2-9 研究
≪マスエナルの利用≫
マスエナルは誰にでも利用可能であるが、エナルダは自らのエナル係数を使ってマスエナルの作用を最大まで高める事が可能である。
つまり自ら発揮する力を減ずる代わりにマスエナルの作用係数を高めるのである。
この使い方はエナルダであれば少々の訓練で自由に発動できる。
マスエナルの使用方法は武具に埋め込むのが基本であるが、最近では付け替えを安易にする為、ホルダーと呼ばれる容器に収められ、武具はホルダーが収められるよう加工されているものが一般的である。
このホルダーは海洋生物のシザルプ(人間ほどの大きさの大エビ)の殻を加工して作られる。
マスエナルは貴重品として取引されるが、特に係数が高いものは驚くほど高値で取引される。
通常は防具ならば土の属性で防御力を、武器ならば火の属性で攻撃力を向上させるなど、武具の目的に応じて使用するのが一般的である。
しかし、利用者の能力や武具の性能によっては、目的以外の属性を持つマスエナルを装着する場合もある。
例えば、鎧は防具であるから土の属性のマスエナルで防御力を高めるべきだが、防御力が低い防具にマスエナルを利用しても高い防御力は期待出来ない。
体力が弱く軽い甲冑しか装着できない者は、むしろ重装鎧に気の属性のマスエナルを装着する事で、重装鎧の高い防御力を小さな重量負担で使用する事が可能となる。
更にマスエナルの作用係数が大きく、作用が鎧の重さを超えると鎧の重量負担は0以下となり、重装鎧ながら装備する事でむしろ俊敏さを高める事も可能だ。
表現を変えればマスエナルは装着した武具を使用する者に作用するといえる。
このようにマスエナルの利用方法は、利用する者、装着する武具、マスエナルの属と作用係数などにより様々である。
≪マスエナルの応用≫
マスエナルの複数装着は現在のところ成功例がない。違う属性だけでなく同じ属性であろうと、2つ以上のマスエナルを装着した場合は片方の能力しか発揮できないのだ。
ただし、エナルダは2つ以上のマスエナルを装着し、その作用を切り替える事が可能である。
例えば鎧に土の属性と気の属性のマスエナルを装着し、戦闘時と移動時で使い分けるという利用方法だ。
マスエナルの同時発動はマスターエナルダによって研究が続けられている。
≪エナルダの研究≫
我々は力を表す単位として、ディカノ(馬)の力を36としたディカルを使用しているが、一般的な人間の力は3ディカル程度だ。
例えばこの平均的な力を持つ人間がエナル覚醒してエナルダとなった場合にどのような力の増幅を得るかを示す。
ただ、人間の力は状況によって変動するという点、エナル係数は便宜上の数を当てはめているという点を理解した上で以下の推論へと移行したい。
以前よりエナル係数という概念はあったが基礎体力への単なる加算または乗算と考えられていた。3ディカルの者が覚醒し、エナル係数4の場合、加算して7ディカルか、乗算して12ディカルかと考えられていたのだ。
しかし検体のほとんどがこれには当てはまらなかった。元々、基礎体力もエナル係数も明確にカウントできるものではないが故に見過ごされて来た点だ。
10年前、ジョシュ・ティラントによる研究によって、エナル係数と能力は次のように結論づけられた。
まず、ジョシュ・ティラントの実験では、検体を定期的に体力を測定していた者に絞った。
つまりは兵士と学生である。
その結果、エナル係数は加算と乗算の組み合わせによって能力を最大限に発揮している事が発見されたのだ。
仮に基礎体力3ディカルでエナル係数4のエナルダの場合、係数4を体力3ディカルに加算と乗算で振り分けられる。(係数1は加算だと1から、乗算では2からカウントされる)
それでは3ディカルのエナルダについてエナル係数を2~5へ変化させて、その能力パターンを示す。
【エナル係数2】
(3+0)×3(係数2)=9
(3+1)×2(係数1)=8
(3+2)×1(係数0)=5
【エナル係数3】
(3+0)×4(係数3)=12
(3+1)×3(係数2)=12
(3+2)×2(係数1)=10
(3+3)×1(係数0)=6
【エナル係数4】
(3+0)×5(係数4)=15
(3+1)×4(係数3)=16
(3+2)×3(係数2)=15
(3+3)×2(係数1)=12
(3+4)×1(係数0)=7
【エナル係数5】
(3+0)×6(係数5)=18
(3+1)×5(係数4)=20
(3+2)×4(係数3)=20
(3+3)×3(係数2)=18
(3+4)×2(係数1)=14
(3+5)×1(係数0)=8
これらを見ると、(エナル係数+加算)と(乗算)が等しいか、(エナル係数+加算)が1大きいパターンが最も能力を発揮するパターンであり、ほとんどの検体がこの数値を示した。
これは結果からの逆説的なアプローチである。
例えば20ディカルのエナルダについて、発現前の体力が3ディカルならばエナル係数は5となり、4ディカルならばエナル係数は4という事になる。
これによってエナル係数の算出が可能となったが、あくまで基礎体力が記録されている事が前提である。
現在ではマスエナルの係数判定が主な利用法だ。
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この後、エナル研究は人工的にエナルス、ハイエナルを発生させる事が中心となっていった。
その為にはエナル係数が高い者が重要な役割を発揮するとされたので、エナル係数が一人歩きを始め、エナル係数のみでエナルダを評価する風潮が広がった。
しかし力に関して最もシビアな軍部は早々に混乱を収め、エナル係数至上主義の熱は収束した。
ジョシュ・ティラントを中心とした『新進派』と呼ばれる研究者達はエナルスの人工発生すら成功していないにもかかわらず、次の研究をマスエナルの人工融合、更にリアエナルの人工融合。
そしてリアエナルからの最終アプローチとして未覚醒者からの新しいエナルダ創造とし、研究計画だけが先へと進んだ。
これは研究費用を国から引き出す為ではあったが、他の研究者や識者を不安にさせるものであった。