第56話:悪魔への生贄
お礼
いつも読んで頂いてる方々、本当にありがとうございます!
めちゃめちゃ励みになります!!
この物語は現在まだまだ四分の一ぐらいで、さらにどんどん激化していく予定であります。
駄文で申し訳ございませんが、どうかこれからもお付き合い頂けますようよろしくお願いします
第56話「悪魔への生贄」
ハイドンの部屋という閉鎖空間において、もはや「女子トーク」という言葉は、平穏な会話ではなく「生存のための儀式」へと変貌していた。
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前列の騎士団幹部たちが放つ言葉は、すべてブーメランのように自分自身へ戻ってくるはずのものだった。
しかし、彼女たちは誰もそれに気づいていない――あるいは、気づかないふりをするという高度な防衛本能を働かせているのか。
フルーレ「ムカつく女ってけっこういるっすよね? 気だるそうっていうか、面倒くさそうにした脱力系の女とか特にっす。サーヴェルさんもそういうやつ大嫌いっすよね?」
サーヴェル「あ、は、はい……た、たまにそういう人、み、見かけますよね? あ、あはは……(冷や汗)」
マキ(サーヴェルよ、お前の隣にいるフルーレこそが、まさにその「気だるげ系」の筆頭ではないか‥‥言え、言ってやれ‥‥)
サーヴェルは自分の首を絞めるようなフルーレの視線を受け流すのに必死だ。
ハナ「ボクもたまに見かけるけど、人懐っこいふりしてごはんやお菓子ねだったりしてるやつマジでムカつくよー。ヒナギクさんもそういうやついたら嫌だよねー?」
ヒナギク「は? あ、は、はい……そ、そんな人、い、いるんですかね……? は、ははは……」
マキ(ヒナギクよ。つい先日、ハナはハイドンにお菓子をねだり続けていたはずだ、それを言ってやるのだ!)
シルフィ「わたしもおしとやかにしてるふりして陰ではネチネチと実験してたり、悪どい事してる女性は許せません。ハイドンさんの周りにそんな女性いたらどう思います?」
ハイドン「なぜ私に!? て、いうか、あ、相手が、わ、悪気がなければ……困る……というか……」
ハイドンの悲鳴のような返答も、彼女たちの耳には届かない。
セシリア「あざとい女っていうか、普段ジャイアンみたいな乱暴者のくせに、映画の時だけやけに優しくていいヤツぶる女って特にムカつくよな? エレンはそういうヤツいたとしたらどう思うのだ?」
エレン「ひいいっ!? そ、そ……それをわたしに聞きますかっ!?」
ついにセシリアが自らの「ジャイアン」ぶりを棚に上げて、無邪気な爆弾を投げた。エレンの心臓は、今の特訓よりも激しく鼓動している。
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隊長ズは、ただ震えていた。
「……これが朝まで……?」
「……終わらない、終わらないぞ……」
これは女子トークではない。魔女裁判だ。それも、裁判官が全員魔女という絶望的な裁判。
リノ(思念)『……わたしは、何にも知らないおこちゃまぶってるくせに、その裏ではめちゃめちゃエロくて変態な女が一番キライですよー、てへっ』
リノがマキにだけ聞こえる思念で言い放ったその言葉は、爆弾というよりは核弾頭だった。
マキ(……。……。ツッコみたい。……喉元まで『それは貴女のことではないか』という言葉が込み上げている。だが、ツッコんだら負けだ。……エレンよ、お前の気持ちが痛いほど分かる……)
マキは視線を逸らし、できるだけ存在感を消そうと努めた。リノがニコニコしながらこちらを見ている。その笑顔が、今日のどのモーニングスターよりも恐ろしい。
夜はまだ深い。地獄の恋バナは、いよいよこれからが本番だ。
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ハイドンは、自分の心拍数が戦場のドラムより激しくなっているのを感じていた。正座している足の感覚はもうない。だが、感覚がない方がまだ幸せだったかもしれない。
セシリアが、最後の手羽先の骨を皿に置き、ニヤリと笑ったからだ。
セシリア「……さて、本音トークの『準備運動』はこれくらいにしようか」
「「「「ヒッ……!!」」」」
ハイドン、ブキャナン、隊長ズ、そしてエレンの悲鳴が重なる。
セシリア「今回の相手は大陸十傑だ。……死ぬかもしれん。……だからこそだ。おい、お前ら! この中で、『実はこいつのこと、ちょっと良いと思ってた』とか、『戦が終わったら、あいつに告白するつもりだ』っていう奴、正直に名乗り出ろ。今なら殴るだけで許してやるぞ」
フルーレ「あ、それいいっすね! ちなみに私は、戦場で誰かが死にそうになった時に助けられて『キュン』とする展開とか、正直ベタすぎて反吐が出るっす。……サーヴェルさん、誰か狙ってる騎士、いるんじゃないっすか?」
サーヴェル「な、なななな、狙ってる!? ……わ、わたくしは、ただ、寝かせていただければそれで……(視線を激しく泳がせる)」
ハナ「ボクは、今回の戦で手柄を立てて、誰かをお菓子で釣って独占しようと考えてる奴がいたら、そのお菓子ごと没収しちゃうよー! ヒナギクさん、心当たりあるんじゃない?」
ヒナギク「……。……。……お、お菓子は、自分で買います……(真っ赤な顔で震える)」
シルフィ「ウフフ、皆様。……ハイドンさんは、今回の遠征で『この人と二人きりになりたい』なんて、不埒なことを考えていたりしませんわよね?」
ハイドン「だ、だから、なぜ私に振るのですかシルフィ様!! 私はただ、無事に帰ってきて、この部屋を一人で使いたいだけです!!」
カレン「あら……。無欲ねぇ。……ブキャナンさんは? さっきから『カリンちゃん』ってうわ言を言っていたみたいだけど……その『カリンちゃん』って、私より可愛いの?」
ブキャナン「(一瞬で正気に戻り)あ、いや、えっと、カリンちゃんは……その、天使で……女神で……(カレンの鋭い視線に射抜かれ)……はっ!! すみません!! 何でもありません!!」
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マキ(……。……。……おいリノ。……もう、私の精神のHPがゼロだ。……セシリアの『殴るだけで許す』という告白のハードルが高すぎる。……。……そしてカレン、お前は自分のことを『カリンちゃん』と呼ばせている男に、その仕打ちは酷すぎるのではないか……?)
