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モノゴイと呼ばれた男  作者: クラノ恩樹
第2章 奴隷の国編

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89.三つの拳

「てんめえ…!それじゃ結局、今までのゴミ漁りと何も変わってねえじゃねえかッ!」





物乞いをする、と自信満々に胸を張って言い切ってやった俺だったが、なぜかゲイルに盛大に怒られてしまった。


「な、なんだとぅっ?」


なんで怒られるんだ?

納得がいかない。


俺にはこれが自分自身を成長させる最善の方法だと考えていた。

それを全否定されたのだ。


「………………」


さらに納得いかないのが、ガーディさんまで呆れた顔をしている事だ。

募らせた不満を口に出そうとしていると、ゲイルがそれを待たずに罵倒してきた。


「いいか、俺たちはミジョウを倒すんだろう!?今更怖気づいてスラムに引きこもってたってどうしようもねえんだよ!さっきお前に感心して損したぜ、まったくよ!」



ぷっちーん



「なんでてめえにそこまで言われなきゃならねえんだ!お前こそ俺のスキルの話ちゃんと聞いてたのかよ!?考えてから物を言えってんだ!口も顔も悪いが、耳も頭も同じくらいのデキだったんだな!」



ブッチーン



「ほ、ほう~…?俺相手にそこまで言って無事だったやつはいないんだが?覚悟はできてるんだろうなぁ、ガキンチョ?」


俺もゲイルも唇をゆがめて歯を剥き出しにし、顔を左右にグイグイと振りながら、顎で煽るように近づいて行く。


「なんの覚悟なのかなぁ?」


「はっはっはっ。なんの覚悟か聞かなきゃ分からねえとは、やっぱりオツムがガキンチョだったなぁ?ん~?」


「殺す…ッ」


「そりゃ俺のセリフだぜ……ッ!」


売り言葉に買い言葉の末に、お互いに手が出る瞬間――。


バシュッ


バシュッ


静観していたガーディさんが、額に青筋を立てて毒手の突きを俺たちに放ってきた。


「うおっ!?」


「ちょっ!ガーディさん!?」


怒りが込められた、割と本気度の高い一撃だったが二人ともどうにか躱しきった。


「…いい加減にしろっ。話が進まん!」


これ以上は本当に殺されると思った俺は平謝りした。


「す、すみませんでした!」


「…そういや、お前もあんまり気が長い方じゃなかったんだったな。あぶねえ、あぶねえ。」


ゲイルもこれ以上は喧嘩を続ける気が無いらしかった。


「ロッカ、続けろ。何か考えがあるんだろう?」


ガーディさんの青筋も既に無い。

怒りを鎮めてくださったようだ。


「はい。単に物乞いと言っても食い物をねだるとかではないんです。俺が他人に乞うのは()()です」


「「仕事だと?」」


「ええ。俺は修練宝塔で上級の鍛冶、裁縫、調理のスキルを取得しました。調合や革細工なんかのスキルもあります。残念ながら修繕や下準備など、用途が限定されたスキルにはなりますが、それを仕事として道行く人に声をかけるんです」


「ほう。それで?」


「物をねだっても邪険にされるだけでしょうが、仕事となれば話が違います。手入れや修繕の仕事なら大手を振ってその人の道具を手に取ることができる。そうすれば俺はもっといろんなスキルを身に付けることができると思うんです」


「なんだよ、ちゃんとした仕事じゃねえか。物乞いなんて紛らわしい言い方を…」


「ちゃんとシンプルな物乞いもするよ。武器・防具屋が下取りして使われなくなったゴミをもらいに行くんだ。ゴミ山に捨ててきてやるって言ってな。賃金が発生すれば立派な仕事なんだろうけど、俺が欲しいのは捨てられた物のほうだし、それを仕事にするつもりはないから、こっちはやっぱり物乞いになるかな?」


