第12話「蒼いピエロのフォークダンス。また飛翔の時」
「わ゛がっだ。どりあ゛え゛ず一緒に行動じよ゛う……」
ヴァニッシュは顔を肉団子みたいに腫らせて、洩れるような声を出した。
「はいっ!」
アイリスの明るい笑顔に2人がまた殺気立つ。
「まっ! まて! 今はとにかく装備を取り戻す事を考えよう!」
しばらく殺人光線を送っていたエスカローラがため息をついた。
「はあ……あくまでこの話は保留するだけだからね……」
激しくうなずく。
「それにしても、よくその双剣は盗られなかったね」
「安物……ってほどでもねえが、使い込んでる剣なんて値段がつかないからな」
「そんなものなの?」
お姫様は一般常識に疎いらしい。
「カガク兵器の密売に比べりゃな。重いだけの鉄クズだぜ」
「ねえお兄ちゃん。王国軍に通報したら?」
「それも手なんだが……あの大剣が持って行かれる可能性が高いからなぁ……」
(僕が口添えするよ)
ヴァニッシュの呟きにエスカローラが耳を寄せた。
(信用してない訳じゃないが軍も一枚岩じゃねえからな……クラン登録済みの武器なら軍も手が出せないんだが……)
「こらっ! このデカ乳女! お兄ちゃんに近づくな!」
「痛っ! 耳を引っ張らないでよ!」
「ふ~んだっ!」
チコリーはヴァニッシュの後ろに回って舌を突き出した。
「軍に通報するのは後回しだな。リスクが高すぎる。……エスカはどうする?」
「どうするって……もちろん一緒にいくよ! 全部取り戻さなきゃ!」
「お前、丸腰ってわかってるか?」
「あ……」
ヴァニッシュは深くため息をついた。
「おいおい……。そうだ、エスカとアイリスの2人で町に行く手がある。その間に俺……とチコリーで武器を取り戻す」
「それ名案だね!」
チコリーが即座に答えるが。
「一緒に行きます!」
「一緒に行くよ!」
エスカローラとアイリスの2人がすぐにハモった。
「う~~! 邪魔! せっかくお兄ちゃんと二人っきりになれるのに……あんっ!」
「脱ぐなっ! ……チコリーと二人っきり?……わかった……2人ともやっぱり一緒に行こう」
顔の下に縦線を大量に表したヴァニッシュがげんなりと方針を転換する。
「当たり前だよ!」
「どこまでもお供します!」
なぜか妙にやる気の二人にヴァニッシュは若干引き気味になる。
「と、とにかく! カガク兵器はどこにあると思う?」
「それなのですが、山師の方と商人の方が持っていきましたから、おそらく……」
ヴァニッシュが肯く。
「炭坑か」
「じゃあすぐ行こう!」
間髪入れずにエスカローラが言った。
「あんたバカぁ? 待ち伏せされてるに決まってるじゃない。ね~! お兄ちゃんっ!」
困り気味にヴァニッシュが頭を掻く。
「あー……まあ、そうだろうな」
チコリーが舌を突き出した。
「うぐぐ……!」
「まあ正面からいく馬鹿はいねえよな」
「ばっ……!」
エスカローラが固まった。
「あっ! いや! そういう意味で言ったんじゃねえから!」
(なんで俺はいちいちみんなのご機嫌うかがってんだ?)
納得いかないが無視するともっととんでもない予感がしたヴァニッシュは皆を怒らせないように続けた。
「作戦がいるのは確かだ。戦力になるのは俺とチコリーだけだしな」
「ふふ~ん! デカ乳もクローンも素直にどっかいったら~?」
「ぐぐぐっ!」
「あのっまた私を人質にしたらどうですか?」
エスカローラとは逆にクローン扱いされても普通の反応をするアイリス。
「ローガンの野郎にゃ効かねえだろ」
「あ……」
そう。部外者のローガンに人質はあまり意味が無い。
「定石としては二手に分かれて、一組は陽動でその間に搦め手で内部侵入なんだが……」
「じゃあ私お兄ちゃんと……!」
チコリーがぴったりとヴァニッシュに抱きついた。
「どあほう。主力の2人がくっついてどうする。お前が攪乱すんだよ」
「ええええーーーーーー?」
「じゃあ僕が一緒に……」
エスカローラが片手を上げて(なぜか頬も染めて)参加表明しようとしたがチコリーが最後まで言わせない。
「だめだめだめーーー! 絶対だめーーーーー! この巨乳と一緒にしたら必ずちちくり合うに決まってるーーーーー!」
「ばっ! ばか! 声がでかい!」
「うぐーーーー!」
「睨むな! ……まあ確かにチコリーだけじゃ戦力が……そうだエスカ」
「なに?」
エスカローラの瞳は期待するように輝いていた。
「お前、弓は使えるか?」
「銃ほどじゃないけど、弓は嗜みだったから」
「よし……これ使えるか? 俺の狩り用なんだが」
ヴァニッシュはナップザックから弓と弦を取り出して、弓をおもいっきりしならせ弦を張る。
「持ち運び重視で小型だがかなりの強弓だ。引けるか?」
「弓は腕力で引くんじゃないよ。タイミングで引くんだ」
得意気に答えた。
「OK。矢が5本しかない……あそこに鳥がいるのは見えるか?」
「うん」
ヴァニッシュが指差す先にアホ面の鳥が鳴いていた。
「その弓で落としてみろ」
「まかせてよ……ふっ!」
エスカローラはかなり重い弓を一息で引ききる。それだけで腕前がうかがえるというものだ。
「……!」
