い込まれていると悟った寄生蜂が、反撃を開始したのだ。
木陰から飛び出し、ネットに体当たりする。
だが、ハッカ油とミントの匂いに触れた瞬間、苦しそうに後退する。
一撃しては下がり、様子を見る。
一見、様子見のようにも見えた。
だが――
先頭だけは違った。
先頭のポールを持つ楽山は、ネットに守られていない。
その瞬間だった。
木陰から、“それ”が現れた。
反応する間もなく、鋭い鈎爪が閃く。
楽山の首が、一気に掻き切られた。
血が噴き出し、楽山は声を上げることすらできず、その場に崩れ落ちた。
包囲網の先頭が、沈んだ。
ナルト作戦は、その瞬間、完全に“戦場”へと変わった。




