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嫌われ男爵令嬢は漆黒の龍を愛でている 〜隣国冷酷皇子が私の最古参限界オタクだったなんて聞いてません~  作者: 丹空 舞


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7/7

その7


 季節は進み、また月が欠けて肥え太った。


 その日、ミルフィはのりにのっていた。

 深夜になると神経が高ぶる。

 新たな魔陣の構造がひらめき、集中して床一面に完璧な漆黒の魔陣を描いてしまった。


「で、できた! 名付けて『何千億の翡翠刃が織り成す絶界道標ミリオンリーフ・オーバーロード』! うわあ、超いかしてるぅ……ぐう……」


 そのまま力尽きたミルフィは、床に寝るという淑女らしからぬ愚行を犯してしまった。



 朝の光と共に、やってきたアッサムは固まった。



「な……ミルフィ!?」



 騎士団では神速とうたわれる動きで倒れたミルフィに近寄る。手をあてて、呼吸を確認した。


 すう、すう。


 寝息が聞こえてくる。

 ほっと息をついたアッサムは、もう一度、表情筋を引き締めて、ミルフィの身体を両手で抱き上げた。


 鋭い眼光のまま、息をつめて、部屋の奥の寝台へとそっと置き、ブランケットをかける。


 頬にインクで汚れている箇所がある。

 アッサムは手で拭おうとしたが、途中で手を止めて、すぐに引っ込めた。

 そのまま回れ右をして、部屋を退出した。

 と思いきや、また戻って来た。


「……この魔陣は」


 アッサムはガバッと身をかがめると、ミルフィの描いた陣に左手を被せた。ポウッと光が零れる。


「なんと……なんと美しい……はあ……」


 つう、と精悍な頬を涙が伝った。


「見事だ。この線の走り、魔力の収束点。全てディミロスの思い通りだ」


 トントン、と扉を、誰かが控えめにノックした。


「いかがされましたか」

家臣のイールだ。

まだ十代と若いが実力者であり、いつもアッサムに同行している。


アッサムははやぶさを思わせる瞳で睨みつけた。


「静かにしろ。今、あちらで寝ている」

「わあ、すんごい魔陣がある……これは、傑作ですね」

「アシド、傑作と言ったか。お前は言葉を知らんな。これは傑作ではない。最高傑作、だ」

「はあ……っていうかアッサール様、もう行きましょうよ」

「本名を言うな。あと少しだけ、ディミロスの息吹を感じていたい」

「何言ってんですか。ディミロスはあっちで寝てるんでしょ。息吹どころかいびきかいてますよ」

「アシド、言葉に気をつけろ。不敬罪で処罰するぞ。俺以上に敬われるべき命だ。ミルフィはいびきなんてかいていなかった。黒インクで頬が汚れていただけだ」

「えー……ちゃんと拭って差し上げましたよね」

「……していない」

「なんでですか。アッサム様、キリッとして言うことじゃないでしょ。そういうの気付いたらちゃんと助けてやらないと駄目ですよ。男女ってのは持ちつ持たれつだってうちのばあちゃんが言ってました」

「男女じゃない。俺とディミロスはそういうのではない」

「いやいや……思いっきり男と女じゃないですか」

「違う。俺はミルフィよりもずっと年上で……そういう対象ではない。それに、インクで汚れているとはいえ、あれに人間が勝手に触っていいとは思えない」

「何言ってるんですか? 天下の第三皇子、アッサール・ベル・イーデンヴォルフレッド様が」

「だから本名を言うな、斬るぞ」

「理不尽……」

「いいか、ディミロスは『神』だ。この閉塞した魔陣術界隈に舞い降りた救世主といってもいい。そんなディミロスに、触れる? 俺が? ただの人間たる俺が……いや、できない。俺にはまだその資格はない」

「えー……じゃあ俺が拭いてやってきましょうか……って冗談ですから、そんなに秒速で殺気出さないでもらっていいですか?」


 そう、威圧感が凄すぎるこの男。

 魔陣師 ✝ディミロス✝ の最古参ファンであった。




 *


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