表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生令嬢の最強釘バット  作者: 御重スミヲ
14/14

伯父の独り言


 侯爵家の嫡男として生まれ、それなりに容貌にも才能にも恵まれたと自負しているが、近頃は「天災の伯父」と言った方が通りが良い。

 それが彼女が伸び伸びと生きている証拠のようで、とても嬉しく思っている。


 幼少期の彼女には怖がれていた自覚があったから、強引に手助けすることを躊躇ったことをいまでも後悔している。

 姪からはじめてもらった手紙には、失礼にならない程度に簡潔かつ的確に私に求めることが書いてあった。

 十歳とは思えない賢さだ!


 久しぶりに会った姪はガリガリにやせ細り、自力で立っているのが不思議なほどだった。

 なんということだ。

 私は不覚にも「本人が会いたがらない」というあの男たちの言葉を信じてしまったのだ。


 私はこの子の母親を守ることができなかった。

 庶民のように距離の近い育ち方はしなかったが、大事な妹だったことに変わりはない。

 年が離れているせいで同時期、学院に在籍しておらず側にいてやることもできなかった。


 当然その非は己の欲や得、保身のために行動した第二王子やそれを誘惑した男爵令嬢、それを支持した令息・令嬢たち及びその実家にある。

 一方で冷静な目で見れば、子供の狭い視野で作り上げた侯爵令嬢という姿に固執し、生涯それを変えることができなかった妹に問題がなかったとは言えない。

 私と同じく不器用なやつだった。


 しかし、この姪は違う。

 その目にも声にも行動にも輝かんばかりの力強さがある。

 妹の薫陶によるものだろう令嬢としての所作や言葉遣いは完璧あり、その上でここぞとばかりに突き進む様は老練の将軍のようだ。


 妹のことがあって以降、領地を治めるための最低限の遣り取り以外、我が侯爵領は他所との交流を断った。

 気を付けてはいたが自然、情報に疎くなり思考も鈍化していたのだろう。

 金剛石のようなカサンドラが降るように現れて、私も両親も目が覚めた。

 特に我が領軍の体たらくには愕然とした。


 でもまだ間に合う。いや間に合わせなければならない。

 王家も他所の貴族家もどうでもよい。

 正直そんなことに思考や時間を割く余裕などなかった。

 結局、彼女のスキル頼りになったことをすまながらせてもくれない姪だ。


 強力なスキルを以って傍若無人に振る舞っているように誤解されがちだが、人の気持ちを慮れるやさしい子である。

「よい人がいたら私に遠慮なさらず結婚なさってよろしいんですのよ、伯父様」

 そんなふうに私に言ったのも一度だけ。


 日々、同様のことを言葉の雨霰(あめあられ)として降らせる母とは違う。

 いや母は母で私のことを思ってくれているのは重々承知している。

 しかし、母上とて覚えているでしょう。

 我が妹が学院で孤立している時、私の婚約者がどう行動したか。


 立場上、黙っていても妹に味方するのが当然だった。

 それでもあえて「できるだけ妹と一緒にいてやってはくれまいか」と頼んだ私に素直に「はい」と答えながら、傍観に徹するどころか王子側に与していた。

 そして妹が王家側から一方的に婚約破棄されたのと時を同じくして、私の婚約も婚約者側からの申し入れで解消と相成ったのだ。


 もともと侯爵領が肥沃な土地で、代々の当主が堅実に運営してきたこともあり、借金などもなく裕福であったこと。父が剣聖のスキルを持っていたこと。私が自分で言うのもなんだが文武に秀でていたこと。王家にも連なる母の血筋に加えて、妹が王太子確実と言われた第二王子と婚約したこと。

 私も妹も両親も、人の妬みや疑心の怖さを甘く見ていた。

 

 まあ私もよい年だ。

 青年期の心の傷に拘り続けるほど頑迷ではないつもりだし、女を求める欲がまったくないと言えば嘘になる。


 しかしだ。

 カサンドラがいて両親がいて私がいる。

 なんと完璧な家族ではないか!


 いまになって私に擦り寄ってくる女といえば保身に走る元王国貴族か、野心に燃える帝国貴族の令嬢や未亡人たちだ。

 保身も野心も悪いとは言わないが、ものには程度というものがある。


 だが、四人で完璧だと思っていた私が浅はかだったことは認めよう。

 姪の子供たちのなんと可愛らしいことか!


 その父親にかんしては誰であっても気に入らない自信があるので何も言うまい。

 女当主が当たり前に存在するその一事だけでも、帝国の在りようは認めているが。


 カサンドラが私の養子となり侯爵家を継いでくれることはとてもうれしい。

 ただそのせいでもう一つの家族を引き裂くことになるのなら、私も考えねばなるまい。

「王宮など狭苦しくて、とても住めたものではありませんわ。父親と共に在れないことを不憫と思われるなら、それ以上に伯父様が可愛がってやってくださいませ」

「任せなさい」


 私はなんと幸せなのだろう。

 日々ずいぶん年下の姪の言葉に勇気付けられているなど、逆ではないかと叱られそうだが。

「私は好き勝手させてもらってますわ。強力なスキルのおかげでできることも多いですし。それでも理不尽なことや、どうにもならないことをやり過す(すべ)も身に付けておりますの。ええ、これでもいろいろ大変なんですのよ、ホホッ。それでもとりあえず思い切り当たっておけば、同じでも明るい心持ちで後悔できると思いませんこと?」


 ああ、今日も我が姪は輝いている。



おしまいまでお付き合いくださりありがとうございました m(_ _)m

また評価やブクマ、いいねなどで応援くださった方々どうもありがとうございました(*^▽^*)

少しでも楽しんでいただけたならとてもうれしいですヾ(*´∀`*)ノ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