小姑は遠くからご覧頂きます
遅ればせながらすみません、お読み頂き有難う御座います!
エピローグです。
視点が第三者に変わります。
「……あの、カワイイライナルがついに結婚を……。うう、薔薇の飾りと薔薇の囲いで、カワイイカワイイライナルが見えづらい……」
「公爵令嬢のお姫様をイビるから、こんな見えにくい席になったんです」
今日は。私の名はホーニック・マッシブスパーキン。
伯爵家のしがない入り婿で、元神官だ。
横に居るのは男だか女だかよく分からない美貌と評されていい気になっていた妻、カゲッテーラ。
一応幼馴染でもあるので、出会いは省く。腐れ縁という関係が正しい。
「ホーン、あのように虐待されていた再従弟を救うのが私の使命だったのだ」
「構いすぎて、会った次の日にジワッと嫌われ始めてましたけどね」
「……やはりそうか?」
「ええ」
眼の前では贅を尽くした婚礼が粛々と……いや、結構賑やかに行われている。
さっきから花は降ってきているし、楽団はテンションの高い曲を跳ね回りながら弾いている。何だか肉の焼ける匂いと砂糖の焦げる匂いが同時にしてきた。腹が減る。
……厳かで堅苦しい精霊式ではなさそうだ。
どうやら当代スパークル侯爵……ライナル様が精霊式を嫌がられたようで、型に嵌まらないお式らしい。
……あそこで立食のつまみ食いをされている逞しい顎の持ち主のは王太子殿下では……。
「うっうっうっ……カワイイライナル……」
ズビズバ鼻を鳴らしながら妻が泣いている。
どうやら誓いの口づけ中らしいが、丁度薔薇の飾られた柱で見えない。
……再従兄弟コンプレックスとでもいうのだろうか。略してハトコンか? 鳩と婚姻してそうだな。
兎に角他に不憫な親戚は居るだろうに、随分とライナル様に肩入れしている。
確かに、彼の置かれた状況は不憫ではあった。
マッシブスパーキンが楽して要職に就く為に栽培していたサボテン。図鑑では変な横縞模様をしていた気味の悪い見た目だった。
そして効能は……まあ有り体にドーピング剤だ。体が変に活性化して、とても体に悪い。
子供の頃から与えると、筋肉で覆われた屈強な体格が手に入り、不敗を誇るらしいが三十路を越えた者は居ないらしい。
危険を察知したスパークル家が季節の折々で枯らしていたんだが、しぶとく生き残っていた。
カゲッテーラの祖母が枯らすのに成功していたらしいが、未だ株が有ったとは。
しかも、精霊漬けになった公爵令嬢を肥料にしようとは。中々のぶっ飛び加減だ。
薬剤に頼らんと筋トレしろ。
今回の事件はそれに尽きる。
「わああ! ゲフゲフゲホン!」
花が舞い上がる。
隣の来賓が咳をしている。花粉症らしい。
「うう、ライナルの勇姿を特等席で見たかった……」
「成敗された小姑は大人しくしておくものだ、カゲッテーラ」
マッシブスパーキンの血は、最早薄い。サボテンに心を奪われた親戚一同の意識はもうこの世にはない。
嘗て、血の滲む努力の末に最強を謳われた一族。安易な道に走ったから同族の手で粛清された。
「何だマッシブスパーキン伯爵。折角の顔が台無しだな。さっきのキスシーン、描いたからやろうか?」
「えっ……」
破り取られた掌サイズの紙には、恐ろしい程正確に精密に写し取られた新郎新婦の絵。
「あ、有難う御座います……」
「まあ、この程度の落書き大した事ない。兄上に比べれば」
そして、精霊に愛されるのはスパークルの血を引く者だけではない。
王家に授けられたスキルは、正確に物を覚える記憶力と、精密模写、走ってる人間の目玉の色ですら止まってるように目視できるスキル『再確認』
かなりのハイスペックだが、他の国の王族と比べれば凡庸だと彼らは認識している。
確かに、孫子の代まで受け継がれるので……王族のスキルが受け継がれる範囲が広いからだろうか。
今、絵をくれた第二王子ヒャピスもそうだ。
「本当に本当に貴重なお品を、感謝致します。第二王子殿下」
「何だよ、照れんなあ……」
そして偉ぶらない気さくな人柄も、国民と精霊に愛されていることを彼らは自覚していない。
「……何だかあの薔薇のやたら絡まってる柱、ポヤポヤな光が飛んでるわ。どうなってんの?」
「シャンティ姫様、放っておきましょう。精霊の仕業は目の毒です」
新郎新婦の声が聞こえる。幸せそうだ。
確かに放っておいた方が彼らの健康にいいと思うので、私はそっと絵に見入って号泣する妻の背を隠すように押した。
賑やかなお式はふたりと親戚一同の希望でした。
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