第9話 「再び色褪せた世界」中編
「………」
大人の女性が子供に話し掛けていた。一方的に。
女性に話しかけられている子供…少年はまるで人形のようにただただ一点を見つめていた。見つめている場所は地面。
少年もとい伊織は最近はこの孤児院に預けられた子だ。
彼は一度ある一家に引き取られたのだが、その家族が不運な事に交通事故に遭ってしまい彼一人だけが生き残り孤児院にまた送られてきたそうだ。
彼はこの孤児院に来てからまともに食事さえもとっていなかった。彼の身体はみるみるうちに痩せていき、彼の見た目は見るからに不健康そうになってしまっていた。目の下には分厚い隈ができ、腕や足はすぐに折れてしまいそうな程細くなっていた。
孤児院にいる皆は伊織を心配していたが何故だか伊織に近付こうと行動する人間は少なかった、ただ1人を除いては。
その一人はさっき伊織に話し掛けていた女性だった。
女性の名は「南雲愛衣」この孤児院で働く人の一人だ。彼女は毎日のように伊織に話し掛けていた、無視されても諦めずに。毎日話し掛けていた
そしてかれこれ一ヶ月ほどたった頃少しだけだが異変が起きた、伊織が始めて言葉を交わしてくれたのだ。
「何で毎日毎日俺に話し掛け来るの…?」
俺は愛衣にそう言った。
「それは君が私の大切な人と同じ顔をしてたから…」
「俺と同じ顔…?」
「そう、今の君みたいな顔。」
「俺今どんな顔…?」
「君の顔はお人形さんみたい。」
「人形…?」
「無機質な顔をしていて、光を反射しない鏡のような目をしているよ。まるで何にも見えてないみたい。」
「………」
「ねぇ、君は何でそんな顔をしているの?どうして何も見ようとしなくなってしまったの?」
「………」
「君にあった事を話してくれないかな?君がどうしてそんな顔をするのか教えてほしいんだ。」
「……俺は昔親に捨てられたんだ。まだ1歳になる前だったんだって、俺は孤児院に引き取られたんだ、俺はそこで4年間過ごしたんだ、そしてある日俺を養子にしたいって言う家族が出て来て俺を引き取ってくれたんだ。そこからの毎日はとても楽しかった早く明日になって欲しいって毎日思ってたよ。
でもある日家族皆でキャンプに行ったんだけどその途中で………」
「どうしたの?やっぱり思い出すのは辛い?」
「いや何か…何か大事な事を忘れている気がするんだ…」
「無理に全部話さなくてもいいんだよ。」
「いや大丈夫なんだけど…」
その時俺に身に覚えの無い人物が見えた気がした。
何かよくわからない物に襲われている俺を助けいる一人の人間彼は俺を助けてこう言った。
「大丈夫か?」
顔の見えない人間が俺に喋りかけてきた。
「ありがとうございます。」
俺は顔の見えない人間にお礼を言った。
「俺の名前は『南雲 葵』って言うんだ。」
顔の見えない人間は俺にそう言った。
「『南雲 葵』…」
「えっ…?」
愛衣が驚いたように反応した。
「何で葵が…誠哉の名前が…」
愛衣が俺には聞こえない声で何かを呟いた。
「ごめん話が逸れて、でキャンプの途中にね…」
俺は愛衣に洗いざらい全てを話した。
「そっか…君は私が考えていること以上に大変だったんだね…」
「うん、本当に大変だったよ…」
「ねぇ伊織君」
「何?」
「もし前みたいに戻れたらどうしたい?」
「前みたいに戻れたら…また皆でご飯が食べたいな、あったかいご飯を家族皆で。」
「ねぇ伊織君、私の過去の話も少しだけ聞いてくれないかな?」
「俺で良ければ聞いてあげますよ。」
「ふふ、ありがとう。」
愛衣は家族との思い出について話してくれた。
「私はね家族と4人ぐらしだったんだ。」
「だった?何かあったの?」
「私ね高校生の時に両親を失ったんだ。」
「えっ…」
「私がね高校生の時に両親は突然病にかかってたった3日で死んじゃったんだ…
その時はもう立ち直れそうになかったよ。」
「じゃあどうやって立ち直る事が出来たの…」
「それはね私の大切な人…弟の存在だったんだ。私の弟は本当にお父さん達の事が大好きで毎日甘えてばっかだったんだ。でもある日突然死んじゃったせいで弟は立ち直れなくなる程ショックを受けちゃったのを見て『私がこんなんじゃいけない!』って思ってさ、そのおかげで私は立ち直れたと思ってるんだ。」
「そんな事が…」
「私がちゃんとしていたおかげかな弟はどんどん回復して来ていつしか…」
そこから愛衣の話は1時間以上続いたが何故だが悲しい気持ちにはあまりならなかった。それは愛衣が途中から笑って話してくれたおかげだろうか。
「ねぇ、伊織君」
「何?」
「ねぇ伊織私の4人目の家族になってくれない?」
「俺も愛衣さんに言おうと思ってた俺の4人目の家族になってくださいって。当たり前だよ愛衣さん。」
この時また俺には世界が色づいているように見えた。
どうもこんにちは美羽です。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございます。
また皆様に会える事を祈って。




