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初めての任務で…

 現場に到着するとバンは後部を銀行の方にできるだけ真っ直ぐ向けて停車した。宅配用のバンのため周囲の風景にとけ込み敵に怪しまれることもない。



 バンの貨物出し入れ扉には上部に銃の射撃用の開閉式窓が設けてあった。庫内の貨物スペースは床が高く上げてあって銃の発射や周囲の観察が可能な限り高いところからできるように改装されている。


 三脚を取り付けた単眼鏡(モノアイ)とレーザー測距器を貨物室内に設置したカトリは、隼人に渡していた銃を受け取り銃眼の高さに合わせてから庫内に両サイドを渡してある銃身固定用の帯に銃身を乗せた。銃のスコープを通して銀行裏の出入り口を見ながら、カトリは隼人に話しかける。


 「モノアイをのぞいてハヤト。パトカーが取り囲んでいる銀行の駐車場が見えるわね。銀行の裏口に向かってこれでレーザーを当てて距離を測って。何メートルくらいかしら?」


 訓練でスポッターを務めたことのあるカトリに教えてもらいながら、隼人はうなずいて距離を測る。測距結果はすぐに機材に表示される。


 「250m。スコープ内のドットの間隔は250mのときは1メモリ25cmのはずだよ」


 「分かったわ。また、モノアイを動かして銀行の周囲をよく観察して何かあったら教えてちょうだい」


 スコープを調整しながら、頭部につけたインカムに向かってカトリは告げた。


 「こちらは準備できました」


 同じ頃、銀行の裏では銀行強盗が4人で警察に包囲され足止めされていることにイラついていた。今までは警察が到着しても銃を見たら遠巻きにして観察するだけで手出しをしてこないので堂々と逃げることができた。

 

 持っているのはカラシニコフAK-47、寒い国で革命のために作られた自動小銃で、その銃の持ち主が西側諸国に敵意を抱いていることを言葉より雄弁に物語る。


 これまでの同様の事件では、日本の警察は銃の持ち主の所属先や考え方や行動の仕方、つまり一般人がたくさんいる町の中で毎分600発で無差別に銃弾をバラまくことを何の罪の意識もなく平気でする連中、のことを考慮して手出しや刺激をしなかった。


 日本の警察は今回、『アメリカ当局』(アメリカの担当がスパイ報機関であるCIAとは知らされていない)とも連絡を取り合い、自分たちが包囲・けん制しているうちに『アメリカ当局』の『片付け屋』がやって来てケリをつけ、捕まえた犯人を自分たちが確保だけすればいい、という筋書きだ。


 これまでにない日本の警察の長時間の包囲に犯人たちもシビレを切らして外に向かって大声で叫んだり、そこらに向かって散発的に銃を撃ち始めた。


 やっと警察は『アメリカ当局』から到着と準備完了の報を受け、犯人たちをあまり刺激しないようにして包囲をゆるめる。


 「やっと警察も俺たちを開放する気になったか。もう少し早く銃をぶっ放せばよかったんじゃないか」

 「この重い札束を車まで運ぶのも手伝ってくれれば助かるのによ」


 犯人たちが口々に好き勝手なことを言いながら、警備員を歩く盾にして重そうに荷物を運びながら裏口から出て来た。

 すると、どこからともなくワゴン車がやって来て裏口近くにエンジンをかけたまま停車した。


 「ハヤト、敵は4名らしい… 全員外に出るまで待たないと… 中に立てこもられても困るからね… それと、建物だけでなく今やって来たワゴン車にも注意してね… 敵の逃亡を助ける車かも知れない…」


 スコープをのぞきながら、カトリはつぶやきともひとり言ともとれる言い方で低い声を出している。隼人も夢中で単眼鏡で周囲を見回している。カトリのスコープより広角とは言え、視野が狭いので見る範囲が広くなり大変だ。


