124.補習
俺は今、セイの目の前で座っている。
向かい合って。
俺の隣にはリグとトーカ。セイの隣にはクリス。
ここは王立学院の公爵家用の個室だ。
そこで足りない授業日数を取り戻すべく、補習を受けている。早く屋敷に帰りたいんだが…足りない時間が多すぎる。
俺は5月に入学して2ヶ月で夏休みに入り、8月に行方不明になって12月に発見された。死亡認定される所だったようだ。
2学期は9月から始まる。当然、俺は海の底にいた訳で授業には参加出来ていない。
復学したのは年が明ける前の12月。約3ヶ月半も学院に行けていない事になる。
12月半ばから1月半ばまでが冬休み。そして4月からは春休み。2ヶ月半で足りない3ヶ月半の授業時数を稼ぐのは至難の業だ。
とは言え、カエサル導師やセイの協力もあり、試験だけで済む科目を増やしてもらった。
なので、補習でなんとか済む事になったんだが…な。
帰宅が遅いと双子が学院に迎えにくると言って大変だった。本来なら出席する筈の収穫祭と新年の祝賀パーティーも出られなかったし。
衣装を作る時間が取れなかったんだ。
どうせなら完璧に仕上げてやりたいからな!
回帰で体は戻った筈だが、魔力がしばらく安定せずに俺は少し痩せた。元から細かったから余計に目だったらしく、ルキとロキがさらに過保護になった。
だから早く帰らないと
「心配だから迎えに…」
「僕たちのカスミだから不安」
出会ってからでも実に3度目の命の危機で、意外とやらかしてるからか?
ルキとロキが学院に来たら目立つだけじゃ無い。頭のおかしい連中に追いかけ回されることは必至だ。
何かやたらと色気がな、最近。ものすごいことになってるんだ。
アマランとウルグが
「あいつらやべーぞ」
と声を揃えて言うくらいには、色気が凄い。
心配なのは俺よりむしろ双子だろって言ったら
「カスミも大概だけどな」
「だな、お前もなんかな…威力ましたぞ!」
海の底から生還してその日はルキとロキに寝かせてもらえず、翌日はセイにずっと抱っこされ、アマランとウルグに構い倒された。
そして、その日の夜。
俺の秘密をみんなに打ち明けた。驚きはしていたが、俺の実際の年齢を聞いても単に納得していた。
「あの、黒髪の姿はもしかして?」
セイが聞く。触れれば感じ取ったのか
「見たいな。私より年長のカスミを」
いや、なんの拷問だよ?嫌だぞ。
双子も
「僕たちだけ知ってたらいい」
「ダメ」
と抵抗したが、結局、俺の意思はガン無視でみんなに披露することが決まった。なんでだよ?
どうやら双子はアマランとウルグの
「お前たちの素敵なカスミを俺たちも見たいな」
その一言で陥落した。ちょろくね?
で、また中年の姿になった。腹周りが恥ずかしい。
その姿を見たセイもアマランとウルグもぽけっと口を開けて俺を見た。なんだ?
ルキとロキを見たらうっとりとした顔で俺を見ていた。
普通にくたびれたおっさんだが?
「これはまた…濃い色も似合うな」
ってかそれが元だかんな。
「そうだな、似合うな」
だからこっちが本来だ!
「あり、だな…」
何がだよ?で、顔赤くするのやめてくれ!!
