11.ミアとの修行 ②
自分の魔力を感じ取ってから、随分と長い時間魔力の流れで遊んでしまった。
体感で10時間は続けただろうか。
初めは魔力の流れを加速させ、次にゆっくりとした流れの操作に切り替える。
今はその魔力を全身に纏う訓練をしている。
不思議なことに肉体的、精神的な疲れはない。
(これ、修行し放題だな。)
だいぶ慣れてきたのかそんなことを考える余裕も出てきた。
「駄目よ、ロイ。ちゃんと集中しないと習得できないわよ?」
違った。
慣れたんじゃなくて集中が乱れていただけだった…。
「ご、ごめんなさいっ。」
優しい口調だがミアは少しスパルタの気があるな。
「ロイは身体の右半分に魔力を集めたがる癖があるようね。
利き手が右手だから仕方ないけど、それじゃ初級魔力操作としては合格点をあげられないわ。」
(んむう…こ、こうかー!?)
「調節は必要だけど、右半身と左半身とを分けて考えてはいけないわ。
一番大事な身体の中心でぶつかり合うような操作しかできなくなるわ。
それこそ丹田を意識して、その上でバランスを取るの。」
(こ、これ難しすぎねえかっ?信じらんねえ難易度なんすけど!?)
焦りすぎたのか操作が一段と雑になってしまったところで、
ミアから休憩を提案された。
「エマさんのところでおやつでも食べてきたらどうかしら?
いくら疲労の無いスキル空間とはいえメリハリもつけたほうがいいわよ?」
「う、うん…。じゃあ少しだけ休んでくるね。」
そう言って塔を出た俺はこたつで寛いでいるエマさんの左側に正座した。
すると、当然のようにお茶とお煎餅が出てくる。
(どうなってんだろ、これ?)
今度のお茶は玄米茶。
お煎餅は小麦粉を水で練って焼いたシンプルなやつ。
前世の北東北でポピュラーだったお菓子だ。
歯は生えていないのにバリバリと煎餅をかじってお茶を啜っていると、
エマさんが怪訝な顔をしている。
「…どうして正面に座らんのだ?」
「ああ、すみません。
なんか対面にいると死後の世界のことを思い出してしまって落ち着かないんですよ。
気に障るようなら場所を変えますが…。」
「いや、そういう事なら別に構わない。
ところで初めての修行は難儀しているようだな。
まあ、そもそも楽じゃないから修行と言われるんだ。
順調などという言葉とは無縁だ、と諦めて四苦八苦するがよい。」
エマさん、優しいのか突き落としたいのか分からないんですけど…。
今の言葉で発奮するというのはなかなか困難を極めます。
「まあ、スキル発動中は時間を使い放題なのだから焦らずじっくり進めればよい。」
「はい、ありがとうございます!」
うん。
煎餅食って二言三言お喋りしただけなのだが、
気持ちが随分と落ち着いてきた気がする。
もういっちょ、やってやるか!
◆
あれから体感で4時間ほどを費やし、
ようやく3ミリほどの厚さの魔力を全身に纏う事が出来た。
「素晴らしいわロイ!合格よ!
まさかこんなに早く習得するなんて、流石私の自慢のロイね!」
「やっとできたよ!それもこれも母さんが応援してくれたからさ!」
「うふふ。ロイが一生懸命だったからよ。
本当によく頑張ったわね。」
嬉しいなぁ…。
こんな風に喜んでくれるなんてホントに素敵な母さんだ。
褒めて伸ばすミアの教育方針こそが素晴らしいと賞賛の拍手を送りたい!