 周りに注意を払いつつ犯人たちは近くまでゆっくりとやって来た車に向かった。4人目が外に出るまでの時間はカトリには実際の時間の何倍にも感じられた。スコープで犯人たち全員を目で追いながら狙い撃つ順番は決めてあった。


 「やっと4人出そろったわ。まず、人質を盾にしている男からね」


 カトリは深呼吸しながらリラックスして力を抜きトリガーをプルした。


 1人目の男は突然崩れ落ちたが、誰の耳にも銃声らしき音は聞こえなかった。人質だった警備員は何が起こったか分からない様子だったが、自分が自由になったことに気がつくとあわてて地面に伏せながら逃げだした。


 「本当に静かね… ボルトが動く音しかしない…」


 カトリが言うように、バンの荷室内は空カートリッジが落ちる音がしただけで、あとは発射した火薬のにおいが漂っているだけだった。火薬のにおいを感じながら隼人はこのにおいを懐かしく思った。そして銃の重さや反動といった感触をありありと思い出してきた。


 「そうなの? 今来たワゴンは撃ってはいけないのね…」


 "何で敵の足止めをしないんだろう?”


 カトリの交信を横で聞いていた隼人は、単眼鏡で監視しながらカトリへの指示に違和感を感じた。 


 2人目のメガネの男は、倒れた1人目を見て恐怖にかられた様子で突撃銃をあたりに連射し始めた。3人目もあわてて荷物から何かを取り出そうとしていた。

 だが、マガジンが半分にもならないうちにカトリに狙いを付けられ2人目の男も倒れ去った。

 3人目が取り出したのは対戦車ロケット砲RPGだった。4人目の男の制止も聞かず(声が聞こえないので身振りでしか判断できないが)、3人目の男はRPGをカトリたちの乗ったバンに向かって発射した。秒速120mの弾頭がバン目がけて突進してきた。


 「アアアアッ!」


 単眼鏡のレンズのなかでアッという間に巨大化する弾頭に隼人はのけぞった。


 「ハヤト、静かにして… 集中できないわ…」


 カトリは素早く通常弾のマガジンに交換し全弾連続発射のフルオートにモードを変えて狙いを定め引き金を引いた。


 2秒程度でバンに到達するはずのRPGの弾頭が、高圧放水のようなカトリの連射した弾列に向きを変えられ上方にそれて爆発した。背後にいたはずの4人目の男はRPGの発射の際の反動を無くすのためのバックファイヤーに飲み込まれて吹き飛ばされ倒れていた。悪あがきをする3人目の男が地面にころがっている突撃銃を拾ってキョロキョロするのを見ながらカトリはまたゴム弾のマガジンに差し替えた


 「そんな方を向いている銃の弾はこちらに来ませんよ」


 ヒュン!


 カトリが照準を定めた3人目に向けて弾を撃とうとした時、外からの弾がバンの銃眼へ飛び込んで来た。


 あり得ない、という表情をしたカトリの動きは止まっていた。隼人の方は自分のほほをかすめるように弾が後方へ抜けて行ったので呆然としていた。

 その瞬間に頭の中に『ハヤト』の高校生時代のこと、ネイビーでの苦しい訓練のこと、初めて人を撃った時のこと、特殊部隊に属さない他部隊の上司をなめたこと、気がついたら自分が重傷を負い意識を失つつあるときのこと、など様々な記憶が時間も順番も関係なく渦巻いて流れ込んで来た。


 「うあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 「ハヤト、大丈夫よ! ハヤト、しっかりして! ワタシがついているから!」


 隼人はパニック状態に陥り、カトリが抱きしめても絶叫を上げ続けるだけだった。


 弾を撃ち尽くした3人目の男が自分たちのワゴンに乗り込むとその車は急発進し、あたりの車や工作物にぶつかりながらもスピードを上げて走り去って行った。数台のパトカーもあわてて後を追って行った。


 全てのことはカトリたちが到着してから15分もたっていなかった。


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