後編・適切に書け
前編は、大雑把でいいから書けという名言でしたが、こちらは逆によく考えて書けという名言。
前編と真逆の要旨を持つものもありますが、両者のせめぎ合いで小説って出来上がるのかな〜と思います。
相反する名言は、お好きな割合でどうぞ。
・大嘘ついても小嘘はつくな
ことわざ「大嘘つくとも小嘘はつくな」のバリエーション。だと思います。本質的なところは同じなので。
誰が聞いても分かる嘘は、誰も信じないので実害がありませんが、真偽の分からない小さい嘘は騙されやすく危険であるということ。これが本来の意味。
小説や脚本で使われるのは、
『例えばタイムトラベルが存在する世界(大嘘)を扱うのなら、その転移先の時代考証は正確でなくてはならない(小嘘をつかない)』
といった意味。細かいところも非現実的だと説得力がなく、読者視聴者が没入できません。
また、例えば魔法が一般的に存在するナーロッパ(大嘘の設定)なら、それに応じて実際の中世(近世、近代など)とは差異が出るはず。
政治、法律、軍事、身分制度、生活習慣、村や都市のデザイン、エトセトラ。完全に現実のヨーロッパと同じだと、逆に不自然です。この場合は、世界全体の整合性の不備が小嘘に相当する部分ですね。
『魔法があるからここが現実と違う』という細部の作り込みがあって、それに説得力があれば身を乗り出して読みたくなります。
そういうリアリティも考えとこっかという話。
・あなたのシナリオは、あなたが思っているほどプレイヤーに伝わっていない。しつこく繰り返すくらいでちょうどいい
これまたF.E.A.R.のTRPGのルルブより。どのルルブかは忘れました。結構処分しちゃったから……。
TRPGは会話のゲームなので「プレイヤーがメモでもしていないと前に何を言ったか忘れる」ということが起きがちです。繰り返し言うのはそのせい。
小説はその限りではありませんが、こういう「作者と読者の物語のイメージの乖離」が発生することはよろしくありません。ていうかまずい。
例えばテレビの某俳句査定番組でよくありますが、「テーマと写真があるから何の俳句か分かるけど、俳句だけ見たら何のことか分からない」という現象。あれです。情報不足。
あるいは、キャラのイメージ。
「主人公は本気で悪党なんだけど、それがスカッと活躍する話です」とか「この悪役は訳ありなんで、ちょっと好きになって欲しい」とか、どういう役回りで読者にどう思って欲しいのか、作者と読者の解釈に齟齬が発生しないように気を配らないといけません。
ここをしくじると「このキャラホンマムカつくなんでざまぁされないんだよ」といった感想が並ぶことに。
私も「開幕直後に婚約破棄宣言をするけど、理由があるのでざまぁされないキャラ」を出したことがありますが、この名言を胸に細心の注意を払いました。
読み返すと自分、シナリオ作りで大事なことは全部TRPGのルルブに教わった気がする。
・「考えたのでございます」
近世フランスだったと思いますが、天才的な噴水職人? がいまして、画期的で大がかりな噴水を王宮に作りました。
それに感心した王様が、自らこの職人さんに下問しました。
「どのようにして、この見事な噴水の仕掛けを思いついたのか?」
答えて曰く。
「考えたのでございます」
……そりゃそうですよねー! 考えたとしか言えませんよねー!
この名言から何が分かるかというと、結局ネタを思いつくためには考えるしかないってことです。
人によっては、アイデアが天から降ってきたりキャラが勝手に動いたりするそうですが、私はそれはありません。地道〜に考えるしかない。
歩いている時に物語をこねこねしていると、思いつくことが多い。これはよく聞きますね。
考えろ〜考えろ〜。
・小説は天帝に捧げる果物、一行でも腐っていてはならない
日本推理小説三大奇書の1つ『虚無への供物』の作者・中井英夫のお言葉。
元々はメモというか走り書きだったそうですが、ミステリ界隈では有名。だと思う。知らんけど。
まず、この言葉自体が美しいですね。
いきなり天帝を出してくるダイナミズム。小説を捧げる者たちへの戒めと言祝ぎ。ものすごい小説への愛。
私もさ……クッッッソ素人だけどさ……天帝に捧げてるんですよ果物を……(感動)。
でも、「一行でも腐っていてはならない」とか言われても無理なんですよそんなん。
だから私としては、「下手なら下手なりに全力を尽くせ」ってことだと解釈しています。
誤字脱字を排除しなさい。誰にも分かるように書きなさい。参考資料を調べなさい。話の辻褄を合わせなさい。キャラを魅力的にしなさい。盛り上げなさい。
できる範囲でやればいいから。←ホンマこれ。
いかがでしたでしょうか。
私はこんな名言を胸に、小説を書いております。
皆様が心に飼っている名言はなんですか?