6話―④『犯人』
授業が終わり、蘭李を保健室へ運んだ白夜は、ため息を吐いた。保健室のドアに寄りかかり腕を組む。秋桜がすーっと彼女に近寄ってきた。
「きっとバッグを奪ったやつが、蘭李に何かしたんだろうなあ……」
「睡眠薬でも飲ませたのか……?」
「わかんない。もしかして本当にただ寝てるだけかもしれないし。でもバッグが無いのは異常だから、どっち道探さないといけないけど」
「……俺の子孫が迷惑かけるな」
「そう思うんならもっと蘭李の傍にいろよ」
「……反省する」
はあ、と再びため息を吐く白夜。キョロキョロと辺りを見回して、近くの階段を登った。
「まずクラスメイトに訊いてみるか」
「俺も睡蓮達に伝えて探してみる」
「任せた」
秋桜が壁の中へと消えていった。白夜は自分の教室まで戻り、クラスメイトに尋ねてみる。しかし皆、知らないし特に何も見ていないと答えた。彼女は自分の席につき、ぐったりと机に突っ伏した。
情報が何も得られない。誰も見てないってこと? そしたら本当に、蘭李はただ眠ってるだけ? でもバッグが無いんだぞ? 少なくともそのことに関しては、誰かが関わってるってことだし……。
ガバリと顔を上げた白夜。一瞬過ぎった可能性に、彼女は一抹の不安を覚える。
もしかして―――悪魔の仕業なんじゃ……。
「いやいや……まさかそんな」
そう言いつつも、不安は拭いきれなかった。
悪魔なら、姿を見せなくても眠らせることは出来る? そういうことが出来ても不思議じゃない。でも、ならなんで殺さない? 人がたくさんいるから? なら、わざわざここで眠らせなくてもいいと思うけど……。
「………違う」
――――――狙いは蘭李じゃない。コノハだ。コノハを確実に殺すために、わざと蘭李を眠らせた?
可能性としては有り得る。回りくどいような気はするけど。それならやっぱり、早くバッグを探さないとマズいな。でも手がかりが何も無いのにどうやって……。
「あの……冷幻さん」
不意に呼ばれ、白夜は振り向いた。先程訊き回ったクラスメイトの内の一人『雪路』だ。彼女は、白夜の隣の席をちらちらと見ながら口を開いた。
「思い出したんだけどね、関係あるかわかんないけど……今日、篠塚くんが来てたんだよね」
「え? 篠塚?」
雪路はコクリと頷く。篠塚は今日は欠席扱いだ。
それなのに、学校に来ていた―――白夜は険しい表情で雪路の話に耳を傾ける。
「教室で私と入れ違いになったんだ。なんでいるのかなって思ったけど、バッグ持ってたから、あ、帰るんだって思って……」
「バッグって二つ持ってた?」
「いや……? 一つだったと思う」
「そっか……ありがとう」
「ううん」
白夜は篠塚の席を見た。当然本人はいない、空席状態だ。
――――――篠塚が関わってる可能性はかなりある。でももし篠塚が犯人なら、動機は何なんだ? 蘭李に恨みを持ってるようでもないし、そもそもこいつと蘭李が話してるところなんて見たことない。
篠塚が仮に魔力者なら………いや、それでも分からない。とにかく、本人をとっ捕まえた方が早いな。
白夜は席を立ち、教室から出た。雷達を見つけ、そのことを伝える。彼らは顔を見合わせた。
「篠塚って……どういう顔だっけ?」
「どういうって言われても……」
「でも、もう外に行ってる可能性高いよな? どうする?」
「どうせ授業はあと一時間だけだし、早退しよう」
「ごめん! うちのクラス次テストなんだ……」
「じゃあ……もしかするとまだここにいるかもしれないし、雷と海斗は学校に残って探してくれる? あと蘭李の様子見も」
「オッケー!」
彼らは一度解散した。白夜と紫苑は早退する旨を担任に伝え、校舎を飛び出した。一直線に走っていき、正門に手をかける。
――――――バチイッ
「えっ⁉」
手が、弾かれたのだ。二人は顔を見合わせた。再び触れても、同じような反応を示す。彼らは瞬時に理解した。
これは、結界だ―――。
「やられた……」
「これってまさか……篠塚の……」
「いいや、オレだ」
背後からの声に、二人は反射的に振り向く。黄緑色の髪をした黒い和装の青年―――蘭李を狙う悪魔が立っていた。自然と戦闘体勢に入る白夜と紫苑。悪魔はニヤリと笑った。
「そういえばお前達に会うのは初めてだったな。オレは華城蘭李を狙う悪魔だ。まあよろしくな」
「なっ……こいつが……⁉」
「疑うってんなら、ほら」
悪魔が背中から、真っ黒い羽を左右に広げた。漆黒に染まるその羽は、悪魔の体を充分包み込めるくらいの長さと幅があった。
「な? これで信じたか?」
「………何しに来た」
「この流れでそんなこと訊くのは随分馬鹿な気がするが……まあいい。お前ら、篠塚って奴を探してんだろ? そいつは屋上にいるぜ」
二人は目を見開いた。何故わざわざ敵に、そんなことを教えてくるんだ。絶対裏に何かあるに決まってる―――二人は悪魔を睨みつける。
一方悪魔は、「あっ」と思いついたように口を開いた。
「ただし、行くのはお前だけな」
悪魔は紫苑を指差した。指された張本人は目を見開く。
「俺……だけ……?」
「ああ。問題あるか?」
ありまくりだろ。紫苑はそんな目で悪魔を見た。対照的に、悪魔は余裕の笑みを浮かべる。
「早く行った方がいいぜ? あの魔具と生きて会いたいならな」
紫苑は白夜を見た。彼女が小さく頷くのを確認すると、彼は校舎へと駆けて行った。足音が聞こえなくなった頃、白夜が静かに口を開く。
「……で? 私に何か用があんの?」
「察しが良くて助かるなあ。そう。オレはお前に用があんの」
悪魔はクツクツと笑った。白夜は彼を鋭く捉える。
「オレはな、華城家の魔力者を代々狙ってるんだ」
「…………」
「だが、蜜柑も秋桜も睡蓮も、皆殺し損ねた。偶然かと思っていたけど、違った」
悪魔は急に目を細め、白夜を指差した。
「冷幻家―――お前らがいっつもオレの邪魔をしたんだ」




