カコバナシ―①『名前』
「あけおめー!」
蘭李と白夜が駆けていく先には、四人の少年少女がいた。彼らは二人に気付くと、手を振ったり振らなかったり。
「あけおめー」
「今年もよろしく」
「ああ」
「お年玉ちょーだい! 紫苑!」
「誰がやるかよ!」
二人が四人に合流すると、先も迷わず歩み始めた。彼らの他にも多くの人が、皆同じ方向へと歩いている。
何故ならば、今日は元旦。年明け最初の日である。蘭李達も含め皆初詣の為に、この『澪咲神社』にやって来ていたのだ。
「さすがに凄い人混みだねー」
雷がげんなりとしながら言った。彼女のマフラーを掴む蘭李は、人に流されないように必死だった。白夜はそんな蘭李の背中を押している。
「ここってこの辺じゃ一番大きい神社だもんな」
雷の隣を歩く槍耶は、辺りを見回しながら呟く。時折人にぶつかっては謝るの繰り返しだ。彼の後ろについている海斗は、ぶつかる度に相手を睨み付けている。相当苛立っているらしい。
「そりゃ混むよねー」
「有名だしな」
「まさに、かの大佐の名言が光るね! 人がまるでクズのようだ!」
「何か違う!」
鋭く雷にツッコむ槍耶。にやにや笑う雷の背後では、紫苑が蘭李を眺めて首を傾げた。
「蘭李、今日はコノハ持ってきてないんだな?」
「え? ああ、うん。一応聞いたんだけどさ……」
ゴミの一部にはなりたくないから。
「って言われて断られた」
「コ、コノハもあの映画知ってるんだな……」
「あたしと一緒に観てたからねー」
そんな会話を続けながら、やっと拝殿に辿り着く六人。賽銭箱に小銭を投げ入れ、手を合わせる。全員終了すると、すぐ近くに設置されたおみくじ所へと向かった。
「よーし! 大吉引くぞぉー!」
「念が強いと大凶になるぞ」
「えっ」
「望むものはなかなかこないもんな」
「え……じ、じゃあ大凶でいいです……大吉なんていりません……」
「蘭李は大凶だな」
「なんで⁉」
がしゃがしゃとおみくじ筒を振り、出てきた棒に書かれた番号を巫女に伝える蘭李。一枚のおみくじを取り出した黒髪の巫女は、蘭李の手を取りおみくじを乗せ、ぎゅっと握り締めた。そして、淡黄の瞳で蘭李を見つめる。
「はい、どうぞ……?」
「あ、ど、どうも………」
「うふふ……アナタ、名前何て言うの……?」
「え? え、えーっと……な、なんでそんなこと……」
「だってぇ~……可愛いんだもん!」
息を荒らげる巫女に恐怖した蘭李は、急いでその場から離れた。白夜達の元へ駆け寄り、立ち止まると必死に呼吸を整えた。
「どうした? 蘭李」
「いやッ……あの……変な人がいて……」
「変な人?」
「気を付けろよー。お前ちっちゃいんだから」
「小さいのは関係無くね?」
「ロリコンにさらわれやすくなる」
「なるほど」
「なるほどじゃないでしょ……」
蘭李はビリビリとおみくじを広げる。まず目に飛び込んできたのは、『大凶』の二文字だった。
「うわぁーーーーーッ!」
「うわビックリした」
「なになに? 本当に大凶だったの?」
一斉に蘭李のおみくじを覗き込む白夜達。直後、海斗と白夜は吹き出した。
「おまっ……マジで大凶引くとか……!」
「むしろ強運だな……」
「フラグ回収乙」
「うっ……! うるさいっ……!」
「まあまあ蘭李。うちの大吉見て元気出しなよ」
「雷さん大吉だったの⁉」
「まあね!」
誇らしげに鼻を鳴らす雷。蘭李は恨めしそうに彼女を見上げた。
「呪ってやる……!」
「ふふふ! やれるものならね!」
「うーーーっ! くやしーーーっ!」
バシバシと雷を叩く蘭李だが、全くダメージを与えられている様子は無かった。しばらくすると疲れたのか、おみくじを細く折り始めた蘭李。
「結んでこよう……」
「読まないの?」
「どうせ何やってもダメなんでしょ。読む必要無いよ」
「大凶だもんな」
「うるさい! そういう海斗は何だったんだよ!」
「吉」
「なんだよ真ん中じゃん! 偉そうなこと言いやがって!」
と吐き捨て、蘭李はおみくじを結びに駆けていった。少しの沈黙の後、海斗がぼそりと呟く。
「……吉って大吉の次に良いんだよな?」
「たしかそうだったぜ」
「あいつ馬鹿かよ」
