フルコンタクト
“オレって今倒れていくところなんだ…”
自分の状況をわりと冷静に隼人は認識していた。まわりの風景はスローモーションのようにゆっくりと動いていく。
“頭ってぶっ倒れるときにはすごい遠心力がつくと思ってたけど、意外に勢いがつかないもんだな… ”
それは隼人が扉を開けて教室を出ようとした瞬間のことだった。何か自分より小さいものがものすごい勢いで前からぶつかって来たので、隼人はなすスベもなく後ろへ勢いよく倒れこんだ。
“知らないうちにアゴを引いてたんだ… 後頭部は強打せずにすんでよかった…”
不思議なことに床に叩きつけられた時から痛みは感じていなかった。
「ねえ赤城! 大丈夫!?」
突然のことに驚いたエマは床に倒れたままの隼人の顔をのぞき込んで声をかけてきたが、隼人の方はすぐには現実感を感じられなかった。
「赤城ったら!」
エマの大声の一瞬の後、隼人の視覚以外の機能が徐々に外部との接触を再開したようだった。
「い、いったい何があったんだ?」
「よかった… 頭は打たなかった?」
呆然としていた隼人は床に倒れたまま、エマの声がする頭の上の方を見上げて返事を返したのでエマは安堵した。
「教室から出ようとした赤城に外から走ってきたカトリが激突したのよ!」
「そのカトリの方はどうしたんだ?」
「ワタシならここだよ」
今度は声のする寝ころんだ体の下の方に目をやると、カトリが自分の体に寝そべっているのを隼人は発見した。
「カ、カトリ! なんでこんなところにいるんだ!」
「全速で走ってきたら止まり切れなくてハヤトにぶつかっちゃた… だけど、衝撃は全部ハヤトが吸収してくれたみたいで…」
「カトリもいつまでそんなところに乗っかっているのよ!? 早くどいてあげなさい!」
“こんなところを竜崎が見たらどうなることやら…”
エマは急いでカトリを隼人の上から降ろそうとしながら剛介の席の方を見やった。
“アレ、竜崎も福本もいないじゃない… どこ行っちゃたのかしら?”
「ほら、赤城だって重いでしょ! 急いで急いで!」
「ワカッタわよ…」
エマに急かされて渋々カトリは隼人の上半身から下りた。
「エマ、ありがとう」
はにかみながら隼人はエマに礼を言った。
「オレはもうしばらくこのままでもよかったけど…」
「アンタたち、いい加減にしなさい!」
「それにしても、どうしてカトリは教室に駆けこんで来たのよ? カトリはいつもは家でお昼ごはんを食べに帰って、午後の授業ギリギリに戻ってくるんじゃなかったっけ?」
「朝登校したときにゴースケの動きの背後にはE組のカヅキ スズがいるはずだ、ってエマに教えてもらったから、すぐに話しに行ったの」
「それで授業が終わってからスグに出て行ったの? てっきり私は放課後になってから行くと思ってたわ…」
あきれ顔のエマに続いて隼人がたずねた。
「その人とは一体どんな話をしてきたんだ?」
「スズには次の日曜日にゴースケやフクモトクンと会うの? って聞いたの」
“あらあら、最初っから直球で行くのねカトリは…”
「スズはワタシのことを相手にしないって態度で、あなたには答える義務はないって言ったの」
“カトリに鈴のことを話すように、鈴にはカトリのこと伝えるよう頼まれているのよ…”
エマは鈴と密約があるのを黙ったまま、眉一つ動かすことなくカトリの目をみて話しを聞いている。
“まあ、鈴からすればカトリはライバルだもんね…”
「もし会うとしたら何をするつもりなの? ってワタシはスズに聞いたわ」
“カトリはそんなこと聞いたのか…”
「しつこそうな表情をして、スズはもちろん答える必要はない、って」
隼人はカトリから鈴とのやりとりを聞いて、その場にいるように緊張した。
「逆にスズからあなたは竜崎君とどういう関係なの? って聞かれたの」
“うわ、鈴そうきたの…”
「私は竜崎君からはあなたのことを全然聞いていないし、だって」




