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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第306話 宝積寺姉妹-2

 皆が驚愕しているが、春華さんは俺を安心させるように笑いかけた。


「一時的な避難先を必要としていたとはいえ、貴方には悪いことをしたと思っているの。この町は特殊な場所だもの。外に戻りたいと思っているなら、私が全力でサポートするわ」

「……だったら、最初から、俺を他の場所に送り出すことはできなかったんですか? 俺に魔力があったから、この町がいいと思ったのは理解できますけど……」

「貴方が、いっそのこと、違う世界にでも行ってしまいたいと希望したのよ。異世界に一番近い場所は、この町だから」

「……」

「でも、やっぱり無理があったわ。貴方が、神無月の家系ではなかったことも計算外だったのだけど……まさか、玲奈が貴方のことを好きになるなんて、私にも予想できなかったのよ。せっかくだから、外に行って、玲奈との新しい生活を始めるのも悪くないと思うわ」

「ちょっと待って! 黒崎君が外に行ったら……困るわ!」


 春華さんの言葉に、大河原先生だけが異を唱えた。

 宝積寺が怒るのではないかと思ったが、その宝積寺ですら、戸惑った顔で春華さんを見ている。

 俺と別れて新たな人生を始めようとしているのに、外でよりを戻せと言われたら、いかに春華さんの提案でも困ってしまうだろう。


 どうするべきか、俺は考えた。


 この状況なら、悩むのが自然だと思う。

 しかし、結論は信じられないほど早く出た。


「すいません、春華さん。俺は、外には戻りません」


 俺がそう言うと、周囲からは想像以上の驚きが伝わってきた。

 だが、春華さんに驚いた様子はなかった。


「そう。この町を気に入ってくれたのであれば嬉しいわ。でも、念のために理由を教えてくれないかしら?」

「俺は、外から逃げてきたんですよね? それなのに、外に逃げ出しても、いい結果になるとは思えません。それに……こんな俺でも、この町には、必要としてくれる人がいますから」

「貴方の状況は、ある程度は把握しているつもりよ。ひょっとして、この町の女の子に対する責任感かしら?」

「いいえ。俺自身の願望や欲望です。本当は、宝積寺と一緒にいられれば良かったんですけど……それは不可能みたいですから」

「分かったわ。もしも気が変わったら、できるだけのことはするつもりよ。貴方が幸せになってくれることを願っているわ」


 俺にそう言ってから、春華さんはこの場に集まった全員に対して、改めて感謝を述べた。

 そして、早見から荷物を受け取ると、宝積寺の手を取って、姉妹で立ち去った。



 宝積寺姉妹が立ち去った後には、何とも言えない余韻が残った。

 この町にとって、とてつもなく重大なイベントが終わったのである。


 常に話題の中心だった姉妹が、ついに、この町から去った――。



 皆が動きも喋りもしなかった状況で、最初に動いたのは桃花だった。


「良かった。お兄ちゃんがお姉ちゃんを選んでくれて」


 そう言って、桃花は俺に抱き付いてきた。

 すると、数人が、思い出したように何らかの動きをした。


 一番多かったのは、俺の意図を探るように見る動きだった。


「自分は玲奈さんを引き留めておきながら、玲奈さんと一緒に行くことは断るなんて……黒崎先輩はどうかしています! ましてや、春華さんの提案を断るなんて……!」


 長町は、俺を睨みながら叫んだ。

 そんな妹を、あかりさんは困った顔をしながら宥めた。


「本音を教えてください。黒崎さんは、玲奈さんよりも、この町の女性を選んだと解釈してもよろしいですか?」


 栗橋が、俺に詰め寄るようにしながら言った。

 いつものジト目ではなく、俺に対する敵意が感じられる目をしている。


「そういう問題じゃない。外から逃げて来た俺が、また外に戻ったって、上手くいくわけがないだろ?」

「ですが、春華さんの後ろ盾があれば、この町に残るよりも成功できるはずです。美樹さんの義弟になって、地位が向上したことは理解していますが……この町の常識は、黒崎さんの外での常識とは乖離しているでしょう? 春華さんや玲奈さんと一緒にいる方が、黒崎さんにとっては快適なのではないでしょうか?」

「ちょっと、梢……。黒崎君は、私や御倉沢の女の子たちへの責任を果たそうとしてくれているのよ?」


 先生が宥めようとしたが、栗橋は納得しなかった。

 平沢や桐生といったメンバーも、俺は宝積寺を選ぶべきだったと思っているようだ。


 俺はため息を吐きたい気分だった。


「お前らは勘違いしてると思うが、外に行って春華さんと暮らしたら、宝積寺が俺を必要とするはずがない」


 俺がそう言うと、多くのメンバーが、信じられないものを見るような顔をした。

 栗橋も、愕然とした顔をしている。


「何を言っているのですか!? 玲奈さんは、あれほど黒崎さんのことが好きだったというのに……!」

「黒崎さんの仰るとおりですわね」

「アリスさん……!?」


 驚いている栗橋に対して、早見は淡々と言った。


「玲奈さんが黒崎さんに惚れていたのは、春華さんの代わりに、自分を肯定してくれる人が必要だったからです。春華さんがいらっしゃるのであれば、黒崎さんにこだわる理由など存在しません。その自覚が黒崎さんにあって良かったですわ」

「そんな……まさか……!」

「間違いありません。春華さんに玲奈さんをお返ししたことによって、黒崎さんの役割は使命は果たされたのです」

「……」


 宝積寺のことを一番理解している早見に言われたら、栗橋を含めて、誰も反論できなかった。

 この町の連中は、宝積寺が俺を必要としていた理由を知らなかったのだから、当たり前の反応なのかもしれない。


 俺についての話が終わって、美樹さんが進み出た。


「皆様、玲奈さんを見送っていただき、ありがとうございます」

「美樹さん……大丈夫なんですか? 宝積寺先輩がいなくなったら、寂しくなりますよね?」


 桃花がそう言ったので、以前の芽里瑠さんの様子を思い出した。


 美樹さんの屋敷からは、花乃舞梅花が外に行った時に、5人ものメンバーが減ってしまったのである。

 おまけに、実の妹である宝積寺までいなくなったら、しばらくは憂鬱な気分になってもおかしくない。


「そうですね……寂しいです。玲奈さんだけでなく、花乃舞の皆様は、私にとって家族ですから……」

「……」

「……ですが、私には悲しむ権利が無いのかもしれません。玲奈さんだけでなく、私も、人生の転機を迎えているのですから」

「えっ……?」


 美樹さんに……人生の転機?

 一体、何があったのだろうか?


「丁度良い機会です。その件について、皆様にお話をしたいと思っておりました。手始めに、私の屋敷にいらっしゃる方々と、桜子さんのお宅にいらっしゃる方々に集まっていただきたいのですが……よろしいでしょうか?」

「……分かりました。では、私の家から萌と若葉を呼んできます」


 事態が飲み込めない様子で、先生はそう応じた。

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