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魔力が多いので

 この世界には魔力というものがある。

 自然に宿り、動物や人にも宿っている。


 自然の魔力が人と動物に分け与えられていると言い伝えがあるが、本当のところは誰も知らない。動物の魔力は生命エネルギーで魔力量が多いほど、寿命が長いと言われているが、これも本当のところは誰も知らない。人の魔力は生命エネルギーとしても必要だが、人は魔力を魔術という方法で使用することが出来る。

 この魔術は、自然や動物に宿る魔力を自身の力に変えて国の発展に寄与している。


 例えば他国から戦を仕掛けられないように結界を張る。例えば領地や道の開墾を楽にする。例えば病や怪我を治す。例えば魔道具を製作する。などなど。


 どこの国でも行われている魔術だが、歴史を紐解けば魔術とは弱者を踏み躙っても良いモノだという裏事情に直結する。自然や動物に宿る魔力を自身の力に変える時点で、既に弱者を踏み躙っているようなモノではあるが、国土拡大を繰り返してきた、つまり国同士の戦をしてきたことを記す歴史書に、敗戦国の行末が書かれている。その多くは、敗戦国の王族・貴族を含めた国民たちから魔力を使用して勝戦国の発展に寄与されている、とある。


 つまり、敗戦国の人々の魔力を奪い尽くして魔術を使用し、国の発展に寄与しているという意味。弱者を踏み躙って良い、という考えということ。

 動物も人も魔力は生命エネルギー、つまり魔術に使用されればされるほど、魔力が消費され、同時に生命も体力も消費される。結果として命を落とす。それが分かっているというのに、魔術を使うのだから魔術は忌避されるものでもあった。


 魔術は誰でも使えるものではない。

 魔力量が豊富でなくてはならない。


 魔術を使用するにあたり、自然・動物・他者の魔力を使用するが、根本的な問題で魔術を使用する者に魔力量が多く無ければ、他からの魔力を消費して魔術を扱えない。

 魔術を扱うには、核となる魔力があり、その核にさらなる魔力を注ぐという形になる。

 魔術を扱える者を魔術師と言い、魔術師の魔力を核として他の魔力を魔術師に注いで魔術を扱う、ということだ。

 魔術師だけの魔力で何とかなる魔術など、魔道具製作くらいなもの、と言われている。

 裏を返せばそれくらいの魔力量を消費するような魔術だからこそ、国を守る結界が張れるとか、病人や怪我人を治すとか、出来るのだろう。


 そんな魔術師、魔力量も多いことが条件だが、知識も必要不可欠である。魔力を操る(すべ)であるのだからその術を覚える必要がある。術は祝ぎ詞(ほぎことば)という古語を使用するので、古語も学ばなくてはならない。似たような音を持つ古語は正しく発声しないと術が発動しない。若しくは間違った術が発動してしまい、大惨事を引き起こす可能性もある。

 だから、正しい古語を理解して正しい発声で術を発動出来る者だけが魔術師となれる。


 また、その魔術師を導く立場として魔導師が居て、この魔導師から正しい古語を学ぶ必要がある。魔導師から憂いなし、と判断されてようやく魔術師として一人前になれる。

 なので、魔術師は謂わばエリートだった。魔力量の多い者は当然のように魔術師を目指す。

 それがどの国であっても当たり前に思われていた。


 一方で、魔力量が少なくても古語を正しく使えるが魔術を扱うに達せない者や、魔力量が多いのに古語を正しく理解出来ずに魔術を扱えなかった者は、魔道具製作の仕事を与えられる。魔道具師だ。

 魔術師になれずとも、役に立って欲しいという国の思惑に乗せられているとも言える。

 謂わば落ちこぼれである。

 こちらもどの国であっても当たり前だった。

 そんな世界のウルフェ国に、魔力量がとても多い子爵子息が居た。


 彼の名は、サイ。ウルフェ国・ホーク子爵領の領主であるギィ・リーヴァの三男として生を受け、現在七歳を迎えた。リーヴァ家は貴族の世界では珍しい短い名前の者ばかり。嫡男はクヒル。次男はケサ。どこの国でも貴族は、ファーストネームもファミリーネームも長いのが一般的で、ミドルネームもあるのが一般的だ。


