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俺とメルはご飯をご馳走になった。出てきた料理はどれも、俺には新鮮だった。それにめちゃくちゃ美味かった。いくらでも食べていいとは言われても、あんまり食べないようにしようと思っていた俺が、遠慮などなしに食べまくってしまう程だった。
外見がお化け屋敷なのが勿体ない。それさえなければ沢山人が入りそうなのに。
「タンクさん、ご馳走様でした」
「とても美味しかったです」
俺とメルは料理を作ってくれた、タンクさんにお礼を言った。タンクさんとは、少女の父親の名前だ。ちょっと太めの優しそうな男性だ。
「あら、もういいのかい?」
そう言って、テーブルの方に歩いてくるのはタンクさんの奥さんであるアーチさんだ。これまた太めの元気のいい女性だ。昔は病気のせいで痩せていたと聞いたが信じられない。
「もう、お腹いっぱいです」
俺はパンパンに膨らんだ自分のお腹をさする。メルの方を見てみるとお腹が膨らんでいた。それほど食べたのだ。
「そうかい。そんじゃ、わたしは部屋の準備をしなくちゃいけないからね」
そう言って、アーチさんはお店の二階に上がって行った。そう、宿を失った俺たちをタンクさんは泊めてくれると言ったのだ。それに、いつまでもいていいとまで。
「本当にありがとうございます」
「いいんだよ。フィルを娘を助けてくれたお礼さ」
タンクさんがイスをふたつ並べて、その上で眠っているフィルに目を向けた。スヤスヤと眠っているのを見ると癒される。
「変態……」
メルが何か言ったが、俺には聞こえなかった。だが、俺は断じてロリコンでは無い。
○
お店の二階にある部屋はほとんど荷物置き場らしい。そして、アーチさんが片付けてくれた一部屋を二人で借りることになった。ちなみにタンクさん達には家がある。
「じゃあ、トールのことを話してもらおうかしら」
部屋に着いたメルは俺の方を向き方を向きそう言った。メルの目は目は真剣そのものだ。
「は、話すって何を話せばいい?」
「そうね、まずトールが何者なのか教えて」
「美波透です」
「そんなの知ってるわよ!」
「じゅ、十六歳です」
「へぇ、トールって私の一つ下なのね。ってそういう事じゃなくて。どこから来たとかそういうことを教えなさいよ!」
なるほど、そっちか。しかし、本当のことを答えても伝わるかどうかわからない。異世界って言えばいいか。
「異世界から来ました」
「やっぱりそうなのね」
メルがウンウンと頷く。どうやら伝わったらしい。けど、メルは俺が異世界人だと疑っていたようだった。なんでだ?
「あなたの髪よ。異世界人の髪の色は黒が多いの」
顔に出ていたのか、それともスキルを使われたのかは分からないが、メルが俺の疑問に答えてくれた。
「実は……」
俺は王城での事をメルに話した。異世界──日本から転移してきたこと。スキルが少なく捨てられてしまったこと。しかし、スキル『学習』については話さなかった。また、信じてもらえないと思ったからだ。
「そういう事だったのね。それなら、無一文だったのも理解できるわ」
「わかってくれたか」
「最後に聞かせて、トール。あなた、まだ私には隠してることは無い?」
「えっ? なんで……」
「あるんでしょ? 私のスキルよ。あなたが信じてくれないから効果は教えてあげないけど」
「うっ」
メルの言葉が俺に突き刺さる。メルは信じてくれるだろうか? そう、考えている時点で俺はメルを信じていないということだった。
「別に無理に言わなくてもいいわ。私にも言いたくないことはあるし」
「いや、俺はメルを信じて言う。俺は『学習』って言うスキルを持ってるんだ」
「…………それが隠し事?」
メルがそれがどうしたみたいな顔をした。なんだその顔は。せっかく勇気を出して言ったのに。
「俺はこのスキルのおかげでスキルを増やせるんだ」
「はぁ!? えっ、ちょっと待って、スキルが増えるの?」
「あぁ、スキルが増える」
「ちなみに今は何個?」
「今は八個だけど、最初は『学習』の一個だけだった」
「聞いたことないスキルだわ……」
「メルも知らないのか?」
「他にはどんなスキルを持ってるの?」
俺は『鑑定』を使って、メルにスキルを教えた。するとメルはうーんと唸り始めた。
「『体術』も聞いたことがないわ」
「『体術』もか? 普通にありそうだけど……」
「普通、体術とか剣術って言うのは鍛錬して習得するものなの。だから、他の人はスキルとして出なかったのかもしれないわ」
「なるほど。で、これってあんまり人に言わない方がいいのか?」
「えぇそうね。未知のスキルを持っているなんて知られれば研究のためにバラバラにされるかもしれないわね」
と、メルが笑う。笑ったメルは可愛いが、笑い事じゃないので止めて欲しい。けど、わかった。信用できる人以外には言わないようにしよう。
「このスキルのことを知っているのは私だけ?」
「多分、メル以外にも王城の騎士と『鑑定』のお婆さんが知ってると思う」
「もしかしてあなた。狙われてるんじゃない?」
「えっ? ならなんで王城から追い出したりしたんだ? 王城にいれば俺を捕まえて研究したりできたんじゃ…………、まさか!」
「わかったかしら?」
「王城から追い出して、人目のつかない所に行ったところを捕まえるとか?」
「多分ね」
これは俺とメルの想像だが恐ろしい計画だ。これでは、一人じゃ外を歩けない。
「どうすれば?」
「まず髪の色を変えるべきね。黒のままじゃ目立ちすぎるわ」
「た、確かに。変装すればいいのか」
──スキル『変装』を獲得しました──
流石、『学習』だ。欲しいスキルを欲しい時にくれる。
「メル、ちょうど『変装』を覚えたから使ってみる」
「凄いわね、そのスキル」
「『変装』」
俺がそう言った瞬間、髪の毛の色が金色に変わった。メルと同じ色だ。どうやら任意の場所がイメージしたように変わるらしい。便利なスキルだ。
「ほんとに変わったわ。けど、なんで金髪なの? もっとカラフルにすればよかったのに」
「いや。それは……」
メルの金髪が綺麗だったから。なんて、俺が言えるわけなかった。
○
スキル
『学習』、『翻訳』、『鑑定』、『心話』、
『追跡』、『気配感知』、『隠密』、
『体術』
『変装』
道具を使わず変装できる。体格などの変更は不可能。