48.がんばったんです
―ある日の朝。
「ロイ、あなた何やってるの?」
「ああ、おはようございます。母さん。魚を捕ってきたので朝ごはんにしようと思いまして…」
「………魚を捌くの、上手ね…」
「はいっ。がんばりましたから!」
「そ、そう。……え?」
―別の日の昼下がり。
ゴリッ…
ゴリッ…
ゴリッ…
「ロイ。一体何をやってるの?」
「ん?傷薬を作ってるんだよ」
「…なんでそんなことができるのよッ?」
「ああ、そういう事か。がんばったからだよ」
「答えになってないのよ!どうして薬の作り方なんか知ってるのよ!?」
「んん~…。がんばったからとしか……」
「ふん!私には教えられないってわけね!もういいわ!」
―別の日の夕方。
「お前……何やってるんだ?」
「皮なめしですよ。この間、デンゴさんが鹿を捕ってきてくれましたよね?それですよ」
「…違う。そういう事じゃない。どうしてそんな皮をなめすなんてやり方を知ってるんだ…?」
「え?がんばったからですよ?」
「答えになってねえ!」
そう、俺はがんばったんだ。だから、こんなことができる。
あの時に―――。
時は、2か月前に遡る。
目の前には大量の武器が並んでいる。
シンディを襲ったゴブリン達が所持していたものだ。
ゴブリンの武器は棍棒が多いが、未熟な冒険者や商人などから奪い取った剣や槍なども武器として扱う。
シンディを襲い、俺に倒されたゴブリン達の数はおよそ80匹。
その半数以上が人間の武器を手にしていた。
それを見て、ふと思ったのだ。
(これで修練宝塔が発動できれば熟練度も上がるし、スキルを大量に獲得ができるんじゃ……)
そしてスキルは発動した――――。
最初のスキルは一本の折れた剣から取得した。
スキルは初級剣技。
師匠は30代くらいの中堅の冒険者で、名前はスコットさんといった。
長身で、顔が長く、鼻も高くて顔のパーツ同士の感覚が広い。
赤と黒の軽鎧を身に付けた、純粋な剣士だ。
パワーもありそうに見えるが、意外とスピード重視の技巧派だった。
タートルフロッグという、亀とカエルを足したような魔物と戦った際に、振り下ろした剣が甲羅に当たって折れてしまったそうだ。
「あのタートルフロッグ!タイミングよく甲羅を前に差し出しやがったんだ。おかげで4年も愛用してきた剣がこんな有様に…!」
と、大層怒っていたが、修行は分かりやすく丁寧だった。
初級剣技を習得すると、ものが切れるように剣を振る事ができるようになる。
最初は刃がぶつかっても何も切れなかった。
身体の使い方、力の乗せ方なんかを教えてもらい、対人戦と、冒険初心者が遭遇しそうな魔物との戦い方を学んだ。
スコットさんが面倒見の良い人で本当に良かった。
そんなふうにエマさんに話をすると、
「ん?スコットか?
ああ、確かに教え方は上手いし実力もありそうだ。ロイが初級剣技を覚えていれば中級の剣技も教えてもらえたかもしれないな。それほどの熟練者だ。
だが、修行をきっちりつけさせているのは修練宝塔、お前のスキルだからだ。そこは間違えるなよ?」
最後は少し、凄みを聞かせた念押しが返ってきた。
「分かってますよ。エマさんのおかげですよね?」
「我に、じゃない。自分自身に感謝するんだよっ」
「はーい!分かりました!」
それからは、スコットさんとの修行を皮切りに、スキル発動中は時間が止まるのを良い事に、ひたすら修練宝塔のスキルで修業をした。
何でもいい。
覚えられるものは何でも覚えたい。
そして、スキル修練宝塔の熟練度をあげてやるのだ。
本当は、すぐにでもポロンたちのところへ戻りたかったが、偏屈ワインジジイのラウルを封印したとき、エマさんとの別れ際に言われたことを早速実践したのだ。
『スキルを使え』
このお達しを遂行するため、意を決して修行に勤しんだのだ。
その成果がこれである。
初級剣技
初級短剣技
初級棒術
初級槍術
初級索敵
初級解体
初級皮加工
初級調合
予想以上にたくさんのスキルを獲得した。
重複するスキルは習得できないらしく、無反応となるようだが、その武器の所持者が数種類のスキルを使っていた場合、別なスキルを習得することができたのは行幸だった。
無駄がない、素晴らしいスキルだ!さすがは修練宝塔ッ!
自分としては、調合が覚えられたのは良かった。
解体と皮加工は短剣術を覚えたあと、別の短剣から取得できたのだが、ゴブリン達の持ち物の中に、たまたま調合の道具があったのだ。
ちなみに、師匠としてゴブリンは出てこない。
エマさんにゴブリンが使っていた物でスキル習得はあるのか、と聞いたら、
「あいつらはただ武器を振り回すだけの能無しだ。そこに積まれる経験値などあるわけがないだろう」
という答えが返ってきた。
良かった。
ゴブリンから習ったスキルなど、あまり使いたいものではない。
とにかく、俺はがんばった。
体感で5年分くらい修行してたんじゃないか?
だから、誰かに新しいスキルについて聞かれたらこう言うんだ。
「がんばったんです」
と。