入学日1日目(教室外で 隠しごと)
カトリはサトー先生の目を見つめる。
「しかしながら、日本の政府や報道機関は国際的な「和」を乱すことを避ける配慮から『バベル』の行為や活動をいっさい表に出していません。このような日本政府などの配慮は『バベル』の活動を減らすことに必ずしも有効に働いているとは言えないのが現状です」
サトー先生は流れるような口調で話を続ける。
「日本政府は困惑しているものの様々な制約から『バベル』に対して自らの法執行力を行使することができません。そこで、ご存じのとおり、日本政府に代わって影として私たちとあなた方で協力して『バベル』へ対処しようということになったのです」
「ここ日本において表立たないように影で我々バチカンとあなた方CIAは協力し合って、影に潜む『バベル』に対処する… つまり影の力で影の力を制するということなのですよね?」
発言の内容を確認してからカトリは手を差し出し、サトー先生の発言を促した。
「ええ。そこで、私たちは資金や必要な物資やアシスタントの提供などの面であなた方をバックアップし、あなた方は私たちに人員や作戦行動などの人的サービスの面で協力をしてくださる、ということでよろしいでしょうか?」
「ハイ、そのとおりです」
うなずきながらカトリはサトー先生の目をまっすぐ見てたずねた。
「ところでお願いしていた物品等の準備の手はずはどうなっているのでしょうか?」
「今は東富士のマリーン、つまり海兵隊のガンスミスとスカウトスナイパーにライフルや弾薬の特注と調整を依頼中です。完了次第お渡ししますので、もうしばらくお待ちください」
サトー先生は姿勢を正してカトリの方を向いた。
「こちらからもお伝えすることがあります。あなたと行動を一緒にさせて欲しい人物がいます」
この申し出にカトリはケゲンそうな顔をした。
「初めて聞くお話ですね… いったいその人物は何者なのですか? その人物の任務遂行能力や情報保全能力に問題はないのでしょうね?」
何か含むように微笑みながらサトー先生はカトリへ返答した。
「ご心配はもっともです。まず、私たちはカトリ、あなたの作戦遂行能力に疑いは全くを持っていません。本当です。そして、今お話ししたその人物のことですが、おたずねの点については完璧とまでは言いきれませんが、それなりの力を持っていることは保証します」
その返答を聞いてカトリの表情は緩んだが、懸念が完全に解消した訳ではいないようだった。
「ワタシが前方にいるときにプロ気取りに後ろから撃たれたり、スイス軍の兼業兵みたいに銃をオモチャ扱いして勝手に暴発されてはかないませんので。それと、その人物はどのような人物なのですか? その人物とはいつ顔合わて打ち合わせができるのですか?」
「まだ残念ながらお話しできません。用意ができ次第あなたにお知らせします」
つけ入るスキができないようにカトリに対してキッパリとサトー先生は言い切った。
「今日のところはこのくらいで終りにしますね、カトリ。これからもお互いに情報の交換と調整を緊密に行って行きましょう」
カトリは微笑みを浮かべながらうなずいてからサトー先生と握手をした。そのあと、敬礼をしてから保健室を出ていった。カトリの退出を見届けてから、必要な時間をあけてサトー先生は『滅菌済み』スマホを取り出し電話をかけた。
「部長、今スイスガードとの会見が終了しました。彼女に対しては素直で真面目な印象を受けました… ええ、まだ若く、と言うより若すぎなので、知識が先行しているかと思われます… はい、射撃の腕前はありそうなのですが、単なる競技能力ではなく実戦の経験がモノを言いますものですから…」
話題が変わるとサトー先生の会話口調がただの事務的なものから慎重な口調に変化した。
「… そのことですが、先方へは了解させました… こちらの案件の方が我々にとってはるかに重要なことは十分に承知しています。作戦遂行中の負傷者や死亡者の『遺産』を再利用して有効活用を図ろうとする発想と試みは画期的で有益なことです… おっしゃるとおりにその際にはこれから収集する予定の情報データや分析結果を必ずお送りしますので… はい、では、失礼します」
“部長たちは本気でこんなことに大金と時間を費やすつもりなのかしら?”
スマホを終話させてから、サトー先生は深いため息をついた。
カトリは保健室を出るとCIAとの打ち合わせについてバチカンの『検邪聖省』へ連絡しようとした。ところが、あるはずのスマホがいつものところに無いことに気が付いた!
真っ青になってその場で持ち物全部と制服のポケットをひっくり返して探したが、全然見つからない。最後にスマホを持っていることを確認したのはたしかに教室だった。手で上からたたいて確認したから間違いない。それから…
「あ、ハヤトにお辞儀をしたっけ… まず、教室へフルスロットル!」
レーシングカーがフル加速して路面にブラックマーク(削れたタイヤの黒い跡)をつける勢いで駆け出し、カトリは教室へ直行した。