「ちっ。それも初めに言えってんだ。それになんだ?ちゃんとした物乞いってのはよ。まったく、ややこしい…」


俺の説明を聞いた二人はようやく俺のやりたいことを理解し始めたようだ。

ゲイルの悪口は相変わらずだったが―。


ミジョウ打倒には、何よりもまず解呪のスキル取得が必須になってくる。

それがあればガーディさんの抱える左足を解呪できるし、ミジョウの被害者の勧誘も現実味が帯びてくるだろう。


さらにロッカとワインジジイ・ラウルのおかげで、自分が取得していないスキルを保持している道具について、看破することが可能になっている。

手当たり次第に無駄に声をかけることがなくなり、効率も良い。


「思ったより一応の筋は通っているな。だが、そんな上手くいくのか?そもそもお前みたいなガキンチョはその辺にいくらでも転がっているし、そもそもミジョウを倒すのに役立つスキル持ちが、その辺に転がってるとは思えねえがな」


口は悪いがゲイルの指摘は正しいな。

一般人の持つスキルなど、あまり戦闘に役立つものはほとんど無いだろうとは俺だって思う。


「もっともな意見だよ、ゲイル。でも、俺たちは仲間を増やす必要がある。それは戦闘員に限ったことじゃない、本当はもっと多種多様なたくさんの才能が必要なんだ。国と戦おうって言うんだからな。人員にも物資に限りがある中で、スラムの子供たちを保護していくのも同時進行していかなきゃならない。金だって相当にかかるだろう。だから人脈を広げながら、人が集まるまでは俺で補える分は俺のスキル取得で何とかしたいんだよ」


打倒ミジョウももちろんだが、この国の被害者救済も同じくらい大きな目的になっていた。


俺の中でロッカの心が悔やんでいるのだ。


今までロッカは、自分と同じような境遇の子供が道で行き倒れていても手を差し伸べたりしなかった。

赤ん坊の遺体を目にしても、心を痛める事すらなかった。


それが今となっては悔しくてたまらない。

ロイと一つになり、人の温かさを思い出したロッカはそんな自分がいたという事が許せなかったのだ。


「まずは、道端で靴磨きや簡単な修繕から始めてみたい。初めから上手くいかないかもしれないけど、客をがついてきたらいずれは露店を持ちたいと思ってる。ここには王族やら貴族やらもたくさん来るみたいだし、それを目当てにしている商人なんかも商談前に立ち寄ってくれるんじゃないかと考えてるんだ」


そう言うと、さっきまで怪訝な顔をしていたゲイルが少し楽しそうに提案をしてきた。


「それで本当にスキルが取得できるなら、面白くなってくるな。…なあ、ガキンチョ?俺が狼騎兵の皆から持ち物をこっそり持ち出してくるってのはどうだ?」


「気持ちは嬉しいし、それができるならすごくありがたいけど危なすぎる。ショーンさんが標的にされたってことは、ゲイルの身の回りに監視があると思った方がいい。ゲイルはできるだけ派手に動かず、クロコって治癒士の道具を手に入れる事だけに専念してほしい」


「…む、そうか。それは、そうだよな」


ゲイルの顔が曇ってしまった。

ショーンさんの名前を出すのは申し訳ないと思ったが、危ない橋は渡らないに限る。


「それなら俺が……」


「ガーディさんはもっとダメでしょう?追われて死にかけてるんですよ?」


「う、うむ…」


そこまで聞いた二人は、チラッと目線を合わせた後に頷き合った。

こうしてようやく、打倒ミジョウにおける俺の行動方針が決まったのだった。


散会する直前、ゲイルからありがたい申し出があった。


「お前にはこれから俺かガーディのどちらかが毎日稽古をつけてやるからな。スキル取得も結構だが、日々の地道な訓練こそが自分を守る最大の盾になる。厳しいが覚悟しておけよ?」


地道な訓練か。


ゲイルのあの二刀流の剣技は見事だった。

攻防に優れた剣捌きはきっと、泥臭い訓練の賜物なのだろう。


「なんの覚悟だよ?間違っても弱音なんか吐かねえから安心しろ」


俺は、ニィっと口を歪めてゲイルを煽る。


「分かってる事を人に聞くなんざ、ガキの癖に生意気なんだよ」


ゲイルもまた、薄ら笑いを浮かべて俺を煽ってきた。


だけど、今度は喧嘩は無し。

代わりに握りこぶしをゴツンとぶつけ合った。


それを見たガーディさんがため息をつく。


「…お前ら、やっぱり似てるな」


ガーディさんの呟きと一緒に、俺たち3人は改めて拳を合わせるのだった。







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