ブレイクタイムは突然に
「はい、コーヒー」
閉じ紐の作業が一息ついた私たちは居間に降りてきていた。手早くコーヒーを淹れ、コーヒーを乗せたトレーを机に置く。
居間の真ん中にはブラウン色の丸テーブルと、同じような椅子が二脚置いてある。売り場から入って正面には大きなガラス窓。昼時に開けておけば、売り場まで心地よい風が吹くようになるのだ。
「サリー殿、今日は私の当番だっただろう」
エレンはコーヒーを受け取ると、不服そうに口を尖らせた。
エレンと一緒に暮らし始めていくらか経つ。最初は何もできなかった彼女だが、今はお茶を入れることができるようになった。ここ最近は当番制で今日は私、明日はエレンと交代してお茶を出すようになっている。
次期にエレンの料理が食べられるようになるだろう。
「いいのいいの。日頃のねぎらい、だよ」
エレンはそう言われてしまうと弱いようだ。あまり強く出られず、口をもごもごさせている。
いつもはあんなにシャキッとしてるのになぁ。
騎士然とした時はめちゃくちゃ凛々しいのに、こうやってお礼をいったりすると照れが見える。まぁ、本人は隠しているつもりなのかもしれない。
「……うまいな」
「我ながらいい出来だぁ~」
エレンに続いて私もコーヒーを一口。程よい苦みが口内を支配する。その後すぐにコーヒー豆の香ばしい香りが走り去っていった。
コーヒーは眠気覚ましにいいと聞く。だが、疲れにも効くと思う。弛緩した身体、硬直した脳にいい刺激を与えてくれるのだ。
エレンも「ほぅ……」と息をついている。
「もうエレンがここに来て一週間くらいたった?」
「いや、そんなにたっていないだろう。まだ数日だ」
「そうかな? 濃い時間だったからよくわかんないや」
つい「えへへ」と笑ってしまう。エレンはそんな私に向かって微笑を返してくれた。
しばらく私たちはコーヒーをお供に話をした。ガラス窓からはいい日が入ってきていて、ぽかぽかと気持ちがいい。
「ところでサリー殿」
心地よい暖かさの前にひれ伏し、まどろみ始めていた私はエレンの言葉で我に返った。「どうしたの?」と言えば、エレンは腰を浮かせてこちらに顔を近づけてくる。
「仕事はいいのか?」
エレンはそういって座りなおすと、「依頼人が待っているだろう」と続けた。
「納期はまだ先。それに、休憩も大事だよ」
「しかしだな……」
「エレンさんは心配しすぎ。根を詰めすぎるとよくないしね」
「だが……」
「エレンさん」
一言。それだけでエレンはこちらを見つめてきた。
やっぱり、焦り気味だよなぁ。
「休憩は大事。メリハリは付けないと仕事に支障が出ちゃうよ」
そして私は「ほら、コーヒー残ってるよ」と続けた。エレンも私が言わんとしていることの意味が分かっているのだろう。若干不本意そうではあるが、居住まいを正した。
「店員の仕事には自身の健康管理も含まれてるの。エレンさん、仕事に対して真摯だしやる気があるのはいいけど、体壊しちゃだめだよ。エレンさんが倒れたら、この店成り立たないんだからさ」
私の言葉にエレンが驚いたような顔をして見つめてきた。そんなエレンに私は「頼りにしてるよ」と続ける。
「後もう一つだけ。店員が心地よく働けるようにするのが店主の仕事。何か辛いことがあったり、自分では対処できないなって思ったらすぐに私に相談してね」
「う、うむ。わかった、気を付ける……」
エレンは申し訳なさそうにうつむいてそう口にした。
「よろしい。じゃあ厳しい話はおしまい!」
そして休憩もおしまい!
「続き、やるよ。エレンも手伝ってね」
「承知した! 私は何をすればいい!?」
エレンは立ち上がって拳を握った。
ずいぶんなやる気だね。
それに、さっきまでの辛気臭い雰囲気はなくなっていた。




