学級委員の本分
春となって日が長くなって来た教室の中で、新入生オリエンティーション合宿が間近に控えている、カトリと隼人は二人して悩みぬいていた。
合宿がもうすぐだというのに、学級委員としての役割、つまり班決めやレクリエーションの内容を決めていなかったのだ。もちろん、早めに手をつけて片付けるつもりだったが、二人が学級委員になってから色々なことが立て続けにおきたので、手を付けられずに先延ばしになっていた。
響子先生から進み具合の確認をけっこうハッキリとされるようになり、そのたびに不本意ながらあやふやな返答をしていたが、時間が残り少なくなってきていることも事実であった。
「ア~、クラスのみんなのことをキチンと聞いたりしていなかったこと本当にが悔やまれるよ… でも、そもそも担任自身が書き残していないんだぜ… 学級委員になるなんて夢にも思わなかったオレたちがみんなのことを記録しとく訳ないよ…」
泣き言を言って頭を抱え込んでいる隼人に向かって、カトリは元気づけるように声をかける。
「そんなことを言わないでハヤト! レクリエーションは後からいくらでも決められるわ! まず、班決めから決めていきましょうよ!」
「…とは言っても、みんなの人とナリや人間関係も分からないのにどうしたらいいんだ… オレとカトリは部活に入っていないし、そして友達をいっぱい作るチャンスも中々なかったし…」
いきなり隼人は勢いよく上半身を起こした。
「そうだ! いっそのこと、出席番号順や五十音順で機械的に班を分けちまおうか?!」
「ハヤト、それは絶対ダメ! この役割を任せてもらったワタシたちへの信頼を裏切ることになるし、第一そんな決め方で決められた班なんて誰も楽しくないわ… もしかしたら、ワタシたちだってバラバラになるかも知れないし…」
隼人のことを真っ直ぐ見ていた目をそらしたカトリの声は小さくなる。思わねカトリの一言にドキッとした隼人は、真っ赤にした顔を横に向けてつぶやいた。
「じゃあ、一体全体どうしたらいいんだよ…」
話は堂々めぐりするばかりで前に進まず、時間ばかりが無情に過ぎていく…
ガラッ!
二人がとほうに暮れていたところ、教室の扉が開く音がした。
二人が同時に音のした方を見ると、竜崎剛介と東条志織が教室に入ってきた。
剛介の姿が目に入った瞬間、剛介に痛めつけられた時の苦い思いが隼人にフラッシュバックした。
続いてその後ろから江間絵馬と知らない男子もひとりついて来ていた。志織は底意地が悪そうな顔でカトリと隼人のことをのぞき込みながら話しかけて来た。
「二人っきりで教室にこもって何しているのかしら? もしかして人に聞かれちゃマズいこと?」
カトリと隼人が顔色を変えて言い返そうとしたのを制止して、意味ありげな微笑み方をして志織は自分の話を続けた。
「もう二人とも本当にマジメなんだから! 冗談よ! エマから二人で深刻な顔をしてニラメッコしているって聞いたから来てみたのよ。ところで、どうしたの?」
「オリエンテーション合宿がもうすぐだけど、まだ班決めやレクリエーションも決まっていないんだ…」
答える隼人の声は段々か細くなっていった。
「響子先生もオカンムリだって話だし、そんなことだろうと思ったわ」
志織はヤレヤレといった表情でうなずいていた。初対面の男子生徒は訳知り顔で話に加わって来た。
「おれもそんなことだろうと思ってたよ」
初めて顔を合わせたばかりで話に割り込んでくる男子生徒のことをカトリと隼人は馴れ馴れしく思った。
「さっきまでのアノ元気はどこにいったのよ? さあ、前に出て来なさいったら!」
志織は、それまで黙って後ろにいた剛介を前に引っ張り出した。
「あなたも言いたいことがあるんでしょ?」
「俺…たちもカトリたちの仕事を一緒に手伝いたいんだが…」
剛介は、はにかんだ表情でカトリと隼人に話しかけた。
「俺はこの前カトリに自分自身を見つめ直すように言われてすごく気が楽になったんだ… それに、このところは勉強も教えてもらって感謝している… だから、カトリが困っているらしいと聞いていても立っても居られなくなったんだ。それで、コイツらに話をしたらこころよく一緒に手伝うって言ってくれてな」
カトリは隼人の方をチラっと見てから、剛介の目を見すえて話し始めた。
「ゴースケ、ハヤトへ乱暴したことはどう思っているの?」
"そこはやっぱり外せないところよね”
エマは剛介から隼人に視線を移しながら心の中でつぶやいていた。
自分のことをカトリが気にかけていてくれたことを隼人は素直に嬉しかった。
「赤城には悪かったとは思っているんだ… 親に勝手に進路を決められてふて腐れて八つ当たりしちまって…」
だが、剛介は隼人へ謝ることも、顔を見ることすらもしなかった。カトリは剛介の隼人への態度が納得できなかった。
「ゴースケ、協力のお気持ちはありがたいけど、お断りします。ハヤト、今日中に何とか片付けてしまいましょう」
カトリはキッパリと剛介の申し出を断った。




