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「契約の絆」――奴隷商人から解放された少女たちが、俺の『約束』で世界を変える  作者: 悠々


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第26話 リリアはなぜ奴隷商人に追われている?

朝日が山々を赤く染める時刻。アルトは森の中の隠れ場所で、リリアの顔を見つめていた。


彼女は眠っていた。疲労で。いや、違う。心の疲労で。


「リリア……」


アルトは静かに呟いた。昨晩の会話が脳裏から離れない。


「本当は、契約なしの自由なんて望んでいないんですか?」


ニナがアルトに向けた言葉。それは今、アルトの胸に深く突き刺さっていた。


リリアが目を覚ましたのは、朝日がテントの中まで差し込む頃だった。


「おはよう、アルト」


相変わらず献身的な笑みを浮かべている。だが、アルトには見える。その瞳の奥底に宿る迷い。


「リリア。昨日のことだけど……」


「商人ギルドに行くんですね。わかってます」


彼女は布団から身を起こした。動きは迅速だ。まるで、主人からの指示を待つ奴隷のように。


アルトは思わず息を止めた。


「リリア、君は本当に商人ギルドに行きたいの?」


「はい」


答えが速すぎた。


「本心で?」


リリアは瞬時に硬直した。その表情が、一瞬だけ揺らいだ。


「……アルトが決めたことなら」


「違う。君の気持ちを聞いてるんだ」


「僕は、アルトのためなら――」


「リリア!」


アルトは声を張った。テントの外で、ニナが反応して起き上がる音が聞こえた。


アルトは深呼吸をした。落ち着け。この怒りは、リリアに向けるべきものではない。


「ごめん。だけど……君の言葉を聞きたいんだ。アルトのための言葉じゃなくて。リリア自身の言葉を」


リリアの瞳が潤んだ。


「僕は……」


她は口を開きかけた。だが、テントの入口からニナが現れた。


「また帝国軍の気配。東から。人数は前回より多い」


ニナの言葉で、場の雰囲気は一変した。


「どのくらい?」


「五十。いや、百か。正確には――」


「向こうの方が強い」


テントから出たアルトは、遠く山の稜線を見つめた。確かに、複数の魔力の気配が接近している。


ニナが横に並ぶ。


「あの光は。前の夜に見たやつ」


彼女が指す先。山の向こう側から、白く淡い光が立ち上っている。


「グレッグ」


アルトは呟いた。


「あの光は、グレッグが出してる。でも……」


「でも?」


「制約がかかってる。その光から感じる意志が、分断されてる。何か大きな力に、半分押さえられてる」


リリアも出てきた。彼女の表情は、少しだけ強くなっていた。


「アルト。今は走るべきです」


それは、相変わらずアルトを従わせようとする言い方だった。だが、その目は違っていた。決断の瞳。


「君の意見なんだね」


「はい。兵士たちから逃げるために。そしてグレッグさんを助けるために。僕たちはここにいてはいけません」


アルトは頷いた。


「よし。でも、その前に聞かせてくれ」


「何をですか」


「昨日、マルコムの名前を聞いて。君の顔色が変わった。なぜ?」


リリアの身体がピクリと縮こまった。


「リリア?」


「……実は」


彼女の声は、今まで聞いたことのない震えを帯びていた。


「マルコムさんは、僕を追っています」


「えっ」


「昨日見せてくれた招待状。あれは、僕を迎え入れるためのものです。アルト、知りませんでしたか?」


アルトは首を振った。


「いや、マルコムは君の才能に注目した、と」


「それは嘘です。あの人は、昔から……」


ニナが前に出た。


「説明が長い。追っ手がくる。走りながら話せ」


リリアが必死に首を振った。


「ニナさん、これは重要です。アルトは、知らないといけません」


ニナは舌打ちをしたが、身支度を整えながら待った。


リリアは、ようやく口を開いた。


「僕は、商人ギルドの奴隷です。もともと。五年前、マルコムさんに買われました」


「えっ」


「奴隷商人ギルドで売られる前は、商人ギルドで働いていました。だから、マルコムさんは僕を知ってます。よく知ってます」


アルトの脳が、急速に整理を始めた。


「待て。それは、つまり……」


「マルコムさんは、僕を商人ギルドに戻すために、ずっと追い続けてました。あの招待状は、誘拐状だと思います。そして」


リリアの目が、一層潤んだ。


「僕を商人ギルドに戻すってことは。奴隷として、戻すってことです」


「リリア……」


「だから、昨日は言えませんでした。アルトが『君の気持ちを聞きたい』って言ってくれたから。初めて、自分の気持ちと向き合えたんです」


彼女は顔を上げた。


「僕は商人ギルドには行きたくない。でも。もしアルトが『行け』と言ったら」


「言わない」


アルトは即座に答えた。


「君の選択は、君自身のものだ。それが本当の自由だ」


「でも」


「でも、何だ」


「もし商人ギルドが、アルトを人質にしたら?」


その瞬間。


遠くから、太鼓のような音が響いた。


帝国軍が、山を登ってくる音だ。


「走ろう!」


ニナが叫んだ。


アルトはリリアの手を握った。その手は、震えていた。


だが、彼女は逃げた。アルトの手を握ったまま、森の奥へ。


白い光は、まだ山の向こうで点滅を繰り返していた。


グレッグからのメッセージ。その意味は、まだ不明のままだった。


だが、アルトは理解していた。


この物語は、奴隷解放という単純な話では、終わらないのだ。


その背後には、複数の「約束」が絡み合っている。


商人ギルド。帝国軍。グレッグ。そして、まだ見ぬ東大陸の王女。


すべてが、アルトという一人の青年へ向けて、複雑に収束しようとしていた。


「アルト!」


ニナの声。


「来い!」


アルトは走った。リリアの手を握ったまま。


彼女の決断を、守るために。


そして。何より大切なものを失わないために。

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