 だが、ホーク子爵領の領主に封じられたリーヴァ家は、六十年近く前の前領主の悪政を諫言しただけでなく王城に証拠と共に訴え出たことを功績とされ、代わりにホーク子爵領を治めることになった、不運の元平民だった。

 不運というのは、ホーク子爵領は国境に近い領地かつ領地の半分が森なので、税収の見込みは少ない。だからこそ、前領主家は領民に重税を課していたのだ。つまり、前領主を失脚させても、当時の主な貴族の誰も代わりを務めたがらなかったのである。

 領地を持たない爵位だけの貴族だろうと、男爵位の当主だろうと、跡継ぎになれない貴族の次男や三男でさえ、爵位と領地をもらう気にもなれない、と言ったとか言わないとか。それがホーク子爵領であった。


 ということで、国からお前が領主を務めろ、とばかりに家名を適当につけられ貴族にさせられ、妻子も平民から貴族の仲間入りを無理やり果たすことになった経緯がある。重税に苦しむ領民たちを見ていられなくて、前領主の家の使用人として仕えて諫言しても聞いてもらえないから、王城に訴えて何とかしてもらおうと思ったら、とんだ貧乏くじを引かされた。それがリーヴァ家だった。


 とはいえ、元平民。


 領民の気持ちはそれなりに分かる。無理やり領主に据えられたとはいえ、王城も見捨てたわけじゃなく、王城から政務官を遣わして領地経営の助言や書類作成などを教えたし、貴族の世界について教えるための教育係も派遣した。


 王城も重税に喘いでいたホーク子爵領を見捨てる気は無かったが、後釜に据える人選に難航していた。そこにギィの祖父であるイエを貴族にして、領主に据えた。無理やりだったことはちょっとだけ罪悪感があったので、フォロー出来る人材を送り込んだ。だからイエはそれなりに領主として務められ、でもそこそこの年齢だったので早いうちに息子のオノに代替わり。


 そして、オノの息子がギィである。オノまでは妻は平民出身だったが、ギィは王城から来た政務官や貴族について教えてくれる教育係の助言で、貴族家から妻を迎えた。元平民の自分を尊重しなくてもいいから、見下さない相手を、と教育係にお願いしたら、成人して直ぐのギィより六歳年上の貴族の女性が妻としてやってきた。


 伯爵家の女性で三女。内気で縁談がいくつか申し込まれたものの、会ってみるとあまりにも会話が弾まないことで、相手方から断られるばかりで、肩身の狭い思いをしながら王城の図書室に勤務していたらしい。そろそろ両親が姉夫婦に代替わりする、と聞かされ、さすがに姉夫婦に迷惑をかけたくないと思い、悩んでいたところ、王城の偉い人経由でこの結婚を打診されて受け入れたという。もちろん、元平民ということに何のこだわりもない。ただ、彼女の条件として、本を好きに読ませて欲しい、ということなので、ギィも受け入れた。ギィも勉強しなくてはならないから、本を読む人が妻なら、色々教えてもらえるかもしれないという希望もあった。


 そんな彼女、名をローゼリア・デイジー・ヴェルクンティルという。ヴェルクンティルが伯爵家のファミリーネームでローゼリアがファーストネーム。デイジーがミドルネームの生粋の貴族女性。上手くやれるのか周りも本人たちもヒヤヒヤしていたが。


 結果として、二人は穏やかに夫婦生活を送れたし、内気とはいえきちんと子爵夫人として社交も行える良い妻をもらった、とギィは喜んだ。ローゼリアも、黙々と働き、六歳も年上の自分を妻として慈しみ、素直に教えを乞い、本を好きなときに読ませてくれる夫を得難い、と喜んだ。まぁ仲は良好だから、ローゼリアは三人の男の子を二年置きに産んで育てた。身体も丈夫だと思われる。