リノ(思念)『うふふ、マキ様。これが「愛の形」というものでちゅよ☆ ……あ、次は「マキ様を誰がお風呂に入れるか権」のオークションが始まりそうでちゅね♪』
マキ(……。……。……帝国軍。……コルネ王国の国境を、今すぐ突破してここまで来い。……頼む……)
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ハイドン集会所は、もはや女子トークという名の「魂の品評会」へと変貌していた。
セシリアの提案は、表向きは無礼講だが、実態は踏み間違えれば即座に社会的に、あるいは物理的に抹殺される地雷原そのものである。
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セシリア「ハイドン、隊長ズよ! この中でこの子がいいなと思うのがいたら正直に答えよ! あくまでも『例えば』だ! 殴るだけで済むのだからな!! ハッハッハ!」
ハイドン「(小声)その『例えば』が、今後の余生を決定づけるのだ……。気軽に答えられるはずがない……」
ガリクソン「(小声)副師団長ズも、指名されたら最後、鎧に封印されると理解して『私を指名しないで』って顔をしてるよ……」
アンドリュー「(小声)誰を指名しても、指名した理由と、されなかった奴らへの釈明で詰む気がする……」
絶望的な沈黙の中、ジェームズが虚ろな目で呟く。
ジェームズ「(小声)フフフ‥‥いっそエレンちゃんを指名して「エレンちゃんに乗り換えまーす!」と、言ってひと思いに楽になろうかな……あは、あはは……」
エレン「(小声)ひいいっ!? や、やめてくださいよっ!? 私まで殺されるパターンじゃないですか! 死にたいなら一人で死んでください!!」
エレンは必死にそれだけはやめて、と拒絶する。
それを見ていたサンチェスはこの死地を脱する名案を思いつく。
サンチェス「(小声)……よし、全員でエレンちゃんを指名しよう。それが一番無難だ。全員助かる道はそれしかない!」
カムストック「それは名案だ、俺は乗るぜ?」
ガリクソン「それで行こう、それで俺達は助かる。」
エレン「きゃああぁぁぁぁ!! それ、私だけ助からないじゃないですかぁぁぁ!? 幹部全員からなぶり殺される最悪のシナリオですぅぅぅ!!!!」
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マキ(……なんということだ。単なる女子トークが、悪魔との契約と、その生贄選びの儀式になっておる。リノ、早く止めるのだ!!)
リノ(思念)『こんな面白いイベント止めてはダメですよぉー? どうなるか楽しみですっ! てへっ☆』
痺れを切らしたセシリアが、可愛らしく(凶悪に)微笑みながら催促を入れる。その時、沈黙を守っていたブキャナンが、震える膝を抑えて立ち上がった。
ブキャナン「セシリア様に質問いいですか? 皆、やはりセシリア様に票が集中してしまいましてね。……でも、セシリア様は彼氏持ちですよね?」
セシリア「む、そうだが」
ブキャナン「これじゃイベントにならないので、彼氏持ちであるセシリア様の恋愛話や、馴れ初めを話していただく会に切り替えていただけないでしょうか?」
ジェームズ「!!! ブキャナン貴様〜〜〜!! 俺を生贄に選びやがったな〜〜〜!?」
ハナ「いいね! ボクもそれ聞いてみたかったんだ!」
フルーレ「それいいっすね」
カレン(フフフ……やはりブキャナンは頭がキレるわね。私の選んだ目に狂いはなかったわ……)
カレンの冷徹な称賛を背に、矛先はついに「鬼神の私生活」へと向けられた。
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マキ(……。……。ブキャナン、お前というやつは……。……。自分の命をチップに、さらに巨大な火種を投げ込むとは。……。セシリアの恋愛話など、聞けば聞くほど毒になる気がしてならん……)
リノ(思念)『うふふ、マキ様。セシリア様の恋愛理論……。きっと、筋肉と爆発に彩られた素敵な物語なんでちゅよぉ♪』
マキ(……。……。……帝国軍よ。……。……もういい、私がそちらへ出向こう。だからこの夜を終わらせてくれ……)
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