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魔王さまの魔剣

 

 魔王さまもむくりとおきあがりその耳をそばだてた。


「ふむ、外からだな」


 魔王さまはひらりとベッド上段から飛び降りて着地する。

 ドアを開けて階段を飛び降りた魔王さまの後を二人と一匹が追った。



「どうかしたか?」


 おかみさんは階段上から飛び降りて声を掛けてきた美形に思わずほうとした。

 なんて色っぽい寝ぐせのつきかたなのかしら、と寝ぐせすらさまになる魔王さまの顔の良さにくぎづけだ。


「ええ、実はひとさらいが」

「なに! それはいかんな」


 魔王さまは腰元に手をやった。


「我が剣の錆にしてくれよう」


「まて、抜くな(半ギレ)」


 呪いの拘束時間が過ぎた勇者が魔王さまのマントの下から現れて魔王さまの腕をとった。


「きゃーー! あなた一体どこから出てきたの!」


 おかみさんがマントの下から這い出してきた不審者を見て驚愕の声をあげる。


「いや、これは、ちがう! 断じて違う!!」


 勇者ルーズベルドは狼狽ろうばいした。


「そう見えたかもしれないが、俺は違う!!」


 勇者ルーズベルドは猫としての瞬発力で魔王ルージュの銀のマントの端につかまって落下しただけだ。銀のマントの下から這い出してきたのは不可抗力だ。


「それで、ひとさらいはどちらに行った」


 魔王ルージュはなにも気にしなかった。


「あ! あちらです!」


 我に返ったおかみさんが東の方角を指す。


「わかった」


 魔王ルージュはとんと床を蹴って疾風のように宿を飛び出した。

 魔王さまの脚は強い。足技だけでなく普通に走るのも速いのだ。


 もはや人間になってしまった勇者は追いつけるはずもなく。


(あああ!! くそ!! 猫になるか!!)


 勇者は半ギレになって宿屋の外の洗い場で頭から水をかぶった。

 水をかぶっている横を人間離れした脚力のカイがすり抜ける。

 そのうしろを、ぷぷ、と口元に手をやったサーシャが流し目を送って走り抜けていった。


「ニャー!!(半ギレ)」


 もはや影も見えない魔王さまの後を二人と一匹が追う。




「お前が人さらいか」


 陽の落ちかけた森の中で夕闇に妖しく照らされた魔王さまがその銀のマントをはためかす。


 逆光で顔の見えない漆黒の髪のアルト声の青年に、白いローブで顔を隠した男はびくりと肩をふるわせた。


(なんだ、この王者然としたオーラは……!)


 あまりの神々しさに白いローブの男は唾をのみ込んだ。

 光の加減で目の前の青年の端正な顔もとが徐々に明らかになる。


 目の前のみるからに王子といったいでたちの男は漆黒の煌めく髪に、紅の赤をその瞳に宿している。整いすぎた顔もとに、艶めく唇だ。はっきりいって美青年だ。


(こ、この胸のときめきは……! まさか恋!)


 白フードの男は胸をおさえた。魔王さまの魅了の紋も常時発動していた。


「お前が人さらいかと訊いている」


 魔王さまは腰元の魔剣をすらりと抜いた。


 その刀身は見惚れるほど美しい銀の色をしており、つばは繊細な花びらのような意匠、持ち手は流麗な聖紋のような飾り彫りが施されており、いかにも細身の聖剣といった見た目だった。


 と、いうのも魔王城の鍛冶職人が従来の魔剣のイメージを一転させ、魔王さまに似合う麗しい細身の剣を打とうと腕の骨を折るほど無理を重ねたからだ。


 さらに語学に堪能な彫金師が魔王さまへの恋文を誰にも読まれないようにこっそりと持ち手部分にびっしり聖句(ルーン文字)でつづったのだ。もちろん聖なる文字なので魔王さまにも読めない。


~嗚呼、麗しのルージュ・レリウーリア様……愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています~


 持ち手部分にびっしりと隙間なく彫られていた。


 もはや、勇者ルーズベルドの呪われた聖剣よりも呪われた魔剣だといっても過言ではない。


「だんまりか、まあよい」


 魔王ルージュはふうと息をついて魔剣で宙を切り裂いた。

 その空気の刃だけで白いフードをはたき落とす。


「ふむ、仮面で顔を隠すとは、後ろ暗いという自覚はあるようだな」


 白いフードを落とされた白い仮面の男は、仮面舞踏会にでも行くかのような目元だけの仮面を身に着けていた。


「まて、私はーー」


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