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モノゴイと呼ばれた男  作者: クラノ恩樹
第1章 開拓村編
23/183

23.家族が増えて

ミアの出産から2か月が過ぎた。


赤ん坊の名前はポロンに決まった。

随分やさしい感じの名前だと思ったが、ミアの提案らしい。


俺の時は男らしい、少し無頼の感じがする名前にしたいとガナイが決めたので、

順番的に次はミアが、となったらしい。


ところで俺はあの後、

小さな身体で無茶をしたからか、三日三晩目を覚まさなかったらしい。


起きたときには身体が怠く、過剰な魔法発動に魔力回路もズタズタになってしまったようで、

魔力操作や魔法発動をしようとすると、すごい激痛に襲われた。


そのため、魔法を習得してからずっと続けていた魔法訓練を、初めて休んでしまう事になった。


俺が寝ている間、ミアもガナイも大変だったようだ。


赤ん坊のポロンは魔力を溜めやすい体質のようで、油断するとすぐに体内に余剰魔力が充満してしまう。

自分で魔力操作をして循環や排出ができるようになるまでは、

誰かがつきっきりで魔力の排出をしなくてはならない。


幸い、ガナイから話を聞いたミアが魔力排出の作業を行えたから良かったものの、

そうでなければポロンはまた生死の淵を彷徨う事になったかもしれない。


だが、通常の子育てをしながらのその作業は、産後の身体には特に堪えただろう。

ミアは本当によく頑張ったと思う。


今は、俺とミアが交代でポロンのお世話をしているし、前世の記憶を頼りに子育ても手伝っているからミアの負担も大分軽減させられているだろう。


一方のガナイはというと、

そのミアに毎日のようにこっ酷く叱られるのが相当大変だったようだ。


「ロイになんてことさせるのよッ!まだ5歳なのよ!?

 下手したらロイまで死んでしまっていたわ!」


「で、でも、二人とも助かったんだから良いじゃないか…。」


「あ゛あ゛んっ?」


「…す、すみません…。」


何かあるとすぐにこんな具合になってしまうらしい。


だが、ポロンが生きていてくれて二人とも嬉しそうだ。


(あの時助けることができて本当に良かったな。)


しみじみとそう思う。


これからは家族4人、楽しく暮らしていきたい。









「ロイーっ!ちょっとポロンの事お願ーい!」


「いいよー、任せてー」


外でポロンの魔力排出をしていたミアが、隣のマルジさんのところに行く用事ができたらしい。

胸の前で抱えられるように紐で縛ってもらう。いわゆる抱っこ紐というやつだ。


ミアが出かけるのを見送ったあと、

ポロンのお腹に右手を当て、左手から霧を出して魔力を放出させる。

毎日定期的に魔力排出しているので、前のようにジャンジャン水を出す必要はない。


ポロンの魔力排出が終わると、今度はそのまま体術のシャドーを始める。

激しい動きは赤ん坊の身体に悪いので、ガナイとの訓練を思い出しながら、

太極拳のようにゆっくりと動く。


「ふうぅ~…」


気づけば、太陽が大分傾いてきている。


「あれ?いつから見てたんですか?」


ガナイとミアが揃って俺の動きを見ていたらしい。


「ついさっきよ。」


「何やら珍しいことしてると思ってよ。それは体術訓練か?」


「うん。父さんみたいに強くなろうと思って。」


呼吸を整えながらそう答えると、ガナイとミアは少しだけ寂しそうな顔をした。


「確かに戦闘技術はそろそろ教えたかったんだが、一人で辿り着いちまったんだな…」


「私だってそうよ。気づいたら水魔法を使えるようになっているんだもの。

 そのおかげでポロンは助かったのだけど、やっぱり少し寂しいわ…」


二人にそう言われてからハッとした。


(そっか…。スキルの中のガナイもミアも、修練宝塔が生み出したイメージなんだよな。

 俺がそれを使えば使うほど、本当のミアたちとの修行の機会が失われていくことになるのか…。)


俺はガナイとミアにたくさんの愛情を注いでもらっている。

そんな二人に子供として何が返せるのかといえば、親子の思い出をたくさん作り、

絆を深めていくことだけだろう。


修練宝塔は確かに便利な能力だ。

先人の知識や技能を現実世界ではノータイムで取得できる空間を作り出せる。


しかし、そのために現実にいる二人との修行の機会を失って、

親として寂しいを思いをさせていいはずなどないのだ。


「ごめん。父さん、母さん…」


俺が謝るとガナイとミアが今度は少し慌てていた。


「おいっ。なんで謝るんだよ。息子が成長してる、最高の事じゃないか!」


「そ、そうよ!ロイの成長は私たちの喜びなのよ。頑張っているロイの事が嬉しくないはずないじゃない!」


「…うん。」


申し訳なくて涙が出そうだ。


だけど、この気持ちに応えよう!

心気臭い顔は二人の息子には似合わない。


「僕、もっともっと頑張ってすごい人になるね!」


「…ッ!その意気だぞ、ロイ!」


「今度、一緒に水魔法練習してみようね!」


「はい!」


俺が勢いよく返事をしたタイミングで、へぶしッとポロンからくしゃみが聞こえた。

それを見て、俺たちは全員ポロンを見ながら笑い声をあげた。


控えめに言って、この家族は最高だと思う。


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