 そんな夫婦の三男として生まれたサイ。

 七歳にして、ギィと兄二人にそっくりな焦茶色の髪に黒い目の頬骨がくっきりとした厳つい顔立ちをしていて、子どもらしさが見た目はあまり無い。

 母のローゼリアは、三人共に夫似なのがちょっぴり寂しいとは思ったけれど、とてもよく可愛がった。

 本当はもう一人産んでも良いか、と思うほどには夫のことを敬えていたし、愛情も持てたが、産後の肥立が少々悪く、夫が妻を心配していたので三人で子は作らないことになった。だから、余計にサイを可愛がった。贔屓するつもりは無かったが、ちょっと贔屓していたかもしれない。


 それに、クヒルは嫡男として跡取り教育もあり、直ぐに手が離れてしまい、ケサはクヒルのスペアとして跡取り教育までいかなくても、それなりに教育を施すためにやはり早めに手が離れてしまった。どちらにも本を読み聞かせてあげたり二人の話を聞いてあげたりする時間をもっと作ってあげたかったが、残念ながらそう上手くはいかなかった。


 クヒルはそれでも跡取り教育を早めに行い始めたからか、落ち着いていてローゼリアの勧める本をよく読んでいたが、なんでも読むわけでもなく。

 ケサはスペアとして育てられつつも、身体を動かす方が好きなようで、勧めても興味のある本しか読まない子で、冒険物語くらいなのでローゼリアもケサが好みそうな本を探すのに手間取った。

 だが、サイは、どんな本も楽しそうに読む子なのでローゼリアがさらに可愛く思ってしまったのも無理は無い。ギィがクヒルとケサの相手もして欲しい、と一度か二度口を出すくらいには、サイを可愛がった。

 そんなサイもローゼリアの気持ちを汲むかのように次々と本を読んでいき、七歳にして古語の本を読み始めていた。


 ローゼリアはサイのそんな様子にとても喜んだ。元は王城の図書室勤務をしていた女性である。古語も彼女は学んでいた。

 魔力量が少ない上に女性だったので魔術師にはなれなかったが。ウルフェ国の魔術師は男性のみで、女性はなれないし目指すものでも無い、と言われている仕事だった。他国では女性の魔術師も居るがウルフェ国では今のところ一人もいない。


 魔力量は、生まれたとき、五歳のとき、成人の十八歳のときの三回に分けて魔術師立ち会いで測られる。生まれた時から多い男児は魔術師になれる可能性が高いから。女児も測られ魔力量が多かったら、魔道具製作を勧められる。魔道具製作は男児だと落ちこぼれ扱いだが、女児だと誇れる仕事であった。


 五歳のときは、生まれたときと比べられる。増える子もいれば変わらない子もいるし、減る子もいるからだ。変わらない子は成人しても変わらないと言い伝えられているので、魔力量が変わらない子はここで魔力測定が終わる。

 十八歳のときは、五歳のときに魔力量が増えているか減っているか、という男女が対象で、魔力量は成人すると安定して増減が無い、という言い伝えがある。実際、五歳では生まれたときより減ったけれど、成人年齢では増えていた子も過去には居た。その子は成人したら、増えることも減ることも無かったという。なので、五歳のときに魔力量が増えていても、減っていても十八歳になったら測定される。


 魔力量が多い男児は魔術師勧誘というか、半分以上強制的に魔術師の道へ進む。多い女児は、魔道具製作を勧められるが、そちらの道を選ぶのは、平民出身の女性が多い。貴族出身の女性は魔道具製作を勧められても、結婚へと道を選ぶ。貴族は政略結婚が多いので、つまり次代へ命を繋げることの方が、貴族出身の女性たちにとっては家の期待を背負うという意味でも重要だった。


 サイは、生まれたとき、五歳のとき、共に魔力量が多く、魔術師から勧誘を受けていた。そこに魔術師に必要な古語の勉強を始めたのだから、ローゼリアは元より周囲も魔術師の道へ進むのだろう、と期待があった。ローゼリアも生粋の貴族女性なので、その未来に疑問を持たなかったし、ギィとクヒル・ケサ兄弟もその未来があるのだろうな、とローゼリアほどではないにしても考えていた。僅かながら期待していた、かもしれない。


 サイは、そんな現状だった。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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