なんて事があった。アッサリと受け入れてもらえて肩透かしだ。まぁ嬉しいけどな。
で、補習だ。身が入らない。全ては色気がダダ漏れな双子のせいだ。思い出すと集中出来ない。
「主、ちゃんと聞いてますか?」
隣からリグが詰め寄る。あの事件以来、リグの距離が近い。余程、自分が俺から離れた事を…そして一瞬の判断が遅れた事を悔やんでいたのだ。
もっともイカに咥えられてる時点で回帰したとて、結果が変わったかは不明だ。だとしても、あの時点で即時回帰を発動しなかった事をリグは悔やんだ。
しかも、人になったことで俺から物理的な距離が離れるとリグが使えないのもまずかった。
俺は認識はしていたが、そのうちクリスにその問題を解決させようと後回しにしたのも悪かった。
俺自身も焦って回帰を発動しなかったからな。転移からの回帰で逃げることは出来ただろう。
ただ、そうすると船が危ない訳で、結局のところは何が正解だったか分からないのだ。
それでも離れた事をリグは後悔した。それはクリスもだ。俺は分かっていたが、彼らは自らの幸せと引き抱えに起こるであろう問題に気が付いていなかったのだ。
俺は分かっていて彼らの幸せを優先した。
それに気が付いたからこそ、今は俺にべったりなんだろう。慕われたようだ。
「聞いてるぞ!この国の歴史だろ?」
満足そうだ。クリスが小姑の如く世話を焼く。セイはいいのか、と思ったが結局、俺が無事でなければみんなが悲しむ。なので、俺はやたらと過保護に守られている訳だ。
今日の補習を終えてコーヒーを飲み、クッキーをかじる。一息ついたら王都の屋敷に帰る。
そこからベルシティに帰っていたんだが、ルキとロキの提案で活動拠点を王都に移した。
「何があってもカスミのそばにいられるから」
とはルキだ。
アマランとウルグも頷く。セイは、臨時の職員になったことで、ノナさんが臨時でギルマスの権限を与えられている。
セイとは毎晩、通信箱でやり取りをしているが、セイも基本は王都にいる。それでいいのかとも思うが、青い稲妻が難しい依頼を受けてたから問題ないらしい。
難しい依頼が入ればベルシティにすぐ帰って依頼をこなす。
俺たちは転移陣でいつでも戻れるからな。
セイに手を引かれて馬車に向かい、乗り込むとセイとリグに挟まれる俺。
海の底で寝ている間のことはもちろん覚えていないが、ルキとロキの様子はハンナお母様がしばらく寄り添うほど酷かったようだ。
子供を抱きしめて虚ろな目で泣いていたとか。いや、ほんと申し訳ない。
戻ってからは、無理のない程度にリクを走らせて外に出て、料理を作った。笑ってて欲しいだろ?大切な人には。
だから料理を頑張った。
ずっと封印していたんだが、久々に揚げ物を解禁した。そしてアレとアレも。葛藤はあったが、まぁ彼らなら大丈夫だ。
もっとも天ぷらはすでに解禁済み。
今回はフライだ。カツ、エビフライ…野菜のフライも忘れちゃダメだ。ナスなんて美味すぎる。
そして、アレとアレはカレーとバンバーグだ。
封印していたのは単に、カレーはスパイスを持ってなかったから。バンバーグは俺が大切に取っていたかったからだ。
あちらの世界のこともみんなに話したから、もういいかな。そろそろ、あちらの世界のことも…ケリをつけなきゃ。
俺がもう逢えない母親を想って泣いたことはルキとロキに響いたようだ。何故だかぎゅうと抱きしめられて
「僕がお母さんになる」
「なら僕はお父さん」
「じゃあ私は兄だな」
セイまで意味のわからない事を言っていた。
補習が終わって屋敷に帰って、当然みたいにルキとロキに迎えられた。
居間でみんなとコーヒーを飲んでまったりする。
膝の上には子供たちがわちゃわちゃしている。
この居間の一角には子供が遊べるスペースが作ってある。そこには床に座れるようにふわふわの絨毯が敷いてあり、俺の膝くらいの高さで仕切ってある。
そこには積み木とかレ◯ブロック風の木のおもちゃ。
俺たち青い稲妻は、カミール商会に勤めている。俺はもちろん副会長兼開発者。
双子は俺の補佐で、営業担当。
積極的な営業はしていないが、子供を連れてシュプラール侯爵家に行く。その時に積み木とかブロックを持っていけばハンナお母様たちが目ざとく
「あら、それは何かしら?」
となり、説明すれば
「売れるわ!」
となる。双子はたいした説明もせず、ただルイスたちが楽しそうに遊んでにこっと笑うだけでいい。
「まぁ、可愛い…売りましょう!」
と、そこからハンナお母様の社交力によって口コミでウワサが広まる。が、どこにも売っていない。
「カミール商会で売るんですよ。でも、ほら。小売はしませんでしょ?」
そう、カミール商会は直に小売りをしない。
「なので、私たちが交渉して…ほんとうに少しだけ仕入れましたのよ」
ハンナお母様が囁く。こうして売れていく。
だから双子も立派な営業職だ。
アマランとウルグは護衛で、クリスは営業、トーカとリグは俺の補佐だ。
リヴ兄様とリナが優秀な上に、しばらく俺が居なかったから新規の登録もなくて楽だったようだ。
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