ヒュッと風を切って矢が飛んでいく。
「……やるじゃない」
チコリーが半目で呟いた。
「いい腕だ」
「凄いです!」
アイリスが跳ねるように褒め称えた。
「えへ? そ、そうかな?」
「これならチコリーと組めそうだな」
「あっ」
その言葉にエスカローラが愕然とした表情を浮かべたがヴァニッシュは気づかない。チコリーが勝ち誇ったような意地の悪い笑みを浮かべていた。
「焼き鳥にして食いたい所だが……火はまずいな。チコリー羽をむしってくれ」
「はーい」
チコリーに鳥を手渡す。
「何するの?」
不思議そうにエスカローラがチコリーの作業を眺めた。
「矢を作る。羽がないと真っ直ぐ飛ばないからな」
「なるほどね。僕も手伝うよ」
「じゃあ手頃な枝を集めてくれ」
「うん」
こうして急ごしらえの矢を30本ほど用意した。
「それで作戦なんだが……」
炭坑の前に存在する崖に囲まれた空間に村人たちが集結していた。彼らはおのおのシャベルやマトック、鎌、鋤、鍬を手に持っている。まるで農民一揆の様相だ。
「あいつら本当に来るダニ?」
中年小太りのおっさん。クパリが横の男に尋ねる。クパリはパンチパーマになっていた。
「わからん、明日まで来なけりゃ何とかなるって山師のおっさんが言ってた」
村人の中では比較的若い部類にはいる筋肉質な男が答える。
「うう……おっかないダニ……お嬢さんが心配ダニ」
クパリはシャベルを抱きかかえて震えた。
「お嬢さんの事は捜索班に任せるしかないな。俺たちはここを死守しないと」
クパリと会話していた青年とは別の痩せた男性が会話に参加する。
「安心しろ、やつらがのこのこ現れたら……ほら」
切り立った崖の上を指差す。広場をコの字に囲んでいる。
「10人の弓矢でハリネズミの出来上がりだ」
痩せた男が自信げに胸を張る。
「もしまたお嬢さんを盾にされたらダニ……」
クパリが声を震わせる。
「……村長に言われてるだろ……そんときは……」
痩せた男が目を細めた。
「わかってるダニ……でも……ダニ」
「祈れ! お嬢さんを連れ歩いたってやつらにゃなんのメリットもないんだ! 殺す理由も無い! きっと途中で置いて行かれてる! それにここに来るとも限らん!」
「心配ダニ……おっかないニ……ダ?」
急に顔を上げたクパリに男もクパリの視線を追う。
「?」
二人の視線の先、村に伸びる道の上に小さな人影が現れた。
「お嬢さんダニ?」
「あ~~~! あんた! 変態ロリコン都条例違反者ーーー!」
現れたのはもちろんチコリーである。そして開口一番クパリを指差して叫んだ。
「だっ! だれがロリコンダニ! この世界に都条例なんてないダニ!」
慌てるクパリに村人たちの冷たい視線が集まった。
「……クパリ、やつらに逃げられた理由ってまさか」
ドン。
「ちっ違うダニ! 誤解ダニ!」
両手と首を左右に振って否定するが、チコリーが追い打ちする。
「逃げるためとはいえ、あんたみたいなブ男に汚された私の気持ちがわかる?」
村人たちにチコリーの声は重く真剣なものに聞こえた。
「クパリ……なんで逃げられたのかと不思議だったが……」
「なっ! なんでそんな目で見るダニ? これは! その! ダニ!」
「あの時殺したと思ってたけど……パンチパーマになっただけだったのね……いいわ。もう一度殺して・あ・げ・る!」
チコリーの腕輪に光が走る。
「気をつけろ! ウィッチクラフトが来るぞ! 全員下がれ!」
それを見た男たちが慌てて坑道の入口辺りまで慌てて下がる。
チコリーがじりじりと距離を詰める。
(よーし! そのまま……)
(少し可哀想だが……死んでくれ!)
(くっ……現れなければ良かったものを……)
村人たちの胸中に様々な思いが過ぎる。だが運命の時は訪れない。
(……?)
(おい……早く……)
(もう射程内だろ?)
「……おかしい……ダニ?」
クパリが思わず呟いてしまった。
「おっ! おい! もう撃て! ためらうな!」
村人の1人が崖の上に叫ぶ。草木が揺れて弓を持った人影が現れる。
「いけ! やれ! ……おいっ! くそっ! なんで撃たないんだ?!」
どういうわけか矢が射かけられる様子がまったくない。
「ええい! 相手は子供1人だ! 俺たちでやるぞ!」
若い男が鍬を掲げて叫んだ。
「ホイール……ウィンドウ!」
強烈な旋風が先頭の男を吹き飛ばした。
「のぐぁ!」
さらに崖上から飛んできた矢が別の人間に当たりもんどりを打った。矢の先端には石がくくりつけられていた。
「なっ? なにやって……? お! お前は!」
そう。もちろん崖上に立っているのはエスカローラだった。わかりやすい伏線なので読者全員わかっている。
わくわくしました?
エスカローラが弓を引く。
「逃げないと当てちゃうよ!」
「散れっ! 分散しろ! やつらを絶対に通すな!」
「あーあ。皆殺しなら一瞬なのになぁ……ケガさせないで倒すの難しいのに……ホイールウィンドウ!」
「ぬぎゃあー!」
また1人旋風に吹き飛ばされた。しかし大の大人が吹き飛んだくらいで簡単に気絶はしてはくれない。頭を振って起き上がる。
(頑張ってね……お兄ちゃん)




