0話
「おはよぉ〜湊人!」
誰もいない早朝の教室で彼女の声だけが聞こえた。
「朝からうるせぇな、少しは静かな時間をくれよ」
俺はこいつが嫌いだ。
名前は杏奈、昔から騒がしいヤツだ。
「朝から元気ないなぁ〜? お姉さん悲しいんだけど」
いや、同い年だろ。
そう心の中でボヤいた。
「お前は悩みもなさそうでいいよな」
「失礼だね湊人くん! だから彼女いないんだよ?」
「……」
普通に傷ついた。
べ、別に俺は彼女なんていらないし。
そう自分に言い聞かせた。
「おっ? 湊人くん焦ってるねぇ」
数秒の間のあと――
「お前は黙ってれば美人なのに、勿体ないよな?」
「それってバカにしてるつもり~? 誉め言葉だよそれ」
「……ッ」
もういい。
話しててもムカつくだけだ。
嫌味で言ったつもりが逆効果だったみたいだ。
だから俺は机に寄りかかって寝る体勢に入った。
「もう寝ちゃうの? ってか、よくこんな暑い中で寝ようとするね〜」
いや、小学生かよ。
こんなことして寝るフリとか……
何やってんだろ……俺。
それにしても暑い、暑すぎる。
シャツの背は少しの湿り気を帯びている。
「おーい? 話聞いてる〜湊人くん」
パチパチと手を叩く音を無視して、力強く瞼を閉じた。
土日からゲームでオールとかしてたからすごく眠たい。
少しずつだが杏奈の声が遠くなっていく。
だんだんと。
ーーー 『終わった世界』で、俺たちは塔を登る ーーー
「起きて!繧上≧縺セ縺励〒繧薙@!」
「……!?」
小さな声だが確かに聞こえた。
……杏奈の声?
ここは、どこだ?
それに杏奈は何を言ってたんだ?
辺りを見渡せば、そこは先程までいた教室だった。
さっきは俺と杏奈しかいない教室にも、少しだけだが人が増えた。
なんだったんだ?一体。
まぁいいや。まだ眠れるし。
あくびをしながら眠たい目を擦った。
机に置いた腕は汗が張り付いている。
(体中べたべたしてて気持ち悪い……)
扇風機の生ぬるい風が余計に気持ち悪さを増していた。
部屋にいるみんなは、机にかじりついている。
今日から定期試験が始まるからだ。
そんな中、俺は一人爆睡している。
「やっと起きたか、バカ湊人! お前寝すぎだぞ」
「智彦、お前は眠くないのか?」
ゲーム友達の智彦が声をかけてきた。
「珍しいな、お前が俺のこと心配するとか」
いやお前、俺が寝た後もゲームしてただろ!
そう思いつつ、俺は再び寝る姿勢に入る。
「お前、この間の中間テストダメダメだっただろ? 大丈夫なのか?進学とか」
「はぁ……まだ中二なんだし大丈夫だろ」
勉強めんどくさい、はやく家帰ってゲームしたい。
そうして俺は再び眠りについたのだった。
「ん~……。やけに静かだなぁ」
虫の音すら聞こえない、人の気配も感じない。
まるで世界が止まったような違和感。
廊下側から誰かが走っている音がする。
うるさいなぁ……
「湊人!何をしているんだ! お前はやく避難するんだ!」
「まったく、いきなりどうしたんですか先生…… えっ?」
その瞬間、息が詰まった。
心音は速まり、呼吸はどんどん乱れていく。
真夏のはずなのに、ぞっとするほどの寒気がする。
(な、なんなんだ。あれは?)
それは、外に大きな塔がそびえ立っていた。
まるで有名な画家が描いた一枚の絵のようだ。
その塔は神秘的で、どこか本能的な嫌悪感を抱かせた。
「あれは、なっ、なんなんですか?」
震える声でそう聞いた。
手は無意識のうちに強く握りしめていて小刻みに震えていた。
「先生もわからない、だが一つわかることがある」
「それって、なんなんですか?」
立つように催促する先生。
その顔色は悪く、額には汗が滲んでいた。
そんな先生は、俺の手を引っ張ってこう言った。
「生徒や教員、半数以上の人たちが突然消えたんだ」




