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モノゴイと呼ばれた男  作者: クラノ恩樹
第2章 奴隷の国編

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93.まさかお前に叱られるなんてな

「おーい、ラウルー。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさー」


俺は塔の外からラウルに呼びかけた。

当然だが返事はない。


「なあ、聞こえてるのは知ってるからさ、無理にだんまりしなくていいよー。それでさー、ちょっとお前の知識を教えてほしいんだー。スキルじゃなくてお前の知識をねー?」


…。


……。


………ギイィィ。


ラウルが塔から出てきた。

すんなり出てきて楽だけど、なんか調子狂うな。


「…何が聞きたい?」


「ラウルさあ、錬金術って知ってるか?」


「なに?錬金術だと!?」


「んお!?い、いきなりそんなに近寄るんじゃない!びっくりするだろ!?」


錬金術と聞いたラウルの食いつきがすごかった。

もしかして、ラウルの研究って錬金術なのか?


「それで、錬金術がどうしたのだ!?」


「い、いや。今俺さ、靴磨きとかしながらスキル集めしてるんだけどさ、スラムの子供たちを保護するのに靴磨きだと自分が食っていくので精一杯なんだよ。それで、錬金術で何か作って売れないかって思って、何か知ってたら教えてほしくてさ」


俺がそう言うと、ラウルは一気に冷めた表情になった。


「…なんじゃ、くだらん。出てきて損したわい!」


ラウルが怒って塔の中に入っていきそうだったので、慌ててそれを止める。


「ま、待ってくれよ!ほかに相談できるやついないんだよ!お前すごい魔法使いなんだろ!?なんか知恵を貸してくれよ!」


縋りつくように頼み込むが、バッとその手を払われてしまう。


「秘薬・エリクサーでも錬金術で生み出したいなどと言うのかと思ったら、なんじゃ貴様!あんまりにもしみったれた屁のような理由で呆れて物も言えなくなったわ!」


「なんだと!?」


これには俺もカチンときた。

ケンカするつもりはなかったがこれは我慢できない。


「何がしみったれてるんだ!誰かを助けたいと思うのは屁みたいな理由だってのか!?」


「離せ小童が!」


「ぐああっ!?」


ラウルの襟元を掴んで言い返してやったが、何かの魔法で体ごと弾き飛ばされてしまう。

そうして地面に無様に転がった俺を、ラウルは冷たい目で見下していた。


「貴様、人に甘えるのもいいかげんにせい!中級の魔法操作や上級・中級の四大属性魔法を取得しておきながら、そこから何も生み出そうとせんではないか!貴様は自分がどれほど恵まれたスキルを持っているのか分かっておらん!誰かを救うなどと宣うんじゃったらな、自分の脳みそをもっと絞って考えんか!この、たわけが!」


バタンッ!


ラウルが塔に入るのと同時に、勢いよく扉が閉まった。


「…………」


耳が痛い気がした。


俺は偉そうに言いたいだけ言って、自分でもそれに向かって最大限努力していると思い込んでいた。

だが、ラウルの言う通り、成り行きに身を任せて自分でその先を考えようとは思っていなかったのに気づかされた。


「自分では何も考えていない、か。確かにそうかもな。ラウルの知識を恵んでもらって誰かを助けようなんて、気持ちまで本当に物乞いに染まりつつあったのかもしれないな…」


俺は、ラウルの塔に向かって頭を下げた。


今回ばかりはラウルの言う通りだ。

ゴミ集めや靴磨きで成果を思うように出せていないことで、もしかしたら焦っていた部分もあるのかもしれない。


俺はラウルの塔に背中を向けて座り込む。


「…思えば、ラウルは前にも怒りながらアドバイスをくれたことがあったな。中級魔法操作のスキルと四大属性魔法も持ってるのに、って言ってたな。よーし、見てろよ?」


俺は、修練の塔で待つペニーさんに心の中で謝罪しながらラウルのヒントらしき言葉について考え始める。


ラウルだって、俺の修練宝塔で呼び起こされた一部だ。

俺のマイナスになる様な事は、いくらラウルでもしないだろう。


きっと、言葉面が厳しいだけで俺の力になってくれているはずなのだ。

…うん、不安要素いっぱいだがそう思う事にしよう。


「中級魔法操作は身体強化をするのに必須のスキル。そして、漏れ出す魔力を隠蔽するのにも使ってるな。だが、ガーディさんたち達人には看破されている。これは改善すべき点だ。まずはそこから始めよう」


独りでブツブツと呟きながら、自己分析と仮定立てを始める。


「…まてよ?筋繊維を魔力で強化することで身体強化ができるなら、同じ原理で自分の魔力を強化することはできないか?よし!今よりももっと微細でかつ強靭な魔力を維持できるようにやってみるか!」


魔法操作の次のステップに関しては大体の方針が決まった。


次は四大属性魔法スキルだ。


「火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、そして錬金術…………」


そもそも地球で錬金術って言ったら、簡単に言えば卑金属から貴金属を錬成する術のことだったはず。


でも鉄を金とか銀に変えることはできない。

それをやろうとするなら元素そのものを変化させなければならず、そんなことは不可能である。


「…この世界でも錬金術って概念はあるんだよな。例えばポーション。流通しているこれはその錬金術師たちが創り出しているらしい。でも、よくよく考えてみれば薬草とか原料になる物があるんだから調合の一種でもあるよな?水魔法で創り出す俺のロイケル皇帝液と何が違う?」


それからも俺の思考は、暗い海の底に誘われるように静かに一人の世界に沈んでいく。

だが、それとは反対にどんどん見ようとしなかったものにスポットライトが当たって見えるものが増えていく。


「原石から不純物を取り除いて、純粋な金属を取り除くのは錬金術か?微量に含有されるものを集めて金属のインゴットにしたところで、元素の変化などが起きてるわけじゃない。これを錬金術って言ってしまっていいのか?…もしかして一般的に言われている錬金術は、通常の四属性の魔法の応用が起こした現象の一つなのでは…?」


俺は、不意に立ち上がってラウルの塔を見た。


「…あの大量に捨てられたゴミ、本当は宝の山だったんだな」


そのことに気づき、ラウルの塔に向かって、俺はもう一度頭を下げた。


さっきのは謝罪の礼。

今のは感謝の礼だ。


「まさかラウルに叱られるなんてな…」


スラムの子供たちを救う手段に気が付いた俺は、ふと、ラウルの研究が今更ながら気になってしまった。


「ラウルが研究しているのって、錬金術なのか?今度、ちゃんと教えてもらわないとな」


俺はその場で独り言を呟き、魔法の訓練を始めるのだった。



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