2-8 エナル
青い空に洗濯物が揺れる。
ジュノは最後のシャツを干すと、空に向かって伸びをした。
伸びをしたまま傍らの俺を見ると、「さて」と言って資料室へ移動してお茶を淹れた。
ベルファーは窓からの陽だまりで眠っている。
ジュノはもう一度「さて」と言って、エナルとこの世界について説明を始めた。
俺はこれほど気持ちを込めて人の話を聞いた事はあっただろうか。
【エナル】
この世界にはエナルというものが存在し、世界の成り立ちや生命に大きな影響を及ぼすと伝えられている。
エナルは質量を持たない物質で、生物の脳神経や精神に作用する。
エナルは基本的に、その多くが大気に存在し、場所や季節、天候によってその濃度は変化する。
エナルは、気(空気)、水、土、火の4元素に大別され、それぞれを属性として体系づけている。
人間(他の動物も同じ)の意思は周囲のエナルに伝わり、声を発っすると空気の振動、音と一緒に伝達される。それが故にエナルの速度は音と同じである。
エナルは言葉を伝えようとする意思に反応し、その意思によって発せられた言葉に乗って伝わるのであり、思考などが直接伝わる訳ではない。
つまりエナルの基本作用とは意思の伝達ではあるが、発した言葉の内容の伝達と言える。また言葉の内容自体を知らない相手には発音した単語が伝わるのである。
「クラトさんはディカノを“ウマ”と呼びますが、私がディカノと発音すればクラトさんがディカノという単語を知らなくても“ウマ”と伝わるのです」
「また、ディカノという生物を知らない相手だと“ディカノ”という発音がそのまま伝わる事になります」
この作用によって言語が違う者同志の意思疎通が可能となるが、エナルがなぜこのような働きをするのかは不明である。
エナルが特に高濃度で存在する場所では、動物との会話さえ可能と言われている。
エナルはその思考に作用する為、知能が高い生物ほど作用しやすい。
【エナルダ】
エナルを利用して自らの能力を向上させる事ができる者をエナルダと呼ぶ。
エナルダとなれるかどうかは素質によって決まり、素質がない者はエナルダにはなれない。
エナルダの力を得る事を“覚醒”または“発現”と呼んでいる。
ただ、この才能はいつ覚醒するかが不明であり、未覚醒の者を覚醒させる方法は今のところは無い。
エナルダはエナルと同じ4つの属性のいずれかを持っている。これは血液型と同じように持って産まれたものである。
4つの属はそれぞれに特性があり、エナルダはその特性によって発揮する力が変わってくる。
気の属はスピードに優れ、俊敏さが大きく向上する。
水の属は治癒回復力に優れ、優秀なエナルダは他人の治癒を行う事もできる。
土の属は防御力に優れ、耐力が大きく向上する。
火の属は攻撃力に優れ、筋力が大きく向上する。
つまり、エナルダはその能力によって、元々持つ力、スピード・回復力・防御力・攻撃力などを向上させるが、持っている属の特性が特に大きく向上するのだ。
どれだけ能力を高める事ができるかをエナル係数と呼ぶ。
エナル係数はエナルダの才能によるが、覚醒した者は鍛錬によって僅かながら係数を伸ばす事が可能だ。
エナルダにはその力(元々の能力をエナル係数で高めた力)の大きさに応じて、下級エナルダ、中級エナルダ、上級エナルダに区別される。
力に係わらず、エナル係数が特に高いものをマスターエナルダと呼ぶ。
【エナルス】
エナルの濃度が高い状態で何らかの外的要因が加わるとエナルの集合体が形成され、これをエナルスと呼ぶ。エナルスは淡い光を発し浮遊しているが、時間の経過にともない拡散してしまう。
稀にエナルスが同時多発した際、エナルス同士がさらに結合して、より高濃度のエナルスを形成する場合がある。
この状態をハイエナルと呼び、無機物や生物と融合する場合がある。融合する要因は全く不明である。
融合した無機物をマスエナル、融合した生物をリアエナルと呼ぶ。
【マスエナル】
ハイエナルは周囲にある無機物と融合してインゴットに変わる場合がある。
こうなると簡単に拡散する事は無い。
この状態をマスエナルと呼ぶ。マスエナルはこぶし大で、形状は例外なく六角形の板状である。
マスエナルは武具などの性能を高める作用があり、その作用はエナルダのエナル係数と同様に作用係数として非常に重要視される。
その作用はあくまで武具本来の性能を高める事であり、武具の形状が変わったり、武具が自ら動くなどという事は無い。
エナルダのエナル活用では全ての能力が高め、属の特性能力を特に上昇させるが、マスエナルの作用は属の特性のみが上昇する。
【リアエナル】
ハイエナルが融合した生物をリアエナルと呼ぶ。
融合した生物は多岐にわたるが、凶暴性を示す場合がほとんどで、特に“オルグ”と呼ばれている。オルグはエナルダのような能力を持つと考えられているが、人間が融合した例は報告されていない為、詳細は不明である。




