カフェにて①
少女の後をついて離れに入る。こちらは本館と違って紙の匂いはしない。その代わり、コーヒーの良い香りが空間を満たしていた。
どうやら一階がカフェのようだ。カウンターとテーブル席が配置されており、カウンターにはグラスを磨く店員がいた。
本館と同じ暖色のランプが釣り下がっており、店内を優しく照らしている。大きな窓があるが、カーテンが閉められている。
少女に案内されたのは奥の二人席だった。
少女からの「座って」という言葉にうなづく。腰かけた椅子は厚いクッションが敷いてあってふかふかだ。クッションはしっかりと腰を沈めて離さない。
……ついてきてしまった。
一瞬の攻防。少女の衝撃的なセリフを聞いた私は少しの間固まってしまった。その隙をつかれ、半ば強制的にカフェへ連れてこられた。
ニコニコとした笑顔で座っている少女を見る。視線が合った。彼女が考えていることが分からない。
一体、何をしゃべればいいのか……。
いや、なぜ私はしゃべる方向で考えているのだ。
「いちごパフェとホットコーヒー、二セット頂戴」
沈黙を破ったのは少女の方だった。しかし、それは私への言葉ではなくカウンターに控えている店員への注文。
ほどなくしてパフェとコーヒーが届いた。
「私はエヴァリット。エヴィと呼んでほしいわ」
少女――エヴァリットはそう名乗ってコーヒーに口をつける。そして「あなたは?」と続けた。
「私はエレン・フォ――エレンという」
フォーディンの姓は捨てた。未練がないと言ったらウソになる。あの経験を乗り越えたというつもりもない。しかし、今はサリー殿の魔本屋のお手伝いだ。
仕事を全うしなくてはいけない。やはりすぐに帰らなくては。
「エレンちゃんかぁ。いい名前だね」
「エヴァリット殿」
私がそういうと、「エヴィって呼んで?」と返ってきた。それを無視して言葉を続ける。
「私は今、買い出しを頼まれていてな」
地下売り場から持ってきた素材を見せる。
「痛んだりしてしまうとよくない。ここまでついてきておいて申し訳ないが、帰らせてもらいたい」
我ながらいい理由づけではないだろうか。これなら席を立つ理由としてそれほど違和感はない。
「では、失礼する」
エヴァリットに挨拶をして立ち上がる。しかし、「待って」と彼女から声がかかった。
エヴァリットが笑みを浮かべる。しかし、その笑みは今までとは違うしたり顔に思えた。
「エレンちゃんが持っているその素材、全部日持ちするやつなんだよねぇ」
そして、エヴァリットは素材を指さし、「それは数年、これは十数年も保存できるね」とも続けた。
「……なに?」
「ウソでしょ、その言葉」




