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2-7 休息

ラヴェン02に突かれたベルファーの傷は、深いが出血はそれほどひどくなかった。

何の知識もないが、とにかく出来る事をしなければ。


ベルファーの傷を洗い、近くにあった布を当てて固定する。骨が折れているので緩く縛る。

キッチンの戸棚を空けると、干し肉とチーズらしきものを発見した。頂いてしまおう。

ベルファーに干し肉をやると、しばらく口の中に含んでから噛み始めた。

チーズのようなものはとても塩辛くて食べられなかった。

ベルファーは俺の様子をみて小さく笑う。

敷いた毛布にベルファーを横たえ、上からも毛布を掛けてやる。

ベルファーは横に座った俺の足に頭を乗せて眠り始めた。暫くすると俺も眠りに落ちていった。


どれくらいが経ったのだろう。

目を覚ますと部屋の中は薄暗くなっていた。疲れか、寝たせいか、頭がぼんやりする。

喉が渇いてカラカラになっている。

ふと見るとベルファーの脇腹に右手を当てているジュノが居た。ジュノは左手で俺を制した。

俺は静かに立ち上がり、外に出る。

水汲み場に行くと血で汚れていた。森の中にあるこの場所の夕方は早い。

俺は水を流して血を洗い、水を飲んだ。

置いてあるカップに水を汲んでいきジュノに手渡す。

ベルファーは飲みづらそうにカップから水を飲むと、またぐったりした。

ジュノは何も話さない。重苦しい時間が過ぎていった。


暫くすると、ジュノが目配せをしてキッチンへ向かう。

ジュノは俺がベルファーを救った事に感謝した。ベルファーが言うように友達なのだという。

俺はジュノが最初に会った頃に比べてどんどん幼くなっていくように感じた。

話し方や行動がそう思わせるのだ。

ジュノが椅子を2つ出した。2人はお互いが報告する。

ジュノはラヴェン02を知っていた。

ラヴェンの森で発見されたオルグ。

オルグとはエナルが集合体となって大きな力を持った時に融合した生物を指す。

大抵は怪物と化してしまい、駆除の対象となる。

元々獰猛な生物、猛獣や竜獣ベナプトルなどが融合した場合は、郷や国が協力して駆除に乗り出す。

ベルファーも同じ生い立ちを持ち、オルグといえるが、オルグは怪物と化した生物を指すので、ベルファーをオルグとは認識していない。

オルグ自体が非常に珍しい現象であるので、ある意味ベルファーが奇跡的な存在なのだ。

なるほど。ところでジュノはどこへ行っていたのだろう。


私が目を覚ました時、クラトさんが外へ出て行くところでした。

私は水汲み場へ行きましたが、ふと気になって南側にある侵入警戒の仕掛けを見に行ったのです。

そこで3人の男を発見しました。

この森は普通の人間が足を踏み入れるような場所ではありません。

軽装甲冑を装着し、三連射のボウガンと刀で武装していました。

この武装は強行偵察で良く使われるものです。

この3人と戦闘になったのです。

2人を倒しましたが、1人は逃げました。追って森の外へ。

繋いであった馬で逃げましたが、私も馬で追いかけ何とか仕留めました。

馬は森の中に繋いでおきましたし、装備は水汲み場の先にある物置に入れてあります。


「そうか、無事で何よりだ。むちゃくちゃ不安だったよ」「ここに放置されたら、ベルファーと一緒に、まさに捨て犬状態だっての」

「すみません。心配掛けちゃったみたいですね。でも、クラトさんが無事で何よりですよ。あのラヴェン02は頭が良いうえに機敏ですから中々駆除できなかったんです」

「あいつ、死ぬ間際に泣いてたぜ。ベルファーと人間の関係を羨んでいるようだった。死ぬ事よりも境遇を恨んでいるような感じだったよ」「駆除か・・・何だかスッキリしねぇな」

「でも、何人も犠牲者が出ていますからね。致し方ないでしょう」

「クラトさんは優しいですからね・・・でも、この世界では優しさが致命的な結果となってしまう事も多いですから。敵に情けは禁物ですよ」

「あぁ、分ったよ。気を付ける」

「ベルサの強行偵察はルーフェンの残党狩りでしょう」

「ここが見つかったんじゃないのか?」

「装備を見ましたが、馬には携行食糧が大量に積んでありましたから、5日以上の偵察です。数日は帰還しなくても不審には思わないでしょう」

「とりあえず数日は大丈夫って事か?」

「はい。でも明後日にはここを出ましょう」

「カピアーノ博士はどうするんだ?」

「大丈夫です。あの方はグリファ本国から招聘されるほどの人物ですし、政治には一切関与していませんから」

「そうか、じゃ、今日はゆっくり休もうぜ」

「えぇ、ベルファーも明日になれば、かなり動けるでしょう」「風呂を沸かしますからどうぞ」

「風呂が何だかすごい贅沢な事のような気がする」

「明後日からは完全な逃亡生活に入りますから、確かに贅沢かもしれませんね」


風呂はとても気持ち良かった。やっぱりいいよなぁ。

どんな作りになっているのか知らないが、湯船の湯は循環しているようだし、浴室全体が暖かかった。

風呂からあがると替えの衣類が置いてあった。

「サイズが合わないかもしれませんが、我慢して下さい。脱いだものは明日洗濯しましょう」

俺が風呂に入っている間に料理の下ごしらえをしていたらしく、ジュノが風呂を済ませた後、たちどころに夕食となった。

干し肉と野菜を煮たもの、パン、そしてあの青色スープ。それに酒のような飲み物がついた。

どれもこれも美味い。キッチンのドアから外に出ると、ここにも水汲み場がある。

洗い物は俺がやった。ドアを開けるとキッチンの光で充分に明るい。

焚き木の匂いと夜の空気は心地よく、俺を落ち着かせた。


翌日、ベルファーはジュノが言うとおり、だいぶ動けるようになっていた。一緒に昨日の残りで朝食を済ませる。

洗濯をして干す。ベルファーは嬉しいらしく、ジュノの足許にまとわりついている。

明日は夜明け前に出発する。落ち着いたら考えようと思っていた事は、既に通り過ぎてしまった。

今更これは夢かと問うのも馬鹿げた話だ。

それに今日はジュノから、この世界について色々と説明を聞く予定だ。

時間が惜しい。


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