「まあまあ……間違えやすいらしいからさ」
その後、屋台を回ってチョコバナナを食べたり、季節外れの金魚すくいをやる六人。一通り満喫したところで、思い付いたように蘭李が口を開いた。
「ねぇ、『澪咲』って読みにくいよね」
「あーたしかに」
「あたし最初『みおさき』って読んでたもん!」
「初見殺し臭いもんな」
「でも初見殺しといえばさ」
ベビーカステラを口に放り込んだ雷は、咀嚼しながら蘭李を指差した。
「蘭李もそおじゃん」
「へ? あたし? そんなに読みにくいかな?」
「読みにくいっていうか、属性が読みにくい」
雷の言葉に、しみじみと頷く槍耶と紫苑。それでも尚戸惑う蘭李の肩に、白夜は背後から静かに手を置いた。
「よく考えてみろよ。お前の名前、ほぼ花じゃねぇか」
「まあ、そうだけど」
「で、お前の属性は雷? 誰が予想出来るかっつーの」
「ええっ⁉ それを言うならハクだってそうじゃん!」
白夜の手を振り払い、ビッと彼女を指差す蘭李。
「冷幻白夜! どこに闇要素があるの⁉」
「白夜ってとこ?」
「夜しか無いじゃん!」
「でも一個でもあるじゃん」
「ッ~! なら槍耶は⁉ 全然土要素無いよね⁉」
「えっ⁉」
突然標的にされて焦る槍耶。しかし、すかさず海斗が割り込んできた。
「鎖金の金。鉱物。イコール大地」
「そんな無理矢理!」
「お前の場合、分からないじゃなくて騙されるから問題なんだよ」
「コノハも原因の一部だもんねー」
「ええ⁉ コノハ……⁉」
「名前もそうだし、緑色だし」
納得していない様子の蘭李。その影で、自分に目標が向かれなくて良かったと思う紫苑がいた。
雷はポンポンと蘭李の頭を叩いた。
「まあ蘭李は家系が家系だし、しょうがないよ」
「だな。これから頑張れ。トリックスター」
「別に騙すつもりないし……」
「いいじゃんトリックスター! 初見殺しで相手を翻弄出来るよ!」
「え? そ、そうかな……?」
途端に蘭李は、嬉しそうに笑った。その後も彼らの談笑は続き、近くのボウリング場でボウリングをしてから、帰路へと着いた。
「じゃあ学校でねー」
「おーお疲れー」
夕空の下、最後に白夜と別れ、蘭李は帰宅した。玄関を上がると、シチューのいいにおいが漂ってくる。キッチンを覗くと、母親がせわしなく夕飯の支度をしていた。
「ただいまー」
「おかえり。混んでた?」
「めちゃくちゃ混んでたよ」
「そうよねぇ」
ふと、澪咲神社での会話を思い出した蘭李。母親の顔を窺うように、蘭李はおそるおそる尋ねた。
「……ねぇ、なんで『華城』って名前なの?」
「え?」
「由来とか知ってる?」
「知ってるわけないでしょ。何? 宿題?」
「いや、違うけどさ……」
蘭李はガックリと肩を落とした。「そんなこと知ってどうするの?」と言わんばかりに、娘を不審な目で見る母。そんな視線も気にせず、蘭李は再び問いかけた。
「ならさ、何で『蘭李』って名前にしたの?」
「え? ああ……蘭って優雅とか美人って花言葉があるらしいのよ。だから蘭って言葉はどうしても入れたくて。李はたまたま見付けたんだけど、李の花言葉も忠実とかそういう意味合いだったから入れたの」
「そ、そうだったんだ……」
「っていうのが建前なんだけど……」
「え?」
母親のその言葉に、急に不安そうな表情を浮かべる蘭李。対して母親は、小さく笑いながら言葉を綴った。
「本当は占い師さんに決めてもらったのよね」
「え……?」
「何かね、『絶対この名前じゃなきゃダメだ!』って強く言われちゃって」
「な、なんで……?」
「たしか………」
母親は少し考え込み、思い出したかのようにはっと顔を上げた。
「『ご先祖様に守られてるから』って。そう言われちゃうとつけるしかないじゃない?」
呆然と立ち尽くす蘭李。母親は再び、夕飯作りに集中し始める。そんな彼女の背中に、蘭李は思いっきり叫んだ。
「そんなんであたしの名前決めないでよーーーっ!」
まるでその場から逃げ出すように、そう言い残した蘭李は、二階の自室へと駆けて行った。そして彼女はその後、延々とコノハに愚痴るのであった。
* * *
→NEXT 1話……。




