16.顔面楚歌
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「ソフィアさん。これなんですか?」
ソフィアの自室に運ばれて来た見合い写真を見て、ドレスを整理していたパックが手を止め不思議そうに近付いていく。
「お見合いしろって言われたのよ」
「え!?」
「契約的な婚約まででもいいからって」
「えぇ!!?」
驚くパックそれ以上の説明もせずに、パラパラとソフィアは方杖をついたままにめくってゆくが、その顔は何の感情すら見えないと、パックは思う。
「あの……、ソフィアさん」
「何?」
「僕じゃだめですか?」
ソフィアは思わず頬杖から落ちて、驚きパックを見つめて笑おうとするが、机の前で真剣な顔を見ればソフィアは優しく微笑んだ。
「駄目ね。身分も、何よりあなたじゃ歳も足りないわ」
「そう……ですよね。でも……」
パックはそういって開かれた見合いの絵や写真を見つめて、
「多分この中なら僕が一番ソフィアさんの顔の好みだと思ったから」
「誰が面食いよ!」
「面食いじゃないですか。さっきから『好みじゃないわ』『もう少しだけでも面長なら』『この人は目付きが好みじゃない』『もう顔面が好みじゃない』とか呟いてましたよ」
パックの素直な言葉に無意識だったとソフィアは腕を組み点を仰ぎながら、
「言ってたかしら?」と聞けば「言ってました」とパックは躊躇うことなく頷きながら答える。
「し、仕方なくない? 万一結婚したら毎日顔を合わせる相手よ? 美形で損はないと思うのよ?」
「それで失敗したみたいなこと言ってませんでしたか?」
「……。」
ソフィアは視線を逸らしながら、我ながら懲りてないのかと苦々しい顔で呟いて、ソファに深く沈み込む。
(とはいえ、こればっかりは性分なのね……。小さな頃から服の販売するのに広告に絵画の被写体は綺麗な人ばかり見てたから目が肥えてるのよ……)
衣装を着せて似合う人を探せばどうしたって美形に繋がってしまうし、何より売り上げに繋がるのだと思う。
ソフィアは自分の面食いさに呆れて、ここにはパックしかいないしと、天を仰いでそのまま息を吐くが、それを見てパックは幸せそうに笑っているが、ソフィアは気付くこともなくまた無意識につぶやきを漏らす。
「はー……、美形で、立場があって、わたしに似合うレベルで、わたしの商売の仕事も邪魔をしない男いないかしら」
そう呟いて、ソフィアの頭を過ぎるのはあの美丈夫。
しかしそれはあり得ないと、ソフィアは立ち上がり勢いよく窓に近付き外を眺めながら考える。
(どこの誰かも知らないけど、騎士団を率いてたってことは、絶対立場のある人。いや、あの顔でそんな立場で……でも髪は茶色ってことは、この国では高貴な立場は色素が薄いことが多いときくし、それならそこまで偉くないのならば都合もよいかも……。とはいえわたしよりも年齢は上。そんな美形の男が、既婚者かそれとも婚約者がいないとも限らない。……てゆーか結局名前もちゃんと名乗らない男に頼ってどうするのよ!!)
ソフィアはそこまで思えば、また不機嫌そうにソファへ戻り、やはり不機嫌そうに見合い相手の絵を見始めた。
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あれから数日。
思いの外早くその時はやって来た。
「謁見!?」
ソフィアが父に呼び出されて作業部屋に行けば、父はドレスのチェックをしながら、なんでもないように話を続ける。
「そ。アレにもう見つかっちゃった。そんでこっちの王様まで通して我が家を顔出させようってんだから、いい度胸としか言えないよねぇ〜」
父親が『アレ』扱いする相手が誰なのかソフィアもすぐに勘付くが、あの王太子くせにこちらの王族まで通した謁見などという、えげつない呼び出し方は逃げ場がないことをよくもまぁ思いついたものだと、不機嫌そうに眉を顰めた。
「まぁそりゃそうだよねぇ。僕らが勝手に国替しても、間も開かずに早々にこうして商売してれば、見つからないわけないよね!」
あははと、本当に何も気にして無いように笑う父に協力体制はあまり見込めそうにないとソフィアは頭を抱えた。
「まだお見合い相手すら決まってないのに」
「相当な人数いたのにね。君が選り好みするからだよ。顔の」
「そこの妥協点を探してる最中でしたわ!! てゆーかお父様に言われたくないのですけど!?」
ソフィアはジトッとした目をして、国一番とも名高い舞台女優をしていた折り紙つきの美女の母を娶った父にクレームを言えば、
「お母様はほら、美女なのは勿論、気立も良かったから選んだからね」
その言葉にグサリと胸を刺されて、それでもなんとか言い返そうと、
「……アレを選んだのはお父様じゃないですか」
「だから逃げるのも協力しただろう? さて、謁見は三日後だそうだよ。それまでに誰かソフィアのお眼鏡にかなう人を連れておいでね」
のらりくらりと返される言葉にこれ以上持ち手はないと、ソフィアは了承したとだけ伝えて、その部屋を出て行った。




